心理療法としてのミュージック・セラピーは,心理療法の専門的なトレーニングを受けたミュージック・セラピストが行うミュージック・セラピー(音楽療法)です。
つまり,臨床心理士など心理カウンセラーが行う心理療法(心理カウンセリング)と同じように,心のしんどさ,心の葛藤,心の困難,そして心の成長などの心のニーズを取り扱います。
心理カウンセリングと違うのは,クライエント(来談者/対象者)とミュージック・セラピストの間の主な対話(交流・やりとり)の手段が「即興的音楽表現」だということです。
つまり,何かしらの理由で言語表現に困難がある場合でも(ない場合でも),音楽的なやりとりを通して,心の課題に取り組んでいくことができるのが心理療法としてのミュージック・セラピーなのです。
心理療法は,ミュージック・セラピーであってもなくても,クライエントとセラピストの関わり(関係性)が重要です。クライエントとセラピストの間に築かれていく二者関係の中に,クライエントの心の課題が浮かんできます。その心の課題にクライエントが主体的に取り組むことができるよう,心の歩みを伴走するのがセラピストの役割です。その取り組みのプロセスこそが心理療法であり,心理療法としてのミュージック・セラピーです。
心理療法としてのミュージック・セラピーは1回や数回のセラピーで目に見える変化があるような即効性のあるものではありません。クライエントのペースで,時間をかけて,じっくりと心の課題に取り組んでいくプロセスが非常に重要と考えています。
心は目に見えませんから,変化が起きても,あまり外からはわからないかもしれません。目には見えなくても,心が前向きに変化していくことは,よりよく生きていくことにつながります。
心理療法としてのミュージック・セラピーは20世紀の後半に欧米で生まれ,発展してきました。日本では「音楽療法」と訳され,翻訳書などが出版されてきましたが,今現在,日本の音楽療法において,心理療法としての実践はあまりメジャーではありません。そのため,心理療法としてのミュージック・セラピーが役立つであろう人々の元に届いていない可能性があると思っています。
心理療法としてのミュージック・セラピーが少しでも多くの人に理解され,実践できるセラピストが増え,実践できる場が増え,望む人の元に届くよう努めていきたいと思っています。