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10:00~12:00 全体研修会
『援助要請とストレスマネジメント―「助けて」を支援する理論と実践― 』
本田 真大 先生(北海道教育大学函館校)
【概要】
「人生を送るうえで,人は誰かに相談できる方が良い」という考え自体を否定する人は少ないでしょう。しかし,悩みの相談には様々な困難さが伴います。悩みの相談に関する認知や行動を扱う援助要請(help-seeking)の研究からは,行動の生起過程(問題を抱えてから相談するまで)の問題状況として,支援ニーズがあっても援助を求めない(援助要請行動が少なすぎる)「過少性」,反対に自ら取り組むことを放棄して(面倒だから,責任を取りたくないから等の理由で)すぐに援助を求める(援助要請行動が多すぎる)「過剰性」が考えられます。そして行動の影響過程(相談してから結果を得るまで)の問題状況には,相談したことが嫌な結果につながる「非機能性」があります。そこで,援助要請に焦点を当てたカウンセリングでは過少性と過剰性を改善した状態(最適性)と,非機能性が改善し相談して良い結果が得られるような随伴性を形成した状態(機能性)をめざします(本田・水野, 2017; 本田, 2025)。
これらの中でも過少性,つまり悩んでも相談しない(できない,ためらう)ことの改善は近年の自殺予防やスクールカウンセリングの中で「SOSの出し方」として重視され,認知行動療法の有効性を示唆する報告が見られます(Gulliver et al., 2012)。また,非機能性を改善するためには相談された人の振舞いである「SOSの受け止め方」が重要です。さらに悩みの相談がうまくいくためには二者関係(相談する人,される人)のみでなく,両者を取り巻く環境要因(相談しにくくさせる集団,地域,文化,制度等)も考慮する必要があります(本田, 2025)。
本研修会では相談することの困難さの実態や背景,改善策をストレスマネジメントの点から説明します。主に教育・学校領域(児童期,青年期)の援助要請に関する話題を扱います。悩んだときに「相談(援助要請)する」という対処(コーピング)をしないのはなぜか(過少性),有効でないのに相談という対処を繰り返してしまうのはなぜか(過剰性),相談したことによって生じるストレス反応や新たなストレッサー(非機能性),等の視点から相談することについて理解を深め,援助要請研究を踏まえたSOSの出し方教育プログラムと実施上の留意点を解説します。
13:20~16:20 分科会
分科会① 『ひきこもり状態にある若年層の家族支援 』
野中 俊介 先生(武蔵野大学)
【概要】
ひきこもりは,社会的参加(就学や就労,他者との交流)をせず,家庭を中心とした生活が長期にわたって続く状態を指す(齊藤,2010)。近年では,若年層だけでなく中高年層にも広くみられ,長期化,高年齢化,家族の高齢化が重なり,支援課題は複雑化している。ひきこもり状態にある人の多くは,本人から直接相談につながるとは限らず,支援の入り口は家族からの相談となることが多い現状にある。そのため,初期支援においては,本人に直接アプローチする前に,家族を支え,家族内の相互作用を整え,本人が安心して外部資源につながるための環境をつくることが有用である。
本研修では,コミュニティ強化と家族支援(Community Reinforcement and Family Training: CRAFT)を応用したひきこもり状態にある若年層の家族支援について,認知行動療法の観点から解説する。CRAFTは,もともと受療を拒否するアルコール依存症者の家族支援として発展してきたアプローチであり,家族の関わり方を通して,本人の相談・受療行動や生活上の変化を促すことを目指す(Smith & Meyers, 2004)。日本では,ひきこもりの評価・支援に関するガイドラインでも紹介され,家族内相互作用の改善や本人の来談促進を目的として活用されてきた(齊藤,2010;境・野中・山本・平生,2021)。
研修ではまず,ひきこもりの状態像と関連要因を概観する。ひきこもりは単一の病態ではなく,うつ,不安,神経発達障害,対人回避,生活機能の低下,家族関係,社会資源の不足など,多様な要因が重なり合う現象である。ひきこもり状態にある人は生活の質が低く(野中・境,2014),国内外の研究においても,ひきこもり状態はさまざまな生活上の支障と関連することが示されている(Nonaka et al., 2025)。また,家族の対応のレパートリーは必ずしも乏しいわけではなく,むしろ多様な関わりを試みながらも,その関わりが本人の状態や行動機能に合わない場合には,支援が行き詰まりやすいことも示唆されている(Nonaka et al., 2021)。
次に,CRAFTの概要と中核となる機能分析やコミュニケーションの工夫を取り上げる。それらをとおして,単に問題行動を止めるのではなく,本人にとってその行動がどのような意味や役割をもっているのかを検討する。さらに,ポジティブなコミュニケーション,望ましい行動への注目,相談機関利用を勧めるタイミングの工夫などを通して,家族が本人を追い詰めず,しかし見放さずに関わるための具体的方法を学ぶ。
