Commentary

論文解説

このページでは相馬の公表した論文を解説します。詳細な内容に興味のある方はメールにてお気軽に別刷りをご請求ください。

オオホシカメムシ科

日本・韓国・台湾産オオホシカメムシ属の分類学的再検討

Souma, J. & Ishikawa, T. (2021) A taxonomic review of the genus Physopelta (Hemiptera: Heteroptera: Largidae) from Japan, Korea, and Taiwan, with a new record of Ph. parviceps from China. Zootaxa, 4951 (3), 461–491. https://doi.org/10.11646/zootaxa.4951.3.3

オオホシカメムシ属Physopelta Amyot & Serville, 1843(カメムシ目:オオホシカメムシ科)は、旧世界に広く分布し、カンキツなどの果樹の害虫として知られます。日本からは、従来Ph. (Neophysopelta) cincticollis Stål, 1863、オオホシカメムシPh. (N.) gutta gutta (Burmeister, 1834)ヒメホシカメムシPh. (N.) parviceps Blöte, 1931アカヒメホシカメムシPh. (N.) slanbuschii (Fabricius, 1787)ヨツモンオオホシカメムシPh. (N.) quadriguttata Bergroth, 18945種が知られていましたが、Ph. (N.) cincticollisとアカヒメホシカメムシの記録には疑問が存在しました。加えて、韓国と台湾におけるPh. (N.) cincticollisとヒメホシカメムシの同定は長らく混乱していました。本研究では、日本・韓国・台湾に分布する本属の種を計6063頭の標本をもとに分類学的に再検討しました。その結果、日本と韓国からのPh. (N.) cincticollisの記録と、日本からのアカヒメホシカメムシの記録は、ともにヒメホシカメムシの誤同定であることが判明しました。一方、台湾本島からのPh. (N.) cincticollisとヒメホシカメムシの記録は、ともに新種Ph. (N.) fusciscutellata Souma & Ishikawa, 2021に該当することが明らかになりました。この新種は日本の南西諸島からも発見されました。さらに、台湾本島の北部と中部から顕著な形態的特徴をもつ新種Ph. (N.) lutaspidata Souma & Ishikawa, 2021を記載しました。また、中国本土からヒメホシカメムシ初記録しました。以上により、日本産オオホシカメムシ属は、オオホシカメムシPh. (N.) fusciscutellataヒメホシカメムシ、ヨツモンオオホシカメムシの4種に再整理されました。今回の論文は、学部生の頃に卒業研究として取り組んだ内容に、追加の新知見を加えたものとなっています。日本全国のヒメホシカメムシを入手するため、ライトを担ぎ歩いて東奔西走した真夏の日々が懐かしいです。

カメムシ科

日本新記録属Ochropharaの1新記録種

Souma, J. & Ishikawa, T. (2022) First record of the stink bug genus Ochrophara Stål, 1871 (Hemiptera, Heteroptera, Pentatomidae) from Japan. Check List, 18 (5), 1121–1125. https://doi.org/10.15560/18.5.1121

沖縄本島石垣島で得られた標本をもとに、Ochrophara Stål, 1871(カメムシ目:カメムシ科)およびO. chinensis Zheng & Liu, 1987日本から初記録しました。Ochropharaは世界に3種が知られますが、いずれの種も生態的知見に乏しく原記載以降の記録がありませんO. chinensis中国の雲南省のみに知られていましたが沖縄本島と石垣島で発見されたので東洋区の広域に分布する可能性があります今回の研究は、2022年3月に研究室の後輩から1個体を提供されたことが切っ掛けです。属まで同定して共著者に連絡したところ、2個体が追加できました。その後、さらなる1個体を別の協力者から頂き、種まで同定できたので報告しました。

クチブトカメムシ属の1日本新記録種

Souma, J., Utagawa, A. & Ishikawa, T. (2023) First record of the predatory stink bug species Picromerus griseus (Dallas) (Hemiptera, Heteroptera, Pentatomidae, Asopinae) in Japan, with an illustrated key to the Japanese species of the genus Picromerus Amyot & Serville. Biodiversity Data Journal, 11, e105293. http://dx.doi.org/10.3897/BDJ.11.e105293

北半球に11種が分布するクチブトカメムシ属Picromerus Amyot & Serville, 1843(カメムシ目:カメムシ科)は捕食性で、日本では本土四島と周辺島嶼にオオクチブトカメムシP. bidens (Linnaeus, 1758)とクチブトカメムシP. lewisi Scott, 1874が記録されていました。南西諸島の石垣島で得られた本属の標本を同定したところ、東洋区に広く分布するPicromerus griseus (Dallas, 1851)と判明したので、日本から初記録しました。本研究は、202211月に第2著者が畑脇の草地から見慣れぬクチブトカメムシ属を採集し、SNSへ投稿したことが切っ掛けです。大型のカメムシでも母数の少ない捕食者であれば、調査で注目されない環境には発見が残されているのかもしれません。

群馬県の兜岩層から発見されたカメムシ科の1新属新種

Aiba, H., Souma, J. & Takahashi, Y. (2024) A new genus and species of Pentatomidae (Hemiptera) from the Upper Pliocene “Kabutoiwa Formation” in Gunma Prefecture, Japan. Paleontological Research, 28 (2), 1–8. https://doi.org/10.2517/PR220029

