JASMINE計画を支える

テクノロジー

I. JASMINEってどんな衛星?

JASMINEを実現する技術

講演者:鹿野 良平

JASMINEは人工衛星に望遠鏡を搭載して星の位置の時間変化を観測する位置天文観測衛星計画です。人工衛星システムは、電力の確保、温度の制御、姿勢・軌道の制御などを行いながら、地上からの指令に基づいて、観測を半自動的に行う半自律的なロボットです。その構成は大きく「ミッション部」「バス部(衛星バス)」に分けられます。

衛星バス

衛星システムとしての基本的な働きを担う部分。地上からの指定信号を受信するとともに観測データや衛星の状態を地球に送信する「通信系」、衛星全体が必要とする電力を安定して供給する「電源系」、衛星の姿勢を必要な方向に向けて安定させる「姿勢制御系」、宇宙空間での激しい寒暖差において各機器の温度を維持する「熱制御系」などのサブシステムがあります。

ミッション部

JASMINE計画の観測そのものを担う部分。ここに望遠鏡やカメラ・検出器などが搭載されます。

これらの大きな2つの構造の他に、太陽からの光を電力に変換して衛星に必要な電力を供給するための太陽電池が搭載された「太陽電池バドル」や、太陽からの光や熱が観測装置に混入して観測を妨げないようにする「サンシールド」も重要な役割を担います。

II. どんな望遠鏡が必要なのか?

赤外線位置天文観測衛星JASMINEは、近赤外線波長1.0~1.6μmで星の位置と運動を精密計測する望遠鏡を搭載します。ここで精密計測に必要な3つの特徴、①収差の少ない望遠鏡光学系②熱変形の少ない望遠鏡構造③温度変化の少ない望遠鏡環境、について紹介します。

収差の少ない望遠鏡光学系

すばる望遠鏡など、現在世界の多くの天文台で用いられているリッチークレチアン式反射望遠鏡は、「像面湾曲」とよばれる結像面が曲面になる収差が発生するため、広視野の観測が難しいのが一般です。

JASMINE衛星では3枚鏡を用いた方式を応用した「コルシュ式光学系」が採用されます。これよって検出器上の平坦な焦点面に収差の少ない星の画像をつくることができます。

熱変形の少ない望遠鏡構造

宇宙空間では地上と大きく温度が異なるのに加え、寒暖差も激しい環境です。そのため望遠鏡をつくる材料は熱膨張や熱収縮などの熱変形が小さいものでなければなりません。

温度変化の少ない望遠鏡環境

熱変形の小さな材料で望遠鏡を製作しても、寒暖差の激しい環境では熱変形を避けられません。望遠鏡が熱変形すると、望遠鏡が歪み精密な星の位置測定ができなくなります。

宇宙空間での激しい寒暖差の影響を避けるために、(A) 望遠鏡全体を一定温度に保つように「望遠鏡箱」で覆う、(B) 太陽光が当たる場所が一定になるような軌道(太陽同期極軌道)で運用するなどの工夫をします。

III. どんなカメラを搭載するのか

JASMINE衛星には、国立天文台が国内メーカと連携して開発した近赤外線InGaAs検出器を改良して用います。軌道上ではラジエータペルチェ素子にて、この検出器を–100℃に冷却し、高精度測光に必要な感度ムラ補正のための光ファイバー光源も搭載します。以下に、カメラシステムの概要とともに紹介します。

①近赤外線InGaAs検出器

地上での天文観測用に開発した検出器を、宇宙環境で使用できる検出器に改良する。

② 検出器を–100℃にする冷却系

位置天文の精密計測にとって、振動は大敵

→ ラジエータ+ペルチェ素子による冷却

③ 感度ムラ補正のための光ファイバー較正光源



IV. 画像解析のテクノロジー

JASMINE(ジャスミン)衛星は位置天文観測のために設計され、極めて精度が高く安定した構造をしています。 しかしながら,目標である位置測定精度を達成するためには観測後の詳細なデータ解析も重要となります。 

画像から星の位置を測る

JASMINE 衛星が取得した星の画像は検出器のピクセル単位で “モザイク化” されて粗くなってしまいます (右図1)。そこで、 モザイク化された多数の星像を使用して『本来の星像』を推定 します。右図2は 400 枚の画像から推定した星像モデルです。

この星像モデルを使用することでピクセルのおよそ 1/100 の 精度で星の中心位置を測定することができます。

画像の歪みを補正する

JASMINE 衛星の望遠鏡は歪みが少なく温度変化の影響を受けにくい設計をしていますが、完全に歪みがない望遠鏡を作ることはできません。そこで一回の観測中には天体が動かない ことを利用して視野を重ね合わせながら観測をすることで、望遠鏡の歪みを推定・補正する手法を採用しています。

※ JASMINE 衛星が地球を一周回する間に取得したデータを “一回の観測” と表現しています。

天体の位置・運動を推定する

星像モデルと歪み補正によって一回の観測あたりおよそ 1 マイクロ秒角の位置測定精度を達成できます。しかし、天体の位置と運動を測定するには 3 年間のデータを総動員して推定する必要があります。

銀河中心の天体が運動する大きさ (図3) と比較して測定誤差は遥かに大きい (図4) ため、測定値の分布がわずかに動く様子を捉えることで誤差に埋もれた天体の運動を発掘します。

End-to-End シミュレーション

JASMINE 計画を成功させるためデータ解析の実現は必須であり、入念な準備が欠かせません。 観測前からデータ解析の妥当性を検証するために、端から端まで(end-to-end)シミュレーション を計画しています。JASMINE 望遠鏡を計算機の中で再現し、あらかじめ用意した検証用カタログから擬似的な観測画像を生成します。この観測画像を解析した結果を検証用カタログと比較することで、データ解析の実現性を評価する予定です。