分析技術
核酸の分離と解析
核酸はタンパク質と結合しているので除タンパクする。核酸水溶液をフェノールまたはCHCl3-イソアミルアルコールと振り混ぜると、タンパク質は沈殿する。大きなDNAは機械的に分解されやすいので注意する。また、タンパク質を界面活性剤や高塩濃度で解離させ、プロテアーゼで分解する方法もある。
除タンパク後、エタノールを加えると核酸(RNA+DNA)は沈殿する。RNAを得るには混在するDNAを膵臓デオキシリボヌクレアーゼ(DNase)で分解し、DNAを得るにはリボヌクレアーゼ(RNase)でRNAを除く(核酸分解酵素)。(核酸を扱う場合、実験材料やヒトの手に核酸を分解するヌクレアーゼがあるので、器具は加熱処理し、ゴム手袋を使用する。)
一般的には,プラスミドDNAが核酸DNAとしてよく用いられる。この精製にはタンパク質の分析や精製で用いられる方法が利用できる。また,DNA,RNA, タンパク質は,それぞれUV(紫外線)の吸収があり,紫外線吸収を測定することでその濃度を測定することができる。
260 nmにおける吸光度(A260=1)となる核酸濃度は,DNA:50 ng/µL, RNA;40 ng/µLである。また,タンパク質は,そのアミノ酸の組成による。
ヌクレアーゼ
ヌクレアーゼ(nuclease)はDNAやRNAを処理するために利用される。RNAを分解するものをリボヌクレアーゼ(RNase)、DNAを分解するものをデオキシリボヌクレアーゼ(DNase)という。
5'または3'末端から順にヌクレオチドをはずしていく酵素をエキソヌクレアーゼ(exonuclease)、ヌクレオチド鎖の途中を切断する酵素をエンドヌクレアーゼ(endonuclease)という。ヌクレアーゼはホスホジエステル結合のどちら側を分解するかで、次の2つがある。
DNaseの場合、一本鎖を切断する酵素と、二本鎖を切断する酵素がある。
電気泳動
核酸の分離にはアガロースゲルやポリアクリルアミドゲルを担体とした電気泳動がよく利用される。核酸はリン酸基に起因する負の電荷をもつので、常に陽極に移動する。この時、短い断片ほど速く移動する。DNAの検出には臭化エチジウムが用いられる)。
アガロースゲル電気泳動は約50kbが分離の限界である。非常に大きなDNAにはパルス電場(PEG)電気泳動が用いられる。これは、一定時間ごとに電場をかける方向を60~90度変化させる方法で、アガロースゲル内で短いDNAほどrealignし易く、泳動速度が速いことを利用したものである。この方法で10,000kbまでのDNA断片が分離できる。
アガロースゲル電気泳動(左)とポリアクリルアミドゲル電気泳動(右)
DNAの染色に用いられる臭化エチジウム(ethidium bromide)
DNAに結合すると蛍光を出す。
ブロットティング
電気泳動のゲル中で分離したDNAやRNA断片あるいはタンパク質をニトロセルロースなどの人工膜に写しとる。
【種々のブロッティング】
(a) サザン(Southern)ブロッティング
標識したmRNAやcDNAでDNA断片を検出する方法
(b) ノザン(Northern)ブロッティング
標識したcDNAでmRNAを検出する方法
特定のmRNAの(i) 鎖長の解析、(ii) 組織分布、(iii)発現の有無や量の解析に利用される。
(c) ウェスタン(Western)ブロッティング
標識した抗体でタンパク質を検出する方法
★標識法としては、放射能標識以外に蛍光標識がよく利用される。Westernブロッティングでは、酵素標識法や化学発光法も使われる。
DNA塩基配列解析
化学的分解法(Maxam-Gilbert法)
(例)次の13残基のオリゴヌクレオチドの構造決定を行うこととする。
5' ATCGATTCTCGGA 3'
1) まず、このオリゴヌクレオチドの5'末端を32Pや33Pで放射標識する(●)。
5' ●-ATCGATTCTCGGA 3'
2) この試料溶液を4等分し、次の4種の化学分解を行う。
この条件では、特定の塩基のところでランダムに切断が起こり、反応液中に以下のような放射標識断片が生じる。(標識されていない断片もたくさんできるが,検出できないので考えなくてよい)
3) これら4つの試料をポリアクリルアミドゲル電気泳動にかける。各々のDNA断片はサイズだけで分離される。
4) ゲルのオートラジオグラムを作成する(X線フィルムに露光すると、例の場合、図のようになるであろう。
5) 図の泳動先端(図の下端)のバンドから順に上にバンドの位置をたどっていくことで、目的DNA断片の5'→3'方向の配列を決定できる。(ただし、C+TとCの同じ位置にバンドがある場合はCとなり、C+TにはあるがCにバンドがない場合はTとなる。G+Aについても同様。)
Sanger*法, 鎖終結法
(* インシュリンの1次構造決定でノーベル賞を受賞した人)
