OB・OGの声

大槻 茉莉子さ中学校教員)

オペラ実習との出会い、それは入学後に目にした新入生歓迎オペラでした。声楽専攻であったため、もともとオペラ自体を何度か観に行ったことはありましたが、学生でもこんなにクオリティの高い舞台が出来るのかと感動したことを覚えています。それから間もなくして、誘っていただいたことをきっかけに、自らもオペラ実習に参加することに決めました。

参加当初は、ついに私も華々しく舞台デビューを飾るんだという期待に満ちあふれていました。しかし、いざ参加してみると、私が考えていたものとはひと味違っていました。演出家はおらず、道具や衣装も手作り、照明や字幕も一から自分たちで作っているといった具合です。キャストとして入った私は、細かな演技指導が入り、みるみる上達していく自分の姿を思い浮かべていたため、とても不安になりました。オペラをしたことがない人間からすると、どう動いていいのかわからないからです。ところが、合わせをしていく中で、たくさんの先輩方にオペラの基本を教えていただき、徐々に自信をもつことができました。

そうこうしているうちに、気付けば本番の日に。練習時の様々な葛藤と緊張とで内心大忙しでしたが、初舞台を終えた後の達成感や興奮は、今でも忘れられません。この公演を終えたら、一旦やめようと考えていた浅はかな考えも、いつの間にか吹き飛んでいました。もっと良い演技をしたい、もっと歌が上手くなりたいと強く思いました。これがいわゆる、オペ実マジックというものです。結果、卒業までに4演目ほど携わらせていただきました。特に、『子どもと魔法』公演の際に、舞台を駆け回り、バレエを踊りながら歌ったのは一番の思い出です。

正直、舞台をつくりあげるのは楽しい反面、悩むことや辛いことの方が多いと思います。はっきり言って、ブラックです(笑)。ただ、みんなで一生懸命に試行錯誤する、その時間、手間こそが今の自分の糧になっているのは間違いありません。私は、オペラ実習は、自分を成長させてくれる、人と人との繋がりを感じさせてくれる、そんな温かい場所のように思います。これから入学される方、在学生は、是非オペラ実習を受講してみてください。きっと人生が変わりますよ!

《プロフィール》

福岡県出身。県立京都高校を経て広島大学教育学部第四類音楽文化系コース卒業(2021年3月)。広島大学在学中、学内のオペラ公演にて、『魔笛』クナーベⅡ、『カルメン』メルセデス、『子どもと魔法』子ども、『セビリアの理髪師』ロジーナ等を演じる。第69回卒業演奏会出演。第9回室内楽演奏会出演。第46回北九州新人演奏会出演。東アジア文化都市2020-21北九州祝祭プレ・コンサート出演。これまでに声楽を蓮井求道、枝川一也、大野内愛の各氏に師事。現在、公立中学校教員の傍ら、北九州シティオペラ研究会員として演奏活動を行っている。北九州音楽協会会員。

藤井 菜摘さん(大学教員)

広島大学オペラ実習のユニークな点は,特定の演出家を据えず,履修生全員が何かしらの役割を持って主体的に作品創りに携わるという点です。全員が演出に携わるということは,多角的な視点からおもしろいアイデアが出る一方で,それらを一つの方向に集約しなければならないという困難さも孕んでいます。十分な共有がなされていないままに各部署が仕事を進めてしまったために一からやり直すことになったり,作品観の違いによる衝突がおこることもありました。また,同じ作品を上演するとしても,来ていただく方の層が違えば魅せ方も異なるため,一部をつくり変える必要があります。しかし,その時々に応じた最適解を求めて語り合い,先生方からのご助言をいただきながら何度も何度も何度も試行錯誤を繰り返して稽古を重ねる中で,最終的には一人ひとりが「自分たちが創った舞台」に納得感をもって本番を迎えていたように思います。


