熊本県神社庁球磨支部六部会研修会資料
と き 令和5年9月3日(日)11時15分~
ところ 春日会館
講 話 「不活動宗教法人になったらどうなる?」
講 師 深田阿蘇神社宮司 北川賢次郎氏
目 的 小さな規模の宗教法人神社は、将来法人格の滅失の危機にある。それは神社が不活動になった場合である。神社の氏子総代のみなさんが、自分の神社の現実を知り、もしも神社が不活動神社になりそうな場合となった場合、将来どのような選択をしなければならないかを学習することで、神社の運営、維持管理について役立てることを目的とする。
宮司に任しとけば安心だ、しかし宮司がいなくなって、次の宮司の就任が決まらない場合
二十年後、神社の本殿は立っていますか、本殿が腐朽し再建されない場合
●宗教法人とは
あなたの神社は宗教法人ですか? 宗教法人とは、宗教法人法により法務局で法人として登記したもので、三人以上の責任役員を置き、その中の一人が代表役員として法人を代表。その代表役員は宗教法人「神社本庁」庁規で宮司がなることが決められている。宗教法人に認可されると、固定資産税、お守り等の頒布、活動費等が免税になり優遇される。
●不活動宗教法人とは
宗教法人として設立されながら、代表役員(神社では宮司をいう)の存在してない場合や礼拝施設の滅失等(本殿がない)の理由により、 実態として宗教活動を行っておらず、法人格のみ存在している状況に陥っているもの。
《これまでの不活動宗教法人の判断》
・宗教法人法に定める解散命令の事由(※下記)を目安に、各所轄庁(県庁)が判断。
①1年以上にわたって宗教活動をしていない。
②やむを得ない事由がないのに、礼拝の施設が滅失してから2年以上に わたってその施設を備えない 。
③1年以上にわたって代表役員(宮司)及びその代務者がいない。 ※(責任役員の補充ができていない)
(宗教法人法第81条第1項第2号後段~第4号)
これまでは、把握することが困難であった。
なので、文化庁が不活動宗教法人の把握について、本気に取組みをはじめた。
《文化庁の取り組み》国会で宗教法人法の適正な遂行について論議があって、総理等から指示がだされた。(統一教会)
1.事務所(社務所)備付け書類の提出の徹底について要請 ・宗教法人法第25条第4項に基づき、宗教法人は、事務所備付け書類を毎年度所轄庁に 提出する義務がある。法に基づき、書類の提出がなされない法人には督促を徹底する。 ・督促を行ってもなお事務所備付け書類が提出されない法人に対しては、法に基づき、 確実に過料の手続を実施する(
※備付書類とは、収支決算書、財産目録、神社の規則、認証書、役員名簿、境内土地建物に関する書類、責任役員議事の書類
2.不活動宗教法人の確実な把握・整理の加速化を要請 ・文化庁において明確化した「不活動宗教法人の判断に関する基準※」に基づき、不活動宗教法人に当たるものを迅速に判断し、事実関係を確認の上、すみやかに整理を進める。 ※連絡先不明で所轄庁として活動を把握できないもの、事務所備付け書類を連続して提出しないもの 等
・不活動宗教法人として判断したものについて、宗教法人法に定める解散命令事由に当たると認められた場合には、原則として、解散命令請求の手続を進める。 合併や任意解散を検討していたなど、個別事情のある場合は、別途適切に対応する。
・不活動宗教法人の具体的な整理の手順については、別途、文化庁で手引きを定める。
《課題を踏まえた対応方針》
○ 今般明確化した不活動法人の判断基準を踏まえ、当てはまるものを 不活動宗教法人と判断。
○ 不活動宗教法人としたものについて、解散命令事由に当たるか どうか、事実関係を確認する。 (その過程で、活動が確認できたものは除外する)
○ 解散命令事由に当たると認められると判断したものについては、 所轄庁(県庁)として解散命令の請求を行う。
《基準の例》
・ 連絡先不明で所轄庁として活動を把握できないもの
・ 事務所備付け書類を連続して提出しないもの 等 ※事務引継ぎがうまくいってない。
《予防措置の必要性》
○ 所轄庁による整理等が必要になる前に、不活動状態に陥らないための予防に努めていただくことが望ましい。包括法人と被包括法人の連携も重要。神社本庁と熊本県神社庁、支部、各神社の連携。
《不活動状態に陥るきっかけの例》
○ 礼拝施設が災害等で滅失した後、再建しなかった。
○ 信者等の法人関係者の減少により、宗教活動が停止した。
○ 代表役員や責任役員が欠員となった後、新たな役員又は代務者を置かなかった。
