石井研究室
久留米高専 有機機能化学研究室
Ishi-i Laboratory, National Institute of Technology, Kurume College
Ishi-i Laboratory, National Institute of Technology, Kurume College
自己集合を鍵とする機能性有機材料の開発
芳香族化合物は、それらのパイ電子系から発現する電荷輸送特性や発光特性により、新規機能材料として注目されている。石井研究室では、有機合成を基盤とした機能性発光材料の開発を行っています。機能有機化学と超分子化学を融合することで、既存の発光特性の向上、更には新規発光特性の発現を目指しています。
発光性有機化合物は、有機電界発光や光記録等の機能材料分野や、生体イメージング等の生命化学分野で注目されている。標的となる外部環境や外部刺激に応答し、ナノレベルでの分子構造や集合構造が変化することで、その結果生じる発光特性変化の可視化により記録やイメージングが展開されている。
最近我々は、電子ドナー部位と電子アクセプター部位を連結した一連のドナー・アクセプター型蛍光色素群が、水系環境下で極性変化に応答すると共に、超分子会合の発現に起因して、発光と消光を可逆的に制御できることを見出している。更に本ドナー・アクセプター型色素は、結晶状態で機械的刺激の印加によりに、発光色及び発光強度の変化を示すこともできる。最近では、これらの発光変化現象が、リン光発光にも展開できる興味深い知見も得ている。
(1)室温リン光材料の創製
リン光発光は、励起三重項状態からの禁制発光のため、長寿命発光を与える特徴があり、長いものでは数秒単位の発光が持続する。本長寿命特性により、リン光発光は光記録・表示・ディスプレイ・セキュリティーセンサー等の化学・材料分野や、生体検出・イメージング等の生物分野への応用が展開されている。これまで Ir, Pt 等の貴金属を含む金属錯体において、室温・大気中でのリン光発光が研究されてきたが、高コスト、希少性、生体適合性等の問題を有していた。
最近金属を含まない有機分子からのリン光発光の報告が加速しつつあるが、発展途上の現状に加え、リン光特性の向上や機能性発現等により付加価値を付与することは、実用的応用に加え学術的にも挑戦的な命題となる。当研究室では、「外部刺激応答性のリン光システム」と「長波長領域での赤色~近赤外リン光発光」について研究を展開している。
最近の論文:
T. Ishi-i et al., Chem. Commun., 2020, 56, 4051 (Selected as Inside Front Cover).
T. Ishi-i et al., J. Mater. Chem C, 2023, 11, 3003.
T. Ishi-i et al., J. Mater. Chem C, 2024, 12, 19404 (Selected as Hot Paper).
(2)メカノクロミック発光システムの構築
メカノクロミック発光は、機械的刺激により発光色が変化する現象であり、セキュリティーセンサーや光記録等への応用が注目されている。
当研究室では、ドナー・アクセプター構造を鍵とするメカノクロミック発光発現の戦略を提案している。まず、ドナー・アクセプター構造に起因する双極子相互作用により、秩序性の高い結晶構造を構築すると同時に、非平面三次元ドナー部位の立体効果により結晶構造内に空間を形成する。次に、機械的刺激の印加により本空間を埋めるようにランダム配向を誘発し、分子平面性の向上と分子間相互作用の発現により発光波長を長波長シフトさせる戦略である。
最近の論文:
T. Ishi-i et al., Chem. Asian J., 2021, 15, 2136.
T. Ishi-i et al., J. Mater. Chem. C, 2020, 8, 12437 (Selected as HOT Paper).
T. Ishi-i et al., New. J. Chem., 2019, 43, 4998 (Selected as Front Cover and HOT Paper).
(3)会合性発光システムの構築
生体蛍光検出では、組織浸透性と透過性の観点から、光学窓領域の赤色から近赤外領域の長波長発光に注目が集まる。我々は赤色及び近赤外蛍光色素の最も単純な分子設計の1つが、ドナー部位とアクセプター部位の連結であると認識している。ドナー・アクセプター型共役構造に起因して、発光帯が長波長側に移動することで赤色~近赤外発光が発現する。しかし、本ドナー・アクセプター構造は、水系高極性環境下で励起状態が大きく分極し、消光失活過程が有利になる問題点を残している。分極した励起状態は水分子等の極性分子からの溶媒和により安定化を受けているため、この溶媒和を抑制することが発光発現の鍵となる。現在までに、溶媒和分極に起因した消光が超分子会合により抑制できるという戦略に基づき、水系赤色~近赤外発光システムの構築に成功している。
最近の論文:
T. Ishi-i et al., Eur J Org Chem, 2018, 9, 1165.
T. Ishi-i et al., Tetrahedron, 2017, 73, 1157 (Selected as Front Cover).
石井努, 有機合成化学協会誌, 2016, 74 (8), 781.
T. Ishi-i et al., RSC Advances, 2016, 6, 8631.
S. Yamada et al., Polymer J., 2016, 48, 973.
T. Ishi-i et al., RSC Advances, 2015, 5, 89171.
T. Ishi-i et al., Organic and Biomolecular Chemistry, 2015, 15, 1818.
T. Ishi-i et al., Asian Journal of Organic Chemistry, 2014, 3, 1074.
T. Ishi-i et al., Chemistry An Asian Journal, 2012, 7, 1553 (Highlighted in Noteworthyl Chemistry in ACS)