特集 ヴィアレブ治療
特集 ヴィアレブ治療
滋賀県支部会報<JPDしが>No.66号「ヴィアレブ治療を受けた方へのアンケート」の記事をもとに、個人情報保護と視認性を考慮して編集したものです。なおHPに掲載することに関して、アンケートにご協力くださった方には了承を得ています。
ヴィアレブとは?
進行したパーキンソン病の症状を治療する薬です。他の薬による十分な効き目が得られなくなった場合に使用されます。ヴィアレブの効能又は効果は、「レオドパ含有製剤を含む既存の薬物療法で十分な効果が得られないパーキンソン病の症状の日内変動(wearing-off現象)の改善」です。患者又は介護者に、へその周りへ設置した小さなプラスチック製のチューブ(カニューレ)を通して皮下にこの薬を投与します。この注入部位から、この薬は一日24時間、持続的に投与されます。
PMDA(医薬品医療機器総合機構)のヴィアレブ患者さん向けガイドより抜粋
パーキンソン病と向き合ってヴィアレブ治療を始められ、今回アンケートにご協力くださった方々
仮称 年齢性別 発症何年目 治療開始
Aさん 60台男性 23年目 ‘24/3末
Bさん 70台女性 19年目 ‘24/9中
Cさん 60台女性 10年目 ‘23/11末
Dさん 60台女性 13年目 ‘24/6
Eさん 70台女性 14年目 ‘25/3中
Fさん 70台女性 27年目 ‘24/7
Gさん 60台女性 14年目 ‘24/9/10
Q. ヴィアレブ治療を始めたきっかけは?
Aさん 主治医に勧められて
Bさん 友人が使用していたから
Cさん ドパコールの服用回数が1日8回、パーキンソン病関連の薬が5種類以上になって、内服調整ではジスキネジアが治まらなくなり、そういう場合の新しい治療方法として紹介されて。
Dさん 私に合った治療法を主治医に紹介されて。
Eさん ジスキネジアと辛いオフに悩まされている時に、先生からこの治療は貴方に合っている、いつでも辞められると言われて決心
Fさん DBSも無理と言われ、オンとオフがなく、ずっと悪い状態が続き、薬も限界になっていたので。
Gさん 以前はディオドーパという胃ロウを作りポンプで、薬液を管に通して小腸に直接届ける療法を行っていた。中皮下注射やパッチテープで研究も進んでいるので、自分に合う療法にすればよいと聞いて、ヴィアレブに変更希望、相談の上決めた。
Q. ヴィアレブ治療を受けて良かったことは?
Aさん
ジスキネジアがでなくなった。気になるようなオン、オフがなくなった。朝、目覚めての動作が「普通」。そう普通に動くのです。薬の入れ替え、針の差し換えは負担ではない。多分、適応量に範囲があるとすれば、少ない量でスタートしたせいか、薬の限界がわかりやすくて、それまでと同様に経口薬との「足し算」がきく。傾眠がましになった。背が伸びた(姿勢が良くなった)。幻覚、幻聴、幻視がひどかったのが、いつの間にかなくなった。
Bさん
身体全体を象の大きな身体を引きずって歩いている感じでだるく、オフの状態が一日中続いている感じだった。ヴィアレブを始めて2か月くらい経った頃に少しましになり、3カ月程経った頃に、時間的にも日にち的にもオンの状態が続くようになってきて、身体のだるさが随分ましになり、気持ちも明るくなってきた。
Cさん
ジスキネジアがなくなり、お風呂の湯船にゆっくり漬かることができるようになった。いつジスキネジアが出るかという不安がなくなり、友人との旅行や、新しいことにも挑戦してみようという気持ちも生まれた。
Dさん
内服薬の量が減ったので楽になりました。オフの時間が短くなったので、精神的に少し安定しました。皮下注射なので食べ物や食事の内容に影響されにくく、たんぱく質等の食べる時間の配慮が減りました。腸瘻と違うので手術をしなくてもよくて、身体に負担が少ないです。いつでも中止することが出来ます。
Eさん
辛かったジスキネジアが軽くなり、歩行中のつまづきもなくなった。オフのほうは、まだ日中と夕方と夜も時々あるので、これもヴィアレブ投与の治療でよくなったと言えたらいいです。
Fさん
全く動けなくなることは、なくなった。元気になった。動けるようになりやる気が出てきた。パーキンソン病に特化した施設に入居をしたが、看護師さんに手当をしていただけるので安心できる。施設では、90歳余りの友人もできて、女子会を楽しんだり、自分の好みの部屋づくりをしたり、新しい楽しみを見つけられた。
