東洋と西洋では文化が異なります。東西文化の大きな違いの一つに、ものの見方があります。西洋では「対象」そのものに注目しますが、東洋ではその間の「関係」に注目する傾向があります。日本では、立場を踏まえた振る舞いが期待されるのも、関係を重視する東洋的な文化の反映なのかもしれません。
五行説を簡単に
「木」「火」「土」「金」「水」の5つの要素間の関係を、ジャンケンのように5すくみを使って東洋的に説明したものが五行説です。
「木」が燃えて「火」が生まれ、燃えたあとは「土」に帰ります。「土」からは「金属」が採れ、「金属」には「水滴」がつきます。そして「水」は「木」を育てます。
逆に「木」は「土」に根を張り侵食します。「土手」は「水」の行く手を阻み、「水」は「火」を消し止めます。「火」は「金属」を溶かし、「金属」の斧は「木」を切り倒します。
私は五行説では、5つの要素が重要なのではなく、それぞれの要素の間には上下・強弱もなく、ただ網の目のようにつながり合う関係性こそが重要なのだと考えています。
別の言い方をすると、各要素に注目するのではなく、各要素をつながり合った一つの共同体ととらえるのです。
東洋医学では、「木」「火」「土」「金」「水」に、「肝」「心」「脾」「肺」「腎」の5つの臓器の働きをあてはめ、病や体の不調の起こりを考えます。
要素を一つの共同体ととらえると、例えば肝機能の低下を単に肝臓の問題と捉えず、体内環境全体の問題として捉えることになります。そのため鍼灸治療も肝臓だけでなく体全体のバランスを意識して行うことになります。
私は東洋医学を「経絡」や「経穴」を意識した治療としてではなく、東洋の特徴である「関係」を意識した治療として考えています。東洋医学で重要とされる「気」というものも、「体」であれば臓器間の神経やホルモン、その他サイトカインなどによるネットワークとして、「人」であれば「愛」「信頼」「友情」などの人間関係として捉えることもできます。
また、東洋医学で用いられる「経絡」や「経穴」は、解剖して取り出すことのできない見えないつながりです。施術をしていると、経絡以外にも目に見えないネットワークの存在を感じます。体内には解剖学では見つけ出すことができない不思議な繋がりがあると、私は考えています。
鍼灸治療により、病院などで改善しなかった症状が変化することがあるのは、臓器や神経や筋肉などの「対象」を意識する西洋医学とは異なり、「関係」を重視する東洋医学の視点から症状や体をとらえることによるものと考えています。
「関係」に働きかけることができるのか、疑問に思う方もおられると思います。実生活でも例えば人の仲裁をするときは、その人の性格ではなく、互いの「関係」を改善しようと意識するのではないでしょうか。
抽象的なものを抽象的なまま飲み込むのも東洋の特徴の一つです。