食品には「しょっぱい」や「あまい」などの化学的な味だけでなく、「やわらかい」や「かたい」などの物理的な味の両方があります。実は食品の「おいしさ」の半分以上は物理的な味によって決まると言われています。従って、食品の物理的な味を制御する技術は極めて重要です。
ところが、多くの食品は生体高分子や生体高分子と細胞の組み合わせでできており、これらの複合素材は非平衡状態にあるため物理的な味(化学的な味も)が加工条件だけでなく製造してからの時間によっても変化していきます。これは非常に厄介な性質であり(同時に興味の対象でもあります)、再現性の良い食品の製造を実現するために解決しなければいけない課題の一つです。
そこで私たちは、ゼリー状食品の加工条件とレオロジー特性との間の関係を時系列データとして系統的に調査することで、食品の物理的な味を再現性良く制御する技術を確立することを目的とした研究を行っています。
私たちの体の中の組織や臓器は複雑な階層構造をもつ細胞と細胞外基質の巨大な集合体です。組織や臓器の階層構造はその機能と密接に関連しています。また、一つの組織や臓器は数十億から数千億もの細胞からできていて、これらの細胞の維持には血流によって運ばれてくる十分な酸素や栄養素が必要不可欠です。そのため、機能的な再生組織を構築するためには、組織や臓器の階層構造を再現しつつ、酸素や栄養素の輸送経路となる血管網を配備する方法を確立する必要があります。
コラーゲン水溶液をリン酸緩衝液中に透析すると多管構造を持つコラーゲンゲル(マルチチャネルコラーゲンゲル:MCCG)が形成されることを私たちの研究室で発見しました(Furusawa et al., Biomacromolecules, 13, 2012, 29-39)。MCCGの多管構造は生体内の血管の分岐構造をとてもよく模倣しています。また、偏光板を使って観察すると、MCCGは複屈折を持つことがわかります。このことは、MCCGを構成するコラーゲン線維が配向していることを示しています。したがって、MCCGはコラーゲン線維の配向と生体模倣的な多管構造の両方を持つ、複雑な階層構造を持った素材であると言えます。さらに、コラーゲンは細胞外基質の主成分であることから、特殊な表面処理をしなくても細胞が接着することができます。このような特徴から、MCCGを細胞足場素材として用いることで、酸素や栄養素の輸送経路を配備しつつ、組織や臓器の階層構造を再現することができると私たちは考えています。
既に私たちの研究室では、MCCGを用いて再生骨組織や再生上皮管腔組織を構築することに成功しています(Hanazaki et al., ACS Applied Materials & Interfaces, 5, 2013, 5937-5946; Yahata et al., ACS Biomaterials Science & Engineering, 3, 2017, 3414-3424; Koh et al., Scientific Reports, 8, 2018, 13901; Furusawa et al., ACS Biomaterials Science & Engineering, 1, 2015, 539-548)。現在、私たちの研究室では、複雑な階層構造を持ち、厚さが数センチメートルを超えるような巨大な再生組織を構築することを目的とした研究を進めています。私たちの研究の最終的な目標はまるごとの臓器を再生することです。このような夢の再生医療技術の確立に挑戦したいと考えている学生の皆様、私たちと一緒に臓器を作ることに挑戦してみませんか?
私たちは既に複雑な階層構造を持つ再生組織の構築技術を有しています。では、これらの再生組織を組み合わせたら何ができるのでしょうか・・・?例えば、脳と同じ機能を持つ小さな再生脳をつくれたとして、それを再生筋組織や再生心臓と組み合わせたら何が起こるのでしょうか?もはやそれは単なる細胞と生体高分子の寄せ集めと呼べるものなのでしょうか?現在私たちが行っている研究は、このような「生き物とは何か?」という生物学の根本的課題に迫るものです。