💡 何のための研究?
産業界では,フィルターや熱交換器など,小さな穴がたくさん空いた「多孔質体」に空気が流れる際の圧力損失(空気の通りにくさ)を予測することが,効率的な設計のために重要です .通常,これにはDarcy-Forchheimerの式という有名な計算式が使われますが,この式は金属のような「硬いもの(剛体)」が前提です .しかし,実際にはフィルタのように,風圧で変形してしまう「柔軟な材料」も多く存在します .本研究では,柔軟な材料でも正確に空気の抵抗を計算できる,新しいモデルの構築に挑戦しました .
🛠 どんな実験?
実験では柔軟な材料を装置に詰め込み,気流による圧力損失を測定し,Darcy-Forchheimerの式と本研究で提案する式とを比較しました.従来のモデルでは,空隙(隙間)が常に一定であると仮定します.それに対して本研究の拡張モデルでは気流の強さに応じて材料が変化し,「隙間の大きさ」が変化することを数式に組み込みました .
📈 結果
流れが速くなるほど,Darcy-Forchheimerの式よりも本研究の拡張モデルの方が,圧力損失をより精確に推定できることが分かりました .特に,「低速域では材料の間も空気が流れるが,高速域では隙間のみを流れる」という仮定を置くことで,圧力損失の推定が改善されます .この成果は,柔軟な素材を用いた次世代の産業機器設計に貢献することが期待されます .
実験装置
実験結果;縦軸の値が0に近いほど精度が良いことを表します.Darcy-Forchheimerの式(青丸)に比べて,本研究の拡張モデル(赤丸)の方0に近くなっています.
💡 何のための研究?
溝を掘ったりする機械加工を壁に施さずに流れを変える方法として,「親水性塗料(水に馴染みやすい塗料)」に注目しています.本研究では管が急に太くなる「急拡大部」に対して親水性塗料を用いることで,流れを改善できるかを調査しました.急拡大部は工場や機械の中にある配管でよく見かけられますが,ここで流れが壁面からはく離してしまうと,エネルギーのロス(圧力損失)につながります.
🛠 どんな実験?
太さの違う2種類の急拡大管を用意し,塗料を塗る場所を変えて(壁面のみ,角の部分のみなど),水がどのように流れるかをハイスピードカメラで観察しました.注目したのは「流れがはく離してから壁面に付着するまでの長さ」です.この距離が短いほど,良い流れと言えます.
📈 結果
実験の結果,親水性塗料を塗ることで「流れがはく離してから壁面に付着するまでの長さ」が短くなることが分かりました.急拡大した直後の「流れに垂直な壁」と「管の内壁」に塗った場合が,最も効果的でした.流れが変わることは確認できたので,次は実際にどれくらいエネルギーロス(圧力損失)が減ったのかを精密に測定していく予定です.
2種類の急拡大管
実験結果;縦軸は「流れがはく離してから壁面に付着するまでの長さ」です.急拡大した直後の「流れに垂直な壁」と「管の内壁」に塗った場合(◇),この長さが短くなる傾向があります.
💡 何のための研究?
金属溶液から特定の成分を取り出す「溶媒抽出法」は,工業的に広く使われています.その中でも「HIMEカラム」という装置は,液滴が障害物(充填物)の間をすり抜けて落下することで高い抽出性能を発揮しますが,液滴の内部で成分がどのように混ざり合い,拡散しているのかは詳しく分かっていませんでした.本研究では,このメカニズムを明らかにするため,液滴が円柱に衝突し,変形しながら落下する際の内部濃度分布を画像解析によって可視化することに挑戦しました.
🛠 どんな実験?
メチレンブルー(青色の染料)を加えた水溶液の液滴を,ケロシンで満たされた円柱群の中に落下させ,メチレンブルーがケロシンに染み出すよう様子を撮影し,解析しました.ケロシンに界面活性剤AOT(スルホコハク酸ビス(2-エチルヘキシル)ナトリウム塩)を用いることで,メチレンブルーはケロシンに染み出すことができます.画像解析では 画像の輝度情報から,液滴内部の「濃度」や,場所による濃度の変化の激しさを示す「濃度こう配」を算出しました.
📈 結果
液滴が円柱の間を通り抜ける際,刻一刻と変化する内部の様子を捉えることに成功しました. 落下初期は同心円状だった濃度分布が,円柱に衝突して液滴が平たく変形した瞬間,円柱に近い側で濃度こう配が非常に高く(混ざりやすく)なることが確認できました.この可視化手法を用いることで,より効率の良い抽出装置の設計指針が得られることが期待されます.
撮影した画像(左)と液滴部分の濃度分布(中央)と濃度こう配(右);液滴が平べったくなって,濃度勾配が大きいところが下側に偏っています.
💡 何のための研究?
