MX-30 EV / R-EV / ICE 比較レポート:走りと制御の本質
EVは床下全体に広く重いバッテリーを敷き詰めており、最も低重心。
この構造が走行中のピッチ・ロール・安定性に大きく寄与している。
R-EVはEVよりやや重心が高く、
フロント側にロータリー発電機と補機類を集中させている構造。
ICEはフロントにエンジンを搭載し、3台の中で最も高重心傾向。
ただし重量は最も軽く、自然なドライブフィールを実現している。
MX-30 EV
街乗り・短距離移動を前提とした都市型コミューターとして設計。
静粛性と制御の緻密さで、非常に優れた一体感を発揮する。
MX-30 R-EV
EVの利点(静けさ・低重心)を保ちつつ、
シリーズ式ハイブリッドで航続距離と実用性を大幅に向上。
コストパフォーマンスの観点でも非常にバランスが良い。
MX-30 ICE(MHEV)
従来のマツダICE車の走行フィールを継承しつつ、
MX-30という実験的なパッケージに落とし込んだバリエーションモデル。
現代マツダICEの「もう一つのIP」とも言える。
これは従来のシャープな応答性や緊張感を基調としたIPとは異なり、
「整う」というキーワードのもとに構築された柔らかくも洗練された新たな方向性。
ただし、その柔らかさは運動性能の低下を意味せず、
ドライバーとクルマの対話を重視した新しい走りの質を体現している。
重量配置の特徴
EV
中心部に約150kg+後軸直上に約150kgのバッテリー。床下搭載により低重心・高安定性。
R-EV
フロントに発電機+補機類を集中。リアは軽量(燃料満タンで約37kg)。
ICE(MHEV)
全体バランスは自然。補機類は機械的配置で前荷重は比較的ナチュラル。
MX-30EVの空かすかなボンネット下
=軽いフロントオーバーハング
MX-30EVのバッテリー
4×4=16パック
MX-30R-EVのバッテリーとガソリンタンク
4×2=8パック
■ EV
最も滑らかで静かな走行フィールを持つ。
加速は抑制されたマイルドな設定。
バッテリーの重量配置(後軸直上に約150kg)により、
リアの接地性と旋回安定性が非常に高い。
FFながら、挙動はFR的で自然に曲がる印象を与える。
■ R-EV
EVよりも出力が高く、加速に余裕がある。
ただし、フロント側にロータリー発電機+補機類が集中しているため、
旋回初期の回頭性はやや鈍い。
後軸上の重量が軽いため、旋回後半でリアが抜けやすく、
安定性はEVに劣る。
重心はEVより高いが、ICEよりは低い。
挙動の安定性は、e-GVC+による制御で補われている印象。
■ ICE
最軽量の構造で、エンジン回転に応じたフィーリングが豊か。
軽快でナチュラルな走りを楽しめる。
GVC+による制御で、ターンイン・ターンアウト時の補助は感じられる。
ただし、e-GVC+のように全体を連続的に制御するものではないため、
姿勢維持やヨーコントロールはドライバーの操作が重要となる。
3. 制御技術:GVC+ / e-GVC+ の違いと挙動への影響
■ GVC+(ICEに搭載)
対象:ICE
制御源:エンジントルク減少 + 左右ブレーキ制御
特徴:
ターンインおよびターンアウトでの荷重変化とヨー抑制によって姿勢を安定させる。
静的で補助的な制御であり、挙動を直接変えるほどの強さは持たない。
GVC+は、エンジントルクをわずかに減少させ、左右輪を個別にブレーキ制御することで、
ターンイン時に前荷重を作り出し、ステア初期の回頭性を高める。
また、ターンアウト時には内側後輪の制動によって残留ヨー(回転慣性)を穏やかに収束させ、
旋回後半の安定性を補助する役割を担う。
ただし、この制御はあくまで静的かつ補助的なものであり、
姿勢変化の連続性や高精度制御という観点では限定的である。
■ e-GVC+(EV / R-EVに搭載)
対象:EV・R-EV
制御源:モーター出力制御 + 左右ブレーキ制御
特徴:
ターンインからターンアウトまでの一連の姿勢変化とヨー制御を動的・連続的に制御。
高精度かつ滑らかな挙動制御が可能。
e-GVC+では、モーターの即応性と左右ブレーキ制御を組み合わせることで、
ステアリング操作に対してリアルタイムに荷重移動とヨー変化を調整する。
