他に公開するところもないので、気に入っている刀剣類と金工品をここに載せておきます。手工業時代のものづくりの様子が見て取れてとても良いです。
日本刀は【現代では美術品】という扱いですが、その性質を考えれば、(現代刀や一部の例外を除いて)【武器】として作成されたものです。そこには所謂美術品としての美しさだけでなく、民芸的な実用品としての美しさもあります。もちろん、今や実用はできないわけですが…
金工品は【金属を使った工芸品】のことで、例としては刀装具(刀の飾り)や前金具(煙草入れの金具)などが該当します。私が集めているのは主に刀装具です(前金具も少し)。以下の目貫や前金具の写真はかなり拡大したもので、大体は 4 cm くらいの大きさですね。小さい金属板に非常に細かな細工がなされている点が素晴らしいですが、長い年月の中で痛みが出ているところも歴史を感じてとても良いです。
知識や審美眼が特段備わっているわけではないので、なんとなく気に入ったものを集めているだけですが…
刀は歴史の流れを感じるものが好きですね。その意味で、表銘があって更に裏年紀もあるとgood。基本的に完全な刀は無いので(特に古刀は何らか瑕疵があるものなので)、本当に気に入ったのであれば、一般的な評価はさておきそれこそが良い刀でしょう。
金工品では、動きが目に浮かぶ巧く細工された【実在の動植物モチーフ】が好きですね。手工業の丁寧なものづくりが見て取れてとても良いですね。裸眼(全体の雰囲気)でも、3倍拡大(全体的な細工)しても、20倍拡大(細部の細工)しても楽しめる点が面白いですね。
表銘:臼杵住高橋与三郎源秀永 裏年紀:元治元年三月吉日
種別:刀 区分:新々刀 登録:昭和二十六年五月、福島県 刃長:2尺2寸8分0厘 目釘穴:1個
刃文:濤乱刃 帽子:深く焼き先掃ける 地鉄:小板目、無地風に流れた板目まじり
鑑定:日本美術刀剣協会(特別保存刀剣)、刀剣保存会鑑定書(正真、備考:秀作)
感想:帯刀廃止令が出される12年前(1864年4月頃)に作刀された刀。そのことを思うと感じ入るものがありますね。源秀永が作刀していた豊後の地は京都や江戸から離れてはいますが、馬関戦争の時期で色々と情報は伝わっていたでしょうし、その中でどのような思いで刀を打っていたのでしょうか。刀身を見てみると、動きのある濤乱刃が大分の海を思い起こさせてくれるところがとても良いです(そんな意図は作刀時にはなかったでしょうけれど)。高田刀工の鶴崎からは離れていますが、一応は豊後刀という括りになるでしょうか。地方刀工で有名ではないので一般受けはしないでしょうね … 姿も鍛も刃文も良くて素晴らしいのですが。源秀永の刀のうち何振が現存するのかは分かりませんが、この刀が最高作かもしれません。裏年紀の「元治」の「治の口の部分」が目釘穴で代用されているのが面白いですね。そろそろ人生も折り返し(今後大禍なければ)と言うことで、その記念に。
刃文をうまく撮るのは難しいですね。かなり微妙な映りですが拡大して貼ってあります。なんとか刃文の雰囲気が分かると思いますがどうでしょうか。
さすがに刃中の働きは写りませんね …
モチーフ:雁の群れ
銘:無銘(鑑定:古金工)
種別:目貫(刀装具)
材:赤銅
鑑定書:特別保存刀装具
感想:雁の群れが向きを変える情景が頭に浮かんでくる非常に良い作品です。まさに雁行の様子。材も薄くて抜穴もそこそこなので、製作は江戸より前でしょう。日刀保の鑑定(極め)は古金工。おそらく桃山時代でしょう。 写真は光の加減で分かりにくいですが、烏羽色が綺麗です。よく見ると羽に非常に細かい細工が残っている上、可愛らしい雁の足の彫もあります。1年かけて専門書を書き上げた記念に。
写真:表→裏→表の裏→裏の裏の順
モチーフ:蛸と蛸壺
銘:永・光(←割際端銘)
種別:目貫(刀装具)
材:素銅
鑑定書:保存刀装具
感想:蛸のモチーフが気に入って購入した目貫。表裏の内、壺から出てくる表の方がユーモラスで好きですね。素材の厚さと根の丁寧さからも作られた時代が江戸時代である(更に江戸時代でも前期ではないだろうという)事が分かります。かなり写実的なので江戸期であるのは明らかではあるのだけれど。銘の「永光」については、刀装金工辞典に二人(共に金沢住み)金工師が載っているのですが、そのどちらかの方でしょうか。吸盤の造りが足の先まで本当に丁寧で、足のうねりもとても巧く表現されていると思います。とても大変だったとあるお仕事の記念に。
