ファージセラピーの社会実装に向けて
世界は新型コロナウイルスによる感染症の蔓延によりこれまでの日常が激変し、withコロナの社会構築に向けて大きな変革を迎えています。その一方で、抗生物質に耐性を獲得した薬剤耐性菌が蔓延し、このまま何も対処しないと2050年にはガンの死亡者を超えて1000万人以上の死者が出ると予測されています。その対策の切り札として細菌に感染するウイルスであるバクテリオファージ(ファージ)を用いたファージセラピーが注目されています。ファージセラピーは抗生物質より古くから細菌感染症治療に用いられ、特に東欧諸国では盛んに行われてきた治療法です。ファージは中高生の生物の教科書にも取り上げられる、まるで宇宙船のような形をしたウイルスですが、細菌にのみ感染し溶菌するので細菌感染症の治療薬としても使用できます。ひと昔前の分子生物学の分野では、ファージは遺伝子のクローニングに欠かせない、誰もが取り扱っていたツールでした。当時を考えると、まさか治療法として使えるのか、と私も思う次第です。
今日、世界では、薬剤耐性菌の感染による瀕死の状態からこのファージセラピーにより命を救われる報告が相次ぎ、さらに、ファージの製剤開発も急激に進んでいます。一方で日本においては、ファージセラピーの実用化研究は一握りの研究室にて行われ、国の認可基準なども定まらぬままであり、実用化への道筋は見出せていない状況です。
日本ファージセラピー研究会は、ファージセラピーの社会実装に向けて、ファージ研究者、企業、国の関係機関が結集し、社会、国民に対してファージセラピーの理解を促し、その実用化を実現することで薬剤耐性菌問題の根本的な解決を目指す研究会として設立することとなりました。本研究会は、先行する海外の研究、実用化の動きと相互に連携を図り、さらに若手研究者並びに学生の研究育成も包含することで、将来を見据えてファージセラピー研究を活性化することを目的としています。また、企業、並びに国などの公的機関とも連携を行い、実用化への道筋を切り拓いていくこととしています。
ファージは、人医療、獣医療(伴侶動物、産業動物)、水産業、農業、食品加工業など多岐にわたる分野での応用が期待されますが、その実用化においても病原体の種類、応用の形態、適用するタイミングなどが勘案されなくてはいけません。本研究会は、多種多様な専門家が集い、ファージセラピーの真の実用化を目指す研究会として発展していくと確信しております。ぜひ皆さん、本研究会に参加していただき、活発な議論を重ねてファージセラピーの社会実装に向けて協力して行きましょう。
会長 岩野英知
会長:
岩野英知 (酪農学園大学)
幹事:
常田聡 (早稲田大学)
幹事補佐:
氣駕恒太朗 (国立感染症研究所)
宮永一彦 (自治医科大学)
運営委員:
安藤弘樹 (岐阜大学・アステラス製薬)
植松智 (大阪公立大学)
内山淳平 (麻布大学)
川野光興 (中国学園大学)
崔龍洙 (自治医科大学)
塩田淳 (慶応義塾大学)
丹治保典 (早稲田大学)
乗松真理 (酪農学園大学)
花輪智子 (杏林大学)
藤木純平 (酪農学園大学)