〇 兼務神社(他神社の宮司が兼ねる)の場合、責任役員が、事務上の引継ぎをしていなかった(要点が引き継がれていない場合)。
特に、法人としての意思決定ができなくなり、不活動状態に陥るケースが多い。
役員や関係者の間で、法人化していることの意味や、不活動状態に陥った場合の リスクについて認識を共有できているか?法人の現状に合わせて、組織や規則をこまめに見直すことが重要。
〇 神社と氏子の距離が離れてしまっていて、神社へのニーズがなくなってきた。
〇 神社組織が低下している。代表役員(宮司)、責任役員、総代役員は名誉職(基本、無給)なので、なりたがらない。
〇 代表役員である宮司のみが、神社の運営、采配を執っていると、宮司がいなくなったとき大変困ることになる。
《不活動宗教法人になった場合の選択》
●不活動宗教法人になった原因と選択
〇 宗教法人法を守らなかった。宮司がいない。責任役員がいない。神社運営が不活動。必要な提出書類の提出を怠っている。管理者と連絡がとれない。 → 所轄庁(県庁)からの法人解散の勧告がある。従わない場合 → 任意解散するか、解散命令が発令される。
〇 神社本庁、神社庁は、先ずは当該神社の存続を模索し、やむを得ない場合は、近隣神社に吸収合併。困難な場合は、法人解散に進むことを助言。
●いざ解散となれば
〇 神社の建物や土地、立木、什器の財産は、主として氏子のものだから、財産処分となるが、もめる基に。国有となる場合もある。
〇 法人を解散し、近隣の神社に吸収された場合は、その神社の氏子となってその神社の発展に貢献することに。神社は末社扱いとなり、結局、維持管理はかわらず、会費を二重に納めることに。メリットは、免税で優遇はされるが。
〇 法人を解散したら、末社の神社まで影響をうける。末社を宗教法人にする、しない? 簡単に宗教法人を取得できない。解散した神社の土地は、固定資産税が課されることも。有志で神社財産を取得し神社を残した場合もあり得る。
●本殿の解体改修
〇 本殿が傷み解体することになった。改築できない場合は法人解散となる。小さな社を建てたらよい。または、本殿、拝殿をもつ末社に引っ越しする方策もある。
●宮司の問題
〇 後継の神職がいない問題がある。今後、宮司になってもらえないことも。(神職が少ない。課題が多い神社は宮司のなり手がない、宮司と総代との確執があり宮司が退任したとか)
〇 来年度、熊本県で神職養成講習会(直階講習)が開かれる予定。直階では宮司になれないので、2回目の講習会で権正階を取得する。講習会は1カ月間。費用の助成もあるかも。
● 宗教法人神社の解散に至れば、コミュニティの崩壊であり、祖先から受け継いできた伝統の崩壊である。
そうならないためには、
各自が、神社に関心を持とう。
自分が立って、行動をおこせ。
氏神神社は、あなたたち氏子のかけがえのない大事な財産である。
宮司、役員は、やっぱり長生きせんといかん。
宮司がいなくなった、本殿がなくなった場合の対処を考えておく。
宗教法人に認可された神社は、宗教法人法をもとに神社運営することになっているので、それを学ぶための資料として『文化庁 宗教法人運営のガイドブック』を参考に学ぶとしよう。
はじめに
宗教法人の管理運営は、次の代表役員、責任役員等の諸機関及びその他の議決・諮問機関あるいは監査機関等によって行われます。これらの役員が欠けている場合は、新たに選任する必要があります。
◆代表役員(神社本庁庁規で宮司が兼ねることになっている)
代表役員は「宗教法人を代表し、その事務を総理する」者をいい、宗教法人の執行機関として必ず置かなければならない機関の一つです。代表役員は、このように法人の中枢機関であり、その氏名及び住所は登記して公示しなければなりません。したがって、代表役員が変更になった場合には、変更の登記をするとともに、所轄庁に届け出ることが必要です。なお、代表役員及びその代務者が1年以上にわたって欠けているときは、解散命令の対象となります。
◆責任役員
責任役員は宗教法人の管理運営機関の一つとして、宗教法人法上必ず置かなければならないものであり、法人の事務に関して審議をし、宗教法人としての意思決定を行う機関です。
第十八条
3 代表役員は、宗教法人を代表し、その事務を総理する。
第九条 宗教法人は、第七章の規定による登記(所轄庁の嘱託によってする登記を除く。)をしたときは、遅滞なく、登記事項証明書を添えて、その旨を所轄庁に届け出なければならない。
第十八条
4 責任役員は、規則で定めるところにより、宗教法人の事務を決定する。
◆役員の欠格
