機械論的観点(情報検索)
原文では物理的観点となっているが,機械論の方が文意を理解しやすいと思われる。1960 年代から 70 年代に行われたクランフィールド実験は、制御された実験室環境で、複数の索引言語の有効性を評価したもので,その後のこの分野における技術開発研究の基盤を形成した。このときに情報要求者のクエリ(質問)と得られたドキュメントとの関係を評価する視点として関連性(relevance)や,実際の評価尺度としての再現率(recall ratio)と精度(precision ratio)はその後も現在に至るまでこの領域の基本的な概念として用いられている。ただし,著者は実験的な手法における評価の枠組みに問題があり,また,クエリの入力やドキュメントという出力のいずれにも認知的,社会的過程がさまざまにからんでいるところを単純化してとらえてきたという批判をしている。また,情報検索がサーチエンジンや人工知能のような方向に展開したときにコンピュータサイエンスに移行したと考えている。
書誌(bibliography),書誌コントロール(bibliographic control)
書誌(bibliography)の原義は,書物を記述することである。通常は書物の歴史や系統性(とくに手稿本や印刷術初期のインキュナブラを対象にする)を研究する歴史書誌学や記述書誌学と呼ばれるものと,ある特定主題に基づき書物(さらにドキュメント一般に拡張する)をリスト化する列挙書誌(学)あるいは系統書誌(学)と呼ばれるものがあり,両者はかなり異なる。書誌コントロール(bibliographic control)は,第二次大戦後にシカゴ大学でイーガンとシェラらが使い始めた用語であった。書誌が知的コンテンツの研究やその組織化に関わる領域であることを前提に,これを操作的概念として資料組織論や知識資源組織論と同義に理解する見方から,さらに,その操作が社会全体における知識の伝達や管理につながるものとみる社会認識論まで多様な拡がりをもつ概念としてとらえる立場までを含んでいる。
図書館学(library science),ライブラリアンシップ(librarianship)
図書館学(Bibliotheks-Wissenschaft)は19世紀ドイツの宮廷司書シュレッティンガーの著作に遡る。これを大学での図書館員養成に位置付けたのは19世紀末にメルヴィル・デューイがコロンビア大学にSchool of Library Economy(図書館経営学校)をつくったことから始まる。多くの州では州立大学にこうした養成機関がつくられた。1928年にシカゴ大学(ロックフェラー財団の肝いりでできた社会科学系の大学)にカーネギー財団からの基金でGraduate Library School(大学院図書館学校)がつくられてここにアカデミズム志向の教員が集められた。バトラーのIntroduction Library Science(1933)は「図書館学」の名称を使用した最初の図書であった。20世紀から慣用的に使われてきたライブラリアンシップ(librarianship)という用語は現在でも使用される。図書館員がもつべき知識の総体というような意味合いで図書館学と同じ意味で用いる場合もあるが,使う人は実務的なノウハウの意義を強調する傾向がある。
図書館情報学(library and information Science),情報学(Information Science),ドキュメンテーション(documentation)
英語圏では,だいたい1970年代から1980年代に,図書館員の養成のための大学院課程の名称が図書館情報学に変化した。「情報」が入ったのはコンピュータが図書館関連の領域(目録作成,データベース検索,引用索引など)に用いられるようになったからである。他方,20世紀前半のヨーロッパでは書物に加えてマイクロ資料や科学技術論文を(図書館を通さずに)直接扱う手法としてのドキュメンテーションが起こった。これはUDCのように多元的な分類を工夫し,ひとつひとつのドキュメントを分析的に扱う方法を伴っていた。これは,アメリカにも入ったが,アメリカでは情報検索のような技術的手法を強調する考え方が強かった。図書館情報学にこうした技術的なものや数理的手法に精通した人たちも加わったことで,20世紀末にはこの領域を情報学と呼ぶことも増えた。図書館情報学と情報学を区別する考え方と同じものとみる考え方があるが,ヤアランは一つのものと見ている。なお,iSchoolのようにさらにコンピュータサイエンスやメディア論などに拡張する動きもあるが,こうなると一つのディシプリンとは言いにくい状況がある。
catalog.hathitrust.org/Record/001163256
ドメイン知識(domain knowledge)
著者の言うドメインとはLIS/ISの対象となる領域ないし知識組織論(KO)が適用される領域であって,人が何らかの集合的な行為を行う場のことである。LIS/ISはそこで発生する現象に対してドキュメントのやりとりや処理を中心に見て,それを支援する活動を行うことにより,ドメインそれぞれの在り方ないし目的に資するものとなる。ドメインにおいて,ドキュメントは行為の記録であり,もの(資料とされる)である場合もネット上のデータである場合もあるが,いずれの場合も,やりとりされるドキュメントの意味や内容であるドメイン知識を明らかにすることが課題となる。別項目でドメイン分析が立てられている。
認知的観点(情報行動論)
機械論的視点を補う領域として,人がどのような情報ニーズをもちそれを質問として提示し,また,そのニーズを満たすための行動をするのかという点に焦点を当てた,情報行動論の研究も盛んである。初期の認知科学は人間の思考モデルを固定的にとらえる傾向があったが,現在は多種多様なモデルが提示されそれらを当てはめることで,この分野は多様な発展を遂げてきた。著者は知識組織論としては,認知的観点では不十分でありさらに社会的観点(社会認識論)を入れる必要があると考えている。
ブリス, ヘンリー(Bliss, Henry E. 1870-1955)
20世紀前半のアメリカの分類法の理論家・実践者。長らくニューヨックシティカレッジの図書館員を務め、書誌分類法(Bibliographic Classification: BC, 1940-1953)をつくり同図書館に適用した。また、2冊の理論書。The Organization of Knowledge and the System of the Sciences(Henry Holt, 1929)、The Organization of Knowledge in Libraries and the Subject Approach to Books(Henry Holt. 1933)を著した。ブリスが2冊の著書で主張した知識組織論の考え方は、書物の分類の前に、知の生産や流通における経験、思考、学術などの諸要素間の関係に焦点を当てたという意味で、フランシス・ベーコンやライプニッツ、コント、スペンサーらの試みに近いとされる。しかし、ブリスの業績はすでにDCCやLCCが主流となっていたアメリカの図書館では受け入れられず、むしろイギリスで評価された。ランガナタンのコロン分類法に影響し、BCの第2版はイギリスで作成された。以上のことをもって、ブリスはKO分野の創始者とも見なされている。彼の伝記と思想についてはIEKOに解説項目がある。https://www.isko.org/cyclo/bliss また、1929年の著書の序文をジョン・デューイが書いていることについて、https://oda-senin.blogspot.com/2024/12/1929.html がある。