migrating books
— 移動・移行・移民する本 —
本を乗せた船の本棚が、
世界中の本屋を移動していく
— 移動・移行・移民する本 —
本を乗せた船の本棚が、
世界中の本屋を移動していく
JP/EN
2014年 B&B での最終日に集まった本たちと船の本棚
誰かの「ある一時期」の心の景色や感触を、遠くの読者に届ける装置
誰かの「あのころ所属していた場所」が書かれた本たちが
舟形の本棚に乗って、
世界中の町の本屋から本屋を旅している
本プロジェクトは、参加者が匿名で書いた本が、舟形の本棚に乗って世界中の街の書店を移動していく、現代美術家 河村美雪によるアート作品です。
2014年に東京の書店「B&B」からはじまり、2015年ノルウェーのオスロの書店「CAPPELENS FORSLAG」で実施しました。
その後プロジェクトの休止に入っておりましたが、2025年に再始動。
Step 1 :本の配布と完成
ある街で、中身の書かれていない本が配布される。
本を入手した人は、本に書かれている指示に従って写真2枚を貼り、その写真に関する質問に回答することによって、この旅する本の著者になる。(ただし、匿名の著者)
Step 2 港 (町の本屋)
「船の本棚」が、その街の書店に係留して、「migrating books」を待っている。
同時に、以前に滞在した街で乗船済みの「migrating books」が、同書店で販売(任意の寄付)される。
Step 3 乗船
完成した「migrating books」は、その著者自身が書店を訪れて「船の本棚」に乗船させる。
Step 4 価格決定
本屋のオーナーは、次の街で販売するための本の価格を決定する。
Step 5 新たな乗船
新たに乗船した本は次の街へと旅立っていく。
「migrating books」では、船の本棚を設置する書店のオーナーに、本の価格を決定してもらいます。
その価格で、新たな街の本屋で「migrating books」は販売されます。
では、そこで得た収益はどこにいくのか?というと、購入者が自身で選んだ団体や活動にご自身で寄付をしてもらうことにしています。
寄付をしたかどうかの報告は、特にお願いしていません。
心は移りかわるもの。
世界中に身動きの取れない状況にある心が、決して事の大小では分類できないほどにあるでしょう。
移り変われるということは自由の証でもある。
そんなふうに感じた経験も、このプロジェクト誕生の一端となりました。
寄付に期限はありませんので、自由の一助となるような組織や、もしかしたら身近な何かに。
これまで本プロジェクトに関わる記録物を作品として作成したり、それを販売するという方向は、考えてきませんでした。
「本」になった一冊それ自体が大切な存在で、その記録を作ると、いつしか記録作成が目的になるようで嫌だったのです。
けれど、時間が経過すればするほど、集まってくれた本たちをまとめて見れる機会がないことはもったいないと思うように変わってきました。
また、このような現物が残らないアートプロジェクトでは、記録物が「作品」となることはしばしばあり、そちらを発表・販売することも珍しくありません。
「migrating books」の場合は、書き手となる方々に匿名で参加してもらっていることや、そしてプロジェクトが長い時間をかけて遂行されていく過程で書き手に連絡をとり続けるのは難しいだろうことが予想されたため、記録物を作品として発表し、そして販売することによって得られる利益が生じた場合の権利関係や収益の分配を判断して決定するのは複雑になると考えました。もちろん、最初に利益はこちらで活用させていただく説明をして許可をいただいてから参加してもらえばいいのですが、そういった段階を挟むことに抵抗がありました。
ただ、プロジェクトの遂行には資金も必要です。
東京での開催の場合は、私が東京在住であったため、本の印刷費用や本棚の製作費などで大きな出費ではありませんでしたが、OSLOでは、制作助成金や現地のアーティスト・イン・レジデンス、芸術大学の招待を得て実施できました。ただ、このように助成金の活用によって様々な土地に出向くことは難しいため、活動の継続には工夫が必要です。
10年ほどの休止期間に考えた結果、今後はささやかでも記録物や付随するイベントの開催という形で必要経費の一部を賄っていくことを考えたいと思っています。