Comments on papers

■自分が書いた論文について、論文本編には書いていないコメントを残しておきます。

[1] On the functoriality of the Chern-Simons line bundle and the determinant line bundle. 

修士論文の中でやり残したことを博士課程進学直後しばらく考えていたところ副産物的に発見された結果。同等とみなされていたChern-Simons直線束と行列式直線束という2つの直線束について、写像類群の作用という一歩深い構造を込みで考えたときの差を発見した。その差を具体的に記述するためにノートを何冊も使って狂ったように同じような計算を繰り返した。主要結果の一つの証明も、今となってはどうしてこんなやり方思いついたのかナゾなテクを駆使している。よくこんな頓知思いついたなと。レフェリーから「英語の間違いがひどいから最低限スペルチェックくらいかけろ」と怒られたという甘酸っぱい思い出もある。

[2] Heisenberg action in skein theory and external edge condition. 

Blanchet-Habbeger-Masbaum-Vogelらによりトポロジカルに構成されていた(2+1)次元位相的量子場の理論を幾何的量子化の文脈で構成する、というプログラムを当時勉強していた。そのプログラム自体は極めて難解で、結局全てを理解することはできなかったが、その中の曲面のパンツ分解の双対3価グラフの組み合わせ論的な側面で何かできることはないかと考えていた。そこで、BHMVらが構成したあるHeisenberg作用を3価グラフで記述する、という問題を考えていたのだが、Masbaumと話す機会がありそこで「それ、昔やったよ。ノート見してあげる」といわれ絶望した。気を取り直してBHMV理論を勉強してその作用を組み合わせ的に特徴付けるところまでやってなんとか論文にした。結び目をやることはないと思っていたけど、思いがけずスケイン理論を勉強することになった。

[3] Torus fibrations and localization of index I—polarization and acyclic fibrations.   (with M.Furuta and T.Yoshida)

ある日師匠の古田先生に先輩の吉田さんといっしょに呼び出され「吉田君と藤田君が考えている問題に対するアプローチを思いつきました」と言われアイデアを教えてもらった。2時間ほど話を聞いて「・・・という議論で証明ができると思うんです」と。先生の話を聞いた直後は1ミリも分からなくて「な… 何を言っているのか わからねーと思うが 」状態だったんだけど、吉田さんと解読作業をすすめたところ、たしかに極めて明快でエクセレントなアイデアであった。こうしてはじまった3人の共同研究のいわばプロトタイプがこの論文。

[4] External edge condition and group cohomologies associated with the quantum Clebsch-Gordan condition. 

[2]で考察したHeisenberg作用はある群コサイクルで特徴付けられる。その群コサイクルの存在はBHMV理論により保証されるが一意性はアプリオリには自明ではない。そのコサイクルの定めるコホモロジー類は、曲面を全て考えて得られるある種のグラフのなす圏からベクトル空間の圏への関手とみなすことができ、その意味では一意的であることを示した。本質的な部分は2010年頃にできていたが、3.11の震災後に自分が何をしていいかわからない時期があり、まずはすでにできていることを論文にしてみようと書き始めたところ、圏論的な形で一意性が述べられることに気付いた。動機はともかく中身はグラフ理論か組み合わせ論という論文。

[5] Torus fibrations and localization of index II: local index for acyclic compatible system.  (with M.Furuta and T.Yoshida)

[3]で作り上げたプロトタイプを、より実用性のあるものに拡張した。2009年くらいにはすでにアイデアはできあがっていたが、実際それを形にするのにえらい時間がかかった。紆余曲折あって当初想定した形とはかなり違う形になり、論文を書くのにも3年近くかかった。投稿後はレフェリーから大幅な改訂を命じられ、さらに1年以上かけて書き直した。共著者の二人からは、技術的な面はもちろん精神的な面でも様々なことを学んだ思い入れの強い論文。

[6] Torus fibrations and localization of index III: equivariant version and its applications.   (with M.Furuta and T.Yoshida)

[5]の応用として、Guillemin-Sternbergによる量子化とシンプレクティック簡約の可換性の幾何的な証明をトーラス作用の場合に与えた。この定理自体は一般の群作用の場合に何通りかの証明が知られているが、我々の証明は指数の局所化の観点に基づいたとても自然なものになっている。

[8] Cobordism invariance and the well-definedness of local index. 