次の各項目に該当する者は、代表役員、責任役員、代務者、仮代表役員又は仮責任役員となることができません。また、代表役員、責任役員等が、次の各項目に該当すれば、その資格を失うことになり、当然退任することになります。
1.未成年者
2.成年被後見人又は被保佐人
3.禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又は執行を受けることがなくなるまでの者
◆宗教法人の活動領域とその「事務」
宗教法人は宗教活動を主たる目的とする宗教団体が法人となったものです。ところが、宗教活動を行うためには、それに必要な業務が生じます。例えば、礼拝施設などを維持管理したり、必要経費を支出したり、献金を収納・管理したり、第三者と取引したりすることです。こうした業務を宗教法人の「事務」と呼んでいます。このように考えますと、宗教法人の活動領域は、宗教活動と「事務」の二つに大別されることが分かります。そして、宗教法人の「事務」の領域に宗教法人法がかかわり、その運営の仕方を法人の規則が規定しているのです。宗教活動についてはそれぞれが自由に行って良いことは、いうまでもないことです。
◆宗教法人の「事務」の決め方
宗教法人の「事務」は、法人に置かれている責任役員会やそれぞれの法人が任意に置いた総会、総代会といった機関の議を経て、決定されることになります。また、場合によっては包括宗教団体の承認等が必要な場合があります。事務を決定する際には、規則で定められた手続を経る必要があり、代表役員が、独断的に行ってはいけません。
◆法人の「事務」の執行の仕方
事務の予定が法人として正式に決定されたら、それを代表役員が法人を代表して忠実に実行(執行)することになります。代表役員が、その計画の内容に不満を持っていても、規則に従って行われた法人としての意思決定に従って実行しなければならないのは、いうまでもないことです。なお、宗教法人には、宗教活動などに伴って、例えば予算案や決算案を作成したり、収入や支出を記帳したり、財産を管理するなどさまざまな日常の業務があります。代表役員は、このような法人の内部において行われるいろいろな業務の責任者としての立場にあることも忘れてはいけません。
神社が備え付けて置く書類
◆規則、認証書
宗教法人の運営は、常に規則の定めるところに従って行われなければなりませんので、所轄庁の認証を受けた「規則」とそれを証明する「認証書」を備え付けておき、規則による法人運営の適法性が常時確認できる状態にしておく必要があります。なお、規則や認証書を紛失していたら、直ちに所轄庁に相談して、規則や認証書の謄本の交付を受けてください。
◆役員名簿
宗教法人の運営は、責任役員等の役員により行われるものです。常時、現在の役員が誰であるかを把握できるように「役員名簿」を整備しておく必要があります。
◆財産目録
◆収支計算書
公益事業以外の事業を行っていない法人で、その一会計年度の収入が8,000万円以内の場合は、当分の間、収支計算書を作成しないことができます。ただし、そのような法人であっても、実際に収支計算書を作成しているときには、それを事務所に備え付ける必要があります。
◆貸借対照表(作成している場合)
◆境内建物(財産目録に記載されているものを除く。)に関する書類
◆責任役員会等の議事録
宗教法人の意思は、責任役員会で決定されるので、後日の証拠資料として会議の経過と決定した事項を記録として残しておく必要があります。責任役員会以外の規則で定める機関(総代会など)の会議内容についても同様です。
◆事務処理簿
宗教法人の管理運営に関する事務を処理した経過を簡潔に記録しておき、後日の参考とするため「事務処理簿」を備えておく必要があります。
◆事業に関する書類(事業を行っている場合)
◆その他の書類、帳簿
以上のほか、宗教法人法上は義務づけられていませんが、「規則の施行細則」、「法人の登記事項証明書」、「信者名簿」等の書類、帳簿を備え付けておくことが望まれます。
役員名簿や財産目録等の作成、備付けを怠ったときは、代表役員、その代務者、仮代表役員等は10万円以下の過料に処せられることとされています。また、虚偽の記載をしたときも同様です。
第二十五条 宗教法人は、その設立(合併に因る設立を含む。)の時に財産目録を、毎会計年度終了後三月以内に財産目録及び収支計算書を作成しなければならない。
2 宗教法人の事務所には、常に次に掲げる書類及び帳簿を備えなければならない。
一 規則及び認証書
二 役員名簿
三 財産目録及び収支計算書並びに貸借対照表を作成している場合には貸借対照表
四 境内建物(財産目録に記載されているものを除く。)に関する書類
