はじめに ~ 翼のある乗り物、二点
平成も最後の年、あと二ヶ月たらずとなりました。
昭和の時代、機械といえばその花形は運輸機械。自動車※1はもちろん、世界で最も大きな機械であるタンカーをはじめとする造船業の船舶※2、当時まだ他業界と比べて特殊だった設計法※3を用い、主に小型機を製造していた航空機製造業の飛行機※4、などでした。
そのほかにも、もちろん鉄道車両や、現時点で本研究室のある堺市では、特殊な性能が必要な農業機械※5や、一般向けでありながら効率が追求される自転車※5などのメーカーが今もトップクラスの製品を世界に輸出しています。
※1 トヨタから始まったカンバン方式と改善活動のように、大量生産は活気のあるメーカーの条件でした。特に自動車産業は、まず国内需要、そのあとで輸出を開始します。今でも総合的な自動車の価値はようやく欧米に肩を並べたところ、だと思いますが、故障率の低さと機械性能の価格妥当性では高品質という評価を得て、大衆車としては一定の評価を得るに至っているようです。
※2 船舶は、多量の商品を長距離で輸送する場合、運送コストを削減するだけではなく、今のような気象情報もない大洋の真ん中、とりわけ荒れるインド洋を耐えなければならない、など、流体工学的にも構造工学的にももちろん内燃機関の信頼性でなどでも、技術的にた製品とは異なる技術が必要でした。戦後5年で解禁になり、第二次世界大戦の技術が活かされたという話もありますが、技術的に欧州に追いついていたわけではなく、運良く、タンカー需要増大とパワープラントの組み合わせ、受注不足で納品が早かった、ことなどが功を奏しただけ、という見解もあります。中期には淘汰を生き残った 三井造船、川崎造船、三菱重工、ほか、三井造船、日本鋼管、石川島播磨、住友重機、など多くの造船会社がありました。いずれにせよ、世界一、世界最大、という響きは当時魅力でした。
※3 損傷許容設計法やその思想は、先端技術として教科書の最終章には記述されていましたが、内容は亀裂進展の基礎的な情報を記した程度で、その実際の使用適用法などは、教科書レベルでは昭和の最後になってもほとんど記載されていませんでした。今でも、品質管理の観点では統計的手法が普及しましたが、現在でも機械設計できっちり紹介している先生は希少なのではないでしょうか。ま、学生さんにそこまでいらないという判断が多いのかもしれませんが、、、
※4 戦後10年を経てようやく解禁になった航空機産業は、技術者流出の中、まずはノックダウン生産(国内生産)と維持整備、そして最初の国家補助プロジェクトの小型ジェット機T -1、中型旅客機 YS-11の開発がされました。その後、ライセンス生産やビジネスジェットの自主開発を行い、今も、国内の航空機産業は、三菱、川崎、スバル(当時は 富士)の主要三社と石川島播磨のエンジンメーカー一社に新明和も加わった5社が中核となり担っています。純民間産業として成り立つかどうかが課題かもしれません。
※5 農業機械は、汎用機械で、取り付け装備が交換できるという意味では、大変システマチックにできていると思います。もちろん小型機械では、その機能は限定的ですが、それでもただ移動するのではなく、移動しながら作業を行うという意味で複雑な機械です。現在では自動化、ロボット化が進んでいますが、自動化されても、動力源が電動化される様子は現時点ではほとんどありません。大変、機械、機械した機械のひとつです。
なぜ、輸送機械は機械の花形だったのでしょうか。 昭和の時代、その初期から中期には、制御といえば機械制御しかなく、電子機器であるコンピューター、今の組み込みコンピューターと同等の性能の機器ですら存在しないか、とても大きな装置だった時代です。今はあふれている電気機械、すなわち家電ですら、当時はまだ、普及途上でした。あの新幹線の運行制御システムにも、今のようなコンピューターがあったわけではありません※6。なんでもかんでも機械でできていた時代。電気冷蔵庫がなく、氷屋さんがリアカーを引いて歩いていた夏の風景※7を今の時代、想像できるでしょうか。
※6 当初の新幹線管理システムは、大袈裟に言ってしまえば、指令所にある電光表示板に、車両の位置や信号機着替えポイントなどの様子が表示された集中管理をしているだけで、出された指令は、現場にいる作業員が全て人力で操作していた、というものです。時代からいえば、鉄道の運行に戦時中の戦艦の艦橋のような機能を実現したもので、それでも当時としては活気的なシステムでした。
※7 そもそも、その状況とその風景が何を表しているのかを、どの程度具体的に、想像できているのでしょうか。
そんな時代に、大型船や航空機のような輸送機械製造業が花形産業、ということは想像していただけるでしょうか。かなり家電化した自動車は微妙になってしまいましたが、これらの産業は、家電などとは違い、今でも機械が担う責任の割合は比較的大きい産業です。ま、わたしもこの雰囲気に乗った口で、まずは無理、と思われた製品の担当事業所で、しかもその設計部門に配属されたことは大変驚いたものでした。
ここでは、流体工学ということを踏まえて、翼を装備した機械、を話題に、それにまつわるお話をしてみたいと思います。
機械工学と、各種力学に関する知識を活用した機械の企画、開発、設計、製造を意識した観点で、”まだ何者になるか未だ分からない人々“ への、本来、機械工学を学ぶということは何か、という疑問誘導とその答えへのヒントになれば幸いです。
具体的には、少しは関わりのある、航空機とレジャー機器について、そのパーツにまつわる 2、3の話を、害のないと思われる範囲でしてみる予定です。
あまり期待しないでお待ちいただければ幸いです。
[メモ]
MIL-STD-5
主構造要素/強度メンバ/
信頼性設計/信頼性材料
安全係数
損傷許容設計/マルチパス/フェールセイフ
損傷許容設計の実際/亀裂進展計算/荷重パターン
管理部品
機体構造管理計画(ASIP)だったHUMS
クラック/疲労/脆性破壊/マルチサイトクラック
O-ringの規格は大事
受け入れ品証は大事
メンテナンスは大事(ツールホールは規則にしたがって)
作業環境は大事
製品によって文化が違う/インチアップは慎重に
強度計算の想定ケース(乱暴なご使用はほどほどに)
MIL-HDBK-5
さて、害のない範囲でのお話です。
世の中には、あ、機械工学の最近の学究世界ではなく実社会の工学の世の中ですが、標準というものが存在します。
最先端部門では、一般に多くのことがまだ標準化されていないですが、それでも機械工学の分野では、市販品を全く使用せずに試作機等を製造することはあり得ません。何か形状、機能はオリジナルでも、それを形にした場合には、大抵の場合は、基本的な機械要素が使用されるはずだからです。