[5][6]で作り上げた理論はDirac作用素の指数の局所化という観点においてとても自然な観点を与える。その構成には多様体の開被覆とその上のトーラス束の族が必要となる。この構成から得られる指数はアプリオリには開被覆のとり方に依存するが、応用上しばしば異なる開被覆を考えることが必要となる。その要請に応えるべく、ある種の自然な条件をみたす開被覆たちに対しては得られる指数が一致することを示した。証明は理論の同境不変性からただちに得られる。同境不変性の証明はBravermanによるDirac作用素に対するものを焼きなおしたもので、オリジナリティーはあまりない。以前から我々の指数理論でも同境不変性自体は示せると思っていたが、この応用に気づいてから「えいやっ」と書いてみた。その後[10]を書く際にこの結果がとても役に立った。

[9] S1-equivariant local index and transverse index for non-compact symplectic manifolds. 

[3][5][6]で構成した理論と同様の理論がBraverman, Ma-Zhang, Paradan-Vergneらによって考察されていた。トーラス作用の状況で両者は「群作用の軌道に沿った作用素による摂動」という共通点がある。これら2つの理論の差がずっと気になっていて、それについて考えた論文。B,M-Z,P-Vの理論は非アーベル群でも適用可能というメリットがあるが、定性的には固定点への局所化公式に近い。一方で我々の理論はアーベル群作用にしか使えないが、格子点への局所化の描像を幾何的に与えるというメリットがある、ということをお知らせしたかった論文。なぜかアクセプトされてから出版されるまでえらい時間がかかった。

[10] A Danilov-type formula for toric origami manifolds via localization of index.

トーリック多様体に関してDanilovの定理という古典的な定理がある。この定理からトーラス同変なDirac作用素の指数が運動量写像の像であるDelzant多面体内の格子点へ局所化することが示唆される。[5]の指数理論を使うと、その局所化の描像を与える証明ができるであろうことは執筆時点から3人で議論していた。が、なんとなく書かずじまいでいた。2014年にRIMSの研究会にてトーリック多様体の拡張であるトーリック折り紙多様体というクラスを知った。その拡張されたクラスに対しても同様の定理が証明できるはず、ということでやった研究。ちょっと勉強してみると、実は定理自体は既存の同境定理とオリジナルのDanilovの定理の組み合わせで得られることがわかった。ただ、この論文での証明はDanilovの定理そのものの別証明も含む新しいものになっている。証明のカギの部分のミスをレフェリーに指摘されて青ざめたけど考え直したらよりよい証明にたどり着いた。

[11] Maximum Genus of the Jenga Like Configurations .

指導学生との初の共著(出版論文)。2014年度の卒業研究で枡田幹也先生の「代数的トポロジー」をテキストに輪講を行っていた際、曲面の種数の説明の例としてジェンガゲームを挙げた。「ゲーム開始時は穴が空いてないけど、ゲームを進めていくと穴ボコが増えていくでしょ」と。その時ふと発した「その穴ってどれくらい増えるんでしょうね?」という何気ない問いかけが発端となった。ひとまず卒業研究として(市販のゲームをベースにした)3列k段のゲームについて最大種数を3名の共同研究として導出してもらい、大学院に進学した畑岡さんがn列k段の状況に問題を一般化した 。畑岡さんはまずnが奇数の時を解決し修士論文(の一部)としてまとめた。その後、後輩たちを巻き込んでnが偶数の場合も解決し、無事出版論文として形になった。ジェンガゲームという非数学人にも理解がしやすい題材を用いて曲面の種数という現代数学的にも極めて重要な題材で真っ向から考察を行ったもので、個人的には卒業研究のテーマの理想形と言えると自負している。

[12] Deformation of Dirac operators along orbits and quantization of non-compact Hamiltonian torus manifolds

