NEW 令和7年8月16日(土)実施
第2回 日本道徳教育学会 九州支部 研修会 in 熊本 報告
8月16日(土)、日本道徳教育学会九州支部第2回研修会を熊本大学でハイブリッド開催しました。九州支部が初めて熊本で開催した研修会で、桃﨑剛寿実行委員長を中心とした熊本の会員が中心に企画・運営をおこないました。お盆の時期、また、九州豪雨のすぐ後の開催にもかかわらず、136名(対面69名 オンライン67名)と多数参加いただきました。
開催にあたり、公益財団法人上廣倫理財団にご協力いただき、また、熊本県教育委員会、熊本市教育委員会、熊本県道徳教育研究会、熊本市小学校道徳教育研究会、熊本市中学校道徳教育研究会に後援をいただき、開催できましたこと、感謝申し上げます。
(1)基調講演
「道徳の学びを広げ、深めるために:学びの文脈と価値理解の両面から」
講師: 八幡英幸先生
(熊本大学大学院教育学研究科教授)
熊本大学大学院教育学研究科教授 八幡英幸先生からは、学びの文脈の面から単元化の意義と課題を中心に教育史の観点などのお話がありました。「生活主義」と「価値主義」の両者の特質を踏まえると効果があることや、小学校の単元型学習や道徳科を核とするカリキュラム・マネジメントの実践例を紹介されました。また、価値理解の面から道徳教育と人権教育の連携をもとに、学習指導要領解説 道徳編における人権および権利・義務を挙げられ、直接的に「人権」に関する記述が少ないことから、内容項目「遵法精神、公徳心」や「社会参画、公共の精神」にある「権利」の説明を手がかりに、道徳教育と人権教育との連携を図ることの必要性を示唆されました。
(2)講話
①「学校経営×道徳教育 めざせ!日本一わくわくな学校♪」
熊本市立河内中学校校長 田代めぐみ先生
熊本市立河内中学校校長 田代めぐみ先生からは、「自他の尊重 (道徳教育×人権教育×特別支援教育)」を土台とした学校経営、 人材育成、働き方改革の取組のお話がありました。特に、生徒、教職員、保護者、地域も巻き込んだ全校道徳はコミュニティ・スクールの先進と感じました。障害のある子どもとその保護者をゲストに招いた全校道徳の実践は、当事者と共に学び、生徒が人権や社会の中の思いやりについて主体的に考え、率直な想いを語り合っていました。また、授業を職員研修と兼ねることで教師の専門性や人権感覚の向上に繋ぎ、また、参観した地域・ 保護者の方にとっても生徒と共に障害者の人権について改めて考える機会となりました。
②「道徳教育におけるICT活用」
「特別の教科 道徳」学びの会代表 藤永啓吾先生
「特別の教科 道徳」学びの会代表 藤永啓吾先生からは、ICTの 効果的な活用方法について、実際に生成AIを使いながらお話しいただきました。特に、授業づくりにおける生成AIの活用では、明確なプロンプト(命令文)を入力することで内容が精選され、教材や支援等の質を高めることに繋がるなどのポイントを挙げられました。プロンプトには①役割②目標③視点④対象⑤教科の学習内容を明確にした指示をすることが大切で、特に⑤に関して、学習指導要領解説の「内容項目」「内容項目の概要」「指導の要点(発達状況、学習内容・重要点)」を参照することにより、本質に添った内容となることをご教示いただきました。
③「道徳授業をめぐる学術と実践のコラボレーション」
福岡大学教授 山岸賢一郎先生
福岡市立周船寺小学校教諭 小城達先生
福岡大学教授 山岸賢一郎先生、福岡市立周船寺小学校教諭 小城 達先生からは、学術と実践を軸に、答えが一つではない道徳的な課題に向き合う道徳科授業についてのお話がありました。考えの深め方として、「他律の考え方から自律の考え方へ」「自律の考え方の増加」「自律の考え方の関係性」などを踏まえた授業実践を紹介いただきました。また、授業の構想として、「つかむ」「とらえる」「見つめる」との観点を置いた話し合い活動、子どもが書いた絵や図を表現として捉えることなど、授業における視点もご示唆いただきました。特に「言語とはなんだろう」「考えることはなんだろう」との考えの深め方など、改めて見つめる機会となりました。
