論文紹介5〜細胞外基質を見てみよう!〜 今回ご紹介させていただいた論文は、Antonio et al., Live imaging of the extracellular matrix with a glycan-binding fluorophore, Nature Methods, 2025. です。https://www.nature.com/articles/s41592-024-02590-2 細胞外基質とは、細胞の外部を取り巻く構造体の総称であり、主にコラーゲン、ラミニン、プロテオグリカンなど線維状のタンパク質から構成されています。細胞外基質は全身に分布しており、細胞の足場として機能したり、近年は増殖や分化をも制御したりしていることが明らかにされ始めています。また、過剰な細胞外基質の蓄積は線維化を引き起こし組織の機能の低下にも関与しています。こうした知見が続々と報告され始めてはいるものの、細胞外基質を構造的に可視化する技術は確立されていませんでした。 細胞外基質のイメージングの障害となっていた点の一つは、構成成分の分子量や種類が雑多であることでした。現在、抗原抗体反応による蛍光イメージングが広く行われていますが、こうした手法では細胞外基質のうち特定のものしか標識することはできず、「細胞外基質そのもの」を構造的に捉えることはできません。そこで筆者らは、細胞外基質を構成する種々のタンパク質に付着している糖鎖と結合する小分子Rhobo6を作製しました。Rhobo6は十分に小さい構造であるためそれ自体が細胞外部の限られたスペースにも浸透することができ、さらに糖鎖と結合すると、非結合型とは異なる励起光・蛍光を有するようになりノイズの少ないシグナルを検出することが可能です。また、生理学的な範囲内のpHで電離しており、これによって細胞膜の透過性が極端に低下し細胞外部に局在します。 実際にRhobo6を用いると、糖鎖依存的に結合して蛍光を発することが確認されました。糖鎖を介して細胞外基質を間接的に可視化しているため、特異性は喪失しているものの、細胞外基質という構造そのものを従来にはない制度で捉えることが可能となりました。また、単に細胞外基質を見るだけでなく、がんモデルマウスの観察から、健常織とがんに侵された組織を形態学的に見分けることが可能であると証明されました。現段階では細胞外基質そのものを見ることに留まっていますが、今後様々な技術と組み合わせることで構成成分の見分けもつくようになればさらに多くの発見につながるはずです。なんだかよくわからないけど重要そうな細胞外基質に魅了される今日この頃です。
2025年2月12日 担当:古市(今年度、古市もJCの順番に入って発表していました)
若返り薬 マイクロRNAは、20数個の塩基からなる短い核酸で、遺伝子をコードすることはありませんが、特定の遺伝子のmRNAに結合して、その発現を抑制することで遺伝子の発現を調節します。さらに、マイクロRNAはエクソソームという小さな小胞に包まれて細胞外に分泌され、他の細胞や組織に取り込まれることで、その細胞内で遺伝子発現を調節することが分かっています。 今回紹介する論文では、ES細胞由来のエクソソームに含まれるmiR-302bが老化した細胞を若返らせるという研究結果が報告されています。タイトル通り「若返る」とは少し安易な表現に思えるかもしれませんが、論文の内容を読むと、実際にその通りの結果が得られています。細胞は分裂を繰り返すうちに、細胞周期が停止して増殖しなくなったり、炎症系サイトカイン(SASP)を分泌して「老化」します。しかし、著者たちはES細胞由来のエクソソームに若返り因子が含まれていると仮定しました。 実際に、ヒトES細胞由来のエクソソーム(hESC-Exos)を老化した培養細胞に加えると、停止していた細胞分裂が再開し、増殖能力が回復しました(FACSによる細胞周期解析、RNA-seq、p21-YFP細胞解析などで確認)。また、hESC-Exosをマウスに静脈注射すると、寿命だけでなく、運動機能や認知機能も改善されました。そのメカニズムとして、老化によって上昇するCdkn1aとCcng2の発現が、エクソソームによって抑制されることが示されました。 さらに、hESC-Exosに含まれるmicroRNAを解析した結果、miR-302b-3pが最も多く存在していることがわかりました。AGO2を用いたCLIP-seqでmiR-302bが結合する標的遺伝子群を特定し、その中でCdkn1aとCcng2の3’UTRに結合して発現を制御していることが明らかになりました。詳細は省略していますが、ここが僕にとって特に面白かった部分です! miR-302bを投与したマウスでも、hESC-Exosと同様に若返りが観察されました。具体的には、寿命の延長、脱毛の回復、運動機能の向上、認知機能の改善が確認されました。この結果は、期待通りすぎるほど理想的でした。miR-302bは臨床応用に向けた研究が進められるでしょうが、細胞増殖を促進するため、腫瘍の進行に関する安全性の検証が必要だと述べられています。 本研究室でも分泌型のマイクロRNAについて研究を進めており、この論文は非常に参考になりました。ミーティングでも詳細な議論が交わされ、今後の研究に活かせそうです。 参考文献: Bi, Y. et al. (2025). Exosomal miR-302b rejuvenates aging mice by reversing the proliferative arrest of senescent cells. Cell Metabolism, 37(2), 527-541.e6. https://doi.org/10.1016/j.cmet.2024.11.013
最適な足場材料が生体内にはあるじゃない! タイトルは若干のミスリーディングですが、今回紹介させていただいた論文は、Kristen, et al., Myoscaffolds reveal laminin scarring is detrimental for stem cell function while sarcospan induces compensatory fibrosis, npj regenerative medicine, 2023. です。 https://www.nature.com/articles/s41536-023-00287-2