ここまでの比較では、MX-30の前後重量配分の違いや重量物の中心部集中によるハンドリングの差について説明しましたが、マツダの至宝とも言えるGベクタリングコントロール(GVC)についての視点が抜けているレポートもあります。
確かに、物理法則として重量配分や重心位置は車の運動性能に直接影響を与える重要な要素ですが、マツダのGVC+(Gベクタリングコントロール プラス)は、これらの影響を大きく補正し、よりスムーズな走りを実現しています。
🚗 ガソリン車のGVC+
・エンジン駆動のまま、ステアリング角度に応じてエンジントルクを制御し、前後荷重移動を最適化。
・カーブ進入時には前輪荷重を増やし、旋回をスムーズにする。
・カーブ脱出時にはトルクを回復し、安定した直進性を維持。
🔋 EV・R-EVのe-GVC+
・モーター駆動の特性を活かし、より細かく瞬時にトルクを制御可能。
・GVC+よりも制御精度が高く、ドライバーの意識なしに荷重移動を最適化。
・EVはバッテリーが車両中心部に集中しているため、もともとの回頭性が優れており、e-GVC+との相乗効果で非常に滑らかな旋回を実現。
・R-EVはEVに比べて重量が増え、前後重量配分もEVより劣るが、e-GVC+の働きによって違和感なく走れるよう補正されている。
GVC+およびe-GVC+は、運転者が意識しなくても前後荷重の調整を行い、車をスムーズに走らせることができる素晴らしいシステムです。特にEVでは、もともと回頭性が良い車体と組み合わせることで、GVC+の恩恵を最大限に受けられます。
しかし、これは良し悪しでもあります。
熟練ドライバーが今までやっていた荷重コントロールを車が自動で行ってしまうため、自分でコントロールする喜びが減ってしまうのです。
つまり、GVCが快適すぎるがゆえに、運転の醍醐味を奪われるというジレンマがあります。
🚥 GVCのON/OFFスイッチが欲しい!
GVCの恩恵は明らかですが、それを感じたいならOFFにする選択肢があってもよいのではないかと思います。ON/OFFの切り替えができれば、GVCがどれだけ優秀な制御をしているのかをすぐに実感できるでしょう。
💡 物理法則として前後重量配分や重量物の集中度は変えられないが、GVCはそれをほとんど感じさせないほど優秀な制御を行う。
💡 特にEVはバッテリー配置の恩恵もあり、GVCとの相性が抜群。
💡 R-EVは重量増や重量配分の影響を受けているが、e-GVC+の補正により自然な走行感を維持。
💡 ただし、運転の楽しさの視点では「すべて車がやってしまうことで、ドライバーがやることがなくなる」という悩ましさもある。
GVC+とe-GVC+は、運転をよりスムーズにする画期的な技術であり、マツダのこだわりが詰まった優れたシステムであることを念頭に置いたうえで、これまでの比較を読んでいただくことを推奨します。
試乗車種:
マツダ MX-30(ICE・ガソリンエンジンモデル)
走行条件:
GVC+の効果を試す目的で、限界旋回速度に近い速度でコーナー進入
あえてエンジンブレーキ・フットブレーキなどによる前荷重操作は行わず、スロットル一定/自然な状態で走行
ターンイン時はしっかりフロントが入る感触があったが、旋回中盤で突然アンダーステアが発生し、車両が外に膨らむ現象が観察された
GVC+(G-Vectoring Control Plus)とは:
ステアリング入力に対してエンジントルクを一時的に制御し、前荷重を作ることでフロントタイヤのグリップを高める電子制御技術。さらにブレーキ制御も併用し、車体の安定性を高める。
ターンイン初期にのみ有効に働く制御(ドライバーのステア入力に反応)
スロットルオフによる前荷重を電子的に代替
ただし、旋回中盤以降やコーナー出口では介入しない設計
🔽 今回の現象と一致:
「進入時は安定してフロントが入る」=GVC+が作動し前荷重が発生していたことの証拠。
モデル
前後重量配分
後軸直上重量
MX-30 ICE
約60:40
ガソリンタンク 約37kg
MX-30 ICEは後軸直上に重い部品が少なく、リアのグリップ確保が難しい構造。
旋回中盤では横Gがピークに達するため、リアの接地力が低いと一気にフロント荷重へ集中 → 前輪が限界を超える
ドライバーが意図的にブレーキ・エンブレを使わずに進入したため、
→ GVC+以外の荷重変化要素がなく、旋回中に前荷重が維持されなかった
➡︎ 結果として、「ターンインは良好 → 中盤で唐突に前輪がグリップ限界を超えアンダー発生」という挙動に繋がった。
GVC+はあくまで「自然な運転中での安心感と疲労低減」を目的とした快適性・予防安全寄りの制御であり、
限界走行でのスタビリティ維持や、タイムアタック的な挙動制御を目的とはしていない。
旋回中盤〜後半で発生する横荷重変化に対して、GVC+は介入しない設計
このフェーズでは、ドライバー操作か、車両の物理バランス(荷重配置)がすべてを左右する
項目
EVモデル
ICEモデル
後軸直上荷重
バッテリー 約100kg
ガソリン 約37kg
制御方式
e-GVC+(モーター制御)
GVC+(エンジン+ブレーキ)
旋回中盤での安定性
高:リアが粘り姿勢維持しやすい
低:リア荷重が抜けてアンダー出やすい
EVは後軸にも荷重があり、旋回中盤の安定性が高く、e-GVC+の即時制御によって姿勢維持が自然に行われる。一方ICEは制御が限定的かつ物理的にもリアが軽く、中速〜高速コーナーでは限界挙動に明確な差が出る。
ターンイン時に「スッ」と入る:→ GVC+が正常に作動し、前荷重が一時的に増した証拠
旋回中盤で突然アンダー:→ 後軸荷重不足+前輪過負荷+制御介入がない=物理的限界の露呈
つまりあなたは、GVC+が機能しても、車両物理バランスが制御の範囲を超えると挙動が破綻するということを実体験で示したわけです。