兜岩山は群馬県と長野県にまたがる山で、多くの昆虫や植物の化石が発見されている鮮新世兜岩層を有します。群馬県側から発掘された状態が非常に良いカメムシ科の化石を検鏡したところ、カメムシ亜科Pentatominaeアシアカカメムシ族Pentatominiに所属するにもかかわらず触角が4節という顕著な形態的特徴を具えていたので、新属新種ムカシアシアカカメムシTetrapentatoma nishizawai Aiba, Souma & Takahashi, 2024として記載しました。日本のカメムシ化石から今回のような驚くべき発見があるとは予想だにしていなかったので、夢のある研究でした。

グンバイムシ科

日本産マルグンバイ属の1新種および1未記録種

Souma, J. (2019) A new species and a new record of the genus Acalypta (Hemiptera: Heteroptera: Tingidae) from Japan. Zootaxa, 4609 (1), 178–184. https://doi.org/10.11646/zootaxa.4609.1.10

日本産マルグンバイ属Acalypta Westwood, 1840(カメムシ目:グンバイムシ科)の2未同定種のうち、対馬から採集された1未同定種を新種A. pallidicoronara Souma, 2019として記載し、本州の河川敷に自生するエゾスナゴケ(ギボウシゴケ科)から発見された1未同定種を東アジアから北アメリカに広く分布するA. cooleyi Drake, 1917と同定し日本から初めて記録しました。A. pallidicoronaraは自分が初めて採集した新種のグンバイムシで、それを初めての記載論文で公表できたことはとても嬉しかったです。種小名を直訳すると色の淡い王冠となりますが、これは前胸背の外観に由来します。

ケンポナシの果実から得られる日本産チャイログンバイ属の1新種

Souma, J. (2019) Physatocheila nigrintegerrima sp. nov. from Japan: a first fruit-feeder of the genus (Hemiptera: Heteroptera: Tingidae). Zootaxa, 4638 (2), 264–272. http://dx.doi.org/10.11646/zootaxa.4638.2.6

本州東部ケンポナシ(クロウメモドキ科)の果実から得られたチャイログンバイ属Physatocheila Fieber, 1844(カメムシ目:グンバイムシ科)の1未同定種を新種P. nigrintegerrima Souma, 2019として記載しました。グンバイムシ科は一般に葉を吸汁する一方、本種はチャイログンバイ属の種としては初めて果実を利用することが示唆されました。P. nigrintegerrimaの発見により、葉を調査するだけでは解明できない日本のグンバイムシ相の奥深さが浮き彫りになりました。種小名を直訳すると最も完全な黒となりますが、これは漆黒の体躯に由来します。余談ですが、P. nigrintegerrimaのまだ見ぬ産地を求め東北へ遠征した際に、往路の高速バスがサービスエリアで交通事故を起こし、現地への到着時間が大幅に遅れました。当時は猛暑の中でケンポナシを探して歩き回る生活を2週間ほど続けていたことも重なり、かなり鬱憤が溜まっていたので、調査を開始してすぐに見つけたケンポナシを暴力的に叩いたところ、本種が何頭か落っこちてきた思い出があります。

日本新記録属BaeochilaIdiocystaの計2新種

Souma, J. (2020) Discoveries of the genera Baeochila and Idiocysta from Japan, with descriptions of two new species (Hemiptera: Heteroptera: Tingidae). Zootaxa, 4731 (3), 388–402. https://doi.org/10.11646/zootaxa.4731.3.7

Baeochila Drake & Poor, 1937Idiocysta China, 1930に所属するグンバイムシ(カメムシ目)を日本から初めて記録し、B. horvathi Souma, 2020I. takarai Souma, 2020計2新種を記載しました。キヅタ(ウコギ科)のから得られ冬季ワジュロ(ヤシ科)の樹皮からも見つかるB. horvathi 本州・四国・九州に分布し、ツルアダン(タコノキ科)の葉裏に寄生するI. takarai八重山列島に分布します。今回の発見により、日本がBaeochilaの最東の産地となりました。オセアニア区のみから知られていたIdiocystaは東洋区からも初記録となりました。B. horvathiのタイプ産地は母校である東京農業大学厚木キャンパスで、他にも実家から遠くない郊外の森で得られるなど、本種は身近な環境で見つかっています。このような種の実態が長らく判明していなかったのは、葉ばかりに囚われてグンバイムシを探していた人が多かったことが原因かもしれません。今回の発見で、グンバイムシは身近な環境に発見のチャンスがあることと、葉以外も調べることの重要性が示された気がします。昆虫を始める前から通っていたホームグラウンドで、自分の研究対象で新種(しかも日本新記録属!)を発見し公表できたという点で、今後どんな成果を上げても印象が薄まることのない論文になりました。ぶっちゃけ話ですが、I. takaraiは生息地での個体数が非常に多く、苦もなく採集できたので、B. horvathiのような発見の感動はありませんでした。

イチイガシに寄生する日本新記録属Heissiellaの1新種

Souma, J. & Ishikawa, T. (2020) Heissiella donguri sp. nov. (Hemiptera: Heteroptera: Tingidae) feeding on Quercus gilva (Fagaceae): First representative of the genus from Japan. Zootaxa, 4751 (2), 377–385. https://doi.org/10.11646/zootaxa.4751.2.12

Heissiella Péricart, 1984に所属するグンバイムシ(カメムシ目)を日本から初めて記録し、新種H. donguri Souma & Ishikawa, 2020を記載しました。本州・九州に分布するH. donguriイチイガシ(ブナ科)の葉裏に寄生し、冬季に成虫が得られているので成虫越冬と考えられます。今回の発見により、日本がHeissiellaの最東の産地になると同時に、本属は旧北区からも初記録となりました。緒言が植物の話から始まったり、種小名が直球でドングリだったり、本論文では舐めた凝ったポイントが幾つかあります。同好諸氏から豊富な前情報をいただいた状態で調査遠征をしたので、採集は文字通り一瞬で終わりました。