舞台を共に創った仲間と

成功を祝して

人間の心を描いたオペラの作品から考えさせられることは多くあります。オペラ実習で過ごした6年間の間に,様々な作品に歌い手として携わらせていただきました。歌い手として携わるということは,オペラの中の登場人物の人生を生きるということです。“カルメン”の人生,“魔女”の人生,“オルロフスキー”の人生…。様々な人生を生きて,その一部を第三者に魅せるという営みの中で,「人間とは何か」「音楽とは何か」「教育とは何か」という根源的な問いについてあれこれ思考しては,オペラ実習の仲間と(多くは西条の美味しいお酒を飲みながら 笑)語り合ったものです。

2016年度

オペラ『ヘンゼルとグレーテル』

2018年度

オペレッタ『こうもり』

広島大学オペラ実習の仲間たちと過ごしたたくさんの「廻り道」は,私の音楽教育観を形成するにあたっては必要な,大切な時間でした。多くを学生に委ねて見守っていただきながら,時折,核をつくような問いを投げかけてくださった先生方にも大変感謝しております。

現在は,大学教員・ミュージカル講師・大学院生(博士課程後期)・声楽家という様々な立場で音楽教育に関わらせていただいています。どの立場においても共通することは,「正解なきものを創る」ということです。広島大学オペラ実習で培った,正解のない問いに向かって全力疾走する力が,様々なところで息づいています。

勤務している大学の授業の一場面

学生たちと創ったオペレッタ公演

コンサートの様子

ティーンズミュージカルSAGAの子どもたちと

《プロフィール》

佐賀県出身。10歳よりミュージカル劇団に所属。中学校では合唱部に所属し,高校より声楽を始める。広島大学教育学部音楽文化系コース卒業(2017年3月)。広島大学大学院教育学研究科音楽文化教育学講座博士課程前期修了(2019年3月)。兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科(博士課程)教科教育実践学専攻芸術系教育連合講座在籍中。

広島大学在学中,オペラ実習の学内公演にて,『魔笛』ダーメⅢ,『カルメン』カルメン,『フィガロの結婚』マルチェリーナ,『ジャンニスキッキ』ツィータ,『ヘンゼルとグレーテル』魔女,『こうもり』オルロフスキー等を演じる。第65回卒業演奏会出演。第58回佐賀県新人演奏会出演。オンライン配信コンサートLiveS Beyond参加。野田秀樹演出『フィガロの結婚』〜庭師は見た!〜合唱エキストラ出演。その他,地域や学校での公演を幅広く手がける。

声楽を西村晴子,枝川一也,大野内愛,池田香織の各氏に師事。

現在,九州龍谷短期大学専任講師。ティーンズミュージカルSAGA講師。龍谷こども園非常勤講師。久留米工業高等専門学校非常勤講師。[音楽研修会]ぐるっぽせれーの会員。

桑本 真衣さん(介護士)

 今振り返ってみると、私にとってのオペラ実習は、大学生活の青春の一部だったと感じます。始まりは、1年生の時に観た新入生歓迎オペラでした。オペラに特段興味があったわけではありませんでしたが、素人ながらに感銘を受け、気付けば誰と話を合わせるわけでもなく、受講を希望していました。ピアノ専科でしたが、表舞台に立つ勇気はなく、裏方の仕事の中で一番興味があった照明係を選びました。始めての公演演目は、モーツァルトの「魔笛」でした。照明の細かい調整や構想、操作の練習など、準備は本当に大変でした。しかし、本番を迎え、舞台を照らしながら観る仲間の姿と、彼らが作り上げる作品に、大きな達成感と誇らしさを強く感じたのを覚えています。この感情が、私にとっての麻薬となり、気付けば抜け出せなくなっていました。

 それから約四年間、本当にたくさんの経験をさせていただきました。夜遅くまで続いた照明の調整、本番前の強化練習、先生のありがたいお話、第一線で活躍されるプロの方に受けたご指導、学外での本番、本番が終わる度に流す感動の涙、その晩の打ち上げ、翌日の1コマ授業...。大変だった思い出の方が多かったかもしれませんが、それも含め、全ての経験が私にとっての財産です。特に私は、2年間、インスペクターと呼ばれる学生のリーダーにも挑戦させていただき、広い視野や計画性、協調性やリーダーシップなど、多くのことを考える機会もありました。(今考えると、先生方の的確なご指導と放任とのバランスが、私たちにたくさんの充実感を与えてくれていたのだと思います。時には受け取るのすら難しいボールも飛んできましたが、それをいかにして投げ返すか、これがなかなか楽しかったりしたのかもしれません(笑))