そういう理由で、どのような機械、装置でも、ソツなく一発で、しかもリーズナブルに設計できる機械系技術者のニーズは、たぶんなくなることはないでしょう。それが機械系技術者は潰しがきく、という都市伝説のルーツと思います。このようなことを考えると、機械系技術者における設計と製図のそれぞれの能力の関係もどのようになっているのか考えられると思います。つまり、設計(企業では開発や研究?)のできない機械系技術者ほど機械系技術者としての意義は薄いということです。そうでなければ、せめて高品質な製図ができればよいのでしょうが大学卒業でそれがメインというのであればかなりのレベルが要求されそうです。
分散化業務全盛の時代、つまり、ジャンル外の人材に直接数学や力学の基礎的問題を任せるよりも、その専門家をチームに入れてトータルとして機能させる時代です。技術やコスト制限が高度になる時代ほど、専門家は自分の専門技術を磨くのが一番でしょう。
機械系技術者が製品製造業で本来求められるべきものは、性能機能を向上させるアイデアを力学の知識などを“工学的実践的に”利用して創造、具体化し、標準を使いこなした強度を満たすコストパフォーマンスのいい製品を形にすることです。製図は、それを製造部門に伝える言語で、設計作業と製図作業は、どう分けるかの差異はあるものの、会社によっては部署が別れていることも多いのが実態です。
つまり、図面作成は専門のオペレーターに任せれば、あっという間に質の高い図面を完成させてくれます。そういう専門家の能力を活かすためには、上流にいる機械技術者が設計ポリシーを簡潔に効率よくしかも正しく伝えることが必要です。いい製品を企画開発しても、この時に情報伝達に齟齬があれば試作には不具合が生じる確率が高くなるでしょう。そのことは、開発費がかさみ、会社の収益が減少するか、商品の価格競争力が低下することを意味します。別に図面を自分が直接描くわけでもなくても、製図の知識がいるということが想像できるでしょうか。
さて、標準にもいろいろ作成元があって、授業で出てくる標準には、国際標準のISOと、国内標準のJISがあることは流石にご存知でしょう。この二つがどのような関係にあるかも学んでいることと思います。最近では、さながらJISはISOの日本語概略版の様相を示している部分もあるようです。新しい分野や一部分野では、本規格はISOxxxxを翻訳したものである、詳細はISOを見ろ、と明記しているものもあるようです。
実は、ISOの一部にも元になっている規格があります。そのひとつがMIL規格です。もちろん電気関係では、IEEEなどが有名ですが、MILは、アメリカの軍用規格で、軍で使用している物品を生活用品までカバーしていました。一般に、MIL-SPEC (ミルスペック)と呼ばれています。電気、電子関係の工作をする人なら、特にコネクターで「MIL規格品」というカテゴリーをよく目にすることでしょう。電子機器は軍用分野が進んでいること、特に航空機や潜水艦など空間的制限の強い特殊なところで使用することなどから、かさばるコネクターや振動に対しては強いこだわりがあるのかもしれません。軍では広範囲のものを扱っているので、その規格は充実しているだけではなく、民需ではなく官需であるということから、その種類の多様さも民間規格の群を抜いていますし、何よりも最先端の物品の規格が標準化されています。まぁ、規格のガラパゴス化、みたいな感じですね。あまりにもこだわりが強くなりすぎて、ちょうど当時頃から電子部品関係はIPCへと移譲、移管して合理化を図っているようですが、これこそCOTSの起源ということでしょう。
さて、機械工学の話に戻って、機械開発設計においては、要求の策定から基礎設計を経て、形状概要を決めた後、図面上で製品の吟味が開始されます。この作業では、基礎設計や企画時に盛り込まれなかった事項について、新たな課題も含めてそれこそ製品の様々なことが吟味されます。
機械で一番大切なのは、壊れないことです。
ただ動かなくなる、使えなくなる、というのではなく、部品一つが破壊するだけで、重要な機能が喪失して、人命に関わることがあるからです。性能も大切ですが、実際性能が多少カタログ値より低くても、それは倫理的に問題ではありますが、特に一般向け商品では動かなくならない限りはクレームが来ることも少なく、モラルの高くないメーカーでは窓口でごまかしてしまいます。そもそも一般人には証明する術を知る機械工学的知識を持った人は非常に少ないですし。
そんな機械工学技術者の範疇で、効率的な構造を一番求められる製品の一つは、航空機です。航空機では、最大ペイロード(maximum payload)と製品本体重量(空虚重量 : Manufacturer’s Empty Weight, MEW)は最大離陸重量(Maximum Takeoff Weight, MTOW)の中でトレードオフです。さらに、空力性能は燃費等に影響し、揚力は直接最大離陸重量という形で最大ペイロードに影響し、抗力は燃料消費率からくる航続距離との兼ね合いで燃料搭載量とトレードオフで最大ペイロードの有効搭載重量をシェアすることで影響を与えるからです。
つまり、軽量化した構造が製品性能に貢献できる分野です。
MIL-HDBK-5 には材料に関する規格が満載です。今は最新は revision J ですが、私が初めて出会ったのは 5C でした。
ASSIST MIL-HDBK-5
Internet archive MIL-HDBK-5 J / Every spec MIL-HDBK-0001-0099
学生時代は、大学の授業では材力ばかりで、構造に関する力学や工学のことは視野も狭く、材料力学の適用については実務で学ぶことになりました。特に、本学の機械工学の学科では、疲労や亀裂進展計算も大変な作業だというくらいで、具体的な応力集中やS-N曲線も製図便覧の中のグラフで見る程度でした。
鶏か卵かですが、究極の軽量化設計をするのには、目的を達成できる材料があるかどうかも大切です。その材料の存在を知り、その特性を存分に使いこなすための設計方法の知識も必要です。このハンドブックは、本課程ではあまり扱わない設計方法の一つの、ベースになる知識を提供してくれることでしょう。
様々な材料の許容応力がいくら、ではなく、材料の成分、製造方法に係る方向性ごとに試験されたデーターと、さらに信頼性工学に基づいたデーター整理のポリシーがわかります。S-N曲線でも、応力比による影響も詳しく示されています。さっと全体を眺めて構成を理解することで、どういうことに注意しなければならないかに気づけるでしょう。こうした標準は、設計のマニュアルのようなものです。標準の作られた経緯やそのコンテンツの意図を考えて使えば、どんな標準も設計も、意外と早くできるようになるのではないでしょうか。
さらに関心を持った人は、破壊力学、破壊工学について調べて見てください。
