研究指導を受けるには,学部時代から意識して数理的な専門知識を身に付けておく必要がある.大学の低年次における微分積分,線形代数(理系の基礎数学,いわゆる文系の数学では不可)は当然のこと,測度論的確率論(高校の初等的確率論では不可)の専門知識は必須である. また,金融市場,金融工学,数理ファイナンスの基礎的な専門知識を前提として指導は行われる.したがって,以下の本と同程度の専門書を大学院進学前に学習しておく必要がある.
(1)測度論的確率論
熊谷 隆 (2003): "確率論," 共立出版
(2)金融市場・金融工学
ジョン ハル, 東京三菱銀行金融商品開発部(翻訳) (2005): "フィナンシャルエンジニアリング―デリバティブ取引とリスク管理の総体系," 金融財政事情研究会
(3)数理ファイナンス・確率解析
Steven E. Shreve (2003): "Stochastic Calculus for Finance I: The Binomial Asset Pricing Model," Springer Verlag
更に以下の4章程度までの専門知識は身に付けておく必要がある.
Steven E. Shreve (2004): "Stochastic Calculus for Finance Ⅱ: Continuous-Time Models," Springer Verlag
理論を実現して数値計算を行うために,プログラミング(C言語は必須)の能力は身に付けておく必要がある.また,必須ではないが,関数解析の基礎知識を身に付けておくと数理ファイナンスの基礎理論を理解しやすいだろう.数学のいずれの分野でも専門知識を身に付けることは研究を進める上で有益である.
なお,研究で参考とする文献の大半は英語であり,それらを入学直後から自由に読みこなすことが求められる.したがって,学部のうちに英語で専門書を読む訓練を受けている必要がある.
十分な専門知識がない者は,大学院のゼミに参加することは無理なので,学部3年から編入すべきである.
研究スケジュール
修士1年では,数理ファイナンスを学習する上で重要な道具となる連続時間の確率過程や確率微分方程式についてゼミ形式で学習し,夏休みに論文(国際誌の英語論文)を大量に精読する.修士1年後期までには研究テーマを決定し,テーマ別に専門書や論文を各自がゼミとは別に学習していく.
当然のことながら,専門知識が一定の水準に達するまでは研究を開始することはできない.専門知識の修得に時間がかかる者は,研究期間の延長が必要となる.
研究テーマ
指導する研究テーマは大別して以下のようなものに分類される.
・数理的な視点からのファイナンス理論の研究
・ファイナンスに関連した数学の研究
・ファイナンスに関連した数値計算の研究
研究内容は数学的に正当性を主張できるものでなくてはならず,十分な数学の基礎力が必要である.なお,理論を補強するために数値計算や実証分析を活用することも重要である.
単にデータを統計分析したり,既存の理論を数値計算するだけでは不十分であり,研究テーマとして認めない.また,研究テーマが適正でも,一定水準に達しない研究は修士論文として認めない.