イソツツジ亜節の永久凍土環境への適応 Adaptive strategies of Labrador-tea species in permafrost environments (2022~)

周北極域に広く生育する低木種Labrador tea (Rhododendoron subsect. Ledum; イソツツジ亜節)を対象に、「永久凍土環境において、優占度の高い低木種がどのように適応しているのか」を明らかにすることを目指し、生理生態学・系統地理学の両側面から研究を進めています。

広範囲に生育するR. groenlandicumR. tomentosum

アラスカ永久凍土上トウヒ林における永久凍土融解実験と土壌呼吸速度 Soil-warming experiment and Soil respiration in a spruce forest under permafrost condition in interior Alaska(2021~)

北方林における永久凍土融解の影響を評価するために、土壌昇温システムを開発し、アラスカ内陸部のクロトウヒ林にて永久凍土融解実験を行っています(PI: 小林秀樹研究員, 海洋研究開発機構)。並行して、昇温による土壌CO2放出量の変化(北大低温研と共同開発の自動開閉チャンバー)や植物形質の応答をモニタリングしています。

ハワイフトモモにおける葉トライコームの生態学的意義 Ecological significances of leaf trichomes in Metrosideros polymorpha(2014~)

ハワイの広範囲に生育する常緑樹木種ハワイフトモモ(Metrosideros polymorpha)の葉形質の適応的意義を評価しています。ハワイフトモモは、海岸沿い~森林限界、乾燥地~湿潤地、遷移初期~後期といった幅広い環境に生育しており、環境に応じた顕著な種内変異を有していることから、適応進化のモデル樹木として注目されています(ダーウィンフィンチ樹木ver.!)。

葉形質の中でも特に顕著な変異を示す葉の毛状突起(葉トライコーム)に注目し、その生態学的意義を多角的に評価し、少なくとも3つの機能:①拡散抵抗増大、②要面濡れ促進、③被食防衛、が重要であることを明らかにしました。

葉の裏に顕著な葉トライコーム。湿潤環境では無毛個体が卓越する一方、乾燥高地では非常に密生した葉トライコーム(葉重の最大40%)をもつ有毛個体が優占する。

①拡散抵抗増大及び葉温保持の機能 Diffusion resistance & leaf temperature

一般に「葉トライコームがあると葉表面に空気のよどみが生じ、物質の移動(拡散)が抑制され、気孔からの蒸散も抑制されるので、水ロスを抑えることができる」という説があります。

しかし、実際にその抑制程度を表す拡散抵抗を推定すると、葉トライコームの影響が非常に小さいことがわかりました。(Amada et al. 2017, Biotropica)

さらに、ガス交換よりも熱交換への影響が非常に大きく、葉温の上昇を介して、水分ロスを抑えるどころかむしろ促進してしまうことが示唆されました。一方、気温の低い高標高地であれば、光合成を促進する効果もあることが示唆されました。(Amada et al. 2023, Tree physiology

トライコーム抵抗の割合(Amada et al. 2017)

葉トライコーム抵抗がガス交換に及ぼす影響のイメージ図(Amada et al. 2023)

②葉面濡れ促進機能 Leaf wetness & Foliar water uptake

葉面吸水促進効果を評価するために、葉トライコームによる葉面濡れへの影響、葉面吸水への影響、光合成への影響を評価しました。(In prep.)

③虫こぶ形成キジラミに対する被食防衛機能 Defense against gall-making psyllids

ハワイ生息するハワイキジラミ(Pariaconus spp., Percy 2017)は、ハワイフトモモのみを寄主しながら36種以上に種分化しており、種毎に多様な形態の虫こぶを形成します。

本研究では、その内ハワイ島にてよく見られる3種の虫こぶ(3種のキジラミ)に注目し、大きい虫こぶによる水分ロス効果が大きいことを明らかにしました。また、これらの大きい虫こぶは葉毛量と負の相関があったことから、「被食防衛を介して水分ロスを抑えることで乾燥適応に貢献している」可能性が考えられました。(Amada et al. 2020, Annals of Botany

3種のハワイキジラミが形成する虫こぶ(Amada et al. 2020)