構造コンセプト 強度を持って形を維持しながら、究極に重量を削減するにはどのような構造がよいのでしょうか。 って、そもそも学生の皆さんは、「構造物」を自分で考え工夫して作った経験は当然あるのでしょうね。
大学の材力で断面係数について学ぶまでもなく、どこでどのように力を保てば、同じ材料でよりよく大きな力を保持できたり、たわみを抑えてしっかり保持できたり、なんていうことは経験的に裏付けはできているのでしょう。まさか、何でもかんでも無垢材とその直径で力付きで解決する、なんていうことはさすがにないのでしょう。
そういう力学に支えられた思想(発想、創造)で選択できる構造は、その機械の求める要求によって、微妙に選択が分かれるのかもしれません。こういう選択は、構造方式とでもいうのでしょうか。先人の経験をまとめ工学は、各人の思想の選択をサポートするものです。
航空機、船舶、乗用車、大型乗用車、鉄道車両など、戦後は航空機技術の応用の影響で、差異はあるものの、モノコック構造が主流になっているようです。開口部が非常に多いバスなどは、下部構造と上部構造(天井)の間がどのような構造強度コンセプトかはわかりませんが、乗用車では、大きなドア開口部も、可動ドアと結合することで必要な荷重を車体に伝達しているようです。レース用車両でも複合材料の導入によってモノコック構造が常識になっているようです。フレーム構造はもはや一部を除いたバイクくらいかもしれません。そのフレームですら、ローカルに見ればモノコックだ、と言えてしまいそうです。もはやフレーム構造は、無垢材で装置を組み立てる学生さんの装置くらいかもしれません。
航空機の円筒形の機体は、フレーム構造とモノコック構造を説明するのには便利かもしれません。
フレーム構造
黎明期の航空機は、木材や金属パイプの貫通材(ストリンガー)と、その位置を保持する穴あきのバルクヘッド(隔壁)の組み合わせで形状と強度を維持し、表面には布張りで外型あるいはフェアリングを製作していました。この時、外板には強度を持たせないので、フレーム構造としたようです。実際には、若干のテンションは担えたのでしょうけど、それらはワイヤーを使ったりもしました。
モノコック構造
その後、さらに強度を上げる為、金属製外板が採用されて、曲げによる引張圧縮荷重と、捻りによるせん断力とを分離してになう構造に発展しました。もちろんその前に、木材や金属とのハイブリッドでもモノコックは導入されました。小型機では、胴体断面も大きくはないので、板材を丸めただけでもある程度の形状の維持ができます。しかしながら、さらに材料を薄くしていくと、座屈を防ぐために補強材を入れ、応力を分担する方が構造効率が向上します。つまり、重量当たりの強度が上昇します。この時に応力の仕分けをすればするほど効率が向上するため、機械設計工学が威力を発揮するわけです。裏返せば、負担しない応力に対する強度は全くと言っていいほど保たなくなります。
補足説明
あまり機械設計やこれまでに工作に興味がない人に補足すると以下のようなイメージです。
フレーム構造では、剛性のある棒状フレーム材で、2つのドーナツ状のフレーム材を接合します。その表面に、ティッシュのような薄い膜(スキン)を張っても、強度は保たれ形状も保持されます。
まずは、同じ形状のものをモノコックで製作する場合、曲げても形状が維持できるような、例えば厚さ1mm程度の鉄板やアルミ板をまぁるく曲げてスキンとします。曲げた両端を溶接やリベッターで留めればしっかりした円筒ができます。例えばドラム缶のようなものです。
ところがドラム缶では、板厚があるため無駄に丈夫で重量があります。それでも強度をあげるためにフレーム状のバンプが付いています。 そのため、もっと軽量化するために薄い板でスキンを作成すると、円筒表面が撓んでしまい、断面形状も変形します。これでは必要な強度を満たしているとは言えません。そこで、例えばスキンの両端に薄いドーナッツ形状の板(フレーム)を接合します。これで形状が保てると同時に、かなり重量を軽量化できます。
さらに軽量化を目指して、板厚をもっと薄くします。そうすると、両端のフレームを支えることができずに軸方向に潰れてしまいます。これでは困るので、スキンを波板にしたり、スキンの裏側にストリンガー(縦通材)を加えます。ストリンガーは圧縮に耐えればよいだけなので軽量な部材で十分です。ただ、2、3本を単純に追加するだけでは、軸周りのねじれの強度を取れません。そこで、ストリンガーとスキンを接着等で一体化させます。そうすれば、薄い板は引っ張りだけを担いパネルのせん断力を担えるのでねじれを防ぐことができます。ちょうど四角いパネルの対角線にワイヤーを張るような感じです。このパネルが二次元的であれば理想的なので、パネルの幅、つまりストリンガーの間隔(本数)を増加して調整します。このうち一部のみしか強力な縦通材は必要ありません(ロンジロン)。ストリンガーやロンジロンを、スキンとフレームで挟めば、さらに剛性が高まります。
セミモノコック構造
さて、ここで何か気づかないでしょうか。
モノコック構造といっていたのに、いつのまにか構造にはスキン以外にフレームとストリンガーがいっぱいです。これではまるでフレーム構造です。でも、マクロに見れば構造の外殻が荷重を取っています。このような構造は、セミモノコック構造と呼ばれます。 スキンも、さらにその断面を断面係数の考慮やモノコック構造と重ねれば、ハニカムを用いたサンドウィッチ構造のスキンの採用にも至ります。
新しい構造用語が溢れているように思うかもしれませんが、構造力学的には全て同じ、とも受け止められないでしょうか。そう受け止められれば、つぶしの効く機械系技術者への道をすでに歩き始めているかもしれません。
結局、機械構造設計とは、構造は形式にとらわれるのではなく、要求強度と材料強度をもとに、構造を最適化して必要な構造強度を実現する作業なのです。できあがったものを、後付けで、権威ある先生方が命名し、一般技術者はそれに従うだけなのです。
さらに機能を発揮する可動構造まで含めて設計できる能力が、機械系技術者の基本スキル、だと思うのですがいかがでしょうか。
本研究室では、足腰が弱い教員が指導するため、基本的に重量物の装置は不可です。
翼のある系の業界では、一体成型複合材やチタン、マグネシウム合金も導入されていますが超高級品でコストや手間が本研究室向きではありません。
したがって、コスト的に問題がない限りは、アルミ系金属を多用します。もっとも、鉄系金属の軟鋼あたりで作ると、赤錆が増えた時点でゴミといって無断破棄する輩、あ、方々があまりに多いという人材的背景もあります。したがって、構造材で鉄系のSSシリーズを使用する場合は、軽量穴と塗装は必須です。アルミ系でも歩留まりが落ちてもザクッと身は抜きますが。。。。
さて、前回、材料の選定には情報が大切というお話をしました。アルミ系金属には代表的分類があります。これらの特徴さえ覚えておけば、材料選びに一定の判断ができるようになります。
