宇宙にはあらゆる場所に高温なプラズマが存在します。プラズマで発生する活動現象を詳しく観測できる格好のターゲットが太陽であり、さらに太陽で起きるプラズマ現象は惑星環境に直接影響を及ぼします。黒点に代表される磁場構造の形成プロセスとそれに伴うダイナミックな現象のメカニズムを調べることで、太陽物理の長年の謎であった高温プラズマの成因を理解することを重要な研究課題と位置づけています。さらに、まだ誰も見たことがない新しい観測データを手にするため、最先端の観測装置の開発にも取り組んでいます。2024 年にフライト予定の国際大型気球実験SUNRISE-3や高感度高分解能な紫外線分光装置を搭載し2028 年の打ち上げを目指す SOLAR-C 衛星の開発にも取り組んでいます。
磁気乱対流の研究 / Magneto-convection on the solar surface
データ科学的アプローチを応用したデータ解析手法の開発 / Development of data analysis methods by a data science approach
彩層活動現象の研究 / Chromospheric dynamics
黒点微細構造の研究 / Fine-scale magnetic structures in a sunspot
=== 現在進行中 ===
光球・彩層の高解像度磁場観測を目指す気球実験「SUNRISE-3」/ Balloon experiment SUNRISE-3 for a high-resolution observation of magnetic fields in the photosphere-chromosphere
日米欧の共同共同気球実験
2024年7月にフライト観測成功!!
高感度高解像度な太陽紫外線分光観測を行う次期太陽観測衛星「SOLAR-C」(EUVST) / Next space mission SOLAR-C (EUVST) for high -sensitivity and high-resolution UV spectroscopy
JAXA宇宙科学研究所の公募型小型衛星
国立天文台は紫外線望遠鏡の開発を行っています。
=== これまでの開発 ===
「ひので」可視光望遠鏡の開発
彩層・遷移層の磁場計測を目指すロケット実験「CLASP」
次世代太陽観測衛星「SOLAR-C」(中型)の検討
「ひので」は2006年9月に打ち上げられ日本の太陽観測衛星です。世界最大の太陽観測用光学望遠鏡 Solar Optical Telescope (SOT)を備えており、高解像度かつ高精度な太陽の観測を行うことができます。「ひので」に加えて、NASAのSDO衛星・IRIS衛星の最新の太陽観測データを用いて、磁場とプラズマが生み出す活動現象の観測的研究を行なっています。
「ひので」衛星については以下のホームページをご覧下さい。
黒点以外の静穏領域にも磁場は存在しています。そのような場所は粒状斑でおおいつくされており、+極−極の磁場がゴマ塩状に存在しています。活発な熱乱対流によって、磁場構造が形成されていること(ローカルダイナモ)を示しています。磁場構造と熱対流のエネルギーの空間分布を系統的に調べ、粒状斑スケールの磁場構造が担う磁気エネルギーが重要であることを明らかにしました (Katsukawa and Orozco Suarez 2012, ApJ, 758, 139)。また乱流の性質を明らかにすることで外層大気へのエネルギー注入の理解する研究にも取り組んでいます(Ishikawa, Katsukawa, et al., 2020, ApJ, 890, 138)。
太陽表面の複雑な乱流とそれが作る磁場構造を定量化するために、新しいデータ解析手法の開発に取り組んでいます。近年発達してきた深層学習により、直接観測が困難な水平を、観測可能な表面温度や視線速度から求める手法を開発しました (Ishikawa, Nakata, Katsukawa, et al., 2022, A&A, 658, 142)。トポロジカルデータ解析の1つであるホモロジー解析を使って、表面磁場構造を分類する手法を提案しました (Santamarina Guerrero, Katsukawa, et al., 2024, ApJ, 964, 32)。
「ひので」によって光球の外側にある大気層「彩層」で発生する活動現象の研究が大きく進展しました。黒点半暗部で発生する「半暗部マイクロジェット」の発見もその1つです (Katsukawa et al. 2007, Science 318, 1594)。半暗部の磁場構造から磁気リコネクションがジェットのエネルギー源である可能性が高いことをを観測的に示しました。同時に、彩層と光球の磁場や運動の関係性も調べられるようになっており、彩層の増光に対応して光球で下降流が発生していることが分かりました (Katsukawa & Jurcak 2010, A&A, 524, A20; Jurcak and Katsukawa 2010, 524, A21) 。
黒点内には、ライトブリッジや暗部輝点、半暗部の筋状構造など、様々な微細構造が存在します。キロガウスを越える磁場と太陽表面の熱対流の強い相互作用によって、これらの構造が形成されると考えられています。「ひので」による黒点の高解像度連続観測と、高精度な偏光観測によって、ライトブリッジの形成過程が始めて連続的にとらえられました。暗部輝点の発生とライトブリッジの形成が関連していることが分かって来ました。黒点がどうしてできるのか、どのように崩壊するのかを知る手がかりになります (Katsukawa et al. 2007, PASJ, 59, S577, パリティ2008年12月号)。