流体の速度分布を測定する際,熱線流速計などを用いた多点測定では,「どこから順番に測るか」が重要になります.重要な場所(変化が激しい場所)を先に測定できれば,実験の効率が上がり,設計や条件変更の判断を早めることができるからです.しかし,未知の流れ場において「どこが重要か」を事前に判断する基準はありません.そこで本研究では,強化学習(AIの一種)を用いて,次にどこを測定すべきかを自律的に判断するアルゴリズムの開発に挑戦しました.
🛠 どんな方法?
強化学習のエージェントに対し,「速度勾配の絶対値(速度の変化が激しい場所)」を報酬として与え,その合計を最大化するように学習させました.エージェントが「良い測定」をしたことをスコアにした報酬の設計では,単に合計を増やすだけでなく,「より早い段階で」重要な場所を見つけるほど高い報酬が得られるように工夫しました.報酬の合計を計算するニューラルネットワークの構造や学習の仕方を,ベイズ最適化という手法で精密に調整しました.
📈 結果
仮想的な速度分布を用いたテストの結果,強化学習による測定順序の決定は,ランダムな測定よりも効率的であることが証明されました.全体の測定回数のうち前半50%の段階で,重要な領域をどれだけ捉えられたかを評価しました.ランダムな測定では50%の精度にとどまるところ,本手法では62.4%という高い精度を記録しました.この手法を実際の実験装置に適用することで,スマートな自動計測システムの作ることを目指しています.
報酬の合計の推定精度のR2;横軸の学習回数が増えると,訓練データ(青)に対しても,検証データ(オレンジ)に対してもスコアが大きくなって,正しい推定ができるようになります.
測定例;○が測定点で,色が白い/黒いほど先/後に測定しています.速度こう配が大きい,赤色で示された場所が早めに測定できています.
💡 何のための研究?
円盤投げの飛距離を伸ばすには,初速度や角度だけでなく,飛行中の「円盤の姿勢」が極めて重要です.しかし,飛んでいる円盤の傾きや回転を正確に測ることは難しく,これまでは画像撮影しか方法がありませんでした.本研究では,9軸センサとマイコンを内蔵した「姿勢を記録できる投てき円盤」を自作し,実際の投てきデータから飛距離と姿勢の関係を科学的に分析することを目指しました.
🛠 どんな装置?
男子高校生用サイズの円盤(直径212mm)の内部に,ESP32(マイコン)やBNO055(9軸センサ),SDカードモジュールなどを組み込みました.着地時の大きな衝撃でデータが消えないよう,コンデンサを追加して電源を安定させるなど,回路設計を工夫しています.実験では12回の投てきを行い,飛行中の円盤の姿勢を「クォータニオン(回転を表す数学的指標)」として連続的に記録しました.
📈 結果
計測の結果,飛距離が伸びる試技とそうでない試技には,円盤の回転軸のふるまいに違いがあることが分かりました.投てき直後から落下直前まで,「回転軸の向きの変化」が小さい試技ほど,飛距離が長くなります.回転軸の向きのばらつきを算出したところ,鉛直方向のばらつきが小さいほど飛行が安定し,距離が伸びることがデータとして示されました.このシステムを活用することで,選手が自分の投げ方の癖を客観的に把握し,より効率的なトレーニングを行えるようになると期待されます.
自作した「姿勢を記録できる投てき円盤」
投てき距離と回転軸の向きのばらつきの関係;鉛直方向のばらつきが小さい(=横軸右側になる)ほどよく飛びます.
これらの研究では,以下のツールを活用しています.テーマによっては高速ビデオカメラ(フォトロンFASTCAM Mini AX100)やレーザー光源,2次元PIVソフトウェア(ディテクトFlownizer 2D)を使用します.
データ取り込みパソコン
Arduinoで自作したデータ取り込みデバイスを,USB接続して使っています.
3Dプリンタ
当然あります.複雑な流路を作るには不可欠です.
ワークステーション
流れの数値計算や機械学習には専用のワークステーションを利用しています.各自が研究室で使えるノートパソコンからアクセスできます.
数値計算フリーウェアOpenFOAM
https://www.openfoam.com/で公開されている数値計算フリーウェアOpenFOAMを使いやすくしたDEXCSを利用して,流れの数値計算を行っています.OpenFOAMは無料で使える反面,有料のソフトのような操作性はあまり良くありません.設定ファイルの作成など,理解し,覚えることがたくさんあります.この大変さを劇的に緩和するために,質問に答えていくと大半の設定ファイルが作られるPythonスクリプトを用意しています.他大学や他学部でも利用された実績がある,優秀なスクリプトです.
プログラミング言語Python
データ整理や機械学習に使用し,プログラムの書き方を基礎から教えています.
Arduino
最近はメカトロにも研究の範囲を広げています.Python同様,プログラムの書き方を基礎から教えています.
データ整理,論文作成用ノートパソコン
データ整理や論文作成のためのノートパソコンを研究室で使えますので,大学に自分のパソコンを持ってくる必要はないです.
情報掲示板
研究に有用な情報をこのホームページとは別のページでまとめています.「多くの人がつまづきそうだな」と思われる項目が見つかるごとに,情報を追加しています.