なお、純アルミニウムは、非常に強い酸化性を持ちますので、空気中、水中ではすぐに酸化します。この酸化膜は強固で、透明で、耐腐食性がアップしますので、単体では、アルミ合金に強度が劣る純アルミですが、諸々の条件で耐腐食性はアルミ系金属材料中最強と言えます。
アルミ系金属が壊れる時に怖いのは、大抵は長時間使用の攻めた強度設計の場合ですが、塑性変形を飛び越して一気にクッキーが割れるような粒界割れを起こすことです。きっかけが、腐食や加工キズ、使用キズ等によるイニシャルクラックで、荷重原因が内部残留応力や負荷の場合は応力腐食割れ、などいろいろ名称があります。耐腐食性は、こういう事故が起きにくくなる要素になります。アルミ合金は、そのままでは粒界割れが起きやすいので、冷間、熱間圧延などの加工で粒子を操作しますが、この時に残留応力が生じたりもします。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jilm1951/31/3/31_3_195/_pdf
あと、アルミ系金属はイオン化傾向の関係で、鉄系、銅、真鍮などのボルトナットをなんの対策もなく使用すると、電食によって溶出腐食しアルミ部品が破壊します。可視化実験装置では要注意です。個人的にはそんな製品を使って遭難しかけたことがありますので、メーカーよりも自分自身を信じられるように切磋琢磨してください。
アルミ系金属は、頭にAをつけて、4桁の数字で表されます。
系列
成分や呼称、特徴
強度
耐腐食ほか
A1000系
純アルミ。腐食性が強いが透明な酸化アルミ膜が強力に腐食を防ぐ。スポット状腐食ができてもその内部でまた腐食を防ぐ。
A1050,A1080,etc. 後ろ二桁が純度を示す(純度99.xx%)。
通電性もよいので軽量電線心材にも。
強度弱い。
酸化膜(白色)により対腐食性強い。他合金のクラッド材にも使用される。
コントロールされた酸化膜はアルマイト加工で着色も可。
鏡面加工には純度の高いものが適する。
A2000系
銅合金系。熱処理。ジュラルミンA2017。超ジュラルミンA2024。加工性なら A2011。
強度最高級。
耐腐食性最低級。銅由来。
アルマイト処理は可能。
A3000系
マンガン系。加工性が良い。
強度良好。
やや耐腐食性あり。マンガン固溶体硬化効果。
A4000系
ケイ素系。シリコン効果で融点低下するので鋳物に適す。
耐熱性、耐摩耗性。
あまりよくない。
A5000系
マグネシウム系。使いやすいオールラウンド性で、加工性、溶接性もよいので広く使用される。
A5052が使いやすい。溶接にはA5083。
強度良好。
耐腐食性良好。
アルマイト処理は可能で5056が最適。
A6000系
マグネシウム–ケイ素系。窓枠等建材に使われる。ホームセンターの建材のアルミ系が丈夫なのはこれ。
強度良好。
耐腐食性良好。耐応力腐食割れ良好。
A7000系
亜鉛–マグネシウム系。A7075は零戦住金で有名な超々ジュラルミン。航空機、スポーツ用品、ほか、軽量重視の高級品用。
強度最強級。
粒界割れ。ただし、A7072は耐腐食性良好。
まぁ、本研究室では限界を試すような軽量化は模型作成を除いてはそれほど多くはありませんが、7075を加工すると気持ちはいいです。また、強度と剛性を考えた場合、前者は余裕のある場合がほとんどです。無駄な重量は効率的に削ぎ落とす設計をしてください。
軽くて構造に工夫をして必要な強度を維持する設計をすることは機械系エンジニアの基本スキル(のはず)です。向上心ある学生さんは、コストがルーズな大学生の内に、これをきっかけに考えてみてください。
ちなみに、お値段は、A5052 = A2017 < A2024 < A7075 のイメージで、A5075/A5052 = 1.4 くらいのイメージです。A7075 なんて、体積比でいけばステンに比べれば、軽量化分、お買い得です@
本研究室的発想 ^o^;;
さて、航空機が誕生したのをライト兄弟の飛行とすれば、その誕生1903年からから100余年がたちます。
当時の構造材料はほとんどが木材で、その後、徐々に金属材料に置き換えられるようになりました。木材は比強度も大きく、柔構造材で粘りもあり、ある程度の剛性があれば強度は十分満たしていたのかもしれません。
一方、金属は、木材に比べて耐久性も良く、構造効率が向上しました。また、設計技術の向上とともに、軽量な機体を究極に洗練していきました。
その過程で、機械設計のエポックメイキングとなる事象がいくつかありました。もちろん、それらはあまりよい事象でないことがほとんどです。
以下では代表的事象を3件紹介します。このような経験を乗り越えて、機械系技術者は進歩しています。
デ ハビラント DH-106 コメットの空中爆発 疲労〜fatigue
後退翼を採用した世界初のジェット旅客機としての英国製コメット mk.I の1952年就航は画期的でした。主翼根に4発のジェットエンジンを組み込んだスタイルは現代では個性的で ある意味近未来的形状です。運用していた当時の英国先進の航空会社 英国BOAC社もインド、アフリカなど英国由縁の世界中へと進出していました。その先進機体の連続墜落事故は大きな事件で、日本でも、当時のネットもなく 国際ニュースも入手しにくい時代において、子供の遊びにまで「空中爆発(空中分解)」という言葉が普及するなど、今でならトップクラスの流行語、社会現象となりました。
1953年( BOAC 783便)から1954年( BOAC 781便, SAA 201便)に発生した複数の事故後、781便事故に対する英国の威信をかけた大規模な残骸回収と調査結果によって、自動方向探知器ウインドウと呼ばれる2つのカットアウトのコーナーから、与圧の繰り返し荷重(引っ張りと曲げ)による連結疲労破壊が発生していたことが確認されました。そのパーツを並べた写真はネットでも見ることができます。
ちなみに、window と呼ばれていますが、日本語でいうガラス「窓」ではなく、機器取付をするための角丸四角穴のことをwindow(窓)と呼んでいます。誤解ないようにここではカットアウトと表記してみました。
この機体の設計においては、客室与圧を行いながらプロペラ機よりより高空を飛行することもあり、静荷重設計は当然、繰り返し荷重についても安全率方式で2.0 ( >1.5×1.3 ) の安全率で応力計算をしていたそうです。事故後の調査や胴体部分のみをすっぽり覆った世界初の全胴水槽耐圧試験などから、カットアウト枠コーナークラックの発生が確認されました。疲労破壊というものは、亀裂破面を観察すると、最初細かく、徐々に応力集中のために長く、ストライエーションと呼ばれる縞模様が確認できるのが決め手で、その後、許容荷重を超えて一気に破断した綺麗な破面が続きます。
