生命科学コースではどのような教育が

行われているのか

 生命科学コースの授業内容について,模擬授業により紹介しています。生命科学コースが目指している教育方針を体感いただけましたら幸いです。

2024.04.05 「2024年度の新入生を迎えて」

 ドイツを代表するゲーテは,「人生において大切なのは人生そのもの。結果ではない」という言葉を残しています。大切なことは,生きていくことそのものであり,その苦労や幸福をしみじみ味わうことであると解釈できます。ゲーテは,若い頃から成功して,詩,小説,戯曲などの「成果」を数多く生み出してきた人です。しかし,結果のみにこだわることは適切ではないと考えていることがわかります。結果が出ないと[例えば,テストで点数が取れないと]よくないと考えがちですが,大事なのは結果ではなく過程です。他人と比較する必要もありません。コツコツ続けていれば必ず伸びていきます[時間はかかるかもしれませんが]。頑張ったことは必ず自身の血となり肉となります。学問に限った話ではありません。何事に対しても,できるようになったこと[たとえそれが些細なことでも]を前向きに評価し,大学生活を過ごしてほしいと思っています。

2024.03.19  「感性を研ぎ澄ませ!そのために体験を重視せよ!」

 学生実験を担当して,少し疑問に思う思うことがあります。それは学生の皆さんが実験から得た値よりも,教科書に書かれた仮の数字が正しいと思っている節があることです[およそという但し書きがあるにもかかわらず]。ある物質の濃度を算出するのに,滴定で得られた滴下量からではなく,およそと書かれた質量を用いて濃度を計算してしまう学生が多く見られます。もちろんこれは内容を十分理解させることができていない教員側の問題が大きいのかもしれません。しかしそれだけではなく,書かれていること[特に活字体で書かれたもの]を信じる[間違いがないと思い込む]傾向が強いからではないでしょうか。本生命科学コースでは,目で見たこと,耳で聞いたこと,手で触ったことなど,五感により感じ取ったことは正しいという意識が芽生えるように,受け身ではなく能動的な体験を数多く授業の中でしてもらっています。感性こそが常識を打ち破る可能性があることを頭に入れながら,1つ1つ丁寧にさまざまな体験をさせることにより,学生の感性が卒業時には研ぎ澄まされたものになることは間違いないでしょう。

2024.02.29生物をありのまま捉え,理解する

 「生物は回せば続くという方法をとっている。世代を回しながら<私>が続いていく。生態系も物質循環があって,物質をリサイクルしながら回って続いていく」 これは,東京工業大学名誉教授である本川達雄先生の著書「生きものとは何か(ちくまプリマー新書)」の一説です。現在は,分子レベルで生物を理解する試みが盛んに行われており,各大学でそのための生物系カリキュラムが組まれています。しかし生物を理解するのに必ずしも分子まで分解する必要があるのでしょうか。違ったアプローチで生物を理解することはできないのでしょうか。このような考えのもと,カリキュラムを構築したのが神奈川工科大学の「生命科学コース」です。したがって,生きものを観察する視点を重視した授業科目を複数用意しています。本学科では,この考えをより学生に浸透させるために,本川先生に本学での講義を依頼しました [快く引き受けていただき,ありがとうございます]。学生たちは本川先生の講義に大いに刺激を受けたようで,生きものの見方が一つ増えたようでした。ある学生の感想に,「哲学から考える生物はとても面白かった」とありました。さまざまな考え方を身につけること,これは大学において非常に重要なことです。本川先生には,次年度も講義をご担当いただけることになっています。

2024.02.18ルールを活用する術を体得せよ! 学修に対する意識改革

 本コースに入学してくる学生の中には,勉強は覚えるものと思っている人が少なからずいます。確かに高校までの試験では求められる範囲が決まっているため,試験範囲を覚えておけば[例題を丸暗記しておけば]良い点が取れたのかもしれません。しかし大学では[特に社会に出ると],この方法は通用しません。たとえマニュアルどおりの展開になったとしても,マニュアルどおり対応すればうまくいくとは限らないからです。実際には,これまでに培った知識を総動員して,いま起こっている状況に対して判断を下していく必要があります。そのために大学では,これまでの学修に対する意識を変えていく必要があります。例えば,「有機化学」の授業では,化学反応式を丸暗記することを目標にするのではなく,与えられた化学反応式をもとに別の反応を予測する訓練を行っています。生命科学コースでは,他の授業においても,学修に対する意識改革の場と位置づけて,授業を展開しています。意識が変われば学修に対する姿勢も変わり,確かな学力もついてくることは間違いありません。

2024.02.02 「観察力を育てる」

 生命科学コースでは,実際の生物材料を扱いながら観察力を身につけることを目指してカリキュラムを設定しています。観察は日常的に使われる言葉であり,特別な訓練は必要ないと思われる方がいるかもしれません。観察の意味を辞書で確認すると,「そのものがどういう状態であるか,ありのままの姿を,注意してみること」[三省堂 新明解国語辞典]とあります。現代は情報過多の時代であり,物事を瞬時に判断することが好まれる傾向にあります。しかしありのままの姿を捉えるためには,「注意してみる」,言い換えれば「じっくり丁寧にみる」姿勢が求められます。見る対象に集中することにより,さっと見ていただけでは気づかなかったことが見えてくる。この感覚を学生に体得させたいと思っています。本コースでは,実習の授業において,植物や動物などをじっくり見て,スケッチさせることにより,生きものの特徴を捉える訓練を繰り返し行ってiます。見ることの大切さと難しさを,授業をとおして体験させていきます。

 あわせて学生には,物理学者である中谷宇吉郎(1900~1962)のことばを引用することにより,観察の重要性を伝えています。

 『新しい発見の方法は唯一つしかない。常に眼を開いて,注意深く探索をつづけるより他に方法はない。ちょっとでも変わったことがあったら,それを目ざとく見付けて,対象を追求していく。それが新しい発見に導かれることもあるし,何も出て来ない場合もある。もちろん後者の場合の方が多い。しかしそれより外に道はないのであるから仕方がない。』

 観察力は才能でなく,努力で身につくものです。じっくり見ることを常日頃から心がけることにより,生きものの面白さや不思議さが見えてくることは間違いないでしょう。

2024.01.26 「文章で書かれた内容をイメージできる訓練を!」

 はじめに授業で取り上げた例題を示します。

[例題] 線分を3等分して真ん中を取り除くという操作を無限回繰り返して得られる集合をカントール集合という。以下の設問に答えよ。ただし,最初の線分の長さを1 cmとする。

(1) 線分を3等分して真ん中を取り除くという操作を1回,2回,3回行ったとき,得られる線分の長さはそれぞれ何cmとなるか。

 皆さんはここに書かれている内容を,正確に図示できるでしょうか。これはフラクタル図形を扱った問題ですが,この用語を知らなくても,文章を図にできれば問題を解くのは容易です。しかし実際は,書かれている内容をイメージできないため,解くのに苦労していることがわかりました。映像の世界に慣れた学生には,自分の頭で物事をイメージすることが苦手なのでしょう。分子のような目に見えない世界もイメージしなければ理解が追いつきません。生命科学コースでは,自分の頭で状況をイメージできる力を鍛えていく教育を推進していきます。