シャリンバイに寄生する日本産ツツジグンバイ属の1新種

Souma, J. (2020) Stephanitis (Stephanitis) rhaphiolepidis sp. nov. (Hemiptera: Heteroptera: Tingidae) from Japan: First representative of the genus feeding on the evergreen rosaceous plant. Journal of Insect Biodiversity, 17 (2), 36–47. https://doi.org/10.12976/jib/2020.17.2.2

日本産ツツジグンバイ属Stephanitis Stål, 1873(カメムシ目:グンバイムシ科)のうち、粟国島ホソバシャリンバイ(バラ科)の葉裏から得られたツツジグンバイ亜属Stephanitis Stål, 1873の1未同定種を新種S. (S.) rhaphiolepidis Souma, 2020として記載しました。本種はツツジグンバイ属の種としては初めて常緑のバラ科植物を利用することが確認されました。本論文では新種記載に加えて羽化の観察も行っています。また、本種のコロニーから得られたグンバイムシ専食のミナミグンバイカスミカメStethoconus praefectus (Distant, 1909)を野外天敵として記録しています。種小名はシャリンバイ属の学名であるRhaphiolepisに由来します。粟国島の調査では宿の人に予約を忘れられる愉快な目に遭いましたが、新発見も多く充実していました。徒歩と自転車で島を何周もするのが最高に楽しかったです。執筆のウラ話ですが、原稿を誰にも見せず投稿した論文は今回が初めてです。そのせいか、投稿の際にかなり緊張しました。結果的に、査読者からの反応が良く、問題なくアクセプトされたので、とても嬉しかったです。ようやく自分の研究で真のスタートラインに立てた気がします。

単子葉類に寄生する日本産ナガグンバイ属の再整理

Souma, J. (2020) The monocotyledon-feeding lace bugs of the genus Agramma from Japan (Hemiptera: Heteroptera: Tingidae). Acta Entomologica Musei Nationalis Pragae, 60 (2), 527–536. https://doi.org/10.37520/aemnp.2020.035

日本産ナガグンバイ属Agramma Stephens, 1829(カメムシ目:グンバイムシ科)の再整理を行い、本州から発見された1未同定種を東アジアに広く分布するA. abruptifrons Golub, 1990と同定し、日本から初めて記録するとともに、A. nexile (Drake, 1948)の原記載で取り扱われた日本産パラタイプとデータが一致する標本と過去の主要な分類学的論文の証拠標本すべてがA. japonicum (Drake, 1948)の誤同定であることを確認しA. nexileの確実な記録台湾産ホロタイプのみと判断しました A. abruptifronsイグサ類(イグサ科)に寄生する一方、A. japonicumスゲ類(カヤツリグサ科)に寄生します。勘の良い人はお気づきかもしれませんが、A. abruptifronsは以前の論文で記載したHeissialla donguri Souma & Ishikawa, 2020と同じ日に採集しています。その日は、夜行バスで早朝に京都へ着いてから、まず始発電車で三重まで行ってA. abruptifronsを採集しました。その後、昼頃に奈良へ向かいH. donguriを得ました。それでも日没まで時間に余裕があったので、京都府の南端を目指して歩き道路沿いのコケからマルグンバイを見つけました。ようやく辺りが暗くなったので、奈良の市街地まで歩いてネットカフェで一夜を過ごしました。今思い返すと誰にも縛られない自由で贅沢な旅でした。

ヤマボウシから得られた日本産グンバイムシ属の1新種

Souma, J. (2020) Taxonomic study of the subgenus Tropidocheila of the lace bug genus Tingis (Hemiptera: Heteroptera: Tingidae) from Japan, with description of Tingis (Tropidocheila) yamaboushi sp. nov. collected from Cornus kousa (Cornaceae). Zootaxa, 4868 (2), 284–294. https://doi.org/10.11646/zootaxa.4868.2.8

日本産グンバイムシ属Tingis Fabricius, 1803(カメムシ目:グンバイムシ科)のうち、本州ヤマボウシ(ミズキ科)から得られたケナガグンバイ亜属Tropidocheila Fieber, 1844の1未同定種を新種Tingis (Tropidocheila) yamaboushi Souma, 2020として記載しました。本種を狙って関東の産地に赴きましたが、山道に迷ってあえなく敗退しました。個体数の採れてる北陸の産地はまだ調査していないので、いずれ訪れて生体写真を狙いたいと思います。感覚的なことなので論文では触れていませんが、テネラル寄りの個体が6月下旬に得られているので、その辺りの時期に採集すれば幼虫に出会えるかもしれません。グンバイムシ属は寄主の利用部位が変化に富んでおり、今後の調査でさらなる発見が期待できる一群です。

北海道から発見されたマルグンバイ属の1日本新記録種

Souma, J. (2020) First record of the lace bug species Acalypta gracilis (Fieber, 1844) (Heteroptera: Tingidae) from Japan proper. Rostria, (65), 66–70.

