分科会1:教育領域研修会
学習指導要領に基づいた学校での「心の健康教育」の実施に向けて
愛知県臨床心理士会教育領域部会・日本ストレスマネジメント学会学習指導要領WG・研究委員会
企画・連携開催
司会:松岡 麻依子(愛知県SC/愛知県臨床心理士会教育領域担当理事)
西中 宏吏(早稲田大学/日本ストレスマネジメント学会研究委員)
話題提供者:小関 俊祐(桜美林大学/日本ストレスマネジメント学会研究委員長)
西岡 加名恵(京都大学)
石垣久美子(東京福祉大学)
冨永 良喜 (兵庫教育大学/兵庫県立大学/日本ストレスマネジメント学会顧問)
指定討論者:嶋田 洋徳(早稲田大学/日本ストレスマネジメント学会理事長)
概要:
児童生徒の心の健康に関連する諸問題は、いじめや不登校、さらには心理的ストレスに起因するさまざまな不適応行動として顕在化しており、その深刻化が懸念されている。これらの問題に対応するため、学校教育におけるストレスマネジメント教育を含む心の健康教育が必要であるということは、自明のものである。心の健康教育は、児童生徒が自己の心理的ストレスを適切に理解し、対処する能力を育むことを目的としており、不適応の早期発見や予防的支援につながることを、多くの研究によって報告してきた。しかしながら、このような心の健康教育の推進の障壁となっているのが、学習指導要領における授業時間の確保の問題がある。学校教育においては、現在、「保健体育」のカリキュラムにおいて、小中学校あわせて心の健康教育を学ぶ時間はわずか7時間のみであり、ストレスマネジメント教育については小中学校各1時間の教育機会が設けられているのみである。このような現状を打破し、学習指導要領に基づいて心の健康教育に取り組む時間の拡充や、心の健康教育を推進するための研修機会を確保するために、日本ストレスマネジメント学会は、文部科学大臣政務官に提言書を提出することなどを含めて、学会をあげてさまざまな形で取り組んできた。本シンポジウムでは、これまでの取り組みを整理しつつ、現在の課題と改善策を共有するとともに、さらなる推進と発信に向けた対応策について検討する機会とする。
分科会2:災害支援研修会
受援から考える災害支援
―本当に災害が起こったら、どうしますか?―
愛知県臨床心理士会災害支援部会 企画・連携開催
司会 坪井裕子(名古屋市立大学)
講師:池田 美樹(桜美林大学)
概要:
「今後30年の間に南海トラフ大地震が発生する確率は80%」として、国が大規模災害への備えを呼び掛けています。大災害は他人事ではなく自分のこととして考えなければならない状況になってきました。
阪神淡路大震災以降、大規模災害時には「こころのケア」の必要性が訴えられることが定着しています。我々も心理専門職としてその要請に応えていく役割を求められますが、現実には何をすればよいか、なかなか想像しにくいのが正直なところでしょう。実際に災害が自分の暮らす地域で起こった時、どのような状態になり、何が起こりやすいかを知っておくことで、その中で何をすべきかが初めて見えてくるのではないでしょうか。
この分科会では、発災時の心理支援実践力を養成することを目標としています。長年に渡って災害時の心理的支援の実践と教育を行ってこられた池田美樹先生を講師としてお招きし、防災教育用のゲームを通して、災害支援の基礎から実践まで、基本的な姿勢や考え方を学びます。
分科会3:産業・労働領域研修会
「いきいき働く」を支援する工夫を学ぶ
−ウェルビーイングを目指す支援−
愛知県臨床心理士会産業部会 企画・連携開催
講師:津田 彰(帝京科学大学)
岩野 卓(認知行動コンサルティングオフィス)
概要:
産業・労働分野で心理職が働き始める時、活動の入口として企業や組織からメンタルヘルス不調者の相談対応や復職支援への関与を求められることが多くあります。これは教育課程でメンタルヘルス不調からの回復を手助けする関わりを学んできた心理職にとって、専門性の発揮できる場面であると言えます。
一方、その先の活動としてメンタルヘルス不調者や復職者以外の働く人への支援を求められることも少なくありません。これは働く人に対して今まで以上に「いきいき働く」ことを支援する関与と言えます。「いきいき働く」ことの支援については、これまでの教育課程で学ぶ機会が殆どなく、実際にどのように関われば良いかわからないという心理職も多いように思われます。
昨今、経営層からは、「ウェルビーイング」*、「健康経営」、「心理的安全性」など
“いきいき働く”視点について注目されており、これからの心理職の関与が一層求められる領域であると思われます。
今回の分科会では、企業・組織におけるメンタルヘルスの新しい動向とその中での心理職の役割に焦点を当て、ウェルビーイングの観点から概論とともに具体的な
支援について学びたいと思います。
*「働く人の健康が企業活動・生産性にも良い影響を与えるので、企業はその環境を整えていく必要がある」という考え方