ターンイン時には:スムーズに前荷重を作り出し、滑らかな回頭性を実現
ステディ状態では:常時微調整によりヨーを安定させ、ブレのない旋回姿勢を維持
ターンアウトでは:滑らかな出力復帰により、自然な姿勢収束をもたらす
これにより、ドライバーが意識しなくても一連の旋回動作が自然かつシームレスにつながり、
より深い一体感と安定感のあるドライビングが可能となる。
■ ターンイン(ステア初期の動き)
GVC+(ICE)
エンジントルクを抑制し、内輪へのブレーキ補正を行うことで、
前荷重を作り出し、初期の回頭性を高める。
e-GVC+(EV / R-EV)
モーター出力を瞬時にカットしてスムーズな前荷重を生成。
結果として、FFながらFR的な自然な旋回を実現する。
■ ステディ(旋回中・定常状態)
GVC+(ICE)
ステア保持中は補正は少なく、必要に応じてヨー変化に介入。
制御の介入は限定的で、ドライバーの感覚に委ねられる部分が大きい。
e-GVC+(EV / R-EV)
ステア中もモーターとブレーキの制御が継続的に働き、常時微調整。
ヨー角や荷重バランスが最適に保たれることで、姿勢が崩れにくい。
■ ターンアウト(旋回脱出・アクセルオン)
GVC+(ICE)
内側後輪のブレーキ制御により、残ったヨー(車両の回転運動)を
穏やかに収束させることで、脱出時の安定性を確保する。
e-GVC+(EV / R-EV)
出力を滑らかに回復させつつ、後輪ブレーキも組み合わせて
姿勢を乱さず自然に脱出できるよう誘導する。
このように、GVC+はターンインとターンアウトの補助的制御にとどまるのに対し、
e-GVC+は旋回全体にわたる“つながりのある制御”を行うことが特徴です。
Autoprove GVC Plusの解説動画
■ 回頭性(ステア初期の向き変えやすさ)
EV:
重心が低く、後軸にもバッテリーが配置されているため、
FR的な自然さと滑らかさで回頭性は非常に優れる。
R-EV:
フロントに発電機と補機類が集中しているため、
回頭性はやや鈍く、前荷重が強く出る傾向がある。
ICE:
軽量でナチュラルな構造。
軽快な操舵感だが、全体的に穏やかで自然。
■ 一体感(ステア・荷重・車体のつながり)
EV:
e-GVC+の緻密な制御により、操作と車体の動きが強く連動し、
非常に高い一体感が得られる。
R-EV:
車体そのものよりも、制御で挙動を整える印象が強い。
一体感はあるがEVほどのナチュラルさはやや希薄。
ICE:
余計な介入がないぶん、操作に対して予測しやすく自然な反応を示す。
■ 加速の質(アクセルの踏み始め~中間領域)
EV:
トルク制御がマイルドで、滑らかかつ穏やかな加速。
急激なトルク変化がなく、安心感のある乗り味。
R-EV:
モーター出力はEVより高く、余裕のある加速性能を備えている。
加速時の力強さと反応の良さが特徴。
ICE:
エンジン回転に応じた自然なレスポンスで、
アクセル操作との一体感が高い。
■ リアの接地性(旋回時・脱出時の安定感)
EV:
バッテリーの一部(約100kg)が後軸直上に配置されているため、
リアの接地がしっかりしており、高速旋回でも安定感が高い。
R-EV:
リアが軽く、バッテリーや燃料重量も少ないため、
旋回後半では浮きやすく、やや不安定になる場面もある。
ICE:
自然な重量バランスで構成されており、
極端な不安定さは感じにくい。
■ 制御の先進性(走行中の制御の精密さ・効果)
EV:
e-GVC+が旋回全体をシームレスに支えており、
極めて高い制御の先進性と完成度を誇る。
R-EV:
EVと同等のe-GVC+が搭載されており、
車体の性格とは別に制御自体の性能は非常に高い。
ICE:
GVC+による静的かつ補助的な制御はあるが、
介入の連続性や深さは限定的。
Agility (Initial Turn-in Response)
回頭性(ステア初期の応答性)
Unity (Driver-Car Connection)
一体感(操作と車体のつながり)
Acceleration Quality
加速の質(滑らかさ・反応性)
Rear Grip
リアの接地性(旋回後半の安定性)
Control Sophistication
