業績一覧は researchmap や Google scholar, ORCID を参照してください。
以下には主に最近の論文・主要な論文について概要を説明します。
Fabian, J., Siwanowicz, I., Uhrhan, M., Maeda, M., Bomphrey, R. J. and Lin, H.-T. (2022). Systematic characterization of wing mechanosensors that monitor airflow and wing deformations. iScience 25, 104150. DOI: 10.1016/j.isci.2022.104150
トンボ・イトトンボの翅に存在する機械的センサ(気流センサ・ひずみセンサ)をすべてマッピングと神経”配線”ルーティングを初めて明らかにした。また翅の構造力学計算によりひずみセンサの存在位置と羽ばたき飛翔中の翅変形との関連を考察した。
前田はトンボ翅のμCTスキャン・形状モデル作成・数値構造力学 (CSD) 計算を担当した。また議論にも大きく関与し、たとえば、トンボで神経”配線”が後縁を通らないのは後縁を破損することが多いからではないかという仮説を提示した。
Cheney, J. A., Stevenson, J. P. J., Durston, N. E., Maeda, M., Song, J., Megson-Smith, D. A., Windsor, S. P., Usherwood, J. R. and Bomphrey, R. J. (2021). Raptor wing morphing with flight speed. Journal of The Royal Society Interface 18, 20210349. DOI: 10.1098/rsif.2021.0349
屋内を滑空する3種の鳥(メンフクロウ・モリフクロウ・オオタカ)を12台の高速度ビデオカメラで撮影し、ビデオグラメトリ(動画版フォトグラメトリ)により鳥の外形の3次元点群を再構築した上で、滑空速度と形態の関係を考察した。たとえば、少なくともこの滑空においては、両翼の形態変化はそのほとんどが肩関節まわりの運動のみで説明でき、肘関節や手首関節はほとんど動かしていないことが判明した。
前田は再構築後の3次元点群をもとにして、CFDの使用に耐える形状モデルをCAD (Rhinoceros/Grasshopper) により作成した。また主著者の Jorn と論文の内容について議論した。
Harada, N., Oura, T., Maeda, M., Shen, Y., Kikuchi, D. M. and Tanaka, H. (2021). Kinematics and hydrodynamics analyses of swimming penguins: wing bending improves propulsion performance. Journal of Experimental Biology 224, jeb242140. DOI: 10.1242/jeb.242140
長崎ペンギン水族館で遊泳するジェンツーペンギンに複数のマーカを取り付け、12-14台のGoProカメラで撮影し、DLT法によりマーカ群(胴体と翼)の3次元座標を再構築して運動を取得した。さらに準定常流体力学計算により「仮想的なフラット翼」と「実測された曲げの入った翼」の2モデルについて時系列の流体力を推定したところ、曲げのある翼の方が推力・効率ともに高いことが判明した。
前田は実験構想段階から参加し、2回の予備実験(に結果的にはなったもの)を主導した。また論文の改稿段階で大量のコメント・提言を行った。
論文 Figure 1 より引用。
Johansson, L. C., Maeda, M., Henningsson, P. and Hedenström, A. (2018). Mechanical power curve measured in the wake of pied flycatchers indicates modulation of parasite power across flight speeds. Journal of The Royal Society Interface 15, 20170814. DOI: 10.1098/rsif.2017.0814
風洞内で飛行させたマダラヒタキという小鳥の後流にレーザシートを照射し煙(トレーサ粒子)を高速度カメラで撮影して、粒子画像計測法 (PIV) により流速を計測した。従来の理論予測よりもフラットな速度・パワーカーブが得られ、これは胴体角度を調整して抗力(空気抵抗)を変動させているためであると推測された。
前田は鳥の飼養・訓練・風洞実験(この部分は共同)を担当した。
Maeda, M., Nakata, T., Kitamura, I., Tanaka, H. and Liu, H. (2017). Quantifying the dynamic wing morphing of hovering hummingbird. Royal Society Open Science 4, 170307. DOI: 10.1098/rsos.170307
ホバリング中のハチドリを4台の高速度カメラで同期撮影し、翼の輪郭と羽軸等を手動でトレースしDLT法により羽ばたき中の翼を3次元再構築した上で、翼変形のパラメタ、具体的には翼面積・曲げ (bending)・ねじり (twist)・キャンバ (camber) を定量化した。その結果、羽ばたきの打ち下ろしでは翼面積が打ち上げ時より20%近くも大きいこと、曲げは小さいがねじりとキャンバは大きく、いずれも打ち下ろしと打ち上げでは反転しており、いずれにおいても空気力学的に効率がよいであろう形態を動的な変形により保っていることが示唆された。
論文の Figure 8 から引用。
Maeda, M. and Liu, H. (2013). Ground Effect in Fruit Fly Hovering: A Three-Dimensional Computational Study. Journal of Biomechanical Science and Engineering 8, 344–355. DOI: 10.1299/jbse.8.344
ホバリングするショウジョウバエについて、地面近くと地面から遠い2つのケースについて流れの数値シミュレーションを行った。その結果、地面近くでホバリングした場合、羽ばたきに伴う下方への吹き下ろし(気流)が地面にぶつかり、かつ一部は向きを変えて胴体へ向かい、地面付近に高圧のいわばエア・クッションを形成することで、胴体下面が上向きの力を受けることがわかった。これはヘリコプタで「噴水効果 (fountain effect)」と呼ばれる現象であるが生物における言及はおそらくこれが初である。現実には花や葉といった植生の上方でホバリングする際に同様の効果(したがって消費パワーの低減)が生じている可能性がある。