この機体と2あるいは3件の事故と英国の調査によって、コメットは改修されましたが、もはや前歴のある機体は民間では売れず、再起をかけたmk.4 もBoeing 707, DC-8, GD Convair 880 に市場を奪われ、やがて英国老舗デ ハビラントは消滅し、トップ航空会社だったBOACも一時影響を受けたようです。
この事故で、応力集中、塑性変形硬化、疲労試験荷重負荷方法、全機疲労試験、そしてフェールセーフの設計概念、点検方法などに対する多くの知見や観点が誕生し疲労に関する機械工学と設計技術は格段に進歩しました。
de havilland Comet fatigue crack failure accident of fuselage
ジェネラルダイナミックス F-111のピボット折損 左翼脱落
F-105 サンダーチーフの後継機として、経費節減のための海軍空軍共用機体として開発が始まったF-111は、その広範な要求仕様を解決するために、可変翼機を採用しました。統合、共通化によるコスト削減。それはいつの時代も政治家が憧れるマジックワードです(成否の分かれ目については機会があれば、、、)。結局、無理がたたって艦載機としては(当時経験のない海軍の)“過重な”要求重量を大幅に超過し不採用となったものの、機械工学的には初の可変翼、アフターバーナー、地形追従システム搭載空軍機として誕生しました。海軍では、結局、のちのF-14トムキャットの礎とされています。可変翼は実用上、維持コストがかさむため(なのか戦略の変化のため)か現代では新規開発はほぼなくなったようですが、一部 Sci-Fic をはじめとして今なお人気のようです。
1969年、49号機が引き起こし運動中に、可変翼トルクボックスの翼ピボットフィッテイング破壊による主翼脱落事故が発生。当該部品は、その重要性を鑑みて、高張力鋼を超える超強度鋼K6AC鋼を使用していました。非常に強度のある材料は、それが故に製造時の残留応力も大きく、製造直後は検査不能でも製造時イニシャルクラックや遅れ割れが生じ、重大な疲労破壊を生じやすい材料だったのです。比強度が高いだけに、欠陥があると強度低下への影響割合も大きくなります。事故後の調査の結果、クラックは、7.26mm厚K6AC鋼のフィッティングにおいて、製造工程後に最大80%近い 5.72mm 深さの初期割れがあり、それを起因とすして短期間(飛行時間104.6時間)でクリティカルレングス域となる深さ 6.16mm、長さ 23.6mm に成長していたことが判明しました。
その後、改修された F-111 は基本設計の良さからさまざまな発展型が製造され、維持コスト(あるいは戦略変化)を理由として退役するまで幅広く使用されました。
F-111の不具合によって、非破壊検査(NDI)やその検査可能性(detectability)を考慮した初期傷をスタートとする亀裂進展計算を採用した損傷許容設計が誕生しました。後日のASIPの基本にもなりました。
アロハ航空243便事故の天井破壊 — ボーイング737-200
設計予想外の短距離飛行による多所同時発生する割れ(マルチサイトクラック)による構造破壊の事例です。
Boeing 737 は、当時の地方路線用に開発された小型ジェット旅客機ですが、大型機のボディを設計上、流用した結果、ワイドボディの超小型ジェットとしてデビューしました。当時は、同じく Boeing社の世界最大級の巨大機 747 にもなぞらえて、ミニジャンボとも呼ばれていました。
1988年、ハワイ島ヒロ空港からオアフホノルル空港に向かって上昇したboeing 737-200機が、突然、客室前部機体上半部を喪失しました。急激な減圧と、大きな機体部品脱落のため片エンジンが停止したものの、油圧操縦系は無事で、常識的には強度メンバーの半分を失った状態ではいつ胴体が折損してもおかしくなかったにもかかわらず、機体前部が維持できていました。チーフパーサー1名が犠牲となりましたが、結果的には隣接するマウイ島のカフルイ空港への着陸に成功しました。
調査の結果、きっかけ、あるいは甚大化の過程は別として(クリティカル破壊荷重の発生原因が与圧のみではなく水撃的現象という説もある)、短距離多便運行のために、設計の予想を超えた飛行回数と、基本的な亀裂検査において損傷を見逃したことにより、多数のクラックによる全体的な強度低下を起こした状態で、一部の破壊が一気に機体破壊に至ったとされました。当該便搭乗乗客が機体表面のクラックに気づいていたという話もありますので、最近は全天候型ブリッジ導入で見にくくなりましたが、航空機のご利用の際には、カットアウトのコーナーの視認や補強ダブラーの手入れができているかチェックしてから乗機を判断しましょう。
この事故により、単体の亀裂による損傷だけではなく、老朽化による多発的クラックによる破壊や、適切な検査、整備の重要性が認識されました。機械はやっぱりメンテナンスで保つ、です。
余談ながら、我が国で発生した世界的重大事故で、以上の経緯とはやや異なる事例にも触れてみます。
JAL-123の圧力隔壁破裂 修理時の不適切修理 — ボーイング747SR
この1985年の夏の事故は、あまりにも非劇的だったので、陰謀説まで飛び交うほど有名な事故です。個人的にも、当日は東松山に滞在していたので特に印象深かったです。
Boeing 747 は現在では引退しつつありますが、当時はジェット旅客機による移動がどんどん広まりつつある時代で、この超大型機は世界中にシェアを伸ばしていました。この事故の機には、お盆の帰省等で様々な人たちが搭乗していました。世界的に有名な日本曲「sukiyaki」の歌手、坂本九さん、この年21年ぶりの優勝をすることとなった阪神ターガースの球団社長、中埜肇さん、ほか、社長、重役、芸能人、スポーツマンなどが搭乗していました。
この機体 B-747SR46 は、本事故の7年前に大阪空港で不良着陸による胴体尾部の滑走路面接触事故を起こしましたが、その際のメーカー技術者による修理ミスにより、下半分の圧力隔壁交換作業時に、その一部がマルチパス荷重分散から外れ、残ったファスナー周りに応力が流れた結果、ある時期から急激に疲労亀裂が進展しました。事故の半年前から、周辺内装に不具合が発生していましたが、異常を認知、認識されずに事故に至りました。
通常なら、荷重経路確保ミスによる亀裂進展とその点検もれとなるところでしたが、修理部分がシール材で覆われ、検査不能状態であったため、これも事故防止の障害となったようです。
当該圧力隔壁破壊による噴出空気圧により、航空機設計想定外荷重による垂直尾翼および油圧操縦系統の喪失が生じ、操縦不能による山間部への激突が発生しました。