Gさん
以前より、ポンプが軽量になり、体への負担が少なくなった。
Q. 治療を受けて嫌だった・困ったことは?
Aさん
お腹の針跡にできるしこりがなかなか取れない。針を替えることはさほど負担ではないが、落としたもの、床に落ちた物を拾おうとしゃがんだ時に、よく針が外れる。その針のところからバイ菌が入ると、卵大に腫れあがり発熱を生じる。今まで3度ありました。身に付けている機器は重過ぎる。また大きすぎる。パワー不足を感じる。24時間持続投与ではあるが、少々運動っぽい動作の後には、さもオフの時間があるように感じる。少しまとまった量を入れることもできるが、効きはじめは1時間後で、つまり、身体が止まったときに脱出のすべがない。便秘は続いている。2,3週間の入院を必要とすること。
Bさん
私は、目が斜視と類似した現象で、対象物が複数見えるが、これはヴィアレブでも改善されなかった。またすくみ足も改善されたようには思えない。身体が右に大きく傾くというのも改善されなかった。もともと浅かった眠りが、ヴィアレブの器械を身に着けていることで、一層眠りが妨げられることが増えたように思う。私の場合は、ヴィアレブ装着のために入院する直前に右肘を打撲して入院中にひどくなり手術を受け予定より長く入院する羽目になった。最初は3週間程度の入院期間と聞いていたが、右肘のために2カ月近く入院した。そのために、脚が弱り歩きにくくなったように思う。ヴィアレブを装着しているのは、身体にまとわりつき不愉快に感じる。カニューレを貼っている部分や、周辺の皮膚が痒くなる。毎日のシリンジ交換が面倒。
Cさん
ポンプは体のどこかに装着していないといけないため、着る服に困る。隠そうとしなければ良いのだけど、そこまでの勇気はまだない。
Dさん
いつの時も機器を持ち歩かなくてはならない。毎日決まった時間に薬の補充をしなければならない。皮下注射なので皮膚がただれることもあります。皮下注射なので皮下にしこりができると、注射をする場所が少なくなります。
Eさん
この治療は、おへその周りに3日に1度、場所を変えて針を刺すのですが、妊娠線が多くて、おまけに膚がたるんでいるので困りました。(輸液投与は毎日)
Fさん
薬液がもれることがあった。細菌が入り、お腹が赤く腫れてきた。装置があるとオシャレが難しい。周りにフォローしてくれる人がいないと出来ない。
Gさん
夜間もポンプが除せないので寝返り等動きに制限がある。手順が多いこと。
Q. ヴィアレブを考えている人へのアドバイスは?
Aさん
まず、ヴィアレブを始めた次の日すごい感動がありました。神様が10年前の足を与えてくれたように思えたのです。尿意に朝、すっと立ち上がれて、普通におしっこに行けた。入院前は歩行補助を使ってヨタヨタ歩いていたのに、自分の足で普通に歩いている。嬉しさのあまり病院の廊下を30m歩き、その先の階段を2階分おり、すぐにまた階段を2階分上がり30m先の病室へ。これを6回繰り返す!そしてさらに次の日、予測された事態が‥・。車椅子で整形外科へ。歩く「感覚」は少々戻れども、そこに足を動かす筋肉が僅かしか残っていなかったのです。退院後3カ月間に4回ゴルフに出かけました。出かけられたことも驚きなのですが、動けたのは、18Hの内、5,6Hでした。リハビリだったんですよ。私が日常意識して続けてこなければいけなかったことは!