旧北区に広く分布するムロマルグンバイAcalypta gracilis (Fieber, 1844)(カメムシ目:グンバイムシ科)を北海道から新たに発見し、カメムシ図鑑や日本昆虫目録で見落とされていた国後島の記録と合わせて、日本産グンバイムシ科に正式な形で追加しました。日本の個体群は原名亜種A. g. gracilis (Fieber, 1844)に該当します。本種の情報を入手し、得られた時期に合わせて北海道へ遠征した際、森林のコケからはヒラシママルグンバイが得られるのみでした。状況的に考えれば明らかな外れです。ふと片道6時間かけて歩いてきた幹線道路に視線が定まりました。峠道の路端には外来雑草の蔓延る草地が延々と続き、地表には乾燥して茶けたコケが生えていました。直感で勝ちを確信し、半ばミイラ化したコケを片端から土嚢袋に詰めて研究室へ送り、ツルグレン装置にかけたところ、狙い通り標的が得られました。

北海道から発見されたマルグンバイ属の1日本新記録種

Souma, J. (2021) New record of the lace bug species Acalypta marginata (Wolff) (Hemiptera: Heteroptera: Tingidae) from Japan. Biodiversity Data Journal, 9, e62868. https://doi.org/10.3897/BDJ.9.e62868

北海道の草地で採集されたマルグンバイ属Acalypta Westwood, 1840(カメムシ目:グンバイムシ科)の1未同定種を旧北区に広く分布するAcalypta marginata (Wolff, 1804)と同定し、日本から初めて記録しました。本種は国外では長翅型が知られていますが、国内では短翅型のみが得られています。今回の論文により、日本産マルグンバイ属は8種が知られることとなり、日本昆虫目録の4種から倍増しました。しかしながら、未調査の地域や環境に着目すれば、さらなる発見があるかもしれません。

小笠原諸島固有のオガサワラグンバイ属の再検討と1新属新種

Souma, J. & Kamitani, S. (2021) Taxonomic review of the lace bug genus Omoplax (Hemiptera: Heteroptera: Tingidae) endemic to “Oriental Galapagos” (the Ogasawara Islands, Japan) with the description of its new allied genus and species. Entomological Science, 24 (1), 3–11. https://doi.org/10.1111/ens.12445

小笠原諸島固有のオガサワラグンバイ属Omoplax Horváth, 1912(カメムシ目:グンバイムシ科)の再検討を行い、本属に近似の1未同定種を新属新種Acanthomoplax tomokunii Souma & Kamitani, 2021として記載しました。今回の論文は初めて自分で野外調査を行っていない分類群を取り扱いました。イントロを工夫して書いて他にも色々と頑張った論文なのに、自分で研究対象の生きた姿を見ていないせいか、ここに書く文章はあまり思い浮かばないようです。

台湾産ツツジグンバイ属の1新種

Souma, J. (2021) Stephanitis (Norba) syoitii sp. nov. (Hemiptera: Heteroptera: Tingidae) from Taiwan, China. Journal of Insect Biodiversity, 23 (1), 17–22. https://doi.org/10.12976/jib/2021.23.1.3

台湾ツツジグンバイ属Stephanitis Stål, 1873(カメムシ目:グンバイムシ科)のうち、タブグンバイ亜属Norba Horváth, 1912の1未同定種を新種S. (N.) syoitii Souma, 2021として記載しました。台湾のグンバイムシ相は調査が進んでおらず、今後のさらなる発見が期待できます。本研究は、九州大学総合研究博物館に収蔵されている宮本コレクションの利活用の一環として行いました。

白亜紀中期のミャンマー産琥珀から発見された史上最小のグンバイムシ

Souma, J., Yamamoto, S. & Takahashi, Y. (2021) Discovery of the Smallest Lace Bug from Mid-Cretaceous of Northern Myanmar Supports the Hypothesis of a Miniaturization Phenomenon of Insects in Kachin Amber (Hemiptera: Heteroptera: Tingidae). Taxonomy, 1 (2), 60–68. https://doi.org/10.3390/taxonomy1020007

白亜紀中期のミャンマー産琥珀からグンバイムシ科(カメムシ目)としては史上最小の1未同定種を発見し新属新種Burmavianaida anomalocapitata Souma, Yamamoto & Takahashi, 2021として記載しました。本種はグンバイムシ科の3現生亜科からなる2つのクレード(Vianaidinae;Cantacaderinae + Tinginae)の中間的な形態的特徴をもち、その存在は白亜紀の昆虫の小型化仮説を支持しています。

日本新記録属Eritingisの1新記録種

Souma, J. (2021) First record of the lace bug genus Eritingis (Drake and Ruhoff) (Hemiptera: Heteroptera: Tingidae) from Japan and Thailand. Biodiversity Data Journal, 9, e63188. http://dx.doi.org/10.3897/BDJ.9.e63188

Eritingis Drake & Ruhoff, 1962に所属するグンバイムシ科(カメムシ目)の1種を日本とタイから初めて発見し、E. recentis (Drake & Poor, 1937)と同定して記録しました。今回の発見により、日本がEritingisの最も北の産地になりました。本研究は、九州大学総合研究博物館に収蔵されている宮本コレクションの利活用の一環として行いました。

白亜紀中期の化石属Burmacaderの1新種と雄交尾器形態

Souma, J., Yamamoto, S. & Takahashi, Y. (2021) A new species of the fossil lace bug genus Burmacader (Hemiptera: Heteroptera: Tingidae) from mid-Cretaceous Kachin amber from northern Myanmar, with implications of male genital structures. Cretaceous Research, 126, 104911. https://doi.org/10.1016/j.cretres.2021.104911

グンバイムシ科(カメムシ目)の化石属Burmacader Heiss & Guilbert, 2013の1未同定種を白亜紀中期のミャンマー産琥珀から発見し新種B. bicoloripennis Souma, Yamamoto & Takahashi, 2021として記載しました加えて、グンバイムシとしては初めて化石種の雄交尾の形態を記載し、その概形が現生種のものと差異がないことを見出しました。さらに、触角の節数異常型の報告も化石種のグンバイムシでは今回が初めてです。本種の発見により、Burmacaderには計4種が含まれることとなり、白亜紀中期のミャンマー琥珀のみに知られる本属の過去の多様性が示唆されました。

顕著な形態変異を示すモリモトグンバイの寄主植物と新産地

Souma, J. (2021) Notes on infraspecific variation and host plant of Stephanitis (Norba) morimotoi Takeya, 1963 (Heteroptera: Tingidae), with a new record from Honshu. Rostria, (66), 45–50.