写真:表→裏→表の裏→裏の裏→表側面→裏側面の順
モチーフ:雀の群れ
銘:無銘
種別:前金具
材:銀
感想:雀達が群れて飛んでいる様子が気に入って購入した前金具。銘はありませんが、繊細かつダイナミックで非常に良くできた作品だと思います。雀が一斉に飛び立って去っていく様子が目に浮かびます。図案の様子や彫の写実性等から見て、作成時期は間違いなく近代(おそらく明治時代)でしょう。象嵌が少し取れているところがあるのが少し残念ですが、このような種類の金工品は当時は実用品だったわけなのでしょうがないですね。刀装具ではないので鑑定書はありません。大変だった仕事にようやく終わりが見えてきたことのお祝いに。
写真:全体→左拡大
モチーフ:猿の群れ
銘:無銘
種別:鍔(刀装具)
材:鉄(+赤銅輪覆)
鑑定書:なし
感想:日刀保の鑑定書はついていないけれど、雰囲気が気に入ったので購入した鍔。このような千疋猿は肥前の矢上派が作成していたわけですが、この鍔はどうでしょうか。制作場所に加えて、制作時期が江戸なのか、その後なのかもよく分かりませんが… 切羽台の造りは気になるものの、猿たちの彫はそれなりに細かくて見ていて面白いですね。気楽に鑑賞できる雰囲気が手軽で good です。ただ彫の構造上、猿たちの間の部分の手入れが難しいため、隙間の部分にそれなりに赤錆がありますね。手入れが大変そう… これから気苦労のある仕事に臨むに当たってやる気を出すために。
今時はwebである程度の情報が手に入るのですが(実際、刀装具に関する古い本も電子化されていたりする)、紙媒体もやはり良いですね。それと昔の(古き良き・悪き?)名残が強く残っている趣味分野なので、紙媒体にあたらないといけない情報も多いですね。まあ紙にもない情報もあるわけですが。
(書籍)
鐔・小道具画題事典(I, II)、雄山閣(1967年)、沼田鎌次 著
刀装金工銘集録、雄山閣(1970)、若山泡沫・益本芦月 著
図録 刀装のすべて、光芸出版(1971年)、小窪健一 著
日本装剣金工年表、新人物往来社(1997年)、加島進 著
文化の中の刀装具、里文出版(2006年)、橋本晴夫 著
鐔小道具鑑定事典 改訂版、光芸出版(2009年)、若山泡沫・飯田一雄 著
刀装金工事典 普及版、雄山閣(2020)、 若山猛 著
(図録)
刀装具の鑑賞、尚友会(1982年)
刀装具にみる金工の美、清水三年坂美術館・銀座長谷宝満堂(2001年)
拵 ―井伊家伝来刀装-、彦根城博物館(2020年)
所有している検査・管理器具
金工品の真贋(特に現代技術を使った偽造品かどうか)を確認する際、双眼実体顕微鏡があると便利です。肉眼ではほぼ見えない粗が見えるほど拡大できますし、遠近感もあって両手がふさがらないこともメリットです。遠近感を気にしないのであればデジタル顕微鏡が手ごろかもしれません。真贋は科学的に見なくても分かるという意見もありますが(まあ大体はそうですが)、普通に考えて科学的にも確認した方が良いでしょう。確認目的以外でも、20倍程度に拡大すると裸眼ではほぼ見えない構造が見えてきて非常に趣深いですね。刀装具は絵画に比べれば温度・湿度管理が比較的緩いですが、それでも(特に湿度は)ある程度気を付けた方が良いしょう。
ニコン 双眼実体顕微鏡 SM-5(総合倍率 20倍、落射照明装置付き)
新潟精機 メタルルーペ(倍率 3・4・5倍)
ESCHENBACH 携帯用ルーペ(倍率 6倍)
東洋リビング 防湿庫 ED-41CAT2(B)
エミツ ブロアー
その他:温湿度計、検品用手袋、豚毛ブラシ
その他:桐箪笥1段、刀枕、目釘抜き、正絹端切れ、毛氈、無反射植毛布、クリップライト
消耗品:刀剣油、無水エタノール、ネル生地、拭い紙
このページを見ている人はいないと思いますが…
刀剣類や刀装具を購入する場合は、きちんとした刀剣販売店(実店舗があり、HPを含めてwebでの振る舞いがおかしくない店)で、公益財団法人 日本美術刀剣保存協会の鑑定書が付いている作品を選ぶと、差し当たり大きな失敗はしないでしょう。但し、今では無効になっている貴重や特別貴重の鑑定書しか付いていない作品は買わない方が良いです。値段についてはコストパフォーマンスを気にしすぎると買えないので、趣味の品ですしある程度は妥協しましょう。基本的には何十年も手元に置いて鑑賞して楽しむ訳なので、多少金額が気になったとしても長い目で見れば気にならないはず?