 たくさんの人と一緒に、1つのものを作り上げるということ。これは、普通の授業ではなかなか経験できないことです。オペラ実習は、「音楽家として」だけではなく、「人間として」成長できる場です。音楽的な知識や技術はもちろん、主体性、想像力など、本当に多くのことを学ぶことができましたし、ここで積んだ経験で、自分自身の世界が大きく広がったのを強く感じています。私は今、介護施設で働いていますが、音楽と関係のない道に進んだ今でも、それらは全く無駄にはなっていません。

 オペラ実習には、私のように、ただただ好きで参加している人、自身の技術向上のために取り組んでいる人、その道に本格的に進もうとしている人など、それぞれ違った目的や目標をもった人がいます。オペラ実習との向き合い方もそれぞれです。違うと思ったらいつでも離れられるし、いつでも帰ってくることができる。その自由があるからこそ、いろんな人にとって特別な居場所になるのではないかと思います。

 長くなりましたが、オペラ実習で得たものが、1人でも多くの人の財産となることを、また、オペラ実習がこれからも進化し続け、誰からも愛される団体であり続けることを祈っています。

角南 ひまわりさん(他大学進学)

私は、幼いころから音楽を学んできて、ミュージカルやコンサートによく母親に連れていかれていたこともあり舞台はもともと興味がありましたが、オペラというものには大学に入るまでは触れたことはありませんでした。大学に入学して新入生歓迎公演の「フィガロの結婚」を観劇し、よく分からないながらもその時とても魅了されたことを覚えています。参加募集のお知らせが来た時は、オペラのこともよく知らない1年生のド素人がやってもいいものか、と悩みましたが、同じく興味を持っていた同級生が参加するならと、おまけのように参加を決めました。

 広大オペラの特性として、キャストやピアニスト、スタッフまでが全て同じ音楽文化系コースの学生によって構成されていることが挙げられます。そのため、普段の稽古でもお互いに意見を言い合い、先生の力を借りつつみんなで1つの作品を協力し合って完成させていきます。時には、キャストだけでなくピアニストや照明、衣装なども、プロの方のアドバイスをいただく機会があり、それを踏まえてみんなで試行錯誤を行います。教育学部で行われるオペラというこの活動から、学ぶ姿勢だけでなく、教え合うという姿勢も身に着けることができたのではないかと思っています。私は、4年間ピアニストとして携わっていましたが、ピアノのことだけでなく、キャストの稽古を見ながら意見をしたり、字幕の作成や広報活動をしたりと多方面から関わり、多くの経験と幅広い知識を得ることができました。これは私にとって、とても大きな財産になっています。時には大変だと思うこともありましたが、本番を終えると今までの辛さが全部吹っ飛んでいくくらいの充実感で充ち溢れました。指導教員である枝川先生はいつも、「プリモ・プリマを作らない公演にする」という事をおっしゃっており、音楽大学とは違うこの「キャストスタッフ全員が主役で協力し合って作り上げる」というスタンスは、音楽を学ぶだけでなく人も育てる、という面も持ち合わせているのだと実感しています。


少しの好奇心で飛び込んだこの広大オペラですが、そのおかげでとても濃い4年間を過ごすことが出来ました。私は広大オペラに携わるうちに、もっと本格的に勉強をしたいと思い、現在は国立音楽大学大学院の器楽専攻伴奏科に進学し、歌曲やオペラの伴奏について日々学んでいます。広大オペラで学んだことを基に、これから多くの経験を積み、勉学に励みたいと思っています。この広大オペラがもっともっと活躍し、多くの学生が関わり発展していけるよう心から願っております。

