星の不思議な軌道

I. 天の川銀河の星のおかしな軌道

いろいろな軌道

天体(星)の軌道というと、どのような軌道を想像するでしょうか? 多くの方は太陽の周りを回っている惑星の軌道、つまり、円運動や楕円運動をする軌道を思い浮かべるのではないでしょうか?

しかし、天の川銀河内の星の実際の軌道はもっと複雑なものが存在しています。このように不思議な軌道が存在するのは、天の川銀河の「重力場」が太陽とは大きく異なる形をしているからです。

重力場は、見える星や星間物質の他に、電磁波では観測できない暗黒物質(ダークマター)を含めた、質量をもつすべての物質から決まります。つまり、星の運動を知ることで、見えない物質の分布も推測することが可能になります。

太陽の周りを回る惑星の軌道。多くの惑星は太陽を中心とするほぼ円軌道を描く。©2005-2021 加藤恒彦,国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト

天の川銀河のおかしな軌道:バナナ、プレッツェル

例えば、われわれの住む天の川銀河の内側に存在する数万光年程度のサイズの「棒状構造(バー)」(またはバルジ)には、「バナナ軌道」や「プレッツェル軌道」と呼ばれるものが存在すると考えられています。

さらに、もっと内側の「中心核バルジ」(大きさ1000光年程度以下)にはもっと不思議な運動をする星が存在するかもしれません。しかし、中心核バルジの星の光は、たくさんの星間物質に含まれるチリで隠されて十分に観測が進んでいません。JASMINE衛星の観測で、中心核バルジにもっと不思議な運動をする星を発見できるかもしれません。

II. 不思議な軌道を実験室で再現しよう!

天の川銀河の中心の棒状構造の領域は、上のような不思議な軌道を描く星が存在していると考えられています。ここでは、これらの不思議な軌道が生じる理由を、振り子を使って説明します。

振り子とは、糸の先に重りをつけて吊るしたものです。重りを指でつついて少し左右に動かすと、自然に振動を始めます。この振り子が左右に行ったり来たりする周期(または、1秒間に何回振動するかを表す振動数)は、重りの重さには関係せず、糸の長さ(L)と地球の重力の強さ(g)で決まります。

2次元振り子の描く不思議な軌跡

振り子の振動を図のように縦と横の2次元で考えてみます。縦と横のそれぞれの振動数の比が整数比 (有理数) になっていると、縦方向と横方向の振り子の振動が調和して規則正しい軌跡(軌道)を描くことになります。これを閉じる軌道と呼びます。

例えば、横方向に左から右に1回移動する間に、縦方向に上→下の1回+下→上の1回の合計2回移動するとバナナ型の軌跡を描きます (動画1)。さかな軌道の場合は、横方向に右→左 (1回) + 左→右 (1回) の2回移動する間に、縦方向に上→下 (1回)、下→上 (1回)、上→下 (1回) の3回移動するような場合に描くことができます (動画2)。同様にプレッツェル軌道は横に4回、縦に3回で描けます (動画3)これ以外にも横と縦の振動回数の比が5:6 (動画4) や9:10 (動画5)  の軌道もつくることができますが、これらには特に面白い名前がついていません。

また、振動回数が整数の比になっていない軌道も存在します (動画6)。一見、規則正しい軌道を描いているように見えますが、少しづつ違う軌道を描き、2次元平面内のいろいろな場所を通ることができます。このような軌道は永遠に同じ位置には戻らないため、「閉じない軌道」と呼びます。

注: 振動は往復で回数を数えるのが通例ですが、ここでは往路のみ or 復路のみを1回と数えて説明しています。

Banana.mp4

動画1: バナナ軌道 (1:2軌道)

Fish.mp4

動画2: さかな軌道 (2:3軌道)

Pretzel.mp4

動画3: プレッツェル軌道 (4:3軌道)

5to6.mp4

動画4: 5:6軌道

9to10.mp4

動画5: 9:10軌道

1tosqrt2.mp4

動画6: 不規則軌道

実験してみよう!

振り子で、実際に「バナナ軌道」や「さかな軌道」を描く実験をしてみましょう。例年、JASMINEプロジェクトではこの実験を特別公開で行っていますが、今年度はオンライン公開ですので、実験装置の作り方(解説動画)と実験の様子をご紹介します。

振り子の振動数は糸の長さと地球の重力の強さで決まります。地球の重力の強さはコントロールできないので、糸の長さを調整して、振り子の振動数をコントロールします。

では、糸の長さを縦方向の振動と横方向の振動でどう調整したらよいのでしょうか?それは右の図のように「Y字」型の振り子を作れば可能です。図のように「Y字」にすることで、横振動と縦振動の振り子の振動の支点の場所を変えることができます。横振動では天井から重りまでの長さ、縦振動ではY字の交点から重りまでの長さが振り子の糸の長さになります。

「Y字」の交点をどこにするかで、横振動と縦振動の糸の長さを比を調整できます。うまく計算してY字をつくると、振動数の比が整数比になり、バナナ・さかな・プレッツェル軌道を描くことができます。実際に実験してみた動画が以下にあります。

JASMINEプロジェクト自慢の「Y字振り子」装置。今年度は重りの軌跡を見やすくするために、粉が落ちる仕様に改良してみました。この装置作製と実験の注意点は苦労談は、以下の解説動画をご覧ください。

banana.MOV

バナナ軌道

fish.MOV

さかな軌道

pretzel.mov

プレッツェル軌道

Y字振り子の作り方の解説動画