デジタルゲームと異なり、アナログゲームはその場のプレイヤー同士で合意があれば、とても簡単にルールを変えて遊んでみることができます。
ゲームルールを一部でも変えてみると、ゲームの体験はさまざまに変化します。思考の優先順位、ゲームの所要時間、遊べる人の年齢層が変わったり、ゲームに対する感じ方や印象も変わることがあります。
そうした変化の中には、ルール変更を加えた時点で予想できたものもあれば、プレイしてみるまで予想できなかった意外なこともあるでしょう。ゲーム改造はルールと、ルールに規定される「体験」について、いろんな気づきを学べます。
そこで本作「植村直己 遥かわが家」では、さまざまなゲーム改造プレイを推奨しています。教育的な目的で、ゲーム制作を体験したり学んだりする講座で利用していただけるのは大歓迎です。ぜひ検討してみてください。
ゲームルールを改造する一例を紹介します。可能であれば、どの改造を試してみるか決めたら、その影響を予測してメモしておき、実際にテストプレイしてから確認してみましょう。
以下の文章は「植村直己 遥かわが家へ」の基本ルールを完全に理解している人向けの書き方になっています。実際に教室や講座で活用される場合は、まずは通常プレイを数回実施してから、改造学習に進んでください。
冒険カードを変更したり増やしたりするのは大変なので、まずは使い方などを変えてみます。次のような変更を加えると、ゲームプレイにはどんな変化が生まれそうでしょうか。
これらの例は、いずれも制作者がゲームの制作途中で検討・試験したものばかりです。2〜3個を試してみましょう。もしも制作者がそれを採用しなかった理由が想像できそうだったら、想像し、話し合ってみましょう。
【初期活力】全プレイヤーは、活力1を持った状態でゲームをスタートする
【活力保持】バースト時は活力をもらえないが、持っている活力は保持できるとする。
【活力の即補充】ビバーク時ではなく、冒険カードを引いた時点で、カードに描かれた活力をもらえることにする。
【技能のタイミング】技能カードを使うことができるタイミングを「最初の1枚目を引く前」だけに限定する
【技能の裏返し】技能カードはカード使用時に裏返さず、ビバーク時に1枚だけ変えていいことにする
【技能の消耗】1度使って裏返した技能カードをもう一度使うとゲームから「除外」され、使用できないことにする。
【捨札を全公開】捨てた冒険カードをすべて絵柄が見える表向きで並べ、山札に何が何枚残っているか計算できる状態でプレイする。
【アクシデント非公開】まず山札を自分だけ見えるように引く。ビバーク時は手札を公開してリスク超過していないことを確認してから捨てるが、アクシデントになった場合はその事実だけ告げて他プレイヤーに手札を見せずに捨てる。
【わが家カードを隠す】ゲーム準備で山札をシャッフルしたら、山札の下から5枚だけを別にして「わが家カード」とシャッフルし、山札の底に戻す。ただしこのルールでは、山札の残り枚数を数え直すことができない。
名刺サイズの紙などを使って、自分たちのオリジナル技能カードを作り、遊んでみましょう。植村直己さんや知人・友人の生きざまをヒントに考えてみてもいいですし、純粋にゲームとして良さそうな効果を考えてもいいでしょう。自由な発想で「面白そう」な技能カードを考えてみましょう。
他プレイヤーの手番スキップといった妨害的な効果を考えてみる
捨てたカードを山札に戻すような効果を考えてみる
「早口言葉を正確に言えたら〜〜できる」といったアクティビティを織り交ぜた効果を考えてみる
活力「0」で使えるけど、損する場合もあるような効果を作ってみる
ゲームバランスを考慮する
オリジナルのカード作りを楽しんだら「ゲームバランス」という概念に目を向けてみましょう。例えば、「使用活力が0で、山札を10枚引く」みたいな効果はゲームを瞬時に終わらせ、かつ「おもしろくない」といった感想を生みます。自分たちが作った技能カードとテストプレイを踏まえて次のような観点で話し合ってみましょう。
使った人が圧倒的に有利になるような効果はなかったか。あったとすれば、どんな点が「圧倒的に有利」だと感じられるのか。
使う価値や意味が薄いような効果はなかったか。あったとすれば、どうしてそのように感じてしまうのか。
効果でゲームの「おもしろさ」が変化した場合、それは何と関係がありそうだろうか。プレイヤーの選択肢の数?プレイ時間の長さ?偶然と必然のバランス?遊ぶ人の好みと傾向?
最後に、「どんな体験のゲームにしたい」という目的意識を設定して、そこに向かってルール改造を考えてみましょう。例えば、次のような目的を掲げた場合、どんなルール変更や技能カードがありえるでしょうか。いずれも「これが正解」という答えはありません。アイデアとその根拠を共有し、時間があればテストして、より良い案を探りましょう。
チャレンジ問題(小さい改造を検討しましょう)
【時間短縮】1ゲームのプレイ時間をさらに縮めたいと思ったら、どんな工夫ができそうでしょうか。1回の手番で引ける枚数が増えるよう調整したり、考えこんでもあまりわからないような運要素を高める方法などがありそうです。
【運の増減】実力が高い(記憶力や予測が完全な)プレイヤーであれば、運が悪くても勝ちやすくなるうような内容にしたかったら、どんな工夫がありえますか。逆にもっと運任せのゲームにしたい場合は、どんなルール変更が良いでしょうか。
ハイレベル問題(大きな改造が必要になります)
【5人プレイ】5人でも楽しめるように改造しましょう。
5人プレイを実現するためには、とても難しいポイントが2つ指摘できます。
ポイント1:山札が25枚で固定される場合、5人では2巡を待たず終わってしまいそうなこと。
ポイント2:最後の1枚を取ったら勝ちのルールで5人だと、手番を待つ人が「あ、もう勝てないな」という状態に陥りやすいこと。
この問題を解決するには、たとえば「同着同点を許容する」という発想から、手番制をなくしてしまい「5人が同時に次の冒険カードを引くか決断して発表」し、「アクシデントしたら脱落」といった形など、抜本的なルール変更がありえます。
ルールのすべてを改変可能だと捉え直し、頭をやわらかくして考えてみましょう。
おわりに
ゲーム改造を楽しんだら、最後のもう一度、ゲームルールと自分たちの関係を俯瞰的に見てみましょう。ゲームをプレイしているとき、そのルールが生み出す環境によって私たち自身の考え方や感じ方は、ある程度の方向づけがされています。
このことは、私たちが生きる現実でも同じです。
学校のルールや受験のルール、交通ルールや選挙のルール。身近な組織や社会が定めるルールはどんな目的を持って設計されているのか、そのルール内容は本来の目的とほんとうにマッチしているのか。改造の余地はないのか。ゆっくり考えてみましょう。
ゲームを楽しみ、ゲームルールを見つめ直す力は、今後、とても大切な力になるはずです。