ヴィアレブを始める前は、ドパコール500㎎+ハルロピ(パッチ薬)64mgでした。当時、ジスキネジアがつらくてヴィアレブに踏み切りました。ヴィアレブのスタートは、0.35㎖/h(1日8.4㎖)、ニュープロパッチ4.5㎎。今は、0.39㎖/h、トレリーフ50㎎、ニュープロパッチ9㎎で落ち着いています。ヴィアレブを始めて薬感というか、自分はどんな薬が欲しいのかがはっきりしてきました。ヴィアレブは普通の生活、勿論リハもしてください。激しくない動きで留められる生活ならうってつけ。ジスキネジアもなくなりました。薬にはねらいと癖があります。またどのような使い方をしていればよいか、があります。ヴィアレブの場合は、適応量より少なめからスタート。パワーは最大の6割まで、それより良くもならないし、大きく悪くもならない。あの「波型」の下半分のカーブの部分を埋めて考えると「波型でいう頂点時の状態」の6割程度しか期待できないというのも納得できる話。けれど、経口薬との組み合わせが効くので、ポイントは主治医の匙加減ですが病気の解明が進むにつれて治療方法も薬も選べる時代を迎えました。もっともっと一緒に勉強しましょう。
Bさん
効果は期待できるが、私の場合、ケアが自分自身では無理なので介助者が不可欠になる。この治療を受けたいとお考えの方は、十分いろんなことを検討してください。
(介助する側から)
昼間よりも夜中に、閉塞アラームが鳴ることがあります。その時には対処して再開できますがやはり驚きます。夜中に多いのは寝返りなどで、細いチューブが圧迫されたりするためでしょう。しかし、ピーチク会のある方から教えて戴いた方法をとるようになってから、閉塞アラームは皆無になりました。それは、ビニールテープを長さ5,6cm程度に切り、シリンジとチューブの接続部に巻き付けるのです。そうすることによって細いチューブがシリンジとの接続部で急な角度で曲がることがなくなったからだと思います。カニューレという皮膚に突き刺している部分を皮膚からはがす時に、ときどき出血することがありました。取説の絵は一方から接着部を剥がすようになっていますのでそうしていました。出血した部位は、その後、盛り上がって堅くなるので、その部分は以後使えなくなります。しかし、このカニューレを抜去する時に垂直に引き抜くと出血しなくなりました。
ヴィアレブの器械本体をバッグに入れて下げるようになっていますが、このバッグがカニューレに当たって痛みを訴えたりします。従って、このバッグの吊り下げに関しては、昼間と寝る前とでは少し変えたりしなくてはならず、これがけっこう面倒で苛つきます。施設に入った場合、その施設にヴィアレブのケアに慣れているスタッフがいるかどうか、甚だ不安です。
Cさん
怖がる人が多いが、ダメならいつでも止められるのが利点。合わない人や、幻覚の出る人もあるそうですが、自分の決心と周りの応援があれば挑戦してみたらどうでしょう?
Dさん
どんな治療も合う人や合わない人がいると思いますが、ヴィアレブも適・不適があると思うのでよく検討された方がいいと思います。でも一度やってみないとわからない部分もあるので、ご自分の状態に適応すると思われる方は実施されるといいかと思います。
Eさん
私が一番思ったことは、近くに助けてくれる人がいてくれること。ある程度慣れてくれば一人でもできますが、私の場合は夫に頼みました。訪問看護をお願いすることもできます。24時間輸液が投与されており、オフの時間はないと思っていましたが、最近は一日に1~3回ほどオフ(ヴィアレブ治療前ほどではない)があります。どうしてなのかわからない。投与の場所なのか?オフがあるということは、その時間に輸液投与が効いていないということなのでしょうか?
Fさん
協力者が必要です。訪問看護で針交換してもらうとよい。
Gさん
主治医や家族に本人の体、心の現状を知ってもらい、これから先、どのように生活していきたいということや、ヴェアレブを使って前を向ける自身を思い描くこと等々、相談を重ねても,対象者となれるか否かは、Drの判断になりますが。自身が納得できるまで話し合い、信頼関係を築くことで、他の療法や、iPS細胞を使った治療法も成功をおさめ、パーキンソン病が治る時代もすぐそこに近づいています。本当に楽しみです。何に困っていて、辛く苦しいのはどういう状態で、この時間帯が多い、等を伝えることで、他の調整方法があります!絶対に諦めないでください。多様な症状のパーキンソン病だからこそ、たくさんの療法を試せるのはラッキーです。病気に支配されず、私が病気を操っていると思い、毎日毎日いろんなことがありますが、笑顔で元気に過ごしています。ご縁あってこの場を頂きました。苦しくて辛いですが幸せです。家族や周りの人、環境、医療、はもちろん。感謝します。読んで下さりありがとうございました。絶対治します!!