高橋 梢さん(オペラ歌手)

オペラ実習『ヘンゼルとグレーテル』

オペラ実習「こうもり」

ピアノの先生をしていた母親の影響で、幼い頃から歌うことが大好きで、クラシック音楽、特にオペラやバレエなどの舞台芸術に強い興味がありました。中学にあがると、部活動でクラリネットに熱中するようになり、クラリネットで音楽進学をして教師になることを夢見るようになりました。吹奏楽にとどまらず、オーケストラやオペラ、バレエの音楽に沢山触れさせてくださった顧問の先生の影響もあり、舞台音楽への憧れは強まる一方でした。


そんな中、大学に入学して目に飛び込んできたのが、オペラ実習という授業でした。私はすぐにオペラ実習を履修することに決めました。そして1年生の前期から大学院を修了するまでの6年間、広大オペラに関わらせていただきました。


音楽大学やその他の大学には見られない、広大オペラの特徴の一つは、声楽専攻生ではない副科の学生であってもオペラに関わることができ、オペラの役をいただけたり、専攻生と同じようにレッスンや稽古を受けられることだと思います。実際に、私は大学ではクラリネットを専攻していましたが、オペラ実習の授業では歌い手として何度も舞台に立たせていただき、声楽のレッスンも6年間受けることができました。その他にも照明係を務め、舞台照明家にお話をうかがったことも貴重な経験でした。

これは音楽文化系コース全体の特徴でもありますが、ほとんどの学生が教員を目指しているため、自分の専門分野だけでなく、専攻の垣根を越えて幅広く様々な楽器や音楽に触れている学生が多く、大学にも自ら望めば専門外のことでもスムーズに得ることのできる環境が用意されていました。


今、私が声楽家を志し継続して学んでいるのは、このような環境のある広島大学で滅多に得られない貴重な経験をしたからです。大学院最後の年には、オペレッタ「こうもり」のアデーレの役をいただき、ハイライトではありますが全幕を演じるという経験をさせていただきました。この公演での経験が私の人生の転機でした。広大オペラで学んだことは、今の私の大きな糧となっています。


大学院を修了してからは、1年間広島県の高等学校のとして勤務した後、上京して二期会オペラ研修所の予科に入所しました。現在は予科、本科の2年を終え、マスタークラスに通っています。親身になってくださる先生方や、歌への向上心、探究心の高い友人に囲まれ、毎日沢山の刺激を受けています。

広大オペラから始まった私の声楽人生ですが、まだまだ先は長く、勉強することが山積みで、これからのステップアップがとても楽しみです。一刻も早くコロナウイルスが収束し、そう遠くない将来、皆様の前で演奏できる日が来ることを心から待ち望んでいます。

ひろしまオペラルネッサンス

「魔笛」

レストランでのコンサート

新進演奏家育成プロジェクトにて広島交響楽団と共演

二期会オペラ研修所での稽古の様子

《プロフィール》

二期会オペラ研修所第65期マスタークラス在籍(2021年6月現在)

2015年3年

広島大学教育学部第四類音楽文化系コース(クラリネット専攻)卒業

2017年3月

広島大学大学院教育学研究科生涯活動教育学専攻音楽文化教育学専修修了

12歳よりクラリネットを始める。広島大学教育学部第四類音楽文化系コースクラリネット専攻卒業。在学中は、東広島市を中心に地域においてクラリネットの演奏活動を行いながら、オペラ実習の公演にて、「こうもり(アデーレ)」、「ジャンニ・スキッキ(ゲラルディーノ)」等演じる。25歳より本格的に声楽の勉強を始め、2019年ひろしまオペラルネッサンス「魔笛」(クナーべⅠ)でオペラデビュー。2020年日本演奏連盟新進演奏家育成プロジェクト オーケストラ・シリーズ第54回にて、広島交響楽団と共演。声楽を枝川一也、市村公子、佐藤ひさらの各氏に師事。現在、二期会オペラ研修所第65期マスタークラスに在籍中。