ランチョンセミナー:ストレスチェック制度
ー10年の振り返りと今後の展望
講師
小田切優子
(東京医科大学公衆衛生学分野)
2015年12月の労働安全衛生法の改正により、労働者50人以上の事業場でストレスチェックが義務化されてから間もなく10年を迎える。本ランチョンセミナーでは、これまでのストレスチェック制度を振り返り、得られてきた制度の効果に関するエビデンスや事業場での工夫・実践例を紹介したい。
例えば、令和3年度厚生労働省委託事業「ストレスチェック制度の効果検証に係る調査等事業報告書」によると、ストレスチェックを受検した労働者の約半数が「自身のストレスを意識するようになった」と回答し、事業者も「社員のセルフケアへの関心度の高まりを実感した」ことが報告されている。また、ストレスチェックと職場環境改善が行われた結果、心理的ストレス反応が低下したり、仕事のパフォーマンスが向上したという報告もある。職場環境改善については、効果や必要性は感じているものの実施のハードルが高いという声も少なくない。とはいえ、これまで報告されている取り組みの工夫や好事例から学ぶことも多く、それらの知恵が「職場環境改善のスタートのための手引き」やツールに活かされている。
一方で、「高ストレス者」と判定された人のうち、医師面接を受ける人の割合はまだまだ低く、医師による面接指導を申し出る人が5%未満という事業場が70%以上という課題もある。このような状況の中、今般、ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会の結果を受けて、義務化の対象を「50人未満の事業場」にも拡大する方向で、今後3年間で準備が進められる予定になっている。
今後、制度の効果をより多くの労働者に届けるためには、実施の意義や成果を再認識し、実践的なツールやノウハウの整備・共有が不可欠である。特に、労働者にとって効果的なストレスマネジメントのためのプラットフォームが整備されることがますます重要になると思っている。本セミナー参加の皆様とその意識を共有し、そのあり方を共に考える機会としたい。
全体研修会:
社会的要請に応える専門家になるために必要なこと
司会:坪井 裕子(名古屋市立大学、愛知県臨床心理士会副会長)・
中西 和紀(あいせい紀年病院、愛知県公認心理師協会副会長)
話題提供:
教育領域:堀 英太郎(豊田市教育委員会)
災害支援:池田 美樹(桜美林大学、日本ストレスマネジメント学会災害支援実践領域部会長)
倫理委員会:古井 由美子(長久手心理オフィス/CPネットワーク名古屋)
指定討論:
川瀬正裕(金城学院大学、愛知県公認心理師協会会長)
嶋田洋徳(早稲田大学、日本ストレスマネジメント学会理事長)
概要:
私たちの臨床実践は、それ自体が社会的文脈の中に存在します。個人心理療法においても、社会から全く隔絶した、非連続な世界にいるわけではありません。クライエントが抱える問題の背後には、家族や学校/職場などのそれぞれが所属するコミュニティが存在することでしょう。すなわち私たちの臨床実践は社会と不可分であり、心理職として社会との関係をおざなりにすることは不可能と言えそうです。
愛知県臨床心理士会が設立されて30年以上が経過しました。これまで心理職職能団体として社会で認知されており、心理臨床の実践は、医療、教育、福祉、司法、産業、災害支援、私設開業などの各領域に広がり、それぞれ深化してきています。
2017年9月には公認心理師法が施行されて心理支援を行う国家資格が誕生し、愛知県では2019年5月に愛知県公認心理師協会が設立されました。このように活動を発展させてきた両会は、2023年に連絡協議会を設立して活動をしてきましたが、社会から心理職に向けられた要請に応えることを一つの目的として、愛知県内の心理職の職能団体として合流し、ひとつの会として活動していく方向となりました。社会的要請には心理専門職に対する一般の方からの期待に応えることはもちろん、官公庁など社会的なニーズにこたえるものから、組織の求人に至るまであらゆるものがあります。両資格がそれぞれの専門性を生かして社会的な要請に対応をしていくことになりますが、私たち一人ひとりは、何を準備し、どのように実践していくべきでしょうか。
そこで今回の代議員会企画は愛知県臨床心理士会と愛知県公認心理師協会、そして今回は日本ストレスマネジメント学会の連携開催によるもので、例年よりも社会的枠組みが拡がっての開催です。その中でまず、すでに一定のプレゼンスを獲得しているスクールカウンセラーおよび災害支援の立場から、社会的要請に応えていく上で必要となる視点について話題提供いただきます。また社会的信用を獲得するためだけではなく、私たちが提供する職能そのものがクライエントにとってより有意義になる上で欠かせない倫理的姿勢についても議論していきます。
このセッションが、会員一人一人にとって社会を意識する機会となり、日々の臨床実践がより一層豊かになるよう企画して参ります。