東洋医学に定義はありませんが、東洋の思想に基づいた医学です。東洋の思想に「太極」と「陰陽論」があります。太極とはすべてのものごとの本質・根本を指していますが、実態がなく見ることも触れることもできません。そのためイメージするしかありませんが、「無」というよりもすべてを包含する特異点のような感覚です。そして、この太極から「陰」と「陽」の二つの性質が生まれ、陰と陽がさまざまに積み重なった結果の現れが私たちの世界です。
難しければ、身近な数字で 「0=(ー1)+(+1)」と表現したらいかがでしょうか。すべての整数は「ー1」と「+1」と積み重ねと言うことも出来ます。「0(無・太極)」は「−1(陰)」と「+1(陽)」に分かれることができるのです。また、「1」も「+0.1」と「‐0.1」の無限の組み合わせがあります。そのまた「0.1」にも・・・。
「空即是色」というとき、空=太極、色=陰・陽の分化を繰り返した多様な世界ということができるでしょう。
陰の例: 月、女性、影、地、静、中心的
陽の例:太陽、男性、光、天、動、周辺的
不思議なことですが、東洋的な世界観と数字や量子力学の世界との間には親和性を感じます。宇宙物理学の世界でも「宇宙は『無』から生まれた」という研究が進められているそうです。太極という概念を単なる想像と軽視することはできなそうです。
陰陽論では、世界は季節が巡るように陰から陽に、陽から陰に常に変化してとどまることはありません。
また、陰陽の性質は絶対的・不変的なものでなく、見方が変わることで入れ替わります。太陽は「陽」とされていますが、太陽系の中心で動かないものとしてとらえるならば、「陰」とも言えます。
さらに、女性の中にも男性的な、男性の中にも女性的な要素があるように、純粋な陰も陽もありません。
このような視点から体を見ると、次のように言えるのではないでしょうか。
生きているから、元気なときも元気が出ないときもあります。健康な体にも不調は隠れていますし、どんなに体調が悪くても、体のすべてが不調ということもありません。また、症状を抑えるべきものと捉えるのではなく、治癒に向かう過程ととらえることもできます。
さらに、症状とその原因も直線的なつながりではなく、陰陽複数の原因があり、それぞれの原因にもまた、複数の原因があることになり、どこまでいっても原因には辿りつけません。
この視点では、原因は何かに特定されることがなく、多くの要素に分散していくことになります。
一見とりとめなく思われますが、体を分かりやすい単純な仕組みとしてではなく、私たちの社会と同じような複雑系としてとらえたほうがよい場合もあります。
こうした視点を持つと、いわゆる原因不明の不定愁訴は、もやもやして気持ちも落ち着かないものですが、いくぶん受けとめやすくなるかもしれません。
複雑系による原因が不確かな症状を治療できるのは誰でしょう。私は医者にも鍼灸師にも難しいと考えています。しかし、一人だけ治せる人がいます。それは自分自身の体です。ただ方法を忘れてしまっているだけなのです。
暑いときは体が勝手に汗をかき、食べたら勝手に消化して、必要なところに栄養分を送ります。不要なものがあれば、尿や便として勝手に体から排出します。
私たちの体は自覚なしに複雑な作業をしています。その働きを信じることも時には大切です。自然治癒力が働くときはそういうときです。
鍼灸師の仕事は、道に迷ってしまった「体」に治る方向を示すガイドのようなものだと考えています。方向が定まれば、あとは体が勝手に治します。