研究会の記録


第1回 (2024年9月14日)Library and information science(Birger Hjørland)(報告者:根本彰)図書館情報学

要約とコメント(ファイル)

第1回は知識組織論(KO)の前提となる「図書館情報学(LIS)」(ビアウア・ヤアラン)を取り上げ、主に次の点を確認しました。(当日参加者:33名)

・LISやKOのあり方については多様な議論がなされてきたが、KOはLISに位置づけられるものとして整理されていること

・LISを基礎づける理論はいくつかあるが、これまでも取り上げられてきた情報検索論と認知的アプローチ(情報行動論)に加えて,ヤアランは社会認識論を擁護していること

・LISのサブフィールドについて定説はないが、情報・ドキュメント・知識についての認識論的研究と、個々の領域(主題,ジャンル,メディア)ごとの社会的および知的構造の研究(彼がドメイン分析と呼ぶもの)が必要と主張されていること

そのあと質疑をおこない、次のような点が議論されました。

・ヤアランの論考や関連書『図書館情報学概論』(ボーデン&ロビンソン)はおおむね欧州の代表的な議論とみなしてよいと思われる。その特徴はKOの認識論的側面を重視していることと,社会認識論やドメイン分析などの理論が重視されている点だろう。

・米国でも理論研究の蓄積はあるし,KOで取り上げられるものの多くは米国での研究だがそれらを理論的に整理することはあまり重視されてこなかった。これは図書館員養成を中心にしてきたからだと思われる。

・LISを取り巻く環境が激変するなか、欧州の関係者らの「危機感」がこうした理論研究や概説書を生んできた面もあるかもしれない。

・一方で日本のLISは、アメリカの影響を強く受けてきた(プラグマティックで理論より実践重視)ことを背景として、十分に体系化されてきたとはいいがたい。

・「情報専門家」(ドメインの内容に踏み込んだ対応が本来は必要)と「主題専門家」の役割分担は必ずしも明確でない(例:システマティックレビュー)。

・グローバル化の進展を受けて、LISの世界でも日本からの情報発信が求められている。IEKOへの積極的な参画もまた期待されているのではないか。

本題の「知識組織論」関連の項目については、次回から取り組むことになります。

(司会・記録 塩崎亮)


 第2回 (2024年12月14日)Knowledge Organization(Birger Hjørland)知識組織論

Knowledge Organization System (Fulvio Mazzocchi)  知識組織化システム  (報告者:根本彰)

要約とコメント(ファイル)

まず報告者による次のような報告がありました。 (当日参加者:32名)

・KOは,ドキュメント,主題と概念の記述,表現,提示,組織化についての教育研究分野である。人間とコンピュータプログラムの双方が対象となる。KOは「知識組織化プロセス(KOP)」と「知識組織化システム(KOS)」の2側面がある。

 ・KOのアプローチは8つに整理される。各アプローチは,KO内で開発されたもの(図書館分類などを含む)とKO外で開発されたもの(IRアプローチなどを含む)に大別できる。

 ・KOSは,社会と知識の運用に関わる広い意味と知識情報の組織化・管理のために設計されたもの(semantic tools)を指す狭い意味がある。両者は区別する必要がある。

 ・Zeng(2008)は,KOS分類として,用語リスト,メタデータのようなモデル,分類とカテゴリ化,関係モデル(シソーラス,オントロジー)の順に複雑になる分類を提示した。

・KOSの理論的・実践的な論点として,ダールバーグ,スヴェノニウス,ヤアランの各学者による議論をそれぞれ検討した。

 そのあと質疑をおこない、次のような点が議論されました。

・オントロジーの定義について:オントロジーは用語法に混乱がある。オントロジーと言われているものには,大きく,工学的意味合いのオントロジ-と哲学的意味合いのオントロジーがあるのではないか。ZengのKOS分類で最上位に位置づけられているオントロジーは,厳密な論理構造を持つ工学的オントロジーに相当するだろう。