直接原因になる修理ミスは、隔壁補強のパッチ材が、3列のファスナーにかかりそれぞれ2列のファスナーを荷重経路とすべきところ、パッチ材が分割されていたため、片側で荷重が全て1列のファスナーに集中、単純計算で二倍の応力が発生しました。この部分で亀裂が生じれば、規定の修理構造の周辺にも計算外の応力が流れ、どこかのタイミングで一気に破壊が生じます。その際の与圧による風圧で、ノーマル方向荷重には設計上耐性のない構造の垂直尾翼や胴体尾部が吹き飛んだようです。
左右対称の修理にもかかわらず、しかも隣接両側部も同じ構造であるべきなのに、なぜ、当該部分だけ異なる部材を使用しても気にならなかったのかは、現場作業者の機械工学的感性に大きな疑問が残ります。他と異なる形状の修理用パッチ部材は一体誰が用意していたのでしょうか(そこまで調べていません ^^;)。
修理作業担当技術者が基本的な機械的センスを持っていれば、起こりえないはずのミスですが、現代を見れば、ま、人材不足のなせる技なのかもしれないと理解してしまいます ^^; 最近は広く認知されてきたサイレントチェンジも、(大手最上流クライアントには絶滅しつつある)”設計者”の意図を知らずに独断で判断行動する、という意味で同質の問題ですね。
さて、このくどい記事を最後まで読み終えた学生さんなら、こんな技術者にならない可能性は少し高いかもしれません。でも、あなたが将来就職した会社では、平気でこんな作業をする人が結構な割合で活動しているかもしれません。本機械工学課程でも、身近な同期と話をしてみたり観察してみたりして、どれくらい機械工学的に信用できる人がいるか、ちょっと調べて見るのもいいかもしれませんね。
なお、ここでは「翼のある機械」がテーマですので取り扱いませんが、これ以外にも機械工学的に重要な事例はいくつかあるので各自で調べてみてください。
タコマ海峡橋自励振動による崩落(1940)
海峡風によるカルマン渦列非定常流体力による自励振動と構造剛性
米国リバティ級海軍貨物船折損沈没事故(1940年代)および第四艦隊事件(1935)
本格ブロック工法、溶接船の船体折損沈没事故と低温脆性破壊、溶接欠陥、応力集中などの知見、および電気溶接技術の発展。破壊特性(靱性)のスケール効果。台風気象技術の発展。
高速増殖炉もんじゅ温度計さや疲労破壊によるナトリウム漏れ(1995)
カルマンから双対渦による非定常流体力ロックイン現象による疲労コーナークラック
台鉄列車速度超過脱線事故(2018)ほか鉄道事業会社の海外での失策
異文化地域販売に対する機械工学(システムインテグレーター)マネージャーの必要性
などなど
先日(2019/4/09)、日本に配備されたF-35Aが訓練中に墜落しました。未だパイロットが見つからず、非常脱出できたかどうかと言うことも有り、救命筏の発見もない状況でパイロットの生存は厳しいようです。無事救助できなければ、機体捜索、発見、回収まで待たないといけないかもしれません。最近の機体では、機械工学的な欠陥による機体損失より、制御系不具合によって損失することが増えているようです。中華航空140便事故や最近の原因不明の737MAX機事故のようにソフトウェアトラブルが予期せぬ事故を起こしています。もちろん、それがきっかけとなり機体に想定外の荷重がかかって二次的な機械的損傷を受けているかもしれません。最近は民間機にも導入されている高機動なフライングHスタビならなおのことです。
さて、翼のある機械の代表である航空機では、これまでに大きな事故を糧にして、強度設計が進歩してきました(前話)。
高等教育機関のひとつでは、生まれて初めて強度設計をさせられた人は、いくつかのパターンに分類できそうです。
ひとつめは、訳がわからなくて右往左往のパニックするかあきらめの境地をえて自宅で禅にふけるグループです。心配ありません。本機械工学課程では、教科書の数字を書き換えて再計算することが単位取得条件です。まずは深呼吸して落ち着きましょう。
二つめは、少し理解があり、そこに説明もなく一気に登場する数々の用語が何なのか悩んで見て、結局は単位取得に必要な作業を理解することで作業を始めるグループです。教員に聞いても明確な答えが得られない組み分けグループもあるので、それは本課程の教育指針に照らし合わせても大人な判断と対応です。日本的社会適合者です。
三つめは、本当に機械設計を理解しようとするグループですが、もう近年では皆無だと思います。
日本を背負っていく?気があるのかないのかわからない未来の機械系技術者の卵たちの状況はここでは横に置いておいて、今回から4回ほどに分けて、簡単な強度設計ポリシーの理解のための(ヒントの)お話です。
ここでは、授業でも曖昧にされている強度設計について、ホントは一番大切な設計ポリシーに少し振れてみます。その一回目は静荷重です。
最も簡単な荷重計算です、材料力学の演習問題では。しかし、大学で習うようなそんな計算では、実際の機械は設計できないことも習っているのですでに理解しているしょう。
今でもよく教育の場で使用されているのは、アンウィンの安全率を用いた設計です。
そもそも、安全率を使用するのはなぜでしょうか。許容荷重があって、材料強度があって、安全率がある。許容か10って何なのでしょうか。材料強度ってそんなにしっかり決まるものなんでしょうか。ネットでは日本製の品質がいいと言っていますが、材料の品質って何なんでしょうか。もちろんそう言うことがわかっているからこそ、機械設計を理解できて、教育の成果が上がると言うことでしょう。いかに、オーソドックスなアンウィンの安全率を示します。
アンウィンの安全率
材料
静荷重
繰り返し荷重(疲労荷重)
衝撃荷重
片振
両振
鋳鉄
4
6
10
15
軟鋼
3
5
8
12
鋳鋼
3
6
8
15
銅
5
6
9
15
木材
7
10
15
20
学生さんたちが、将来、他人様の命を預かるような重要な機械の設計業務に携わりたいと思うかどうかはわかりませんが、このような安全率の設計で、自分の命を預けたいでしょうか。アンウィンの安全率では、機械はかなり重厚なものになりそうです。この設計手法で作った飛行機は、きっと墜落はしないでしょう。滑走路の端っこの壁に激突することはあっても。
空中に浮かぶためには、重量を軽減する必要があります。そのためには、比強度の高い材料を使用する、強度的に効率的な形状を利用する、そして安全率を減ずる、です。
材料の変更はそのままコストに跳ね返ることが多そうです。形状の工夫、これは機械設計の醍醐味です。もっとも安直なのは安全率の低減です。この安全率の低減は、第2世代的には経験に基づいて削減します。経験。そう、経験です。一度やってしまったら二度目からはもう慣れっこ、です。最初はドキドキしますが、うまくいったらこっちのもんです。もっとも、現実には静強度試験という裏付けを用いるでしょうけど。
ところで、以下のような材料試験結果があったとき、あなたはどのようにして材料強度を計算して報告しますか?