モリモトグンバイStephanitis (Norba) morimotoi Takeya, 1963(カメムシ目:グンバイムシ科:ツツジグンバイ属Stephanitis Stål, 1873タブグンバイ亜属Norba Horváth, 1912、今まで四国のみに知られており、寄主植物が不明でした。タイプ産地の周辺で野外調査を行った結果、本種がミツバツツジ類(ツツジ科)に寄生することが判明しました。生態の解明に伴って得た多数の標本を検鏡したところ、本種はタブグンバイ亜属ツツジグンバイ亜属Stephanitis Stål, 1873中間的な形態的特徴をもつことが判明しました。以上の新知見について原稿を執筆し投稿しましたが、査読中に協力者の方が本州で新産地を発見してくれました。そのため、修正時に追加の情報を加え原稿を再投稿しました。四国での野外調査は夜行バスで短期決戦を挑みましたが、着いたら大雨洪水警報で即座に明後日の再訪を決めました。その後、悪天候の中で山道を徒歩で攻めたら普通に沢山採れたので、ぶっちゃけ再訪は必要なかったですね。2度目は晴れて歩きやすかったとはいえ、結果的に4日連続で夜行バスに乗ったのでメチャクチャ疲れました。

パラミツに寄生するAlloiothucha artocarpiの再記載とラオス初記録

Souma, J., Cho, G. & Lee, S. (2022) Alloiothucha artocarpi (Horváth) (Hemiptera: Heteroptera: Tingidae) found on jackfruit, Artocarpus heterophyllus Lam. (Moraceae): first representative of the genus from Laos, and the synonymy of Cetiothucha Drake & Ruhoff. Zootaxa, 5099 (3), 369–381. http://dx.doi.org/10.11646/zootaxa.5099.3.5

Alloiothucha artocarpi (Horváth, 1926)(カメムシ目:グンバイムシ科:Alloiothucha Drake, 1927)は、今までインドネシアのみに正式な記録がありArtocarpus integer(クワ科)から得られていましたラオスで採集されたグンバイムシ科標本を検鏡した結果、パラミツAr. heterophyllusの葉から発見された個体を見出したので、再記載ならびに属レベルの初記録を兼ねて報告しました。本種はパラミツの害虫となるリスクがあり、文献化されていない情報を含めると東南アジアに広く分布すると思われるので、発生状況を注視する必要があります

ヘクソカズラグンバイの台湾からの初記録

Souma, J. & Tsai, Y.-J. (2022) First record of the lace bug genus Dulinius Distant (Hemiptera: Heteroptera: Tingidae) from Taiwan. Taiwanese Journal of Entomological Studies, 7 (1), 7–11. http://doi.org/10.5281/zenodo.6358974

ヘクソカズラグンバイDulinius conchatus Distant, 1903(カメムシ目:グンバイムシ科)は東南アジア原産で、日本ではヘクソカズラ(アカネ科)に寄生する外来種として有名です。近年、台湾市街地など人工的環境で、本種がヘクソカズラから採集されたので、移入の可能性に言及しつつ初記録しました。当地では本種の詳細な分布状況を注視する必要があります。

ラオス初記録のグンバイムシ3種

Souma, J., Cho, G. & Lee, S. (2022) New records of three lace bug species from Laos (Hemiptera, Heteroptera, Tingidae). Check List, 18 (3), 501–506. https://doi.org/10.15560/18.3.501

ラオスグンバイムシ科(カメムシ目)はこれまで23属29種が記録されていました。ソウル大学校の調査で得られた標本を整理したところ、Eritingis recentis (Drake & Poor, 1937)Haedus vicarius (Drake, 1927)Trachypeplus jingae Dang, Guilbert & Bu, 2013が見出されたので、当国から初記録しました。結果的に、25属32種のグンバイムシがラオスから知られます。しかしながら、当国のグンバイムシ相は未だ解明度が低いと思われます。

日本産グンバイムシ亜科4属の再検討と新属の記載

Souma, J. & Ishikawa, T. (2022) Taxonomic review of the tingine genera Cysteochila, Hurdchila, Physatocheila, and Xynotingis from Japan, with description of a new genus (Hemiptera: Heteroptera: Tingidae). Zootaxa, 5150 (1), 1–42. http://dx.doi.org/10.11646/zootaxa.5150.1.1

グンバイムシ科(カメムシ目)のうち、Cysteochila Stål, 1873と近似の3属(Hurdchila Drake, 1953チャイログンバイ属Physatocheila Fieber, 1844クチナガグンバイ属Xynotingis Drake, 1948)は、旧世界を中心に分布しています。日本からは計12種が記録されていましたが、一部の種の所属と記録に疑問がありました。本研究では、日本産種の問題を解決するため、計899頭の標本をもとに古今東西の文献を徹底的に再検討しました。その結果、日本から計13種が確認されました。国内産種に対する変更点として、1新属の設立、4種の所属変更、1新参異名の提唱、1種の日本からの記録削除、3種の日本初記録を行っています。今回の論文は、修士論文として取り組んだ内容の一部に追加の新知見を加えたものとなっています。日本全国グンバイムシを入手するため、朝晩カップ麺1つだけで1日30~50kmを徒歩で調査した思い出が蘇ります