大腸菌DNAポリメラーゼIのKlenowフラグメントを用い、配列を決めたい1本鎖DNAの相補的コピーをつくる。この時、DNA合成に必要な4種のdNTP(dATP, dGTP, dCTP, dTTP)以外に、DNA阻害剤である2',3'-ジデオキシヌクレオシド三リン酸(ddNTP)を少量反応液に加える。ddNTP(terminatorという)が取り込まれると、DNA合成は停止する。反応の停止はランダムな位置で起こるので、鎖の長さの異なる様々な断片が得られ、あとは化学的分解法と同様な考え方で配列を決定する。
1) まず、配列を決めたい1本鎖DNAの3'末端に相補的な短いオリゴヌクレオチドをプライマーとして準備し、プライマーの5'末端を33Pや35Sで放射標識するか,または蛍光色素で標識する。
2) 配列を決めたい1本鎖DNA溶液を4等分し、標識プライマー、4種のdNTPを加える。これらにterminator(ddNTP)を1種ずつ加える。
3) DNAポリメラーゼIのKlenowフラグメントを加えて複製を開始する。
->加えたddNTPのため、鎖伸長はランダムな位置で停止する。
4) これら4つの試料をポリアクリルアミドゲル電気泳動にかける。各々のDNA断片はサイズだけで分離される。
5) ゲルのオートラジオグラムを作成する。
6) 図のように、泳動先端(下端)のバンドから順に上にバンドの位置を辿っていくことで、目的配列の相補鎖の5'→3'方向の配列を決定できる。
これを目的配列(鋳型鎖)に読み替えるには、読みとった配列をひっくり返せばよい。
蛍光標識法を用いる塩基配列決定の自動化
Sangerの原法では、実験ごとにプライマーをいちいち放射標識する必要があり、大変面倒である。波長の異なる蛍光発色団でterminatorを標識することにより、迅速で簡便な塩基配列決定法が開発された。
[蛍光標識terminators]
ddATP-① 蛍光,ddTTP-② 蛍光,ddGTP-③蛍光, ddCTP-④蛍光 ----波長の異なる4種の蛍光発色団(実際には、rhodamine系蛍光色素)
≪蛍光標識法の手順≫
先ず、配列を決めたい1本鎖DNA、プライマー、4種のdNTPを含む溶液に、波長の異なる蛍光色素で標識した4種のddNTP混合物(terminator)を加える。
DNAポリメラーゼで鎖を伸長させる。加えたterminatorによって、鎖伸長はランダムな位置で停止する。
試料をゲル電気泳動にかける。
ゲルにレーザー光を当てて蛍光バンドを検出する。
検出したバンドの情報をコンピューターで処理し、ピークとして表す。
《蛍光標識法の利点》
1. プライマーを標識する必要がない。
2. 反応は1本の試験管で行える。
3. 電気泳動も1試料1レーンですむため、バンドの物理的なゆがみによる読み取り誤差がない。また、大量の試料を一度に処理できる。
4. 放射能を使用しないので、いつでも実施でき、また、放射性廃棄物を出さない。
5. オートラジオグラフィーが不要。
6. 自動化ができるので、迅速で簡便。
転写制御因子などのDNA結合タンパク質の検出
1) ゲルシフト法(電気泳動移動度シフト解析: electrophoretic mobility shift assay, EMSA)
タンパク質(転写制御因子)が結合すると、分子サイズが大きくなり電気泳動におけるDNAの移動度が低下することを利用した転写制御因子の検出法。32Pで標識したDNA断片と転写制御因子を混ぜ、ゲル電気泳動にかける。オートラジオグラフィーでDNAの位置を見ると、因子の結合したDNAはゆっくり動くので、通常のバンドよりも遅れて移動するバンドとして検出される。DNAのほんの一部に結合があっても検出でき、DNA結合反応の定量的解析ができる。
2) DNase I フットプリント法
DNA分解酵素の一種であるDNase I (デオキシリボヌクレアーゼⅠ)は裸のDNAを分解するが、タンパク質と結合したDNAは分解しない。この性質を利用して、転写制御因子が結合するDNAの領域を決定する方法である。一端を32Pで標識したDNA断片と転写制御因子を混ぜ、少量のDNase Iを低温または短時間作用させて部分的にDNAを分解する。電気泳動とオートラジオグラフィーでDNAの断片を調べる。標識末端からのDNA長に従ってはしご状のバンドが見えるが、転写制御因子が結合した部分ではDNAが切れないために断片が生じず、はしご状のバンドの一部が足跡(footprint)のように抜ける。同じDNA断片をMaxam-Gilbert法で処理したものと比較することで、抜け落ちた領域が決定できる。
ツーハイブリッド法
タンパク質間の相互作用を遺伝子(転写因子活性)で調べる方法。転写因子のDNA結合部位(DBD)と転写活性化部位(TAD)は別の分子上にあっても、それらが結合すれば転写因子活性が出ることを利用。レポーター遺伝子としてはb-ガラクトシダーゼ遺伝子がよく用いられる。