回数
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
強度
80.2
80.6
75.1
86.7
71.8
77.5
83.1
74.8
84.9
85.3
材料強度は算術平均で 80 でしょうか。それとも最小値で71.8でしょうか。もしも算術平均で部品を設計すれば、(仮にわかりやすく安全率1とすると)設計荷重がかかったとき、半分の部品が壊れます。もし同様の設計思想による部品10個で構成された命に関わる機械なら、0.510 の確率でしか生き残れないでしょう。たとえ最小値を選択したところで似たようなものです。その最小値はたまたま今回の試験の最小値なのですから。事故を防ぐためには必要以上に大きめの安全率がどうしても必要になってきそうです。
これが、従来の静強度(など)の安全率中心の設計ポリシーです。以上のことを踏まえて、疑問が湧いてきたのであれば、機械設計の担当のえらい先生方に授業で質問して、より知識を深めてみてください。
・・・今回はここまで。次回は疲労強度設計です。
さて、最近は民生量産品機械の多くは樹脂で製造されることも多くなってきました。
特に一般大衆向けの機会の多くは、樹脂製です。機械的な開閉、ボタンなどの往復運動、タクト運動、までも樹脂製部品が多く使用されています。非常にシンプルな構造のものでは、樹脂板に薄い溝を掘って(成型して)、繰り返し曲げによって開閉するヒンジもあります。
当然そのような樹脂は、そもそもが金属などとは異なる粘弾性材料の特性を持ち、クリープ現象が常温近くで生じたり、引張速度の影響を受けたり、、、で、やがてちぎれてしまうことは身近なだけにご存じのことでしょう。
その点、(大衆ではなく専門的な)一般機械では、金属材料を使用することが今なお多いです。樹脂を用いるにしても、それは弾性限度で使用するなど、繊維強化ブラスチック(Fiber-Reinforced Plastics)が多いようです。
さて、今回は疲労強度計算です。イニシャルクラックを元にした亀裂進展計算はのぞきます。それらは次回以降で取り上げる予定です。
疲労 — Fatigue
疲れ、です。繰り返されるダメージは、人の体や精神、そして金属材料にもダメージを与えます。
金属材料を弾性範囲で使用していても、繰り返される荷重を受けると、その組成の粒子間 — それは原子や分子や結晶など — にはく離(転移現象)を生じ、やがて割れとして機械部品を破壊してしまいます。
次図は、あの MILハンドブックからの引用です。
疲労曲線例
ここでは、7075-T6材(超々ジュラルミン表面除荷熱処理済)の疲労強度特性が示されています。点は疲労実験で破壊が起こった回数。曲線はその近似曲線です。縦軸には最大応力、パラメーターは平均応力なので応力比がわかります。横軸は繰返し回数。runout はその応力では破壊しない fatigue free 応力と言うことです。
このような設計資料を用いて設計を行うには、使用状況から応力のパターンや最大応力、想定繰り返し数を設計時に推定しておく必要があります。
日本の代表産業である自動車会社がそこまでやっているかはわかりませんが、航空機メーカーでは運用機の状況をモニターして、かなり確度の高いデーターを蓄積しています。
自動車では、車検や6ヶ月点検等をしていますが、結局は、壊れたら修理する、が本のように思います。そうでなければ、親切な技術スタッフが、これはもうそろそろ寿命ですよ、と故障防止のために声を掛けてくれ、その自動車販売店の技術の一言で交換をします。その言葉に重みを感じないのは、単純な平均寿命で判断やアドバイスをしていることです。そもそも、現在のディーラー技術にメーカーがどれだけ効果的で適切な教育をしているのか疑問です。想像するに、高級車ブランド車はどうか知りませんが、搭載管理コンピューターには部品交換時にタイマーリセットして、規定時間または規程走行時間のどちらか早い時期に到達したら、部品交換営業をする、という営業シナリオになっていそうです。そこにはまだまだ先端設計の思想は感じられなさそうです。さて、実態はどうなんでしょうか。
日本では1980年代に初めて導入した ASIP( Aircraft Structural Integrity Program)、今はそこにさらに細かなセンサーも加えてHUMS(Health and Usage Monitoring System) のようなモニターシステムを導入して、高価な商品の値打ちをさらに保障するようになっていますが、その話は回をあらためてする予定です。
後日追記予定。
日本の製造業の品質は高い、とはいうものの、一方でコスト削減追求によって、結構粗雑な商品も増えているような気がします。
工業製品には、技術の底上げが重要です。そうでなければ、充分な技術を持ったベンダーの囲い込みによる一製品に関わる企業グループが必要です。
日本のスタイルは、欧米に追いつけ追い越せ時代の第1世代では、品質向上のため、とにかく自社技術の向上を行っていたと思います。そうでなければ、家族ぐるみのような企業体で、下請けにも指導を行い、なんとかベンダー納品の部品品質を向上させようとしていたのではないでしょうか。
第二世代では、コスト度外視の熱血も難しくなり、部品をベンダーに任せる依存度が増え、コストのためにその首をすげ替えることで競争力を維持していたのかもしれません。上位の企業は、ベンダーに仕事を与える代わりに、品質達成や価格を(力で)支配している状況かもしれません。
第三世代は、一部ベンダーは技術を伸ばし、いつ契約を切られるかわからない状態から、技術を武器として独立するベンダーと、支配の状況から抜け出せないベンダーの二極化が起こっていたようにもおいます。
最近では、グローバライゼーションが進み、さらに格安の海外製品を採用し、第1世代同様に結果的には技術流出をすることによって、国内のベンダーが、人材不足と相まって、淘汰されている状況かもしれません。
もはや製造業の継続性を維持するのは困難な日本の国情なのでしょうか。
さて、今回は、製造業の継続性という安全ではなく、商品の安全性に関わるお話です。
一般に機械が壊れると、事故を起こす、あるいはユーザーの業務が停止するなどによって損害を生じます。そのために最近はいろいろと面倒な社会になってきています。
一方航空機も同様ですが、機械的な欠陥がそのまま人命に関わることも有り、構造の安全性は早くから配慮され、対応が取られています。
設計コンセプトにおける最初の安全性確保は、破壊が生じたのちの構造の維持のための工夫でした。これらは、コメットの事故による成果と言ってよいと思います。
ここで取り上げる安全設計は、静強度での安全率とは異なり、構造による安全設計です。つまり、構造(主要メンバー)に不幸にも破壊が発生してしまったとき、それでも構造が最低限の強度で維持でき、次の規程の検査時期までの期間だけはクリティカルな破壊を生じず、墜落をまのがれるうるような構造上の工夫です。
これらは、ダメージトレランスデザイン(損傷許容設計)と呼ばれます。それを実現する構造を、耐損傷許容構造とよびます。
耐損傷許容構造は、大きく大別して、亀裂緩成長構造とフェールセーフ構造に分けられます。後者はさらに、他荷重経路構造と亀裂停留構造に二分できます。
後日追記予定。
損傷許容設計について記述予定。
今年、令和元年は、ほんの少し、在阪某放送局の有人無動力機のイベントに参加されたチームの作業を垣間見ることができました。
航空機に限らず、機械では、軽量化と剛性は強度設計の大きな主題だと思います。産業分野によっては、軽量化など全く意に介す必要もない(と理解されている)産業も多くあるようです。
本研究室では、頭初からとりわけ実験模型の製作においては、軽量化が必要でした。流体力学的作用を受ける模型が、質量によってその特性を買えるような分野では、模型の慣性の影響を極力抑える必要があり、すくなくとも、調節可能にするためにも質量は抑えておく方が無難です。
これらは、現実実験においては、実験設備の制限の中で、できるだけ幅広い条件のデーターを取得できること、あるケースでうまくいかなくても、それが実機と比べて模型の慣性の影響がとても異なる場合に、実験設備が設定条件に移行する課程で、状態が破綻する可能性もあるからです。