五 責任役員その他規則で定める機関の議事に関する書類及び事務処理簿
六 第六条の規定による事業を行う場合には、その事業に関する書類
第八十八条 次の各号のいずれかに該当する場合においては、宗教法人の代表役員、その代務者、仮代表役員又は清算人は、十万円以下の過料に処する。
四 第二十五条第一項若しくは第二項の規定に違反してこれらの規定に規定する書類若しくは帳簿の作成若しくは備付けを怠り、又は同条第二項各号に掲げる書類若しくは帳簿に虚偽の記載をしたとき。
その他
◆事業報告書、収支決算書、財産目録の提出期間
毎会計年度終了後4月以内に所轄庁に提出しなければなりません。会計年度は、それぞれの法人の規則で定めていますから、規則で会計年度を調べ、いつまでに書類を提出すればよいのかを確認しておく必要があります。
◆規則の変更
第26条 宗教法人は、規則を変更しようとするときは、規則で定めるところによりその変更のための手続きをし、その規則の変更について所轄庁の認証を受けなければならない。
◆公告制度
第23条 宗教法人(宗教団体を包括する宗教法人を除く)は、左に掲げる行為を使用とするときは、規則で定めるところ(規則に別段の定めがない時は、第19条の規定)による外、その行為の少なくとも一月前に、信者その他の利害関係人に対し、その行為の要旨を示してその旨を公告しなければならない。(略)
一 不動産又は財産目録に掲げる宝物を処分し、又は担保に供すること。
◆宗教団体の要件とは
●教義を広める
宗教なら、当然、教義があるはずです。また、単にあればいいというのではなく、それを人々に広める活動をしていなければなりません。
●儀式を行う
宗教活動の一環として日頃から儀式行事が行われていなければなりません。
●信者を教化育成する。
教義の宣布によって信者を導くことが行われ、信者名簿等も備わっていなければなりません。
●礼拝の施設を備える
邸内施設ではなく、公開性を有する礼拝の施設がなければなりません。
第2条 この法律において「宗教団体」とは、宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を教化育成することを主たる目的とする左に掲げる団体をいう。
一 礼拝施設を備える神社、寺院、教会、修道院その他これらに類する団体
二 前号に掲げる団体を包括する教派、宗派、教団、教会、修道会、司教区その他これらに類する団体
第4条 宗教団体は、この法律により、法人になることができる。
2 この法律において、「宗教法人」とは、この法律により法人となつた宗教団体をいう。
これらの要件は、宗教法人が存続するための条件でもあります。ですから、すでに宗教法人となっていたとしても、これらの要件のいずれかが欠けた場合には、すみやかに再建するか、さもなければ法人を解散する必要があります。
法人の運営を規則に従って公明正大に行うことは、法人として当然の責務であり、社会的な信用を損なわないよう適正な管理運営が求められます。規則を紛失していたら、直ちに所轄庁に相談して規則の謄本の交付を受けてください。神社庁にはその複写を保管しています。
第18条
5 代表役員及び責任役員は、常に法令、規則及び当該宗教法人を包括する宗教団体が当該宗教法人と協議して定めた規程がある場合にはその規程に従い、更にこれらの法令、規則又は規定に違反しない限り、宗教上の規約、慣習及び伝統を十分考慮して当該宗教法人の業務及び事業の適切な運営をはかり、その保護管理する財産については、いやしくもこれを他の目的に使用し、又は濫用しないようにしなければならない。
引用資料 『文化庁 宗教法人運営のガイドブック』
https://www.bunka.go.jp/seisaku/shukyohojin/kanri/pdf/h22_shukyohojin_unei_guidebook.pdf
神社の教化実践目標について
人口減少は、過疎地域をはじめ共同体の崩壊が懸念されている。また、三年余りに及ぶ新型コロナウイルスによる疫禍により、神社は充分な社会的役割を果たせておらず、人間関係の希薄化が進み、神社の護持を一層困難なものとしている。したがって、次の教化実践目標に取り組む。
【教化実践目標】
一、氏子意識を基本とする共同体意識の涵養とともに神社の公共性を顕現し、地域共同体との連携を深め、神社と地域の活性化に努める。
二、皇室敬慕の念の更なる醸成に努めるとともに、次期神宮式年遷宮を見据えた神宮奉賛の意義啓発に 努める。