制御の先進性(精度と効果の高さ)
MX-30のEV/R-EV/ICEは、スペック上の馬力だけでは語れない、加速の質感や走行演出に明確な個性を持っています。
EV:145PS/270Nm
モーター特性により、停止状態から即座に最大トルクを発生。
R-EV:170PS/260Nm
EVより高出力で、常時最大トルクを引き出せるモーター制御を持つ。
ICE:156PS/199Nm
最大出力は約6,000rpmの高回転域で発生。
出力の出方はモーター駆動と根本的に異なる。
EV:0.40〜0.45G
出足が非常に滑らかで、緻密なトルク制御が安心感をもたらす。
R-EV:0.50〜0.55G
余裕ある出力により、押し出されるような加速感がある。
ICE:0.35〜0.40G
アクセルとエンジンの応答がリニアで、ナチュラルな加速が楽しめる。
EVとR-EVはどちらもモーター駆動で、トルクの立ち上がり特性は共通。
開発者の談によれば、両モデルの加速特性は「基本的に同等」になるよう設計されており、出足・中間加速とも滑らかさを重視したチューニングが施されています。
ただし…
EVは都市型コミューターとして、
意図的にマイルドで滑らかなレスポンスに設計。
特に低速〜中速での一貫した穏やかさが特徴。
R-EVは高出力化と走行演出のため、
動的でダイレクトな加速感を意図的に加味。
パンチのある出足と中間の伸びを両立。
EVとR-EVには、加減速やペダル開度に応じた走行音演出(バーチャルサウンド)が実装されており、
静粛性を維持しつつ、加速の変化を“音”でも感じ取れるよう設計されています。
これは、静かな車内であっても加速フィールの“手ごたえ”を音からフィードバックさせる工夫であり、ICEのエンジン音に代わる感覚演出装置として重要な役割を担っています。
EV
出足が非常に穏やかで静か。
中間加速もスムーズだが、高速ではやや頭打ち感あり。
静粛性は極めて高く、都市向けの上質な味付け。
R-EV
出足から力強く、アクセルに対する反応がシャープ。
中間域も伸びがあり、高速域ではICEを凌ぐ場面も。
高出力×演出で、EVよりも走りを楽しませる設定。
ICE
出足は穏やかだが自然な反応。
中間加速では、回転数とエンジン音がドライバーの情報源に。
高回転まで引っ張ることで伸びを感じられ、自分で加速リズムを作る楽しさがある。
※本節では加速フィールの評価に焦点を当てますが、
旋回性に関しては、
EV=後軸荷重+低重心
R-EV=前荷重傾向
という違いが挙動に現れるため、加速と逆の評価となる可能性もある点に留意してください。
EV
静粛性と滑らかな出足を重視する層。
街乗り主体のユーザーや高齢ドライバーに向いている。
R-EV
力強さや加速余裕、高速合流での安心感を重視する層。
走りを少し楽しみたいユーザーにフィットする。
ICE
エンジン音と回転フィールによる加速の“予測と制御”を楽しみたい層。
MT車やNAエンジン経験者には特に好まれる。
「どのモデルが優れているか」ではなく、
「誰に最適か」によって評価が大きく変わる──。
これこそが、MX-30という1つの車種に3つの走行個性が同居する価値である。
MX-30シリーズには、「整う」という新しい走りの価値観が全モデルに共通して流れている。 EV・R-EV・ICEのすべてが、ドライバーとの調和や姿勢のつながりを重視した設計思想で構築されている。
マツダがこれまで培ってきた、シャープでスポーティなIPとは異なり、 MX-30ではより穏やかで洗練された運動性能を追求している。
「MX」は、マツダが“新たな価値を生み出すための実験的なモデル”に与える称号である。 MX-30はその名にふさわしく、1台の車体から3つの異なる個性を持つモデルを展開し、 各々が明確な方向性と走りを貫いている。
これは単なる仕様違いではなく、それぞれが妥協なく磨き上げられており、 マツダが“挑戦をやめないブランド”であることの証といえる。
とくに、「整う」というテーマを軸に3種のモデルをそれぞれのかたちで仕上げた、 主査の開発思想と緻密なコンセプト構築力、各パワートレインに合わせて 乗り味と挙動を設計し直す柔軟性と徹底ぶりは、 マツダの“哲学としてのものづくり”を体現している。
