組み合わせで高性能化をはかる
錯体化学は、有機物と金属イオンの相関から生じる学問領域です。
当研究室では、複数の金属イオンを組み合わせることで、
1種類の金属イオンをもつ錯体では得られない、特異な性質を見出し、
開発することを研究の対象にしています。
特に、単純な有機配位子でも、金属イオンを3種類以上組み合わせることで、
これまでにない性質や性能が見出されており、
(1)どのような金属イオンの組み合わせ(種類や個数)が、
(2)どのような分子構造が、
分子の性能に最も良いのかを見出すことを目指しています。
また、最近では、錯体を別の物質と混合して利用する研究が多くみられます。
例えば、不均一系触媒として炭素材料と組み合わせる研究がなされています。
当研究室では、金属イオンの組み合わせだけでなく、他の物質との組み合わせに
ついても興味をもって研究を進めています。
基礎化学の研究ではありますが、将来的には、
複雑な化学合成や化学プロセスに依存しない、
ありきたりで単純な物質を、「組み合わせ」のみで制する、
高性能材料の創生に寄与したいと考えています。
3種以上の金属イオンからなる金属超分子構造の構築
Constrution of Heterometallic Coordination Compounds Containing More Than Three Metal Ions
異種金属錯体は、2つ以上の種類の金属イオンを含む多核錯体のことです。我々は、3つ以上の複数の金属イオンを組み合わせて互いの性質を利用しあうことで、1種類や2種類の金属イオンでは得られない、特異な性質や反応性を開発することを目指して研究をしています。詳細は論文をご参照ください。
Heterometallic coordination polymers are emerging as materials for sustainable energy production via electrocatalysis, thanks to the synergistic and cooperative effects of different kinds of metal centres present in these polymers. We have developed this type of coordination compounds using a stepwise protocol for mixing metals. See detail in our review paper.
チオラト錯体と炭素材料の組み合わせによる協同的高機能化
Functional Enhancement by Composing of Thiolato Metal Complexes and Functional Carbon Materials
一般に、錯体を不均一電極触媒として研究する際には、カーボン系の材料との複合化がしばしば行われます。我々は、機能性カーボン材料とチオラト金属錯体との組み合わせが触媒活性に与える影響に興味をもち、共同研究を通じて、錯体化学と炭素材料科学の両面から、最適な組み合わせの研究を進めています。
Ref: "Heterogeneous hydrogen production electrocatalysts prepared from dithiolene coordination compounds and graphene oxide", Naoto Kuwamura*, Haruto Tsukamoto, Hirooki Kajiwara, Hanako Akama, Ken Tokunaga, Naoya Yoshida, Masakazu Hirotsu, Funct. Mater. Lett. 2025, in press.
水素生成触媒を示すアミノ酸配位ポリマーの開発
Development of Amino-acid Coordination Polymers Showing Hydrogen Evolution Electrocatalysis
複雑な合成手法や高温・高圧合成に頼らない、新たな機能性材料の開発こそが、今後の持続的発展社会の礎になると信じ、「天然豊富な材料を用いた機能性錯体の開発」を進めています。
これまで、チオールをもつアミノ酸の金属錯体の合成と機能開発に取り組んで参りました。
アミノ酸はありふれた原料ですが、タンパク質酵素など複雑系の機能化を支える最も単純な構成単位であり、その潜在性は計り知れません。
しかしながら、アミノ酸は複数の配位原子を有するため、単に金属イオンと反応させるだけでは、構造や組成の異なる化学種が混合して生じてしまい機能材料としては不向きです。
また、チオールは単独で酸化還元を示すなど、酸化還元触媒の分子設計にしばしば用いられますが、高い反応性のため反応制御が難しいです。
以上のことから、敬遠されがちなアミノ酸金属錯体ですが、私は最新の分子構築手法である錯体配位子法を利用して、「アミノ酸などの単純な分子から、どこまで安定で複雑で機能的な錯体材料を開発できるか」、に興味をもって研究を進めて参りました。
その結果、アミノ酸錯体として世界初となる水分解触媒能の開発など、アミノ酸金属錯体の潜在性の一端を解明しています。
詳細は論文をご参照ください。
金属ヒドロキソキュバン骨格からなる多核錯体の構築
Construction of Multinuclear Complexes with a Metal-Hydroxido-Cubane Motief
キュバン骨格とは、金属イオンと非金属イオンが、立方体状に配位結合で連結した構造を言います。この骨格は、光合成の活性中心や電子伝達タンパク質や金属酸化物触媒の部分構造に見られるように、触媒活性に関係します。また金属イオン間の相互作用に由来する磁性材料としても注目されています。我々は、ペニシラミンジスルフィドが架橋配位した銅(II)-ヒドロキソダブルキュバン錯体が、水の酸化において電極触媒として機能することを見つけました。また、銅(II)と別の金属イオンを導入することで、その活性が変化することを見出しました。
Ref: "Serendipitous formation of oxygen-bridged CuII6M (M = MnII, CoII) double cubanes showing electrocatalytic water oxidation", A. C. San Esteban, N. Kuwamura, N. Yoshinari & T. Konno, Chem. Commun., 2022, 58, 4192-4195.