美術館の図録に載るような極上の作品を手に入れたい? ……値段的にも手に入れる機会的にもあきらめましょう。そういう作品は収まるところに収まるものです。そのような極上の作品でなくても、(ひどい管理状態だったり数打ちの粗雑な作品でなければ)約100年~600年くらいの時代を経た作品なので、雰囲気も相まって飽きることなく鑑賞して楽しめます。しばらくして飽きてしまうようなら、まあ美術品の鑑賞には向いていなかったということで… それと手あたり次第に手を出しても、(特に目貫は)良い品はそうそう手に入らないので、焦らずにこつこと集めましょう。欲しくても市場に出ていなければどうやっても手に入らないので(焦って適当なものを買ってもしょうがない)。質のひどいものを集めてもすぐに冷めるでしょうし。
後、オークション(鑑定が入る本格オークションではなくもっと身近な方)で購入するのは、基本的にやめておいた方が良いでしょう。(贋作や錯誤のさせ方の知識が増えるという意味で)勉強になるので、色々な出品を見る事は意味がありますが。もちろん本物と思われる作品も出品されてはいますが、長く手元に留めたいと思えるレベルのものはめったに出てきませんね(なくはない)。ちなみに刀剣販売店が出品している作品は店頭品と同じなのでレベルは一般に高いですが、それは店頭で買った方が良いです。大体値段が高く設定されています。
銘だけで価値を判断して集めることもやめた方がよいでしょう。特に古い刀装具の銘についてはそこまで明確ではないので。それに加えて、本来は作品が良いから作者が有名になるわけなので、銘に注目しすぎるのは本末転倒な感がありますね。集めるときは、モチーフとその図案、そして細工が気に入るものかどうかを第一の基準にした方が良いでしょう。他人がどう思うかではなく「自分が気にいった作品」が本当に良い作品です。極上の作品でなくても、一部分の巧さだけを見ればそれらと引けを取らない作品もありますので。
掘り出し物を探すのもやめましょう。偽物をつかまされる可能性がぐっと高くなりますし、よっぽど幸運でない限りそのような機会は訪れません。適切な価格で相応の価値のものを手に入れることを念頭に置くべきです。まあ多少値段が高く感じる場合であれば、(鋳造でなければ)一点物なので、よっぽど気に入ったなら手に入れた方が良いとは思いますが。損をしたくない(購入額と売却額が大きく乖離しないでほしい)という感情に振り回されてしまうと、本質を見失って何をしているのか意味不明になります。
趣味に限りませんが、他人の発言に振り回されないようにしましょう。大体人間は大げさに話をしてもらうものなので(そもそも記憶も無意識に改ざんしてしまうので)、その内容は話半分で聞きましょう。そうでないと、発言に煽られて変に卑屈になったり焦ったりして「鑑賞して楽しむ」という目的を見失ってしまいます。後、影響を受けて変なスピリチュアルなどに嵌らないように(良い品からはオーラが云々とか魂が云々とか)。こうなると「作品を見ている」のではなく、何か違うもの(こと)を見ている(錯覚している)ことになってしまいます。作品の細工の良さにのみ着目しましょう。もちろん、作品の辿った歴史にも大きな意味はありますが。
葵美術 www.aoijapan.jp
永楽堂 eirakudo.shop
銀座長州屋 www.choshuya.co.jp
毎日オークション www.my-auction.co.jp
文化遺産オンライン(文化庁) bunka.nii.ac.jp
刀剣ワールド(一般財団法人 刀剣ワールド財団) touken-world.jp
刀剣博物館(公益財団法人 日本美術刀剣保存協会) www.touken.or.jp/museum/
特定非営利活動法人(NPO) 日本刀剣保存会 hozonkai.jp
たばこと塩の博物館 www.tabashio.jp/index.html