■ 熟練ドライバーと一般ドライバーの視点の違い
MX-30の走行制御(e-GVC+およびGVC+)は、 ドライバーの技量によってその効果の感じ方が大きく変わる。
熟練ドライバーの視点: 限界走行において、車両の前後荷重とヨー角を自ら使いこなすような運転では、 e-GVC+の制御が非常に効果的に働く。 ターンイン時の前荷重の作り方、ステディ中の安定性維持、 ターンアウトでの車体収束までが、すべて意図通りに“つながって”くれる。
特に高G領域での動きでも姿勢の乱れがなく、 クルマが常にドライバーの操作を後押しするような挙動を示すことで、 “使い切ることのできる車両”という印象を強く与える。
一般ドライバーの視点: 一方で荷重移動や姿勢変化を明確に意識せず、 通常の街乗りや穏やかな運転を行う場面でも、 e-GVC+は“怖くない・疲れにくい”という形でしっかりと恩恵を与えている。
ステア操作に対してクルマが自然に向きを変え、 直進安定性にも優れ、運転が上手くなったような安心感を提供する。
ICEに搭載されたGVC+も、制御の範囲は限定的ながら、 特に旋回時や切り返し時の挙動の角を取り除く効果があり、 運転負担の軽減という意味で効果は高い。
このように、MX-30はドライビングの熟練度に応じて異なる価値を提供する、非常に懐の深いクルマである。
※EVの航続距離は実質200km前後。
長距離移動を前提とする場合は注意が必要です。
■ 一体感・ライントレースを重視する方に
→ EV
e-GVC+と後軸荷重の組み合わせにより、
FFながらFR的な自然な旋回性能を発揮。
操作と挙動の一体感をもっとも強く感じられる。
■ 出力・実用性のバランスを求める方に
→ R-EV
EVより高出力、かつシリーズ式ハイブリッドにより
航続距離の不安がない。
どんな使い方にも対応できる万能モデル。
■ 軽快さ・自然な操作感を楽しみたい方に
→ ICE
3モデル中もっとも軽量で、
軽快な操作性とナチュラルな応答性が魅力。
エンジンの回転フィールが心地よく、運転が楽しい。
■ 運転初心者・街乗りメインの方に
→ EV または R-EV
制御の滑らかさとブレーキの安定感により、
安心して走れるストレスの少ないドライブフィール。
騒音も少なく、家族にも優しい設計。
■ 維持費を抑えつつ、穏やかな走りを求める方に
→ ICE
構造がシンプルで、メンテナンスや運用コストも安価。
「整う」IPにより、優しい乗り味とバランスの良さが感じられる。
MX-30は、同じプラットフォームでありながら、キャラクターのまったく異なる3モデルを用意しています。
各モデルは単なる派生ではなく、走行思想ごとに明確な違いを持ち、それぞれが高い完成度で仕上げられています。
MX-30は、非常に高い完成度と個性を持つモデルでありながら、
市場での販売は現在まで好調とは言えない。
以下に示す理由は、すべて現時点での仮説であり、
限定的な観察や状況分析に基づくものである。
■ 「MX」という価値の伝達不足
「MX」は“実験的価値創造モデル”として位置付けられているが、
この意図がユーザーに十分伝わらなかった。
特に「整う」という走りの価値観は、
体験しないと理解できないタイプの思想であり、
カタログや店頭説明だけでは真価が伝わりにくかった。
■ フリースタイルドアに対する誤解
MX-30最大の特徴の1つである観音開きのドアは、
象徴的かつユニークな存在である一方、
実用面での疑問や誤解を招く原因にもなった。
実際には、前席のみでも乗降が完結する構造であり、
ドア開放時のスペースが広く取れるなどの利点がある。
しかし、「2ドア+補助ドア」という発想が伝わらず、
“使いにくい4ドア”という印象を持たれることが多かった。
■ EVモデルの航続距離のギャップ
EVモデルの実質航続距離は約200km。
これは「都市型コミューター」としては十分だったが、
“万能なEV”を求める層の期待とはズレていた。
■ CX-30との位置づけの違いと影響
同じCセグメントSUVであるCX-30の存在も影響した。
販売現場では両モデルを公平に案内していたが、
CX-30のほうが一般的な4ドアで分かりやすく、価格・装備の説明もしやすかった。