小笠原諸島聟島から発見されたオガサワラグンバイ属の2新種

Souma, J. (2022) Two new species of the genus Omoplax (Hemiptera: Heteroptera: Tingidae) from Mukojima Island, with new records of lace bugs endemic to the Ogasawara Islands, Japan. Acta Entomologica Musei Nationalis Pragae, 62 (1), 117–127. https://doi.org/10.37520/aemnp.2022.008

小笠原諸島のグンバイムシ科(カメムシ目)は、2固有属(オガサワラグンバイ属Omoplax Horváth, 1912Acanthomoplax Souma & Kamitani, 2021)に含まれる3種のみが知られていました。同諸島の大半の島で得られたグンバイムシ科標本を検鏡し、無人島の聟島のみに分布する2新種O. karubei Souma, 2022O. mukojimensis Souma, 2022)を記載しました無人島にしか分布しないグンバイムシの存在は想定外でしたし、国内産種の解明度は未だ低いかもしれませんそのうち筏でも作って冒険した方が良さそうです。

日本新記録属Lasiacanthaの1新記録種

Souma, J. (2022) First records of the lace bug genus Lasiacantha Stål, 1873 (Hemiptera, Heteroptera, Tingidae) from Japan. Check List, 18 (4), 839–843. https://doi.org/10.15560/18.4.839

Lasiacantha Stål, 1873に所属するグンバイムシ科(カメムシ目)の1種を日本から初めて発見し、台湾と中国から知られるL. altimitrata (Takeya, 1933)と同定して記録しました。本種は日本では宮古島と石垣島の海岸近くの草地で採集されています。今回の発見により、宮古島L. altimitrataの最も東の産地になりました。

日本産ツツジグンバイ属のクスノキ科に寄生する種の再検討

Souma, J. (2022) Integrative taxonomy of the Lauraceae-feeding species of the genus Stephanitis (Hemiptera, Heteroptera, Tingidae) from Japan. Deutsche Entomologische Zeitschrift, 69 (2), 219–281. https://doi.org/10.3897/dez.69.89864

ツツジグンバイStephanitis Stål, 1873(カメムシ目:グンバイムシ科)は、東アジアで多様化した陸生カメムシ類の1群で、当地域から50種以上が知られています。日本産種の多くはツツジ科クスノキ科に寄生しますが、種間差が少なく個体差が大きいことから同定が長らく混乱していました。本研究では、全国各地のクスノキ科から得られた本属の種を計5080頭の標本をもとに分類学的に再検討しました。その結果、3新種ハヤシグンバイStephanitis (Norba) hayashii Souma, 2022イシカワグンバイS. (N.) ishikawai Souma, 2022トモクニグンバイS. (Stephanitis) tomokunii Souma, 2022)を記載し、S. (S.) fasciicarina Takeya, 1931をS. (S.) tabidula Horváth, 1912の新参異名としました。7既知種ヤマコウバシグンバイS. (S.) ambigua Horváth, 1912タブグンバイS. (N.) aperta Horváth, 1912ヒメタブグンバイS. (N.) exigua Horváth, 1912ヒウラグンバイS. (N.) hiurai Takeya, 1963ヤブニッケイグンバイS. (N.) mendica Horváth, 1912クスグンバイS. (S.) tabidulaトサカグンバイS. (S.) takeyai Drake & Maa, 1955)についても、過去の記録を訂正し分布を再検討しました。図説検索の作成により、緑化樹害虫普通種を含む分類群の同定を簡便化させました。以上により、クスノキ科に寄生する日本産ツツジグンバイ10に再整理されました。今回の研究対象は、学部生の頃から同定に疑問があり、コツコツと標本を集めて研究を進めていました。日本産ツツジグンバイ属の研究はまだ完結していませんが、ようやく一段落しましたサンプリングの過程で小島嶼を含む全国各地を徒歩で巡れたのは代えがたい経験となりました。標本整理の過程で気づいた余談ですが、人生で初めて採集したグンバイムシは2016年5月12日に出会ったトサカグンバイでした。

台湾産ヒゲナガグンバイ属の1新種

Souma, J. (2022) A new species of the lace bug genus Perissonemia (Hemiptera: Heteroptera: Tingidae) from Taiwan. Esakia, (55), 16–22. https://doi.org/10.5109/6610214

台湾ヒゲナガグンバイ属Perissonemia Drake & Poor, 1937(カメムシ目:グンバイムシ科)の1未同定種を新種P. miyamotoi Souma, 2022として記載しました。本研究は、九州大学総合研究博物館に収蔵されている宮本コレクションの利活用の一環として行い、九州大学昆虫学教室開設百周年を記念して発刊されたEsakiaの特集号掲載されました

モクセイ科に寄生する日本産ヒゲナガグンバイ属の再検討

Souma, J. The Oleaceae-feeding lace bugs of the genus Perissonemia from Japan (Hemiptera: Heteroptera: Tingidae). Acta Entomologica Musei Nationalis Pragae, 62 (2), 443–456. https://doi.org/10.37520/aemnp.2022.024

