星座の形が変わるって

ホント?

I. 夜空の星の動きと位置天文観測

夜空に見える星々は地球の自転 (1日) によって1時間に約15度、東から西に向かって動いていきます。さらに、地球の公転 (1年) によって季節によって見える星々の並び(星座)が変わります。このように地球の自転 (1日) と公転 (1年) で夜空に見える星々は変わることはよくご存知の方も多いかと思います。

しかし、夜空に見える星々は実は、それぞれの星の固有の運動によって、ほんの少しずつ夜空での位置を変化させているのです。これは天の川銀河(銀河系)の中を個々の星が独自に運動しているからです。

その運動は我々が観測できるような10年から100年くらいの短い時間では、夜空 (天球面上) を直線のような運動として観測され、その角速度を「固有運動」と呼びます (図1)

一方、太陽の周りを地球が公転すると夜空に対して星は、見かけ上、楕円運動をします (動画1)。このような運動を「年周視差」と言います。この公転運動にともなう見かけの楕円運動と星独自の固有運動が組み合わさって、らせん運動が観測されます (動画2)

図1:固有運動。 郷田直輝「宇宙における距離の測定」、シリーズ現代の天文学第1巻、岡村・池内・海部・佐藤・永原編『人類の住む宇宙』第2版 2.4節 図2.14 (日本評論社)

動画1:星の年周視差太陽の周りを地球が1年かけて運動することで、夜空(天球面)の星の見かけ位置が変化します。例えば、目の前に人差し指を立てて、左右の眼を交互のつぶると、人差し指の位置が遠くの景色に対して左右の変化することがわかると思います。これと同様のことが、夜空の星の位置に対してもおきています。この位置がずれる現象を「視差」と言います。この視差の大きさは、遠い星ほど小さくなりますので、視差の大きさを測定することで、星までの距離を推定することができます。これは星の距離の三角測量です。

動画2:星の固有運動夜空の星々はそれぞれ、銀河系(天の川銀河)の中を運動しています。そのため、地球から観測する星の夜空の位置は、長い時間をかけて変化します。この時間変化を「固有運動」と言います。夜空での星の位置の変化は、年周視差(動画1)と固有運動が組み合わさって、らせん状になります。

位置天文観測とジャスミン衛星

このような星の「らせん運動」の様子を観測して、星までの距離や速度を測定する天文学の分野を「位置天文学(アストロメトリ; astrometry)」と呼びます。

位置天文学の歴史は大変古く、紀元前約150年にまで遡ることができます。現在でも2013年に欧州宇宙機構 (ESA) が打ち上げた位置天文観測衛星「Gaia」(ガイア)が約10億個の星々の位置天文観測を続けています。 位置天文学は最も古くて、そして現在も最新技術で進歩しつづけている最新の天文観測なのです。

国立天文台JASMINEプロジェクトでは、地球大気による星の位置の変化を避け、正確に位置天文観測を行うために、位置天文観測衛星「JASMINE(ジャスミン)(図2) の打ち上げを目指しています。

図2 位置天文学の歴史(上)と位置天文観測衛星「JASMINE」の想像図(下)。JASMINE衛星は、太陽系から約2万7千光年先にある銀河系の中心領域の星々の距離と運動を測定する計画。(c) 国立天文台JASMINEプロジェクト

JASMINEは何を明らかにするのか?

講演者:郷田 直輝 (プロジェクト長)

星までの距離の測り方

講演者:矢野 太平

II. 星座の時間変化

夜空の星の位置は、地球の公転運動(年周視差; 動画1)と銀河系内での星独自の運動(固有運動; 動画2)の影響で、らせん軌道を描いて時間とともに変化します。その影響で、現在夜空に見えている星座の形も長い時間をかけて変化します。

図3は、冬の星座で有名なオリオン座の周りの星々の今後10万年の動きの様子を表したものです。10万年の時間スケールでは、すべての星が様々な方向に移動してしまいます。

以下では、位置天文観測衛星「ヒッパルコス」によって測定された星の運動データに基づいて、代表的な星座がどのように時間とともに変化するのかの予測動画を示します。

以下の星座の変化はHippLinerを用いたものです。

図3 オリオン座付近の今後10万年の動き。引用:矢野太平著、知りたいサイエンス「拡がる宇宙地図」(技術評論社)

orion.mov

動画3:オリオン座の変化。10万年前から30万年後までの変化の様子

hokuto.mov

動画4:北斗七星の変化。10万年前から25万年後までの変化の様子

kashiopea.mov

動画5:カシオペア座の変化。10万年前から30万年後までの変化の様子

minamikenta.mov

動画6:ケンタウロス座と南十字星の変化。10万年前から20万年後までの変化の様子

最新の位置天文観測衛星「Gaia」(ガイア)によって位置天文観測が進み、銀河系(天の川銀河)の約15億個の星々の位置と速度がわかってきました。以下の動画はGaiaによって得られた、天の川全体の星の運動を示しています。

動画の最初の数秒間で年周視差(天球面上での楕円運動)の様子が示されます。そのあと、星座が表示されます。いろいろな星座を構成する星が、それぞれ違った大きさの楕円運動をすることがわかります。これはそれぞれ地球からの距離が違うためです。最後に、それぞれの星の固有運動を様子が示されます。いろいろな方向に運動している様子がわかります。

動画7:全天の星の年周視差と固有運動 (VR動画なので、自由見たい方向を変えられます)。わかりやすくするために誇張してあります(c) ESA/Gaia/DPAC, CC BY SA 3.0 IGO