2023年9月22日江東公会堂 ティアラこうとう小ホールにて行われた「Symnapse第2回演奏会〜クラリネットってすごい!〜」にて初演されました。
構成は以下の通りです。
・Prelude(Choral) - 平行オルガヌムを模した完全音程による合唱
・Passacaglia - フランス風序曲のようなリズムと完全4度が特徴の主題によるパッサカリア
・Interlude I (Choral) - Rhapsodyへの導入としてトリルで装飾を施したコラール
・Rhapsody - 特定の曲を想起せざるを得ないトリルとスケール、ポルタメントによる狂詩曲
・Interlude II (Choral) - 内声に主声部が置かれたコラール
・Finale - Passacagliaと対をなすように完全5度を多用した終曲
各曲スタイルが大きく異なるものの、調性的な響きの中でこれまでクラシカルな調性音楽の中で実現されなかったチャレンジ、及び私自身のスタイルの拡張を試みています。
各Choralでは、そのメロディが現れるたびにより華やかな装飾が施されます。そのためPreludeではもっとも簡素な形としてオルガヌムで奏されます。
Passacagliaではモチーフが完全4度上行を繰り返すばかりに調性が定まらず、しかし横の流れとしては確実にカデンツが存在しています。私自身はあまり意識していなかったものの、最近推しているイギリス近代の作曲家G.Finziの影響が色濃く表れている……らしいです。P.Gowers作曲のグラナダTV「シャーロック・ホームズの冒険」のテーマ曲にも作曲当時ハマっていたのでその影響も垣間見えるかもしれません。
Interlude Iではトリルによるモードクラスターのような響きをコラールに付随させており、そのメロディを浮かび上がらせるためにベルトーン的な書法を多く用いています。
Rhapsodyは一聴するとそうとは思えないかもしれませんが、本作品の中で唯一純粋なコンテンポラリーのスタイルで書かれています。「特定の曲」の冒頭部分を構成するTrill、Scale、Portamentoの3つの要素を展開しています。
Intelude IIでは米津玄師「海の幽霊」などに聴かれるデジタルクワイア的サウンドを、同属アンサンブルならアコースティックに実現できるのではないか?というところからの発想です。そのため強奏の中B.Cl.が主声部を担当するという珍しいボイシングに至りました。
Finaleではロンド形式を援用し、クプレとしてそれまでの楽章を再現していますが、その際出てくるモチーフにはそれ以外のモチーフやセクションの要素を混ぜ込んでいます。主部では完全5度ごとに積み上げた音階を用いることで、音域によって変化する構成音とそれに伴う色彩の素早い移り変わり、加えてその中でメロディがダイアトニックに収まろうとすることで生まれるねじれをあえて組み込むことで、瞬間瞬間においては調性的な響きが続くが実際には調性的な解釈が難しい、ある意味で調性を超えた色彩を得ています。また、この部分は再現されるたびに拍子が切迫し、そのことで都度独特のリズム感を生むと同時に、どこまでが再現と認識されうるかという実験にもなっています(この思考は同演奏会で初演されたStudy IIにおける、メインモチーフの微細な変化の付け方にも共通します)。
……とつらつらと書いてみましたが、実際聴く際にこれらを意識する必要はありません。ぜひ楽しんで聴いていただき、そういえばそんな仕組みらしい、とときどき思い返していただければ幸いです。
Eb Clarinet
Bb Clarinets 1-4
Bb Bass Clarinet