研究内容

疾患の理解と治療

私はどのように人々が病気になるのか、どのようにそれを治すことができるのか、について興味があります。様々な病気や障害の中でも特に中枢神経系に関する研究を行っています。私の所属する(公財)東京都医学総合研究所視覚病態プロジェクトでは、特に眼の病気 (緑内障) をモデルとして疾患の理解と治療法の探索・開発に関する研究を行っています。

緑内障とは   

緑内障は日本における中途失明原因第一位の疾患です。現在、全世界で7,000万人以上が緑内障に罹患(りかん)していると推計されています。40歳以上で約5%が罹患し、年齢が上昇するにつれて罹患率がさらに上昇します。従って、緑内障患者数は今後ますます増加し、2040年には1億人を超えると予想されています。緑内障における失明は、網膜の最も内側にある網膜神経節細胞 (以下, RGCと略します)のダメージによって引き起こされます。緑内障は多因子疾患で、様々な要因が影響します。その中でも高眼圧が最もよく知られた因子であり、現在は眼圧を下降させる薬物の点眼治療や外科的処置が第一選択となっています。一方、アジア人、特に日本人では大部分の緑内障患者が正常眼圧です。また、眼圧を十分に下降させても病態が進行することなどから、眼圧以外の要因が緑内障病態に大きく関与すると考えられます。私はその要因の1つとして「グリア細胞」と呼ばれる細胞に着目して研究を進めています。

グリアとは?

脳や網膜などの神経組織には神経細胞と非神経細胞が存在します。非神経細胞群には「グリア」と呼ばれる細胞が含まれます。これらの細胞は古くは神経細胞の間を埋めるだけの膠(にかわ)のような細胞で、重要な機能を持たないと考えられていました。しかし、これまでの研究からグリア細胞は正常な神経組織の発生・成熟や組織恒常性維持、機能発現に必須であることが明らかとなっています。一方、様々な疾患においてグリア細胞は恒常性維持機能を喪失し、神経機能の破綻や細胞死を積極的に引き起こす可能性が明らかになりつつあります。眼においても、グリア細胞の異常がRGC傷害を引き起こすことや、緑内障様の症状を誘導することなどが我々や他のグループの研究から示されています。

  治療標的としてのグリアの可能性                                                                                                

現在、グリア細胞の機能異常を是正することによって緑内障の進行を食い止める方法に関する研究を進めています。また、グリア細胞は様々な刺激によって神経幹細胞様に変化し、神経細胞に再分化する可能性が示されています。その他、傷害されてしまった神経回路を修復することで網膜機能を回復させることができるのではないかと考えています。