・哲学的オントロジーと工学的オントロジーには関係する部分があるのではないか?ただし,工学的オントロジーの作成者の多くは,哲学的意味合いを意識してはいない。

・ヤアランはドメイン分析を提唱するにあたって,プラグマティズム的視点で物的一元論を取るが故に相対主義にはならないと主張しているが,なぜそう言えるのか?ニョーリは,ヤアランの主張が目的先行の実用主義にとらわれていると批判している。KOが図書館という制度から派生したためにそのツールをつくり職員を養成するというプラグマティズムの立場が,物的一元論を支持する根拠になっているのではないか。

・KO研究は,以前でいう索引言語論や分類論につらなるものではないか。分野の名前を「知識組織論」とリニューアルしただけでは?IEKOを主導するヤアランは,もともとは心理学出身(索引言語論ではない)。それまでの諸研究を,社会認識論をベースにまとめようとしているのが「知識組織論」ではないか。

 次回は「索引」に取り組みます。

(司会・記録 橋詰秋子)


 第3回 (2025年3月8日)Indexing: concepts and theory(Birger Hjørland)(報告者:橋詰秋子)索引:概念と理論

要約とコメント(ファイル)

第3回は報告者が当該論考の要約を行った後、次のような整理・問題提起を行いました。(当日参加者:32名)

・本稿では、索引作成は極めて理論に依拠した営みであることが主張されている。

・ヤアランは社会認識論(SE)的な立場に立つ。SEに対する注目は、LISに限らず他分野でも見られる傾向なのか。

・ヤアランのいう「ドキュメント」は日本語でいう情報資源と類似する概念か。

・「索引作成」を「目録作成」と読み替えると、3.2で例示された合理主義的な見解(索引作成を普遍的なルールに基づく客観的な作業とみなす立場)は日本の多くの目録関係者が持っている見解に近いのではないか。

・ヤアランのプラグマティズム重視の理論は情報工学の考え方と親和性が高いといえるのか。

そのあと質疑を行い、次のような点が議論されました。

・“index”の訳語は、語源に遡った議論は踏まえた上で慣用的な「索引」としたが、知識組織に関わる営為は全てindexに含まれると考えて良いのではないか。

・本稿で挙げられている認識論的立場(合理主義、経験主義、歴史主義、プラグマティズム)のうち、歴史主義とプラグマティズムは、合理主義と経験主義と同列には位置づけられないのではないか。ヤアランは、indexing における認識論を整理するのに有用と考えて、社会認識論の観点から歴史主義とプラグマティズムという分け方を持ち出しているのではないか。たとえばプラグマティズムは合理主義ないし経験主義と排他的な関係にあるとはいえないのではないか。

・近代の認識論では「合理論」と「経験論」が2つの主要な立場だが、SEに基づくヤアランによる認識論の分類は、20世紀以降の言語論的展開やパラダイム論の登場を踏まえたものと言えるのではないか。

・ヤアランはシェラの再評価をしたいのではないか。SEを(イーガンとともに)確立したシェラは、SEを研究している人には知られている。しかし日本ではこれまで十分に研究されていない。

・ヤアランは、主題知識、適切な索引作成理論の訓練、そして実践的な訓練を兼ね備えた索引作成者が理想的であるとしているが、異なる主題ドメイン同士は共約不可能であると考えているのではないか。

・日本の学術書の索引は、欧米と比べると重視されず質的にも劣っている。日本にも索引専門家が必要と考えられる。

(司会・記録 大沼太兵衛)


第4回 (2025年6月14日)Document theory (Michael Buckland) (報告者:大沼太兵衛)ドキュメント理論

要約とコメント(ファイル)


報告者が当該論考の全体要約を示した後、次の論点が示されました。

・知識組織論(KO)においてドキュメント概念を取り上げる意義は何か。

・「レビュー論文」という位置づけのためか、バックランド自身の立場を含め、ドキュメントの定義が曖昧ではないか。

・たとえば、データとの違いは何か、同じなのか。ドキュメントは doceme の集合に還元されるものなのか。それとも、doceme の複合体がドキュメントとなる際には何らかの創発を認めるべきか。