2019年カナダ滞在中にできた論文。しばらく気になっていたLoizides-Songによる同変指数理論とその応用としてのループ群が作用する無限次元Hamilton多様体の幾何的量子化の論文を滞在中に腰を据えて勉強していた。そこではある種のFredholm性を担保するためにベクトル 束への群作用に関する(Γ, K)-admissibilityという謎の条件が使われており、その意味とそれ無しで(我々がずっと使ってた)軌道に沿ったDirac作用素による摂動で同じようなことができないかを考えていた。その意味については、LoizidesがTorontoに来た際にいろいろ聞いてみて、本人も「あれこれいじっててなんとか捻り出した条件でキレイなものではない」みたいなことを教えてくれた。我々のやり方でなんとかできないかと考えてKK理論の創始者であるKasparov先生の論文を眺めていたところ、orbital Dirac operatorという名称で我々が使っていた摂動項と似たようなものが登場していた。あとでrefereeに指摘されて気づいたんだけど、似てるけど結構違いはある。そこで、2019年11月頃にこのorbital Dirac operatorを摂動項としてこれまでの我々の構成を行ってみようと方針転換してみた。いろいろmodifyや新しい定式化は必要だったけど、同じような方針でFredholm性が手に入り、さらにK-homologyについても少し勉強してみて、同変指数だけでなくK-homology cycleが手に入っていることもわかった。さらにさらに、長年疑問だったBraverrman型の摂動との一致も(ちょっと別の形で)示すことができた。不等式評価をやる時はいつもそうなんだけど、押さえつけた/拾えたと思ったとこがまだできてなかったりすると、掌から水がこぼれるような感覚に陥る。今回も何度もその感覚を味わった。ちなみにいつも通り我々のやり方ではトーラス作用にしか使えないんだけど、書き終わったあと眺めてみたら非可換群作用でもいける!と思ってそう書き直して投稿したところ、refereeにこれ可換じゃないとダメじゃね?と指摘されあっさり後退したという苦い思い出もある。最終的にCanadian Journal of mathに出版されたのもめでたしめでたしであった。

[13] The generalized Pythagorean theorem on the compactifications of certain dually flat spaces via toric geometry

2020年コロナ禍で在宅時間が増えた際、なんとなく流行っているからという不純な理由で情報幾何学の勉強を始めた。勉強と言ってもテキストを眺めたりする程度であったところ、2022年度本学で東條広一さん(理研AIP)が統計関係の授業の非常勤講師をして下さることになった。大学院向けの授業で情報幾何の授業をされるとのことで、潜り込んで教養を高めつつ自分の興味を話したりしていた。ある時東條さんから「最近こういう論文を見つけたのですがご存じですか?」とM.Molitorによる論文を紹介された。そこではトーリック多様体と情報幾何で重要な双対平坦構造の関係が論じられており、目を通してみるとトーリック幾何で出てくる量(Guilleminポテンシャル)が情報幾何でどのような位置付けにあるかなどが書かれており、これは!と感動した。実は双対平坦構造とケーラー幾何には古くから類似性が知られており、それが双対平坦多様体の研究のある種の指針を与え、Molitorの論文はその亜種に位置付けられる。ただ、トーリック幾何に馴染みがある者としては不満があった。トーリック多様体の面白さは退化したトーラス軌道(ファイバー)の部分に面白みがあると思っているのだが、Molitorの論文ではそこを除いた部分の議論しかされていなかったのである。そこで、退化軌道も含めて何かできないかと考えてできたのがこの論文である。数学的にはトーリック多様体に対応するDelzant多面体の内部に自然に定義される双対平坦構造のダイバージェンスを境界まで拡張し、基本的な性質である拡張ピタゴラスの定理を境界まで拡張した、という結果である。双対平坦構造の計量は境界まで拡張できなくても、トーリック多様体に持ち上げることでピタゴラスの定理に必要な直交性を担保する、という点が肝である。幾何の人はもちろん、東條さんの周辺の統計関係の人などにも興味をもってもらったり、さらにはSYZミラー描像との関係でミラー対称性周辺の人にも興味を持ってもらうことができた。

■こうして並べてみると研究内容に統一性がないように見えるけど、そのときそのときの問題意識に素直にしたがって自然にやってきたらこうなったので、まぁいいかな。