第二回目となる10月18日では、簡単に前回の博物館見学を振り返った後、京都芸大の工芸専攻ツアーを行いました。テーマ演習に参加している漆工、染織、陶磁器専攻の学生が「自分たちの専攻のどういうところを伝えたいか」ということを(できるだけ)意識しながら専攻の案内をしました。京大からも5,6名の大学院生が参加して全部で20名近い参加者となりました。今回のレポートは京都大学から参加した柚江夏弥さんが書いてくれました。
京都大学大学院総合生存学館1回生
柚江夏弥
1
とても不思議な事があるものです。
このレポート、つまり京都市立芸術大学における「科学・芸術・社会の相互作用」ゼミ、その第二回の集まりの報告レポートを書いているという、このことが、たとえば、ぼくにとって不思議な事です。いろんな縁があって、これを書いているのです。
いいえ、ぼくがこれを書いているなんてことよりも、もっと大きな、もっとたくさんの不思議で世界は満ちています。そんな世界の不思議を、科学は探究し、芸術は表現し、社会は編成してきました。その相互作用について議論をしていくのが、このゼミだと、ぼくは思っています。
第二回の今回は、京都市立芸術大学(ひとはこの場所を京芸と呼びます)において、工芸ツアーと題して、工芸科の見学を行いました。ツアーの思い出がぼくを包み、報告ってなんだっけ、とどんどん分からなくなっていきます。ぼくはだれに何を報告したらよいのでしょう。だってまず、このゼミという出来事が、何を目指してどうなっていこうとしているか、まだ分からないし、決めてしまいたくもないのですから。といって、第二回の集まりで起こったことや、参加者のみなさんが感じたことや考えたこと、すべてを余すところなく言葉にできるとも、到底思えません。
そう、ぼくがこの報告を完成させることなど、不可能なのだ……
――などとおもっている間に、工芸ツアーの思い出は、どうしようもなくぼくを包んでいくのでした。
2
ゼミの目的は「他分野の人が自分の専攻イメージをどのように持っているのか」そしてそのイメージの「ツアー前後のちがい」でした。
ゼミは三つの部分によって構成されました。
1)前回(京都大学博物館ツアー)のフィードバック(のレポートをみんなで読む)
2)工芸科ならびに各専攻の事前イメージの共有
3)工芸ツアー(漆工・染織・陶磁器)
4)工芸ツアーのフィードバック
以下、順に述べていきます。
1)前回(京都大学博物館ツアー)のフィードバック
前回の京大博物館ツアーの報告レポートをみんなで読みながら、磯部先生が講評をくわえていきました。
人に伝える文章の書き方を練習することが、このゼミの目的のひとつであることが、磯部先生より明言されました。京芸生と京大生との見方の差異として、京芸生は主に視覚的情報から感じたことを述べるのに対し、京大生は論理的情報から感じ考えて、加えて自身の評価を述べる傾向があるのではないか、という推測がありました。
2)工芸科ならびに各専攻の事前イメージの共有
事前に各自で書いていた工芸科ならびに各専攻のイメージを読み、共有しました。
3)工芸ツアー(漆工・染織・陶磁器)
各専攻の京芸生による案内・解説とともに、工芸科の制作場所を見学しました。
3-1 漆工
漆工は、専攻の院生が四人いました。二つのグループに分かれて、二部屋の院生室を見学しました。
一部屋に二人ずつ、漆工科の院生が担当として在室し、制作場所の構造、漆の基礎知識などの解説がなされました。テストピースや作品を見た見学者から、質問がなされました。見学グループは双方の院生室を見学することができました。
3-2 染織
染織は、専攻の院生が一人いました。展示と工房とを見学しました。
展示は藍染の作品展でしたが、他のタイプの作品も多くつくるとのことでした。自由に見学しながら聞きたいことがあればそのつど質問するという形式でした。見学者の質問に合わせて多くの説明がなされました。
工房は、糸を染めるところ、織りの設備、デザインをしている部屋、など広い範囲を移動しつつ見学しました。解説は少なめで見学者間での会話も散見されました。
3-3 陶磁器
陶磁器は専攻の学部生が三人いました。
窯を始めとして、土をリサイクルする設備や土の造形作業場所、資料としてのテストピース置き場、廃材置き場などを見学しました。大きな設備も多く、仕組みや使い方について質問したり観察していました。
4)工芸ツアーのフィードバック
講義室に戻り、フィードバックを行いました。
五つの班に分かれ、おもに各専攻のイメージの変化について議論し、その後全体で共有しました。イメージの変化については、
・それほど変わらなかった
・制作工程について知ることができた
・化学の知識が工芸においても必要とされていると分かった
という意見が出されました。他の論点としては、
・作家性の話までできなかった
・工芸分野のイメージと専攻学科のイメージとを分けて考えたらよいのではないか
・工芸科の専攻によってコンセプト重視の強さが異なる
といったものが提示されました。
最後に、「レポートの対象[1]」は「科学分野・芸術分野だとある程度興味がある[2]」人々であると決まりました。また、レポートの文体は「ですます調[3]」で書くことに決まりました。
授業後にあらためて各自のイメージの変化について書いてもらうようにお願いしました。
☆授業後のフィードバック
・漆工
分野のイメージ:(染織)
(陶磁器)変化なし
(構想設計)
(音楽)変化はそんなにないが製作工程を知れて楽しかった
(科学)
(その他)
専攻のイメージ:(染織)
(陶磁器)変化なし
(構想設計)
(音楽)変化はそんなにないが製作工程を知れて楽しかった
(科学)
(その他)
・染織
分野のイメージ:(漆工)秋にみる藍染めもきれい。意外と匂いがきつい
(陶磁器)変化なし
(構想設計)
(音楽)変化はそんなにないが製作工程を知れて楽しかった
(科学)
(その他)
専攻のイメージ:(漆工)留学生が増えている。想像以上の数の織り機がある。
院部屋の密度が高い
(陶磁器)
(構想設計)
(音楽)変化はそんなにないが製作工程を知れて楽しかった
(科学)
(その他)
・陶磁器
分野のイメージ:(漆工)土を復活させる機械を初めて知った。
個人では設備面が大変そう。
土だけでなく燃料も何でも燃やす。
(染織)
(構想設計)
(音楽)変化はそんなにないが製作工程を知れて楽しかった
(科学)
(その他)
専攻のイメージ:(漆工)協力が必要なため縦のつながりができそう
(染織)
(構想設計)
(音楽)変化はそんなにないが製作工程を知れて楽しかった
(科学)
(その他)
[1] LINEグループ、アルバムのホワイトボード画像より。
[2] 同上。
[3] 同上。