エンディングノートを開き、読んでください。少し長めなので黙読しても構いません。
警備員が教室に戻ってきた。ソウリンは膝の上にアリの頭を乗せ、涙を流す。
「全部思い出した。アリは私と一緒に……」
ソウリンの瞳から溢れた哀が、愛するアリの頬に零れ落ちる。ソウリンはゆっくりと事の経緯を説明し始めた。
「一週間前から私とアリは男子から揶揄われてた。女子同士で付き合っているのを知った男子に、相合傘を書かれたり、机の中に『気持ち悪い』って書かれた紙を入れられたりした。最初は何も思わないようにしてたけど、度重なると耐えられなくなって……街を歩いているだけで、すれ違う他人からも『気持ち悪い』って言われているようにも思えてきて。そして、今日の夜、アリと歩いていたら、たまたまクラスの男子とすれ違って……はっきりと『気持ち悪っ』って言われて。私とアリは過去にも似たようなトラウマがあって、今回で限界が来て。私たちは心中することを決めたの」
セーナは、それを聞いて胸が苦しくなる。(私がアリとソウリンの関係をクラスの男子にバラしたから、そのせいでアリが死んでしまった。今は、メメよりもアリのことが好きで……。一週間前にアリとソウリンが教室でキスしているのを目撃して、別れさせたくなって、その写真を撮って、それをクラスの男子にリークした。でもアリが死んでしまうなんて、思わなかった)
メメは、アリとソウリンが付き合っていたのを初めて知った。(ファミレスで、セーナといちゃついていたアリに嫉妬していたけど、ソウリンという恋人がいたなんて思わなかった。しかも揶揄われていたなんて)
ソウリンは涙ながらに続きを話す。
「私たちは深夜の教室で待ち合わせた。その間、私は、父が個人で経営する薬局から『コルヒチン(通称:ユリの球根毒)』を盗んだ 。そして、この深夜の教室で、そのお薬をアリが持ってきた水に溶かして、アリと飲み干した……」
ソウリンは冷たいアリの頬をそっと撫でる。
「なんで、私だけ生きてるの。アリ、死んじゃダメ……」
ソウリンは心中するときのアリの言葉を思い出していた。
【回想・始】
『こんな世界、生きているから苦しいんだよ。苦しみから逃れる方法、知ってる? 来世にソウリンと会えることを願って、死んでしまうの』
『これは今日、セーナから貰ったお薬。若返りできるらしいけどどうでもいいよね。でも、お薬の併用って良くない場合もあるから、逆にソウリンが盗んだお薬と飲めば、確実に死ねるかもね』
『ソウリン。ありがとう、一緒にいてくれて。とても幸せだった……来世では一緒に住もう。一緒にお弁当を作って、一緒に旅行して、一緒に……』
致死量のコルヒチンが溶けた水をアリが口に含む。その口元にソウリンは口づけをし、アリの口から吸いこむようにしてそれを飲んだ。いつものキスとは違う、苦い味のキスだった。
『(なるべく苦しまないように私が少し多く飲むから……来世でね、会おう)』
【回想・終】
「やっぱ来世なんて遅すぎるよ! この世界は苦しかった。でも、アリが一緒にいてくれた二人だけの世界は、なによりも愛おしかった。ねぇ、アリ逝かないで……」
ソウリンは、アリが生き返ること切に願う。そして、何の運命の因果か、その願いは、アリとソウリンを貶めたセーナのおかげで叶うこになる。
「ソウリン……?」
ソウリンの膝の上で、アリが目を覚ました。警備員が声を荒げる。
「あなたたち(セーナとメメ)は関係ないのね!? 先帰りなさい」
セーナがアリに渡したお薬は、研究員の父から貰ったお薬。通称『若返り薬』。そのお薬は、体の細胞を過去の状態に戻すことで、若返るというものだった。ソウリン以上に致死量のコルヒチンを飲んだアリの体も、時間はかかったが、飲む前の状態に戻った。もちろん記憶も元に戻った。
「なんで私、生きてるの? ソウリン、もう一度……」
「もう一度……生きてみない?」
「えっ……」
「悔しいの。アリを好きになったことが悪かったみたいで。そんなの絶対間違ってる。私はアリが好き。アリは私のこと好き……?」
「うん……」
「だから、私たちだけは私たちを認め合って、生きていこうよ? 否定され続ける世界で、私たちが私たちを認め合わなきゃ、誰が私たちを認めてくれるっていうの。アリ、生きよう。私と一緒に、ずっといて」
「忘れたの? 今までのこと。なぜ今、私が生きているか解らないけど、体の傷はいつか癒える。でも、この心の傷は一生かけても癒えない。このキズを背負ったまま『死にたい』と思いながら生きるなんて……ソウリンだってそうでしょ?」
「そう、だよね。この心の傷は一生かけても消えないと思う」
ソウリンはそう前置きをし、優しく言葉を紡ぐ。
「これは私も解らないんだけどね。なんだかアリと一緒なら、この心のキズも見えなくなるほどに、楽しい思い出を、たくさん作れるような気がするんだ」
「心の傷が見えなくるような楽しい思い出……でもやっぱり、私は無理……んっ!?」
否定しようとしたアリの口を、ソウリンの口が塞ぐ。
「んんんっ!?」
「私がアリを幸せにして、心の傷を見えなくするから……見えなくなるまで、しよう?」
