大会長挨拶

影山 隆之(第47回日本自殺予防学会大会長)


第47回日本自殺予防学会総会を大分市でお引き受けすることになりました。大会長として一言ごあいさつ申し上げます。


大分県は“日本一のおんせん県おおいた”と称する、食に恵まれた、癒やしと再生の国です。また大分市は、かつては南蛮文化の花開く都市として世界に知られ、日本における西洋式手術発祥の地、西洋音楽発祥の地、牛乳給食発祥の地でもあります。


その大分市は2015年に、「大分市民のこころといのちを守る条例」を議員立法で制定し、これに基づく自殺対策計画を2016年末に策定した地域です。また隣接する豊後大野市は、かつて県内で最も自殺死亡率が高い地域の一つでしたが、地域づくりを通しての自殺対策を推進する中で、地道に自殺を減らした経験がある地域です。


つまりこれらの地域は、2017年の自殺総合対策大綱改定に伴う市町村自殺対策計画の策定に先駆けて、独自に地域での自殺対策に取り組み始めたわけです。大綱は昨年また改定されたので、これから各地域で次の計画が検討されてゆくことでしょう。そこで、この2023年に大分市で自殺予防学会総会を開催するにあたり、地域あるいは社会全体で推進する自殺対策について改めて考えたいと思いました。


様々な理由で追い詰められた人にとって、死を選ぶことは一つの“対処”方法です。この人々が自殺を選ばないようになるとすれば、それは代わりに別の“対処”を選ぶこと、別の生き方を選ぶことです。ではいったいどういう条件があれば、そのような生き方、“生きるすべ”を見出すことができるのでしょうか。


そのような条件が家庭・地域・職場・学校などの生活の場に一つでも備わっているならば、人は生きることができるかもしれません。その条件を生活の場の中に備えることが、自殺対策になりそうです。それはもしかしたら、自殺念慮を抱かない人々にとっても、暮らしやすい社会をつくることになるかもしれません。


このように、「死なないための対策」ではなく「生きるための対策」を考えることができないだろうか、という思いから、2023年総会のテーマを「“生きるすべ”を求めて-生活の場での自殺予防」といたしました。これは実は、環境と生活・人生・命の関係を生態学的に考える、ということと同じ意味になるように思います。


そのために、当事者のご経験や、各地の自殺予防の取組みについて聴かせていただいたり、新しい視点と方法について討論したりする機会を提供できるよう、実行委員会でいろいろ検討を重ねてまいりました。しかし最も大切なことは、できるだけ多くの方々のご参加と白熱した議論です。


会場は駅前の至便な場所ですので、県都で豊後の海の幸・山の幸を食べ倒すもよし、別府市の温泉宿から学会に通うもよし、学会後にディープな豊後の国を探訪するもよし。ゆったりした時の中で、“生きるすべ”についてぜひご一緒に考えましょう。皆さまのお越しを心よりお待ち申し上げております。