三、「三大神勅の心」を次世代に継承すべく、神話教育の充実を図り、伝統文化の普及に努める
神社(神職)
①「 教化実践目標」 を理解し実践すべく、研修等を通じて、意識の昂揚を図る。
②地域住民に対して、神社の公共性を認知させるべく積極的な活動を実施し、氏子中の意識を涵養する。崇敬神社にあっては、地域住民と積極的に関与する活動を通じて、神社の公共性の認知に努める。
③地域活動や社会活動等に積極的に参画し、神社に対する一層の理解を促すとともに、神社総代会、氏子青年会、敬神婦人会等の神社関係組織の拡充を図り、氏子・崇敬者との交流を通して神社への協力体制を整える。
④神話を題材とする講話や講演会を実施し、祖先より受け継いできた神勅の精神を明らかにして、氏子意識を昂揚する。
⑤皇室敬慕の念を喚起すべく、季刊誌『皇室』の定期購読を役員・総代・氏子・崇敬者に推奨するとともに、地元図書館や病院、店舗等へも働きかけを行い、皇室敬慕の念の醸成を推進する。
⑥次期神宮式年遷宮も見据え、神宮大麻の頒布を通じて、氏子・崇敬者の神宮奉賛の意識を高め、家庭祭祀の振興を図るとともに、氏子・崇敬者を募り参宮団を組織する。
⑦神職自らが神社本庁・神社庁・支部主催の研修会に積極的に参加し、その成果を教化活動に有効活用する。
⑧国旗・国歌の意義を啓発するとともに、祝祭日における国旗の掲揚を氏子・崇敬者に徹底する。
⑨神道の自然観を啓発するために、神社を取り巻く自然、神社の祭りをはじめ、地域の歴史・文化に触れる機会を積極的に提供し、鎮守の森の保護育成に努める。
⑩その他地域の実情に応じた教化活動を実施する。
深田阿蘇神社の今後の方針と本殿覆屋の解体案について
深田阿蘇神社宮司 北川賢次郎
(神社の現状と将来)
深田阿蘇神社はいつまで存在するのだろうか?
本殿、拝殿の建物は木造建築で、昭和32年(1957年)の移築と改築であり、もう65年も経っている。その建設の折は、戦後の宗教法人法での深田阿蘇神社初代宮司坂本實藏氏が命をかけて氏子の意思の統一を果たし、改築開始に至るまでをけん引されたのであった。坂本宮司は、11月の例大祭での竣工式の神事を執ることなく、9月3日に逝去されている。記録には、大変な事業であったことがその記録の経緯でわかる。
今の建物と同じようなものを改築すると億円は上るだろう。例えば単純計算で、2億円を氏子400世帯で集めるとすると、1世帯あたり50万円の寄付となる。神社離れがきびしい今のご時世で、そんな改築資金の寄付を集めることはできるだろうか。答えは、否であろう。それならば先は見えていて、将来は神社の建物は改築せずに解体していく方向となるだろう。
(神社が衰退した原因)
小さい神社は、衰退し疲弊している。その原因は、日本が先の戦争に負けたことである。連合国軍は、占領政策として日本が復讐を考えないように日本人の精神を弱体化させることにし、国柄を教育することはタブーとされ、国家神道は解体された。
民営化された小さな神社は、運営がだんだん困窮して行き、やがて崩壊していく、そういう目的の政策なのである。神社の崩壊は、国や地域文化保護の意識を薄れさせ、やがては左派リベラルの勢力となり、日本国の伝統を守る保守層と争う事態に発展し混乱するのを望んでいるのだろう。
また、戦後の教育が災いしたことで、古来より続いてきた自国の文化の崩壊に加担したともいえ、それに科学技術が発達して病気が減ったことで、氏子を含めた神社組織の間では、神への畏敬の念が退化したといえるであろう。さらに、税金と社会保障費の負担増額によって、氏子たちが神社維持費の捻出も困難となった。人は、自己の利益を最大限にして生き、相互に助け合って生きる文化も低下している。そうして神社は、だんだんと疲弊していき、氏子は神社に近づかなくなり、神社を護ろうとする強い意識も薄れ、組織は他人任せの風潮が進んでしまったのである。そのことは、氏子が神に感謝奉告する人生儀礼である初宮詣り、七五三、成人式などの祭りをしなくなって行ったことに加え、正月初詣は、単に神社に詣でて一年のご加護を願う正月初詣イベント化してしまった。正月飾りも同様である。このように、神社と氏子の間は、心からの交流ができず、疎遠となっている状態が続いている。もはや当神社は、その善き時代への回復は困難だろう。
(今後の方針4案)
戦後、各地域にあった小さな仏堂は、維持管理が困難となり解体され、仏像は農事研修センター(公民館)に安置されたところもあった。今まさに神社が解体される時代となった。恐らく、近隣のいや全国の小さな神社も同じ事態となり解体されあるいは統廃合されていく運命にある。
