中心子(centriole)は中心体に含まれるオルガネラで、紡錘体などの微小管構造の形成に重要な働きをしています(下図)。実は、中心子は鞭毛・繊毛(注)の形成基部としての機能も持っていて、別名を繊毛基部体(basal body)と言います。
(注:鞭毛も繊毛も同じものです)
中心子は9組の3連微小管が円筒状に並んだ構造をしています(下図)。不思議なことに、新しい中心子はほぼ必ず既存の中心子の側面から出芽するように形成されるので、2つ並んだ中心子は母と娘の関係になっています(左図)。さらに、この特徴ある形が繊毛の内部構造(繊毛軸糸)の基本骨格を決定します(右図)。
この中心子の形が組み上がる機構や自己複製する機構は不明で、現代生物学の最大の謎の1つです。
上の図は単純化してありますが、実は中心子の構造は複雑で、構成蛋白質は200種類以上あります。このような構造の形成機構を研究するには突然変異株を用いる方法が有効ですが、多細胞の動物では、中心子を欠いた突然変異株は生存できないという大きな問題があります。
以前に、私たちは鞭毛を生やさないクラミドモナスのミュータントをたくさん単離して、basal bodyの形成に関与する遺伝子を探索するというプロジェクトを始めました。クラミドモナスのbasal bodyは動物細胞の中心子と同じ構造を持っており、細胞周期ごとに一回だけ複製されます(図2)。分裂期には紡錘体の極となりますが、そのことも中心子と同じです。
幸いなことに、basal bodyを全く失っていたり、構造が異常になっている突然変異株がこれまでに数株単離されました。その突然変異株は野生株よりは成長速度が遅いのですが、立派に増殖します。
これまでに複数の新規蛋白質の遺伝子を単離し、それらの機能を解析しました。その結果、中心子の形成にはカートホイールという車輪のような構造が足場として機能しており、それが中心子微小管の本数を9本に限定する役割を果たしていることが明らかになりました(下図)。
図の説明:クラミドモナスBld10タンパク質の局在。
Bld10タンパク質はbasal bodyを完全に欠失した突然変異株bld10の変異遺伝子産物として同定された。このタンパク質はbasal bodyの底部にあるcartwheel構造に局在する(左図の黒い点が局在を示す)。カートホイールは中心子の内側にある、傘の骨のような放射形構造で、軸(ハブ)と9本の骨(スポーク)からできている(右模式図の青い部分)。この構造はbasal body形成過程で最初に現れる9回対称性構造である。
さらに最近ではカートホイールと協調して働く微小管架橋構造についても、新しい発見がありました。
今後、このサイトでも詳しく紹介していくつもりです。