思い出した。僕はこの少女を知っている。
僕が10歳の頃だった。ひとりで高原を散策していると、姫小百合が咲いている場所を見つけたんだ。そういえば、母親から高原のお花畑には近づいたらダメと言われていた。足を踏み入れることはなかったんだけど、そのピンクの花畑の境界線の向こうに、その少女がいたんだ。そして、花畑の境界線越しに、咲いている花について少女と話したんだ。
その日以降、僕は花畑の近くまで通って、姫小百合の球根に毒があることや、その毒の抽出方法を教えてもらった。
ある時、少女はその花畑の境界線上で血まみれで死んでいた。傷口があらわになっており、死因が推測できた。おそらく背中から一突き。刃渡りの長い包丁で刺されていた。
それから僕が高原に散策しに行くことはなくなった。一か月程度の短い間のことだったように思う。