プライマリ・ケア従事者のための気候変動アクションリスト
気候変動対策は緩和策と適応策の2つに大きく分けられます。
緩和策とは、気候変動の要因である温室効果ガスの排出を低減させるための対策です。
適応策とは、既に起きている気候変動による影響に対処していくための対策です。
このアクションリストでは、医療者個人、または、医療機関やヘルスケアコミュニティで取り組んでいきたい緩和策・適応策をご紹介します。みなさんが気候変動対策に取り組むための参考になれば幸いです。
1)持続可能性の高い臨床実践
2)臨床以外の医療者の心がけ
3)施設・部門での対策
- 建物、輸送、食品、消耗品・廃棄物
1)暑熱による死亡リスクおよび熱中症
2)感染症
3)気象災害
目次
日本の温室効果ガス排出の約5%がヘルスケア領域に由来し、産業部門の第5位です*1。 日本は温室効果ガス排出削減目標として2030年に2013年度から50%削減と、2050年カーボンニュートラルを掲げています*1 。これらの目標を達成するためには、ヘルスケア領域からの排出量を減らすことが不可欠です。また、ケア従事者と地域住民が連帯して緩和策に取り組むことができると、ヘルスケア領域のみならず、他の産業や家庭から排出される温室効果ガスも効果的に削減することができます。
ヘルスケア領域が取り組むべき緩和策を、1)持続可能性の高い臨床実践、2)臨床以外の医療者の心がけ、3)施設・部門での対策の3つに分けて紹介します。
それぞれの項目には重要度を記しています(★~★★★)。こちらは、以下に示す医療サービス、介護サービスで温室効果ガスの排出の内訳を参考にしています*2。
医薬品とその他の医療サービスは、医療からの温室効果ガス排出の約3割を占める*2。
持続可能な医療の原則として、
①予防医療の推進、②患者のエンパワーメントとセルフケアの支援、③低炭素なものへの代替、➃効率的サービス提供
の4つが挙げられています*3。これらに基づいた臨床を実践することが望ましいです。
個別の診療の質向上に「環境負担軽減」の視点を取り入れましょう。医療者自ら行動を起こすことで、患者や住民のロールモデルになることができます。
施設・部門の経営からの温室効果ガスの排出が過半数を占めます*5。組織のプロジェクトとして排出削減に取り組むことが望ましいです。
3R(リデュース・リユース・リサイクル)に基づき、「廃棄物の発生を減らす」、「できる限り再利用する」、「リサイクルを徹底する」を実践しましょう。
気候変動は、すでに人々の健康に多大な影響を及ぼしています。暑熱や異常気象は、熱中症や外傷、精神的なストレスをもたらすことは想像できるでしょう。その他に、心血管系および呼吸器系疾患の発症・増悪、節足動物媒介感染症の増加などが国内で深刻な問題となることが予測されています*7。
このような幅広い領域の健康問題に対してすべての人が適切な医療サービスを受けられるようプライマリ・ヘルス・ケアを整備していくことが必要です。
ここでは、ヘルスケア領域が取り組むべき適応策のうち、①暑熱による死亡リスクおよび熱中症、②感染症、③気象災害に関連するものを中心に紹介します*8,9,10。
気候変動による健康の影響のうち、国内では特に重大性の高い問題です。地域や医療福祉施設は、政府が定める「熱中症対策実行計画」などに基づいて熱中症対策を推進することが求められます*11。
気温上昇や気象災害が、水系・食品媒介性感染症(腸炎ビブリオ、ロタウイルスなど)と、節足動物媒介感染症(デング熱や日本紅斑熱、つつが虫など)の発生率に影響を及ぼすと予測されています。発生の予防とまん延の防止の対策と、感染症の発生動向の把握に努めることが大切です。
気象災害は傷病者発生をもたらす他、病院・施設等の浸水や、入通院患者・利用者の被災リスク増加、サプライチェーンの断絶などを引き起こします。
以下のような、健康課題の発生・深刻化への適応策も求められます。
心疾患、呼吸器疾患、アレルギー疾患のケア:大気汚染や花粉の飛散量の増加に伴い深刻化する
メンタルケア:暑熱によるメンタルヘルスの悪化、気候不安症
国外の災害・紛争、水・食糧不足
環境省. 地球温暖化対策計画(令和3年10月22日閣議決定). [cited 12 Dec 2023]. Available from: https://www.env.go.jp/content/900440195.pdf
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国立環境研究所 . 気候変動の影響と適応策(事業者編)医療・福祉_気候変動適応情報プラットフォーム A-PLAT. 2023 [ revised 2023; cited 20 Jan 2024]. Available from:https://adaptation-platform.nies.go.jp/private_sector/infographic/pdf/09-medical-welfare.pdf
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国立感染症研究所. 感染症発生動向調査 週報(IDWR). [cited 20 Jan 2024]. Available from:https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr.html
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