親水性塗料を物体に塗布すると,物体は濡れやすくなり,例えば流路内に気泡がつきにくくなりします.これは物体表面で水分子を引き寄せる分子間力(主に水素結合)が大きくなるためです.これまでに疎水性表面に関する研究で,抵抗が低減する報告がなされています(例えばDaniello, R. J., Waterhouse, N., E., Rothstein, J. P., "Drag reduction in turbulent flows over superhydrophobic surfaces," Physics of Fluids, 21, (2009), 085103).疎水性では水分子を物体表面に引き寄せる分子間力が小さくなりますが,このことは,分子間力で流れがコントロールでき,その反対である親水性塗料でもコントロールできる可能性が考えられます.
本研究では,親水性塗料を物体に塗布し,流れによる摩擦抵抗に対してどのような影響があるのかを,その塗布パターン,レイノルズ数に対して調べています.塗布パターンでは,データが蓄積すればベイズ最適化を活用する予定です.エネルギー問題に関する興味がある人は,面白く感じることでしょう.
図1 実験装置
図2 レイノルズ数と抵抗係数の関係(速報値)
場の測定を行うとき,一般には「ここからここまでを等間隔に何点.」のように測定点を決めます.それらのデータを測定する順番ですが,「とりあえず左から順番に.」のような測定を行う人が大半です.ですが,「流れの変化が大きな,傾向が分かる場所をまず先に知りたい.なぜなら自分が考えたモデルや数値計算と比較して,傾向が一致するのかを早く知りたいから.あるいは,性能が悪そうな機械のデータ測定は早めに見切りをつけて,別の機械の開発に着手したいから.」といった需要もあります.最後は全てのデータを取得するにしても,傾向を先に把握できれば興味も湧きますし,何より早い段階でその流れが生じる原因の考察に移れます.
本研究では,測定点の中で変化が大きそうな場所の流速を優先的に測定するシステムを,強化学習を用いて開発しています.現時点では数値計算結果に対してプログラムを作成していますが,同時にマイコンArduinoで作動する熱線流速計の開発も試みています.これによって,安価に誰でも早い段階で速度場の傾向をつかめるシステムを目指しています.2024年3月時点では,強化学習のアルゴリズムと熱線流速計の試作ができました.これからは,トラバース装置の自作とそれをプログラムと連携させる予定です.実践的な電子工作やプログラミングが身に付く研究です.
図1 数値計算で作った流れ場に対して,優先順位を推論しながら測定を行った結果.黒い点ほど早い段階で測定しており,流れの変化が大きそうなところから先に測定している.
図2 試作した熱線流速計の流速と出力電圧の関係.この関係を利用して,実際の測定では電圧から流速を求める.
金属を効率的に分離する方法として,液-液抽出という方法があります.この方法では,一つの溶媒(通常は水)に溶け込んだ金属が,もう一つの溶媒(油の様な有機溶媒)に溶け出して移動する現象を利用します.液-液抽出を工業的に行う方法としては,ミキサセトラやシャイベル塔といった攪拌を利用する方法がありますが,これらは攪拌パドルを動かす動力が必要であったり,2つの溶媒が乳化してしまうため,抽出を行うためには乳化した溶媒を静置して分離するまで待たなければ金属が抽出できません.この様な問題に対し,本研究では充填した球の間を通過することによって金属を含む溶媒に変形を促し,それによってもう一つの溶媒に溶け出す頻度を上げる方式の開発に取り組んでいます.この方式は愛媛大学の山下先生が発明したものであり,HIMEカラムと名付けられています.
本研究では,充填層を2次元の円柱に置き換え,円柱の大きさ,間隔による抽出への影響を調べています.抽出前後の金属濃度の測定には,2023年度まではICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析法)という装置を利用していました.これは当研究室の装置ではないため,結果を知るのまでに時間がかかって十分なデータが得られませんでした.この反省から,両親媒性溶剤であるIPAを金属に見立て,抽出率を簡易的に評価する方法を開発しました.この方法によって,今度信頼性の高いデータの取得を試みます.企業からの問い合わせもある実用性の高い研究です.
図1 数値計算による円柱群を通過する液液2相流.界面を黒い線で示している.水溶液が液滴となって落下しており,液滴内の流体が大きく移動できていることが速度ベクトルから分かる.
図2 IPAによる抽出率評価実験(速報値)
これらの研究では,以下のツールを活用しています.テーマによっては高速ビデオカメラ(フォトロンFASTCAM Mini AX100)やレーザー光源,2次元PIVソフトウェア(ディテクトFlownizer 2D)を使用します.
データ取り込みパソコン
アナログ入力PCIボード(コンテックADI12-16(PCI))とセンサインターフェース(共和電業PCB-300B)を同時に操作できるプログラムにより,圧力や流量,力を簡単に数値データとして取り込むことができます.
数値計算フリーウェアOpenFOAM
https://www.openfoam.com/で公開されている数値計算フリーウェアOpenFOAMを使いやすくしたDEXCSを利用して,流れの数値計算を行っています.OpenFOAMは無料で使える反面,有料のソフトのような操作性はあまり良くありません.設定ファイルの作成など,理解し(有料であっても理解は必要です!使い方を覚えるだけなら人間は要らない!),覚えることがたくさんあります.この大変さを緩和するために,質問に回答していくと大半の設定ファイルが作られるPythonスクリプトを用意しています.これらスクリプトの使い方は研究室で教えます.
プログラミング言語Python
今やどこの研究室も当たり前で使っていますが,当研究室でもデータ整理や機械学習に使用し,プログラムの書き方を基礎から教えています.
ワークステーション
流れの数値計算や機械学習には専用のワークステーションを利用しています.各自が研究室で使えるノートパソコンからアクセスできます.
データ整理,論文作成用ノートパソコン
データ整理や論文作成のためのノートパソコンを研究室に設置しています.OpenFOAMやPythonはインストール済みです.
情報掲示板
研究に有用な情報をこのホームページとは別のページでまとめています.「多くの人がつまづきそうだな」と思われる項目が見つかるごとに,情報を追加しています.