日本産ヒゲナガグンバイ属Perissonemia Drake & Poor, 1937(カメムシ目:グンバイムシ科)は、ヒイラギやシマモクセイなどのモクセイ科の常緑木本に寄生するヒゲナガグンバイP. occasa Drake, 1942のみが知られていました。しかし、本種の沖縄諸島と八重山列島の個体群は、本州の個体群と形態的に異なりました。本研究では、ホロタイプの情報から本州の個体群を真のヒゲナガグンバイと判断しました。さらに沖縄諸島の個体群を新種P. okinawensis Souma, 2022八重山列島の個体群を新種P. yaeyamensis Souma, 2022として記載しました。ヒゲナガグンバイはヒイラギに、P. yaeyamensisシマモクセイリュウキュウモクセイに野外で寄生します。P. okinawensisの寄主植物は不明なので、今後の野外調査が必要です。

日本産ナガグンバイ属の小島嶼に分布する2新種

Souma, J. (2024) Two new species of the genus Agramma (Hemiptera, Heteroptera, Tingidae) from small islands of Japan, with an illustrated key to the Japanese species of the genus. Deutsche Entomologische Zeitschrift, 71 (1), 49–65. https://doi.org/10.3897/dez.71.108270

日本産ナガグンバイ属Agramma Stephens, 1829(カメムシ目:グンバイムシ科)には本土四島周辺島嶼からタタミグンバイA. (Agramma) abruptifrons Golub, 1990エゾナガグンバイA. (A.) japonicum (Drake, 1948)2種が知られていました本研究では、調査が不足していた小島嶼に分布する種の再検討に取り組みました。伊豆諸島の八丈島で過去にエゾナガグンバイとして記録されたスゲ類(カヤツリグサ科)に寄生する種は、タイプ産地を含む日本本土の個体群と形態的にも遺伝的にも異なったので、新種ハチジョウナガグンバイA. (A.) izuense Souma, 2024として記載されました。 他方で、慶良間諸島の阿嘉島慶留間島で発見されたイネ科草本に寄生する種は、同属他種と顕著に異なる形態的特徴を有していたので、新種ホソナガグンバイA. (A.) keramense Souma, 2024として記載されました。ハチジョウナガグンバイの生体を八丈島で初めて得た際、言語化できない違和感に気づきました。本来の渡島した目的は以前の論文で新種として記載したトモクニグンバイStephanitis (Stephanitis) tomokunii Souma, 2022でしたが、緊急の目的として多数のハチジョウナガグンバイを確保するため、土砂降りの中でスゲ類を叩き続けました。ホソナガグンバイの情報を協力者から提供された時は驚きと興奮が止みませんでした。スケジュールの都合で博論シーズンに慶良間諸島で調査する羽目になっただけでなく、悪天候で一日しか渡島のチャンスがありませんでしたが、僅か5時間のチャンスを最大限活かす成果を挙げることができました。僕が去った後には叩き落とされた葉しか残されないようです。

マキバサシガメ

日本産キボシアシブトマキバサシガメ属の1新記録種

Souma, J., Nozaki, T., Otsui, K. & Ishikawa, T. (2022) New records of the damsel bug Alloeorhynchus reinhardi Kerzhner & Günther, 1999 (Hemiptera, Heteroptera, Nabidae) from Japan. Check List, 18 (2), 261–264. https://doi.org/10.15560/18.2.261

キボシアシブトマキバサシガメAlloeorhynchus Fieber, 1860(カメムシ目:マキバサシガメ科)は、熱帯を中心に分布する捕食性カメムシの一群です日本からは、従来キボシアシブトマキバサシガメA. vinulus Stål, 1864ただ1種記録されていました。この度、九州(福岡県・長崎県・大分県)から中国韓国分布が知られていたA. reinhardi Kerzhner & Günther, 1999を発見し、本邦初記録として報告しました。日本の個体群は大陸のものより体色が暗化する傾向にあります。検視標本の一部は九州大学伊都キャンパスで採集されました。身近な環境から比較的大型で顕著な特徴をもつ日本新記録種が発見されたことは、九州のカメムシ相が未だ調査不足であることを示しています。

日本新記録属Rhamphocorisの1新記録種

Souma, J. & Ishikawa, T. (2022) First record of the damsel bug genus Rhamphocoris Kirkaldy, 1901 (Hemiptera, Heteroptera, Nabidae) from Japan. Check List, 18 (2), 331–334. https://doi.org/10.15560/18.2.331

Rhamphocoris Kirkaldy, 1901(カメムシ目:マキバサシガメ科)およびR. hasegawai (Ishihara, 1943)奄美大島で得られた標本をもとに日本から初記録しました。Rhamphocorisは生態的知見に乏しく、世界的に採集例が少ない属です。R. hasegawaiは韓国から台湾まで知られる広域分布種なので、日本産個体は現時点で古い1標本のみですが、今後の調査で新産地の発見が見込まれます。論文に使用した標本は4年以上前に立川コレクションの古いインロー箱から発見しました。当時は大変驚きましたが、まさか自分が研究するとは思いませんでした。

日本産キボシアシブトマキバサシガメ属の再整理

Souma, J. & Ishikawa, T. (2023) The damsel bug genus Alloeorhynchus Fieber, 1860 (Hemiptera, Heteroptera, Nabidae) from Japan. Check List, 19 (5), 621–633. https://doi.org/10.15560/19.5.621

