バーチャル研究会

生物多様性のDNA情報学

自然の計測と生命の理解のために


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講演内容一覧


「私的なゲノム解読20年」 

(沖縄科学技術大学院大学・マリンゲノミックスユニット)

「ゲノムを解読し、その情報を基にした研究を進めなければー」と思い始めたのは1998年頃である。それはホヤの発生のメカニズムを一つ一つの遺伝子の発現と機能で理解しようとしていた頃で、この方法では到底発生全体の理解に至らないという危惧感があった。幸運にも国の研究費と米研究者の助けをかりて2002年末にホヤのゲノムを解読することができた。動物の進化に興味があり、その後ナメクジウオやギボシムシを初めとして10種類以上の動物のゲノムを解読してきた。ゲノム解読はその生物の遺伝情報の辞書を作ることに似ている。将来のためにきちんとした辞書を作らなければならない。一方で驚異的なゲノム解読技術の進展によって、これまでに手の届かなかった問題にチャレンジできる可能性が生まれ出している。そんなことをざっくばらんに話してみたい。


「海中適応した哺乳類の生理学的研究 〜巨視と微視を行き来しながらの試行錯誤〜」

(日本大学生物資源科学部 )

イルカやクジラの仲間は哺乳類網クジラ目に分類され,85種強が含まれる.日本近海にはその半数近くの種が見られるし,我が国は捕鯨を営み,かつ,世界に比類なき水族館大国でもあったりもする.鯨類のホメオスタシス維持機構の特徴を知りたい(+鯨類の健康管理の助けとなるものがあれば現場に還元したい)という動機で動く私は,この好立地を活かして試料を入手し,水分収支や代謝などをテーマとして研究している.基本的に,分子レベルで標的を予め設定したりしなかったりするが,時にオミクス技術に手を出したりしつつ,巨視的にみて,面白い現象がみつかれば微視的にみる,を繰り返して試行錯誤する日々である.そこからこぼれ出てきたものの一端を紹介する.


「ゲノム情報を活用した野生動物の保全」

(京都大学野生動物研究センター)

多くの野生動物が絶滅の危機に瀕しています。絶滅を防ぐには、動物の行動や生態について知る必要があります。直接観察が難しい野生動物でも、フンや羽根に含まれるDNAから、多様な情報を得ることができます。私たちは、さまざまな種の多数個体のDNAや細胞を保存して、集団の遺伝的多様性や血縁関係を調べ、免疫や個性といった個体の特性に関わる情報を、国内外の研究者や飼育繁殖施設との共同研究によって集めています。最近ではエピゲノムにも注目して、メチル化率を指標とした年齢推定にも取り組んでいます。フィールドと実験室、生態とゲノムをつないだ研究を深めることにより、保全対策に活用していきたいと考えています。


「ゲノム解析から植物の多様性を考える」 

(かずさDNA研究所)

植物ゲノムは高等植物のゲノムに限ってもゲノムサイズが数百Mb~数十Gbと約100倍の大きさの違いがあり、さらに倍数性や異数性などゲノムの構造も多様である。NGSの技術が進み、植物を含めた生物のゲノム配列アセンブルはより容易に行える時代となったが、未だ高精度な結果を得ることが難しい種もある。本発表ではかずさDNA研究所で実施している様々なゲノム構造をもつ高等植物種の解析結果を紹介しながら、ゲノム解析からみえてくる植物の多様性について議論する。


「Museomicsが切り拓く生物多様性保全研究」

(兵庫県立人と自然の博物館 兵庫県立大 自然・環境科学研究所)

博物館に収蔵される生物標本は、標本が採集された当時の形態・遺伝・生化学的な情報を含む、いわばタイムカプセルといえます。博物館標本からこうした様々な情報を取り出して研究に用いるMuseomics(ミュゼオミクス) が近年急速に発展し、これまで難しかった過去の生物情報へのアプローチができるようになりました。Museomicsは生物多様性保全の研究を進めるうえでブレイクスルーになりうると期待されていますが、実際どのように役立っているのでしょうか。本講演では、特に博物館標本が内包する遺伝情報に注目し、国内外のこれまでの研究とともに今後の展望についてご紹介します。


サテライトトーク

「微細藻類ユーグレナの遺伝子工学技術によるSDGsへの貢献の可能性」 

鈴木 健吾

(株式会社ユーグレナ)

現在、微細藻類の一種であるユーグレナ(和名:ミドリムシ)は、食品や化粧品分野で製品化されて市場での流通が始まっている。ユーグレナの産業分野での利用方法については、バイオマスの5Fという考え方で列挙される、食品(Food)、繊維(Fiber)、飼料(Feed)、肥料(Fertilizer)、燃料(Fuel)のそれぞれにおいて利用が検討されており、付加価値が高い用途から順に事業化していくことが期待されている。ユーグレナの遺伝子情報やゲノム編集技術を活用することで、生物生産の効率化を軸とする形でSDGs達成に貢献していくことができる可能性がある。