「夢を見た」
恋人は、私の隣で静かに言った。
「良い夢?悪い夢?」
「どうだろう……どちらとも、言えない」
彼はもぞもぞと動いて、こちらを向いた。
「良かった点は、私も君も思う存分闘牛や研究ができる環境にあったこと。慕える上司?がいたこと。そして、仮面こそしていたが、私の顔がこうではなかった」
彼の顔面は大きく亀裂が入っており、粘膜が常に露出している状態にあった。当て布をし、適度に処置をしなければ体液が溢れてしまうその顔は、彼からすれば疎ましい物であることは間違いなかった。私に言わせれば、可愛い彼の一部なので無いなら無いで寂しいと思うのだけれど。
「悪い部分は?」
「上司が年端もいかない少年だったこと、世界が常に戦争状態であったこと……君が、私の盾になっていたところだね」
「最後のは悪いの?」
「うん」
「どうして?」
「何度も君が死にかけたから……そう考えると、あれは総合的には悪夢かもしれない」
そう俯く彼の冷えた肩を撫でると、彼は少し顔を上げた。石のはまったような目が、こちらをじっと見つめている。それはベッドサイドの明かりに照らされて、いつもよりキラキラと瞬いていた。
彼が、私の頬に指を伸ばす。
「……君が死んだら、つらい」
指先は冷たかった。
「起きたかい」
「アン、ドラス」
「また無理をしたね。君の体力で、あのメギドの攻撃を受けるのは無謀以外の何ものでもない」
アンドラスはいつもの笑顔のまま、声に怒気を滲ませて言った。
「オロ、バス、は?」
「はぁー……君よりは、軽症だよ。といっても、血を結構流したみたいで、今は寝てる」
「そ、っか……」
「ザガン、君はもう少し、冷静になるべきだ。でないと命がいくつあっても足りない」
「……頭は、冷えたから、大丈夫」
覚えていない彼の顔は、涙が滲んでいたような気がする。ただの感傷的な夢かもしれない。だがザガンの頬にはまだ、あの氷のように冷たい指の感触が残っていた。