最後に,個人差アセスメントの観点を最近の研究知見を交えながら整理する。本研修では,講義と演習をとおして,主に若年層のひきこもり状態を念頭に置きながら,CRAFTを応用した家族支援を紹介する。
分科会② 『学校で行うメンタルヘルス予防教育プログラム―心の健康教育に向けて― 』
石川 信一 先生(同志社大学)
【概要】
文部科学省が毎年実施している調査によると、不登校、いじめ、暴力行為の報告件数は、特にコロナ禍以降、増加の一途をたどっています。また、若者の自殺者数も高止まりが続いており、大きな社会問題となっています。支援を必要としている児童生徒の現状を踏まえると、質・量の両面において、子どもたちに十分な支援が行き届いているとは言い難い状況にあります。そのため、子どものメンタルヘルスを支える体制の整備が、今まさに求められていると言えるでしょう。
その取り組みの一つとして挙げられるのが、メンタルヘルス予防教育プログラムです。これは、問題が発生する前にできることはないかという発想に基づく予防的支援を指します。学校現場では、SOSの出し方教育や、公認心理師が行う心の健康教育として、こうした取り組みが少しずつ実践されてきました。さらに、ストレスマネジメント教育という形で、本学会においても学校現場における数多くの具体的な取り組みが報告されてきました。そこで本ワークショップでは、我々の取り組みについてもご紹介したいと考えています。
我々はこれまで、学校で実施するソーシャルスキル教育(Social Skills Training: SST)の研究を出発点とし、それを抑うつ予防に活用するプログラムを開発しながら、その効果を学校現場で検証してきました(例:石川他, 2009; 2010; 佐藤他, 2009; Sato et al., 2013)。さらに2014年からは、子どものさまざまなメンタルヘルス上の問題の予防を視野に入れた新たなプログラム「こころあっぷタイム」を開発しました(Ishikawa et al., 2019)。「こころあっぷタイム」は、学級内の全ての子どもが参加できるユニバーサルタイプの介入として開発されており、学校の教員が実施できるよう設計されています。教師主導型のプログラムとすることで、実施者自身の学びや、次の学年への波及効果を狙っています。また、学級で実施することにより、子どもが参加しやすくなるとともに、メンタルヘルス上のリスクを抱える児童生徒を見逃さないようにすること、そしてリスクの有無にかかわらず、子どもたちに正確な知識と技術を伝え、安全な学級環境を築くことを目的としています。
「こころあっぷタイム」では、指導案、ワークシート、指導書などが整備されており、導入しやすい教材を備えているだけでなく、オリジナルのマンガを通じて子どもたちが楽しくメンタルヘルスについて学べるよう工夫されています。これまでに本プログラムの研修を修了した方は700名を超え、実際にプログラムを導入した学校等の施設は150近くに上っています(2025年時点)。研修は、学校の教員の皆様だけでなく、心理職や福祉職の方など幅広い方に受講いただいています。また、当初は小学校高学年を対象に開発されたプログラムですが、その後、思春期を対象とした「こころあっぷタイム+(プラス)」や、幼児期および小学校低学年を対象としたプログラムも開発されています。さらに、特別支援教育における実践(中西他, 2024)や、フィンランドでの研究にも取り組んでいます(Mori et al., 2025; Sourander et al., 2024)。
これらの実績を踏まえ、本ワークショップでは、学校で行うメンタルヘルス予防プログラムの実践について、実際のワークを交えながら共に学んでいきたいと考えています。教職員、心理職、福祉職、医療関係者、産業・労働分野など、さまざまな立場の方々と本プログラムの活用方法について議論できれば幸いです。
分科会③ 『性暴力の被害を受けた人に対する心理支援の基本 』
齋藤 梓 先生(上智大学)
【概要】
2023年に成立・施行された性犯罪刑事法の改正、そして2026年12月に施行されるこども性暴力防止法など、ここ数年で性暴力を取り巻くさまざまな法制度に変化が生じています。また、社会においても、性暴力に関する報道は日々流れ、性暴力・性犯罪被害者のためのワンストップ支援センターに相談にいらっしゃる方も増えています。心理や教育、福祉などの領域で働いている方々は、性暴力について、開示された場合にどうするか、被害を受けた人にどのように対応するか、そもそも性暴力が起きないようにするにはどうしたらいいか、悩ましく思うことも多いのではないでしょうか。
一言で性暴力と言っても、一つとして同じ出来事はありません。しかし、性暴力とは何か、どのようなプロセスで起きることが多いのか、なぜその後の精神的後遺症が深刻なのか、など性暴力に関する基本的な理解を深めていくことは、二次被害なく適切に対応する上で重要だと考えられます。また、昨今ではトラウマインフォームドケアについて広く知られてきましたが、トラウマに配慮した対応とはどのようなことかを知ることも、対応する上で助けになることと思います。
本研修では、性暴力とは何か、どのような傷つきが生じるのか、と言ったことの基本を学ぶこと、その上で、ロールプレイやディスカッションなどを通して、トラウマに配慮した心理教育などの基本的なスキルを知ることを目標としたいと考えています。