現在、当神社の施策は、拝殿を解体するその時になるまで、建物はメンテナンスをしながらできるだけ延命措置を図っていくことにある。それはそれでよいが、問題なのは、将来、神社の拝殿を解体することになったとき、どうするかである。
宮司案として次の4案を考えた。
(1)その時になるまで何もしない。問題を先送りし後世の人に任せる。
(2)宗教法人を解散して神社を廃止し神社財産を氏子中で分ける。
(3)宗教法人を解散して、近隣(免田、須恵、四浦、木上)の神社に吸収合併してもらう。
(4)宗教法人は継続して、本殿は小さくなるとも上里、下里など近隣地区で維持管理(年一回の祭り)し、本拠を拝殿のある末社(加茂神社、永峰皇大神宮)に移して、深田の氏子は全員その神社の氏子となり、阿蘇神社はその神社の末社にと交代する。
以上を考えた。またその場合、拝殿解体ともなれば、解体資金を蓄えておかねばならないのである。
その時に最も必要なのは、宮司、責任・総代役員がいることであり、もしその担い手がいないと事務、運営ができなくなり大変まずい。そして、怖いことに、拝殿が解体時期とならなくても、宮司(代表役員)がいなくなって、2年間ほど放置(法的には1年)していたら、県から宗教法人の解散の勧告がでて、(2)と(3)にすぐに進むことになることを知っておかなければならないのである。
(詳細の解説)
さて、上記の(1)~(4)を少し解説してみよう。
(1)は、今、私たちが苦しむのは、先人が将来に対して何の対策を執ってこなかったからであり、なぜ私たちがやらなければならないのか疑問だという意見もあろう。先人も私たちも将来のことをなかなか決断できないのであろう。しかし、私たちは、先人たちが何らかの対策をしていたらと思えば、私たちも後世の人たちには何もせずにいたら大変困ると思うので、方針を立てておくべきかと考える。
(2)は、宗教法人を解散することは、氏子のみなさんがよろしければさほど問題ない。神社の財産は、土地、建物、立木、什器類で、管財人を立てて財産処理することになるだろう。しかし、1000年の歴史がある神社であり、昭和32年に命をかけて改築を推し進めた初代宮司坂本實藏氏の心情を思えば心が痛むのである。また、頑固として反対の立場を表明する人もあろう。
(3)は、近隣の神社に吸収合併してもらう話である。先方の神社氏子の承諾が必要である。この場合は、先方神社の氏子となるわけで、会費の懇志金は先方神社の経営や維持管理に使われる。そして、当の阿蘇神社も末社となり、維持管理は、地元下里をはじめ、神社を持っていない上里、小枝、古町、向町などの共同管理となろう。祭りは他の末社と同じく年1回となろう。本殿が傷めば小規模の建物に改築することもできよう。
(4)は、宗教法人は本拠としている阿蘇神社の名義を末社の名義と変更する案である。これは、その末社の氏子の承諾が必要である。拝殿が公民館となっているが、公共施設になっているからどのような位置付けになるか検討が必要である。拝殿が公共施設であると問題があるかもしれない。維持管理は、これも上記に記したように阿蘇神社は末社に変更となり、神社を持っていない上里、下里、小枝、古町、向町などの共同管理となろう。祭りも他の末社と同じく年1回となろう。
宗教法人名義の神社となれば、祭神が替わることも了承せねばならない。運営と祭りは、阿蘇神社と同様におこなうことになり、維持管理も神社負担となり地区の負担がなくなる。修繕があった時も神社の経費で支払うことになる。
(宮司と責任役員)
拝殿の解体時期は、恐らく数十年後の先になろう。問題なのは、その時までの神社組織の継続と、宗教法人法に対応できる責任役員の確保が必要で、現在のように本務の宮司(地元に滞在)がいれば、宗教法人法の変更や解散の事務手続きを任せることができる。しかし、兼務(他に本務神社を持ち地元以外に滞在)の宮司になった場合、その事務は総代役員がその大任を行うことになる。そういう役目をボランティアで引き受ける氏子がいるだろうか。いなければ、行政書士依頼し高額の経費を見積もらなければなるまい。
さらに、今の宮司が突然不幸に遭った場合、病気になった場合も大変な問題になる。現在、球磨郡市の宮司数が少なく、何件も兼務という掛け持ちをしている状況であり、代わりがいない状態である。今年3月に一人の宮司が逝去され、4社で宮司の空白が生じた。宮司の人事は、神社庁支部とそこの氏子で責任役員の間で話し合われ、なんとか調整されたが、簡単に神社の責任を引き受けてくれる宮司はいないのである。各神社では、宮司の後継者問題が生じていて、当神社も同じであり、先々を心配しているのである。