謝辞
この一年、ヴィアレブを受けた方を多く耳にし、ぜひ感想や、経過をお聞きしたいと思いました。快く、アンケートにお答えいただきありがとうございます。誠実に丁寧に答えてくださって、どんなに勇気づけられ、疑問も明らかになるかと感謝いたします。これからも医療の進歩と共にお互い情報を交換して、治る病気であることを証明したいものです。
JCHO 滋賀病院脳神経内科部長 川合寛道
今回このアンケートにご協力いただいた方、ありがとうございます。お返事を頂いた方の平均年齢は70台、罹病期間は短い方で12年、長い方でAさんの23年ですから皆さん大体60台で発症されて10年以上経過したころでヴィアレブ導入されている感じでしょうか?現在日本で使用できるデバイス治療はDBS、デュオドパ、ヴィアレブの3つということになります。その中でヴィアレブは患者さんに対する侵襲が最も少ないことが利点の一つといえるでしょう。DBSのように頭の中に電極を入れる必要もなければ、デュオドパのように腸ろうを作る必要もありません。3日に一度自分で差し替える皮下注射用のチューブをポンプにつなぐだけです。このような侵襲の少なさがヴィアレブの長所であり、これまでDBSを受けるなんてとんでもないと思われていた方でも、気軽にCDS(持続的ドーパミン刺激)を経験出来るのが良いところだと思われます。ヴィアレブはデュオドパのように生理的な経路を通って十二指腸から吸収されるわけではありません。ですからDさんも書かれているように飲み薬のように食べ物との相互作用を心配する必要はありませんし、便秘や下痢といったお腹の調子によってL-DOPAの吸収が左右されることもありません。食事との食べ合わせにより極端にL―DOPAの効き目が変動し症状の安定しない方、内服のL-DOPAを服用してから効き目が出てくるまでの時間が遅くなるdelayed ONのある方などは試してみる価値のある治療かなと思います。
ただし、皮下に投与される薬液の中に入っている薬はホスホL-DOPAというプロドラッグですので、体の中でALP(アルカリフォスファターゼ)という酵素で脱リン酸化されてからL-DOPAになります。おひとりヴィアレブを導入した後でかえってOFFが長く、深くなった方がおられましたが何らかの形でこのALPの活性が弱まっている可能性があるのかもしれません。このような予想外の反応や副作用が出た時にもヴィアレブの場合はポンプを取り外してしまえば、やめるのは極めて簡単です。
一方、ヴイアレブの短所としてはやはり皮下に投与するのでチューブを留置したところの周りの皮膚が腫れたり、赤くなったり、硬くなったりする方が少なからずおられることです。写真はその一例ですが、ここまでひどくならなくても硬結といって刺したところが硬くなる方がおられます。糖尿病でインスリンの皮下注射をしている方がずっと同じところに注射をし続けているとインスリンボールといってゴルフ球くらいの大きさの硬結が出来て、注射しても吸収が悪くなってインスリンが効かなくなってしまうことがあります。今後このヴィアレブを長期間使用する方が増えてくればこのような問題が増えてくる可能性はあるかもしれません。薬の吸収が悪くなればもう使えないわけですから、今導入してうまくいっている方も将来的にこの治療が使えなくなる可能性を考えておかなければならないかもしれません。今の所ヴィアレブの次の治療というとDBSしかありませんので、DBSは絶対嫌という方は難しいかしれません。iPS細胞の治療が出来るようになるまで、このヴィアレブで粘るという選択肢はありかもしれませんが。
JCHO 滋賀病院脳神経内科部長 川合寛道
HPに掲載するにあたってご本人から了承を得ています。
症例> 年齢60台、男性
主訴> 体重減少、四肢のしびれ、ジスキネジアの悪化
現病歴> 病歴約20年の男性。診断後7~8年の経過でwearing-offが出現し次第に増悪してきたため2024年1月ヴィアレブを導入。約1年間はOffやジスキネジアが著明に改善し、10年程前の足を取り戻したと本人が感じる程であった。しかしながら1年経過後から再度ジスキネジアが出現。またその頃から徐々に体重が減少し始め、7月には15kg以上体重の減少が認められた。同時期から手足の遠位に痺れが出現して、その後から次第に肘や膝上まで痺れが広がってきた。今回精査目的にて入院。
身長165cm、体重48kg(2年前65kg)、四肢末端の温度覚、痛覚、振動覚鈍麻あり。四肢腱反射の低下、消失。
同様の症状でお悩みの方、あるいはヴィアレブ治療を考えていて気になる方は、主治医にご相談することをおすすめします。