結果として、MX-30は“理解にワンクッション必要な商品”と見なされ、
販売台数に影響を与えた可能性がある。
■ EVモデルの販売終了と未評価の性能
優れたシティーコミューターであり、
本質的には高いハンドリング性能も備えていたEVモデルは、
2025年3月末で販売終了が発表された。
日本国内では販売が低迷したが、
欧州市場では累計2万台超を販売し、一定の評価を得ていた。
しかし、世界中のYouTube配信者やマツダフォーラムを見ても、
この高い旋回性能に気づいていた例はほとんど見られず、
走りの真価が認識されないまま市場を去ることになった。
MX-30は、「伝われば素晴らしいが、伝えるのが難しい」モデル。
製品力ではなく、その価値をどう届けるかという点にこそ課題があると考えられる。
MX-30 EVは、非常に高い旋回性能・静粛性・一体感を備えていたにもかかわらず、
その「走りの質」は一般市場ではほとんど評価されなかった。
その理由として、以下の仮説が考えられる。
■ 1. スペックや外観から走行性能が想像されなかった
出力145PS・重量約1.6t・FFという構成は、
一見して“運動性能が高そう”には見えなかった。
SUV的な外観やゆるやかなデザインも、
走りの切れ味を連想させにくいものだった。
■ 2. EV評価が加速重視に偏っていた
一般的にEVは、「0-100km/hの加速性能」などの
瞬発力評価に偏る傾向が強い。
MX-30 EVは、あえてトルク制御をマイルドに設定しており、
「ドンとくるEV的加速感」を期待する層には刺さらなかった。
■ 3. 試乗条件とレビューの限界
多くのYouTube試乗や販売店での試乗は、
直線中心や短距離・低速試乗がほとんどだった。
e-GVC+によるステアリングに連動した高精度な姿勢制御は、
意図して旋回しないと気づけない性能である。
■ 4. 「整う」というIPが伝わりにくかった
MX-30のIPは「鋭い応答」や「攻める走り」とは異なり、
“姿勢の滑らかさ”や“つながりの良さ”を大切にする哲学的な設計思想。
この価値観は、従来の走行評価文脈では表現しにくく、
評論家や一般ユーザーに言語化されづらい特性であった。
■ 5. EVに「走り」を求める文化の未成熟
日本市場におけるEV購入動機は、
電費・環境性・税制優遇・静かさなどが中心で、
「走りの良さ」を求める声は非常に限られていた。
そのため、MX-30 EVの持つ高い運動性能は
注目される機会すら与えられなかったともいえる。
MX-30 EVは、実際には“走りが楽しいEV”だったにもかかわらず、
その文脈を受け取る市場の成熟度と評価軸のミスマッチによって、
「気づかれずに終わった実力者」になってしまった可能性がある。
MX-30 EV / R-EVの販売と評価の経緯は、BMW i3と非常によく似ている。
■ 共通点
明確な思想と構造を持ちながらも伝わりにくかった設計
BMW i3:カーボンモノコック・リアモーター・レンジエクステンダー
MX-30:観音ドア・e-GVC+・シリーズ式R-EV・新IP「整う」
走行性能の高さが評価されづらかった
i3は意外なハンドリングマシーン、MX-30も隠れた名機
シリーズ式ハイブリッド(REx / R-EV)が誤解された
「エンジンもあるEV」という複雑な構造が理解されにくかった
ブランドにおける“実験モデル”という立ち位置
BMW「iシリーズ」=サステナブルフラッグシップ
MAZDA「MXシリーズ」=新価値の創造モデル
■ 相違点
構造の違い
i3は新設計のカーボンモノコック
MX-30は既存シャシー(スカイアクティブ)からの派生
市場規模と価格帯
i3はプレミアム市場で話題性あり
MX-30はCセグSUVとして比較的控えめな存在
販売地域
i3は北米・欧州・アジアで広く展開
MX-30 EVは主に日本と欧州での販売
■ 結論
MX-30 EV / R-EVとBMW i3は、 ともに「走行性能の高さ」と「構造の革新性」を備えていたが、 それが評価される文脈と市場成熟が追いつかなかった。
いずれも、“気づかれなかった優等生”であり、 振り返ったときにその思想の深さが再評価される可能性を秘めた存在である。