(本殿覆屋は必要か)
令和4年の台風14号で倒木による本殿覆屋の被害を受けた。そして、あさぎり町の文化財保存事業補助金により倒木撤去と改築または修繕での工事設計と見積書を揃えることができた。文化財保護としてあさぎり町教育委員会の意向は、修理の方針であり、神社側でも納得していた。
しかし、次年度での修理事業を実施するにあたっては、物価が高騰している現状では、実質の事業費が膨らむことになってしまった。そして、神社側でも、長い考慮期間ができ、文化財保護という視点から将来にわたって本当に保護できるのかを検討し、神社の将来的な方針を考慮してみた。
上記した神社の今後の方針では、将来的に拝殿が劣化した場合、拝殿を改築するには地元負担が見込めない。拝殿を有していないと神事が行えず、それは宗教法人の定義の施設の不備にあたる。宗教法人を維持していくためには拝殿を有さなければならないのである。しかし、将来、拝殿改築の方針がない以上、上記の宮司案を採用するほかないのである。したがって、本殿覆屋修理に多額の経費をつぎ込み、将来、覆屋の解体工事を残すよりも、今、覆屋は解体して後世の負担を軽くしておくこそが良策と思われる。本殿の屋根は、鋼製屋根にして本殿を保存し、将来は解体する方向としたい。
(さいごに)
さいごに、残念ながら、当神社の将来は見えてしまっている。あとは、いつまで神社を延命できるかである。
それには、氏子のみなさんがいか神社と関わっていくかにかかっている。そして、宮司と総代役員、氏子とともに神社総代会を盛り上げていく。総代会は神社の決議機関であるので、地区総代になられた方は、これから神社の将来についていろんな意見をだしていただき、また神社の神さまの近くでいろいろな奉仕活動に関わっていただきたい。
さらに言えば、毎年、深田高山山頂で行われる「ぜんじょうさん祭」は、庄屋地区で行われているが、その祭りの発生は、庄屋地区で大火災があり、その後も続いたことにより、神の怒りを鎮めるために行われているという。「天災は忘れたころにやってくる」ものなので、神まつりが忘れられて、神威が弱まったころに再び何らかの大災害が起こるかもしれない。その救いがあるとすれば、若者の氏子たちが、郷土の歴史に誇りを持ち、神社の将来についても理解をし、若者たちが中心となって神社を護り盛り上げようと結束したなら、神社の滅びゆく運命が止まるかもしれない。
中球磨地区の宗教法人神社の現状と課題と今後の方針について
日時 令和5年7月17日 13時~
場所 白髪神社公民館
出席者
白髪神社
岡留熊野坐神社
岡原霧島神社
深田阿蘇神社
須恵諏訪神社
目 的
中球磨地区(錦町を含めた)の宗教法人神社の現状と課題を把握し、今後20年後に存続可能かどうか予測するとともに神社経営の在り方を検討し、今後の方針作りをする。
現状調査
中球磨(錦町を含む)地区の神社、宮司、本務・兼務の現状、氏子数、末社数、20年後の宮司後継者の有無、20年後の本殿・拝殿・社務所の状態予測、今後の責任役員の担い手の見込みを調査する。
中球磨(錦町を含む)の各神社と宮司
図を参照
現状と課題
・神職が少なく宮司の兼務神社が多く、宮司の担い手不足になっている。
・兼務神社に宮司が決まらなくなっている。各神社の体勢、知識に問題がある。
・氏子の信仰心や神社を護ろうとする意識が薄く、なるだけ責任役員になりたくない、したくない。
・神社の老朽化が進んでいて、修理費の負担が賄えない。
・神社の維持管理が悪くなっている。神社の経営に問題があるので改善したい。
・祭りがなくなった。神社の予算が厳しいので、ボランティアの人づくりをしたい。
・将来、年金が無くなるか支給が厳しくなり、年金生活で活動できる宮司がいなくなる。
・若い神職の経済的自立体制が整ってなく、経済的に不安である。
・氏子が神道を学んでいない、氏子が神社と関わっていない。教化がすすんでいない。
・神職がいないので神職の養成をはかりたい。10年後はいなくなるところも。
・新任神職(直階、権正階)が育成できたら、研修所をつくり、スキルアップをはかる場所がほしい。
・神社子ども会、神社婦人会、神社青年会がない。
・氏子が喜びながら神社と関われる祭り、神社奉仕を考え、活動させたい。
・神社に勢い、活力がない。
その原因
日本が敗戦し、戦後すぐの占領軍の政策で、神社は国の支援がなくなり、各々で自立することになった。戦後78年となり、疲弊する神社や宮司を兼務する神社が増え、疲弊に耐えている。建物は経年劣化して解体の恐れをもつ建物も見受けられ、今後の方針施策を望まれている。
