●分子ナノカーボンの合成研究
フラーレンやカーボンナノチューブ、グラフェンに代表されるナノメートル (10億分の1メートル) サイズの炭素原子集積体 (炭素クラスター) は『ナノカーボン』と呼ばれ、材料科学や生命科学等への応用の可能性が期待されている。ナノカーボンはその構造の違いによって性質 (導電性、半導体特性、光応答性、機械的強度 etc.) が大きく変化するため、望みとする構造・性質を持ったナノカーボンのみを選択的に合成する手法の開発が求められている。その重要な一歩として、ナノカーボンの部分構造に相当する炭素骨格を有する化合物 (分子ナノカーボン) の精密化学合成に大きな注目が集まっており、世界中で研究が行われている。
当研究室では、主にカーボンナノチューブに焦点を当てて、その部分構造に相当するリング状化合物 (カーボンナノフープ) の精密化学合成に関する研究を行っており、これまでに複数の新規カーボンナノフープの化学合成、ならびに得られた化合物群の性質解明を成し遂げてきた。
現在は、『メビウスの輪構造』や『8の字型構造』のような特異な幾何学構造 (トポロジー) を有する分子ナノカーボンの合成に関する研究を行っている。
●非ベンゼン系芳香族炭化水素『アズレン』の化学
代表的な芳香族化合物として二つのベンゼン環が直接縮環した『ナフタレン』が挙げられるが、当研究室ではナフタレンの構造異性体である『アズレン』に着目して研究を行っている。アズレンは不飽和な七員環 (1,3,5-シクロヘプタトリエン骨格) と五員環 (1,3-シクロペンタジエン骨格) が直接縮環した構造を有する代表的な非ベンゼン系芳香族化合物である。アズレンとナフタレンは同じ分子式 (C10H8) で表される単純な化合物であるもののナフタレンが無色であるのに対し、アズレンは炭化水素系化合物としては珍しい美しい青色を呈する等、その特徴的な分子構造に由来して特異な性質および化学反応性を示す化合物として知られている。
当研究室では、これまでにアズレンの特徴を巧みに利用することでエレクトロクロミック材料 [電子の授受 (酸化還元反応) により色調が変化する材料] や半導体材料、液晶材料等への応用の可能性が期待できる機能性有機化合物の合成を行ってきた。さらに、アズレン環を分子骨格内に含む新たな縮合多環式π共役系化合物の合成やアズレン誘導体の新規分子変換法の開発を行ってきた。
現在は、主に以下の二つの研究課題について検討を行っている。
(1) アズレン環のPd触媒C-H活性化反応を基盤とする多電子酸化還元系の構築
(2) アズレン骨格を有する新規多環式芳香族炭化水素 (PAH) の合成研究
(3) アズレン骨格を有する新規複素環化合物の合成研究