いずれにせよ、軽量化設計を行い、それを実現するには、いろんな障害があります。
とくに、設計に関してはある程度自己完結できます。しかし、その図面を製作部門に出したときに、大学などでは特に、製作部門、業者、などが拒絶したりすることです。
特に大学では、設計者の設計意図も理解せずに、製造部門はその責任者が依頼者にまで影響を及ぼすことがあり、たいへん苦労します。設計者が依頼しても、「こんなん困難作っても無駄だ」というような状況になったとき、もはや(どういう権限下はわかりませんが)責任者として受け付けない、なんていうこともあります。要らぬところで精神がすり減ります
ま、学内で起きるこの構図は、民間企業では、軽量設計を行った担当者と、自分が責任を取ると思っている管理職との間に生じると思います。発注元とベンダーの関係だと、もう少し支配的な関係があるのでトラブルにはならないのでしょうけど。
今回の、空を飛ぶ機体の設計でも、軽量化構造についてはほとんど理解をされずに水面下での表に出ない衝突が多くあったようです。
主体は地域の製造業のグループですが、まず、軽量化が重要な機械の実態については知識がなく、構造には主たる目的があるという観点はあまり精査されずに、機械とはこういう強度であるものだ、という感性が支配します。ちょっとくらいぶつかったくらいでは変形もしない機械の構造を扱う人の思想と、空を飛ぶ機械の構造を作る人の思想は、痛い養鶏で育った知的生命ほどに根本的に異なるようです。
常に軽量化を意識していると、その構造がどのような力を持つモノであるかはたいへん気になります。そうでない人は、応力よりも、無作為に持ったり叩いたり乗っかったりしたときの変形だけが気になるようです。効率的な構造と比べれば、無作為の力に耐える構造なんて言うのは非効率きわまりないもの、という発想がありません。
[作成中]
検査性と品質保証
仕組みがわからなければ保障はできない
材料の品質
統計学の工学応用
故障率とワイブル分布
売れてる車の方が補償を受けやすい
運用に入っても続いている疲労強度試験
なんていう小話の予定。
翼に注目した独断と偏見によるトピックス集、の記事になる予定です。
楕円翼 / brind fastener 礼式艦上戦闘機とハインケル
機械工学的に留意対力学を利用するのであれば、
翼(素)より(主)翼かもしれません。
というわけで、
工学的な問題や事象(あえてここでは現象とは言いません)に関連した話題を探ってみます。
が、あんまり深入りすると、まだ謎の二つめの機械に行き着かないので、途中で一端そっちに飛ぶ可能性は大きいです。
航空機は1800年前後に、
オットーリリエンタールなどが人力グライダーで滑空飛行した後、
当時の大きく重たいエンジンを、
なんとか飛行機に積んで離陸、飛行したところから始まります。
頭初の航空機は、
揚力を発生し、しかも軽量で丈夫な構造にするために、
木製翼桁とワイヤーを用いた構造の複葉機(翼が高さ方向に二枚、三枚重なった翼)だったようです。
これらは、軽量化するためにテンション部材とコンプレッション部材を分け、翼の剛性と強度を保つように工夫されていました。
既に学んでいるように、
翼に比べてテンションを受け持つ細い丸ワイヤーの抗力は桁違いに大きく、
構造工学の進歩とともに、
ワイヤーを減らした複葉機や、
薄翼でも十分に片持ちで保持できる単葉機が登場し、
現代では、特に理由のない限りは単葉機が使用されるようになりました。
さて、単葉と複葉、工学的にはどような特徴があるのかを考えてみてください。
・水平投影面積が小さくなる(翼巾が抑えられる)
・
特殊な事情で、着陸時に通常航空機よりも低速で進入する必要がある場合、通常よりも高迎角で飛行する必要があります。そのような場合、翼の前縁剥離を防ぐために、流体工学的工夫が必要になります。それが前縁フラップです。当然これを実現するためには、機械工学的設計の機構の工夫が必要になります。そこまでできなければ、俗に言う、絵に描いた餅、です。工学的には何の価値もありません。
前縁フラップが作動すると、文字通り、翼の前縁が普通は下方に折れ曲がって、翼前縁付近が頭を下げたように変形します。教科書的には、前縁が下がることによって翼弦の迎角が小さくなります。一般的には、前縁部分が展伸して下方に下がり、場合によってはスリットが形成されて運動量補完させるものもあります。そういう場合は、前縁スラット、と呼ばれたりするようです。スラットの場合でも、外見は講演のフラップのようにはあんまりすきまがはっきり見えません。高圧側なのですきまさえあれば運動量供給ができてしまうのかもしれません。
流体工学的効果はこの程度にしておいて。さて、いつも流体屋の要求は構造屋さんを悩ませることになることが多いようです。このような前縁フラップ、ただでも薄い翼に機械的に収納したり、展伸したりさせる機構は結構たいへんです。しかも、翼ですから、そこにかかる空気力の総計は結構なものです。取付部分にかかるモーメントを想像すれば、応力の大きさも少しはイメージできるかもしれません。その動作は、思いの外速く(個人差がありますね)、反力は、翼面をたわませるほどでした。そのような動作をさせる機構をまずは創造してみてください。
本研究室で風洞を使用した学生さんなら、風の力がどの程度かを実体験しているので、機構と同時に強度が重要であることはわかるでしょう。そしてその強度に対抗して動作させる作動力も見当をつけることができます。したがって、翼だのそばには、当時は油圧アクチュエーターが配置されていました。現代では、特に旅客機に乗っていると、舵面でも脚でも、動作させるには一定の時間が必要で、作動中は結構大きな音でゥィーーーーーン、とうなっていることにお気づきと思います。そう、最近は何でも電動です。力が必要なら減速してトルクを増やします。したがって、動作には少し時間がかかるようです。
そうこうしているうちに、フラップの作動機構を創造できたでしょうか。
ネットに転がっている航空機の構造図の中には、細かいところまではなかなか記載されていませんが、きちんとアクチュエーターや周辺作動機械機構の概略が描かれているものもあると思います。
あ、そもそもアクチュエーターなんていく言葉が通じていないかもしれませんね。当時はアクチュエーターと言えば油圧。最近は電動でもアクチュエーターと呼ばれますので、電動装置敷かないって思っている人も多いかもしれませんね。アクチュエーターなんて言っても、機械系アクチュエーターは、用は油圧、空圧、水圧のシリンダーです。、、、あ、シリンダーも通じないか・・・・^^; シリンダーなので容積変化で変位を生じさせます。つまり直線運動発生装置です。アクチュエーターは舵面に組み込まれていたりします。
簡単な概略図で記せば以下のようになります。
このとき、アクチュエーターは片方は舵面のラグに、もう片方は駆動用リンクにいずれもピンを用いて接続されています。このラグが、破断するという不具合が発生しました。ここが破断すると、前縁フラップが宙ぶらりんになって、飛行時にはあまりよろしくありません。実際、図面を見れば、きっちりと機能しているので、計算書と突き合わせても、まったく応力的に問題がなく、損傷に至る理由はわかりませんでした。
そのうちに、現場からは交換して取り外した部品が届きます。これらを観察すると、ラグの相手側の角に、あたりが生じている痕跡がありました。そもそも、ラグなんですから、どこかが当たるようなものではなく、
結局、メーカーから届いた部品の寸法が、図面寸法より永く、その先端が、先突きしていて、その反力で設計外の応力がかかっていたようです。つまり、フラップを動作させるたびに、無理矢理固持手大きな力がかかり、構成のアクチュエーターではなく、アルミ合金側が変形するとともに破断に至った、ということになります。
現代では受け入れ品証などがあるので、部品の寸法チェックを行っているでしょうから、このような事例は起こらないでしょう。それでも、何かトラブルが生じたら、まずは設計図と現物部品をしかりと比較確認することは、意外と滅多にないトラブルの早期原因究明につながるかもしれません。もちろん、納品時のチェックを怠らないことの方が安全で効果的ではあります。