戦後の教育は、自虐思想を植え付け、日本人としての国柄や誇りを学ぶ図書は焚書され、グローバル化し、自己中心で他人任せの人が増加したことで、神道の信仰、文化財保護思想、神社に積極的に関わろうとする意識が薄れ、産土神神社での初宮詣り、七五三、勧学祭、成人式等の人生儀礼神事が極端に減少している。
このように、神社が国家神道を解体させられ、神社経営が行き詰まり、氏子は神社離れに至った。
今後の方針案
◆目的 中球磨の神社と錦町の神社を加え、お互いの神社で将来を見通した方針案を作成し、それに沿って、長期間をかけて相互に共同や協力しあって神社を運営していく。
神社運営
◆20年後の各神社を見据え、本殿、拝殿、社務所の経年劣化状況を推測し、存続できない宗教法人の神社は、隣接神社との吸収合併や統廃合を検討し、各神社の氏子に周知し検討させ理解を図る。
◆存続不可能と予測される神社は、なるべく長く延命措置をとる。
◆歴史的、環境的、文化財的に重要な神社建物は長く保護する。それぞれの神社建物が経年劣化した場合は、その保存方針に沿って修理する。(木材は、劣化するので、その修理時期、修理費の貯蓄を考慮し、その対象神社の方針案に入れる。)
◇あさぎり町での歴史的に重要な神社は白髪神社。町の中心に位置するのは岡留熊野坐神社。文化財的に重要な須恵諏訪神社(県指定)。これを特に保護対象神社として認識し長く残す方針とする。
◆町指定文化財の物件は、文化財保護の対象物であっても、保護を主とする所有者(氏子)の関わりが重要である。それが見込めない場合は、たとえ町補助金がついたとしても、氏子の文化財保護意識が認められず、氏子の負担金が整わない場合は、未指定の神社と同様の取扱いとし、延命処置をしながら保護していくとともに、最後は解体廃棄していく。
◆責任役員のための「非常時の事務マニュアル」的な説明書を作っておく。これは、宮司が不在となった時の事務で、責任役員が主として行わなければならない事務である。
◆各神社の責任役員は、神社運営を専門とした研修会を合同で行う。
◆各々の神社は、多くの氏子の意見を尊重し維持管理を行い、長く維持していくことに努める。氏子中の保護意識が十分でなくなったときは、建物の解体、本殿は縮小した建物の改築を実行するとともに、氏子に金銭の負担を掛けすぎないように努力する。
◆将来において建物が改築できないとか、吸収を考えた場合は、末社を利用し、本拠地を移動させて再編成をはかる。
◆神社の森として環境整備に努める。
神職の養成
◆ひとつの宗教法人神社にひとりの宮司を置くのが基本である。宮司の兼務に妥協しない。
◆神職数が不足しているので養成する。その養成方法は。
◆直階、権正階の者に対しては、不足している知識、技能の向上を図る場を設ける。
◆若い神職は、職業神職として生活を担保できるようにする。
◇参拝客が多い青井神社の神職(普段は忙しい)を兼務(代表役員)に起用するが、祭りの神事は他の神職に任せる。代表役員料(固定)を徴収して生活の担保とする。
教化活動
◆氏子中から永続的に神社活動に協力できる協力者を募集または養成する。
◆神社子ども会、神社婦人会、神社青年会、その他団体を作る。活動内容を検討する。
◆インターネットを利用して、各神社の情報紹介を行う。グーグルマップ利用、ホームページの開設。
◆六部会共同で神社巡り大会、神道学講話、神話の講話、祝詞書写教室。お守り作り(ガラス勾玉づくり)を企画する。氏子や一般者向けの神道教化を行う。
◆教化実践としては、あさぎり町の主要な神社を巡り、神社の歴史、参拝作法、神社の意義など、神社と氏子の疎遠を取り除くイベントに取り組む。
神社の祭り 集客のアイデア
◆氏子が関われる神輿とかの祭りがないところは、アイデアをだして新たな祭りを作る。例えば、神輿をだして地区を巡る。地区外に行幸とか。夜店の再現。メディアも注目するアイデアを考える。
◆氏子の子どもを祭りに関わらせる取り組みを行う。(子どもからの関わりが神社を護ることにつながる)
◆あさぎり五社の祭りを巡るスタンプラリー。スタンプを抽選券として抽選会を行う。賞品授与。
◇同時開催として、あさぎり五社の神社検定を行う。1か所10問。50点満点。点数の良い順に、1等、2等、3等として賞品授与。祭りが最後の岡留熊野坐神社で賞品授与。さらに氏子にはボーナス点として2~3加点するとか。崇敬者との差別化をはかる。
◆祭りの経費削減と効率化をはかる。貸借料で神輿、什器類の貸し借りが可能なのか。
その他
◆歴史的に社家である神社のその存続は、その神職や社家の意向もあることから別途に検討する。
まとめ