・ドキュメントの成立要件として、通時的・数的同一性をもつ実体への固定は不要か。また、それらをドキュメントとみなす場合、その意義は何か。


そのあと質疑をおこない、次のような点が議論されました。

・情報資源の組織化は、著作・テクスト・知識といった用語で十分対応できているのではないか。そうした個別の機能・側面が検討できているとして、再度、それらを統合・複合した性質をもつ「ドキュメント」を持ち出す意義は何か。

・図書館が前提としていた対象である情報資源を抽象的・理論的(あるいは戦略的)にとらえなおすという試みともとらえられるか。そうした理論志向への偏重は、実践との乖離を生む可能性もあるのではないか。

・ドキュメントがドキュメントとして認識されるためには、作成者だけではなく知覚行為/知覚者も必要であり、かつ意味をもつものだけがドキュメントとしてみなされるというが、結局一体何がドキュメントなのか。文脈に依存するとしても、ここでの「意味」とは何を意味するのか。

・目録や分類の領域ではドキュメントという語は用いられておらず、アート・ドキュメンテーションでもドキュメントとは処理対象物のことを指すのが一般的である。そうしたとらえ方よりも、今回の「ドキュメント」概念は射程が広い。その分、理論としては詰められていない印象を受ける。

・何らかの媒体に固定されたものでないとドキュメントとはみなせないのではないか。ロン(Lund)の説によれば、記録されうる事象そのものもドキュメントに含められているようだが、拡張し過ぎではないか。

・KOについては冒頭で軽く触れられている程度に過ぎない。たとえばヤアランの議論との関係性がドキュメント理論でどのように位置付けられているのかは不明確である。

次回の「主題」は「(ドキュメントの)主題」について、となります。

(司会 根本彰、記録 塩崎亮)

第5回 (2025年9月13日)Subject (of documents)(Birger Hjørland)(報告者:塩崎亮)(ドキュメントの)主題


報告者が当該論考の要約を行った後、次の論点が示されました。(当日参加者:23名)

・主題分析の概念として,イズネスやアバウトネス,オブネスをどう考えるか。レレバンス,ジャンル,文献レビューなども関連する。

・ヤアランのいう要求志向のKOSに実現可能や実用性はあるのか。要求志向のKOSの具体例に何があるか。

・KOSで要求志向による主題分析をしても,利用者の個々の要求にこたえることはできないのではないか。すべてに精通する主題専門家を配置することは不可能ではないか。

・要求志向を前提としようとしまいが,主題体系を動的に修正するKOSが必要となるのではないか。それは可能か。動的なKOSの構築に生成AIを活用できるか。


そのあと質疑を行い、次のような点が議論されました。

・ヤアランは,イズネスやオブネスをあまり重視しておらず,それゆえ「主題」と同義と捉えるのかを明確に述べていないのだろう。レレバンスなどの概念の定義付けにも,ドメインが影響している。

・「主題知識説」は内容志向と要求志向を折衷したものと理解できるのではないか。「主題知識説」に基づくKOSの具体化例として,ヤアランはフェミニズムに関する事例を挙げている。日本の事例としては,地域資料の組織化などが該当しそうである。

・ドメイン分析は暗黙的にやられてきたことだろうが,旧帝国大学の部局図書館における組織化もそれに相当するのではないか。東北帝国大学電気工学科図書室で研究者が作った独自分類は,その事例に当たる。学問領域の形成とKOSとの関係を考えるのは,知識組織論の大きなテーマであろう。

・ヤアランのドメイン分析は、彼の専門図書館(王立図書館の研究司書として)の経験から生まれた考え方と思われる。ヤアランの理論は研究者集団がいる学術的領域を前提としていると考えられ、それゆえ多様なレベル・分野の利用者がいる公共図書館のケースに当てはめにくいのだろう。

・生成AIはメタデータなしでも推論により回答を提示できる技術と考えられる。IEKOの知識組織論はメタデータを前提にしているようにみえるが,生成AIによる回答は「知識組織化」と捉えられるのか。

(司会 根本彰、記録 橋詰秋子)