警察官と容疑者が一対一で対峙する。
警察はツグミに証拠を突きつける。
「凶器のトロフィーからツグミの指紋が多数検出された。もう言い逃れることはできないぞ」
「私は許婚(いいなづけ)を殺していません。不可解なことがまだあります。ダイイングメッセージの『だれなんだ?』はどういう意図なのでしょう。彼が私に殺されているならそんなものは残さない。でも物的証拠から私が夫を殺害したのは間違いありません……」
「認めるんだな?」
「いいえ。不可解なことはまだ。殺害現場はこの部屋なのに、この部屋にいる私は目を覚まさなかった。トロフィーで殴打する時に大きな音がしたはずなのに。つまり、目を覚ますことのできない理由があったんです。……夫が睡眠薬をコーヒーに溶かし、私に飲ませたとか」
「殺害当時、寝ていたなんて証拠は客観的に証明できない。戯言だ」
「証明する必要はありません。これから貴方も理解するでしょうから。……おそらく私は多重人格です」
「なに……!?」
「エルとリバという人格が私の中にいると思います。彼らが殺害したから、夫は『だれなんだ?』というダイイングメッセージを残した。姿は私でも、振る舞いや口調から普段の私でないことに気づいたから」
「いったい何を言って……」
「ここからは証明しようがない憶測になります。彼は、私が睡眠状態で別人格が目覚めることを密かに知っていた。彼は私に心配をかけまいとその事実を言わず、自分で解決しようとした。そして、私に睡眠薬をコーヒーに溶かして眠らせ、別人格と対話を試みた。しかし、喧嘩になり、夫は緊急用に用意していた催眠ガスを使って再び別人格の私を眠らせようとした。それが失敗し、逆にやられてしまった。……私を精神鑑定にかければ全部明らかになります」
「信じられない話だが……まぁ捜査をする上で精神鑑定は必須みたいだな」
【数週間後】
精神鑑定でツグミの中にはエルとリバの人格の存在が明らかになった。ツグミは無意識に、自分の書く小説の登場人物を自身の中に創り出していた。エルが表にでるのは執筆中と睡眠中で、リバは執筆中とエルに呼ばれたとき。
エルは主人格をツグミだと理解し、リバの存在も認知していた。一方、リバは主人格をエルだと錯覚し、ツグミを認知していなかった。ツグミは多重人格を治療したが、それ以降、推理小説シリーズが書けなくなり、打ち切りにした。
最終話のタイトルは「孤独」。
小説を書けなくなったツグミが孤独に陥る様子と、エルとリバへの今までの感謝が綴られていた。
Fin 孤独
警察官と容疑者が一対一で対峙する。
警察はツグミに証拠を突きつける。
「凶器のトロフィーからも遺体の衣服からもツグミの指紋が多数検出された。もう言い逃れることはできないぞ」
「私が、許婚(いいなづけ)を……殺したんだと思います」
「認めるんだな?」
「はい……」
ツグミは刑務所に収容された。彼(許婚)のいない喪失感を埋めようとしてか 、ツグミは刑務所で孤独に執筆活動を続けた。
ツグミが執筆した推理小説シリーズはさらに人気を博した。
特に最新刊、名探偵と名探偵助手が事件を仕組んで最後まで逃げ切る構成は読者を驚かせた。
彼女はこれからも推理小説家としての道を歩んでいくのだろう。エルとリバとともに。
Fin 孤独
下記の事柄を推論できていれば、括弧内の得点を獲得できます。
エルとリバが共犯だと推測する
エルとリバは推理小説の登場人物である(+3)
ツグミにはエルとリバという人格が存在する(+2)
ホットコーヒーに睡眠薬が入っていた(+1)
ツグミが、犯人がツグミだけであると推測する
エルとリバは小説の登場人物である(+2)
ツグミが多重人格であり、エルとリバという人格が存在する(+2)
遺体の男はツグミの許嫁である(+2)
ツグミから疑われる(-2)
ツグミが、犯人がツグミだけであると推測する
エルとリバは小説の登場人物である(+2)
ツグミが多重人格であり、エルとリバという人格が存在する(+5)
ツグミから疑われる(-2)
いわゆる叙述トリックです。それぞれのキャラクターシートで、あたかもエルとリバが個人で存在するように書かれています。
真相に迫るには2つの発想が必要です。簡略化して示します。
推理作家AとB、Cが登場人物。BとCの証拠が全くない。すなわち、BとCはAが執筆した推理小説の登場人物、もしくはAと同一人物である。
BとCが殺したのに見つかる証拠はAに関連している。すなわち、AとBとCは同一人物である。
まずは証拠を見ていきましょう。
「もし、現実でマーダーミステリーが起こったら」を主題としている推理小説が見つかります。ここで、エルは「リアルマーダーミステリー」の事件を解決しようとしているので、自分が小説の登場人物である可能性を考えれます。また、エルがそれを解決しようとしていることを漏らせば、リバも同様の可能性を考えることができるでしょう。しかし、漏らさない場合はリバ自身のキャラクターシートから推論するしかないため厳しいものになるでしょう。
そして、トロフィーや小瓶からツグミの指紋が見つかります。これは、エルやリバにとって、ツグミを貶めるための格好の証拠です。しかし同時に、男を殺した者が自身なので、自身がツグミの中の人格だと疑問視できる証拠でもあります。
一方、ツグミからすると「だれなんだ?」と残されていることから、犯人が私ではない可能性に言及できます。加えて、エルかリバが殺した場合でも、世界に知られる彼らに対し「だれなんだ?」は不自然です。犯人像が不鮮明な中で、頼れるのはツグミの指紋です。それらの証拠から、私が殺したのには違いないのに私ではない誰かが殺している……多重人格かも、という発想が重要になります。また、エルとリバに関連する証拠が全く無いのも鍵となるでしょう。
難解なのは、ツグミが自分を多重人格であると認識した場合でも、エルとリバの共犯を疑う証拠がない点です。これはプレイ中のエルとリバが二人でツグミを貶めよう言動から察するしかありません。つまり、プレイスキルを重視した仕様になっています。ツグミのミッションにも、犯人を「完全」に突き止めようとあります。一応、微かなヒントとして、植木鉢から小瓶が見つかります。この小瓶のことをエルとリバは知っており、そのリアクションから察することもできるかもしれません。
続いて、それぞれの人格が表に出るタイミングです。
エルとリバは小説の登場人物なので、ツグミの執筆中に表に出ます。リバから見れば、エルと(小説内で)会話しているように感じます。これはエルも同じです。また、エルはツグミの睡眠中に、リバはそのエルから呼び出されたときも出ます。
最後にリバに関していえば、ツグミのことを認知していません。ツグミのことを知っていく上で、謎を解かなければならないので、最も難しいキャラクターです。しかし希薄ですが、エルがリアルマーダーミステリーのことを知っていることと、本の主題がリアルマーダーミステリーに関連していることから、エルが本の登場人物である可能性を疑い、自身もその可能性を疑うことができます。
思えば、この作品は証拠から推理する個人での水平思考クイズと、マーダーミステリーとしてのプレイング要素「共犯」を掛け合わせものかもしれません。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。謎を全て解くことができたでしょうか。
「孤独」を遊んでいただきありがとう御座いました。楽しんで頂けたなら、とても嬉しく思います。良ければこちらのGoogleフォームからこの作品に『スキ!』を送ってくださると嬉しいです。送信した『スキ!』はトップページに反映されます。
本当にありがとうございました!