ソウリンの膝の上、アリは逃げようとしなかった。ソウリンの黒い長髪が暗幕のようにアリの首元まで垂れ、二人だけの世界を形作る。ふたりの唇が触れ合う。お薬を飲んだ時の苦さとは違う、あまいあまい感触。ふたりの白百合のような頬が紅く染まった。
Fin. 癒えないキズと消えないキス
下記の事柄を推論できていれば、括弧内の得点を獲得できます。
アリが自殺またはセイランと心中しようとした(+5)
「体内の状態を過去に戻す」お薬がある(+3)
アリにつけたGPSを秘密にする(+1)
アリとセイランの関係を男子たちにバラしたのを推論されない(+1)
アリが自殺またはセイランと心中しようとした(+5)
「体内の状態を過去に戻す」お薬がある (+3)
2-A教室の扉を鍵で開けたのを秘密にする(+2)
アリと心中しようとした(+8)
「体内の状態を過去に戻す」お薬がある (+2)
この物語を紐解くには、「新開発のお薬」と「コルヒチン」を全員が知る必要があります。その為には、お薬を判別できるソウリンと、「新開発のお薬」の存在を知るセーナが協力的なことが望まれます。
捜索する箇所と捜索する人で重要なのは以下の6つです。
教室の内側
メメ視点で心中を示唆するような情報を直接得ることができます。しかし、メメが誰よりも早く教室に来ていたことを悟られると怪しまれるかもしれません。
アリの机
アリの机から、男子に揶揄われていた証拠が見つかります。
アリの遺体の周辺
アリが意識を失い、頭を机の角にぶつけた時の血痕が見つかります。さらに、ソウリン視点でコルヒチンが見つかります。この箇所を調べると、死因がお薬だと疑うことができます。
セーナの鞄
ソウリンとメメ視点で「知らない薬」が見つかります。お薬の知識が豊富な彼女たちが解らないということは、プロローグで出てきた「新開発のお薬」と紐づけることができるでしょう。またその存在をセーナが自白する場合もあるでしょう。
アリの鞄
セーナ視点で、アリに渡した「新開発のお薬」が減っており、使用されたことが解ります。
ソウリンの鞄
ソウリン視点で父が秘密裏に制作した薬「コルヒチン」が使用済みの状態で見つかります。
以上から、アリがソウリンと心中するために「新開発のお薬」と「コルヒチン」を使用したことが推論できるでしょう。もちろん、捜索できなかった箇所があればその分、難解になります。
さらに、心中したなら、ソウリンはアリと一緒のお薬を飲んだことになります(録音データから推論できます)。つまり、ソウリンは「新開発のお薬」を飲んでいるということです。
「新開発のお薬」の正体ですが、密談場所から見える電光掲示板『まるでファンタジー!? 時間が戻ったように若返る薬の開発に成功しました!』と、心中してそれを飲んだと思われるソウリンが生きている事を踏まえると、このお薬は体内の時間を巻き戻すものだと推測できるでしょう。ですが、難易度はとても高いです。
【ミスリードするような証拠】
メメの鞄
アリへの嫉妬メモが見つかります。
セーナの机
男子にバラした証拠写真が見つかります。
アリの遺体
頭部から裂傷が見つかります。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。謎を全て解くことができたでしょうか。百合のロールプレイも含め、楽しんで頂けたら幸いです。
ソウリンとアリが付き合い始める
セーナとメメが付き合い始める
セーナがソウリンに恋愛相談をする「アリのことが好きかもしれない」
セーナが、アリとソウリンが付き合っているのを知り、別れさせたいと思い、男子の机にアリとソウリンがキスしている写真を入れる
アリとソウリンが男子から揶揄われるようになる
メメがファミレスでソウリンに恋愛相談をする「シーナとチューするにはどうすればいい?」
セーナとアリがファミレスでデート風の食事をし、アリに若返り薬を私、GPSをつける
メメは、セーナとアリの食事をを目撃する
メメとセーナがメッセージのやり取りをする。
メメ 『放課後何してたの?』
セーナ『ずっと暇してたよ!』
デート中のアリとソウリンがモブ男から強く揶揄われる(心中のきっかけ)
ソウリンが、父の経営する薬局からコルヒチンを盗む
メメが忘れ物を取りに学校へ行き、2-A教室のカギを開ける。その後、校舎内を散策する
アリとソウリンが心中する。倒れる際、二人とも机の角に頭を強打し、アリは血を流す
セーナがGPSを頼りに学校へ向かい、校舎内で鉢合わせたメメと一緒に2-A教室へ行く
セーナとメメがアリの遺体を発見する
「癒えないキズと消えない」を遊んでいただきありがとう御座いました。この作品は芥さんと共同作成したものです。密談の百合のひとときはいかがだったでしょうか。謎解き上、密談は必須ではないですが、楽しんで頂けたらと思い、実装してみました。
共同作成してくれた芥さん、遊んでくれた方々、本当にありがとうございました。良ければこちらのGoogleフォームからこの作品に『スキ!』を送ってくださると嬉しいです。
本当にありがとうございました。
—— よすが ——
百合は尊い!!!!!!!
—— 芥 ——