バクテリアは、粘性が支配的な低レイノルズ数環境,例えばドロドロな液体で満たされた流体輸送用の配管など,の中を効率的に遊泳できる特異な運動機構を備えています。本研究では、その運動原理に着目し、らせん状のべん毛を変形・回転させて推進する遊泳ロボットの開発に取り組んでいます。
キーワード:鞭毛、低レイノルズ数、細径管、遊泳ロボット
近年、医療・環境・インフラ分野において、高粘性流体や狭小空間内でのロボットの移動技術が強く求められています。特に、ドロドロとした粘性の高い液体で満たされた細い配管内部などでは、従来の推進機構では移動効率が著しく低下し、実用的な遊泳が困難です。
一方、自然界のバクテリアは、極めて小さなスケールでありながら、らせん状の鞭毛を巧みに使って低レイノルズ数環境を効率的に遊泳しています。さらに近年の研究では、一部のバクテリアが鞭毛を自らのボディに巻き付けるように変形させることで、壁面近傍での推進効率を高めていることが報告されています。
このような生物の知恵に学び、私たちは鞭毛を体に巻き付けた構造を模倣した「バクテリア型ロボット」を開発することで、狭く粘性の高い環境下でも効率的に移動可能なロボット技術の確立を目指しています。本研究は、これまでのロボット工学にはなかった新たな流体環境適応型遊泳メカニズムの解明と応用につながると考えています。
高粘性流体中での推進効率や壁面近傍・狭小空間における移動特性を解析し、実験と数値計算の両面から設計最適化を進めています。また、べん毛を体に巻き付けた構造や管内遊泳を想定した設計など、複数の形態を比較しながら、高粘性環境下に適した移動戦略の解明を目指しています。 このようなバクテリア型ロボットは、医療用カプセルデバイス、マイクロマニピュレーション、管内点検など、ミリスケール以下での移動技術として幅広い応用が期待されています。
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