全世界に2亜属50種以上が知られるキボシアシブトマキバサシガメAlloeorhynchus Fieber, 1860(カメムシ目:マキバサシガメ科)は、捕食性の陸生カメムシ類の一群です。日本からは、亜属Alloeorhynchusに含まれるヤミアシブトマキバサシガメA. (A.) reinhardi Kerzhner & Günther, 1999キボシアシブトマキバサシガメA. (A.) vinulus Stål, 18642種記録されていました。他方で、沖縄本島以南に分布ホシアシブトマキバサシガメの和名で知られる未同定種と、久米島のみで得られる未同定種が確認されていました。今回の論文では、両者のうちホシアシブトマキバサシガメを日本新記録種A. (A.) notatus Distant, 1919、久米島の未同定種をキボシアシブトマキバサシガメの色彩の地理的変異として報告しました。日本は本属の東アジア産種における分布の辺縁部と考えられ、複数種で色彩の地理的変異が報告されています。今後の分子系統地理学的研究により興味深い知見が得られるかもしれません。

ヒョウタンナガカメムシ科

シロザから得られたヒョウタンナガカメムシ科の1日本未記録種

Ban, T. & Souma, J. (2020) Sphragisticus nebulosus (Heteroptera, Lygaeoidea, Rhyparochromidae) New to the fauna of Japan. Japanese Journal of Systematic Entomology, 26 (1), 144–145.

全北区に広く分布するSphragisticus nebulosus (Fallén, 1807)(カメムシ目:ヒョウタンナガカメムシ科)を北海道から新たに発見し、カメムシ図鑑や日本昆虫目録で見落とされていた国後島の記録と合わせて、日本産ヒョウタンナガカメムシ科に正式な形で追加しました。本種は日当たりの良い草地に生えるシロザから発見されました。2019年夏の北海道遠征は成果が神がかっており、このナガカメムシを得たビーティングでは、同時にチビカメムシとある凄いカメムシが採集されました。その他にも、別の地点で予想だにしない発見が重なり、全戦全勝といったところでした。

近年の移入が疑われる日本新記録属Brentiscerusの1新記録種

Ban, T., Souma, J. & Hisasue, Y. (2024) Unexpected discovery of the Australian seed bug Brentiscerus putoni (White, 1878) (Hemiptera, Heteroptera, Lygaeoidea, Rhyparochromidae, Drymini) in Japan suggests the possibility of a recent introduction due to human activity. Check List, 20 (3), 622–629. https://doi.org/10.15560/20.3.622

オーストラリア区に広く分布するBrentiscerus Scudder, 1962(クロナガカメムシ族)に所属するヒョウタンナガカメムシ(カメムシ目)の1種を日本から初めて発見し、B. putoni (White, 1878)と同定して記録しました。本種はカメムシ相の解明が進んでいる本州西部と九州北部の低地に普通ですが、2013年以降の標本しか存在しません。国内と国外の産地が最低でも5,000 km離れていることも考慮して、本種の日本への近年の移入を推測しました。論文に使用した標本の産地には九州大学伊都キャンパス九州大学農学部附属福岡演習林、相馬の九大時代の下宿周辺が含まれています。東京農業大学厚木キャンパスで当時未記載種だったツルグンバイを採集した際にも感じましたが、やはり身近な自然を継続的に観察することは思わぬ研究成果をもたらします。今後も近場を軽視することなく興味深い知見を得られるようフィールドに出続けていく所存です。

マダラナガカメムシ科

マツヨイグサ属に寄生するマダラナガカメムシ科の1移入種

中谷至伸・友国雅章・野澤雅美・奥田恭介・相馬 純 (2019) 関東地方で2018年に発見された北米原産のナガカメムシ Neortholomus scolopax. Rostria, (63), 87–90.

北米原産の移入種ツマベニヒメナガカメムシNeortholomus scolopax (Say, 1831)(カメムシ目:マダラナガカメムシ科)を日本から初めて記録しました。本種は主にマツヨイグサ属に寄生し、関東地方では普通種となっています。本論文では、僕は神奈川県産の個体を採集しています。2018年の半翅学会の小集会にて、このナガカメムシがマツヨイグサから得られるという話を聞いて、まず思い浮かんだのが地元の河川敷でした。そこは本格的な昆虫採集を始めるずっと前から知っていた場所で、通っていた高校からほど近く、研究室で初めて作った標本の産地です。土地勘から、寄主植物の生息環境を調べてすぐに「ここなら採れる」という確信が持てました。予想通り、当地にて多数の個体が得られました。その後、通学路や大学構内でも追加個体が見つかり、正式に公表されました。

クヌギカメムシ科

日本産クヌギカメムシ科の1新記録種と全既知種の図説検索

Souma, J., Sakai, Y. & Ishikawa, T. (2022) First record of Urostylis hubeiensis Ren (Hemiptera: Heteroptera: Urostylididae) from Japan, with an illustrated key to the Japanese urostylidid species. Biodiversity Data Journal, 10, e83656. https://doi.org/10.3897/BDJ.10.e83656

クヌギカメムシ科(カメムシ目)は大型の植食性カメムシ類の一群です。日本では100年以上前から5普通種が知られ、寄主植物などの生態情報も明らかです。したがって、古くから日本産種が完全に解明された分類群として考えられていました。また、ナシカメムシUrochela luteovaria (Distant, 1881)など一部は農業害虫として記録されています。本研究では、中国中部と朝鮮半島に分布する日本新記録種Urostylis hubeiensis Ren, 1997対馬から発見しました。本種はクヌギから採集されており、同島が最も東の産地です。さらに、日本産全既知種に対応する図説検索を作成しました。対馬のカメムシ相には大型の分類群でもインパクトのある発見が眠っています。