④「『共に創る』UD視点×道徳科を楽しむ授業♪」
熊本県立熊本聾学校教諭 日置健児朗先生
熊本県立熊本聾学校教諭 日置健児朗先生からは、ユニバーサルデ ザインの視点を活かした道徳授業の工夫が、環境作り、人間関係づくりとあわせて紹介されました。子どもたちの様々な背景に想いを馳せること、“ことば”の多様性(言葉、ジェスチャー、視線、声の抑揚、姿勢等)を大切にすること、さらに子ども一人ひとりの個性や長所を生かす授業づくりの工夫について、理解を深めました。 また、授業実践の紹介では、様々な障害のある子どもへの個別最適な学びや支援への具体的な話もあり、通常学級での配慮を要する子どもが学びへ向かうための視覚的、体験的な支援を更に深めることの必要性を感じました。
(3)講演
「道徳授業における教材の役割」
講師: 荒木寿友先生
(立命館大学教授)
立命館大学教授 荒木寿友先生からは、道徳授業における教材のあり方について、ご講演いただきました。集団の道徳の捉え方や発達について、集団の凝集性は団結力を生む一方で排他的になりやすいため、グローバルな視点が必要とのお話がありました。また、道徳教育で人権を扱うことで協働的な学びの基盤となること、話し合うための土台づくりの必要性、知識を教えることや子どもが問いを持つことの重要性等をご示唆いただきました。①自他の権利の尊重、②生命の尊重の二点は道徳教育の基盤であるという道徳教育の根幹となるお話もありました。道徳の教科書編集の視点から、教科書活用で大切にしたいことを説明いただきました。
(4)リレーコメントと全体講評
①リレーコメント
7人の登壇者によるリレーコメントでは、互いの講話の内容への気付き、感想などを伝え合うとともに、参加者も振り返りをすることができました。
②全体講評
また、熊本大学大学院教育学研究科准教授 今井伸和先生の全体講評の中で、各講話への丁寧なコメント、様々な観点での各講話が一連の学びの流れへと繋がっていたとのお話もいただき、より一層道徳教育の理解が深まり、終日を通し充実した研修会となりました。
(文責: 日置 健児朗 水流 弘貴)
令和7年5月10日(土)実施
第1回 日本道徳教育学会 九州支部 総会・研修会 報告
5月10日(土),日本道徳教育学会九州支部総会,研修会を JR九州博多シティ研修室で開催することができました。
文部科学省初等中等教育課程課教科調査官,国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官 堀田竜次先生をお迎えして研修を進めていきました。今回,2年目を迎えた九州支部は,昨年度に続き,対面とオンラインのハイブリット開催を行いました。ご多用の中,藤永圭吾先生が山口県よりお越しくださり,オンライン研修への支援をしていただきました。(参加者は、対面43名,オンライン13名)
会の内容は,前半:九州支部設立総会,後半:研修会の2部構成でした。前半の九州支部総会では,研修事績案,会則改定案,研修計画案等,6つの議案を承認していただきました。宮川小百合先生(福岡県)の進行のもと,議長は,野口順也先生(福岡県)が務めてくださいました。 後半の研修会は,「講演」「記念講演」「道徳談義」と非常に学びの深い時間でした。
(1)講演
これまで,九州各県の道徳の発展に寄与されてきた3名の先生方のご講演でした。
① 桃﨑剛寿先生(熊本県)
桃﨑先生は,役職定年を迎えられ,現在は初任者指導を担当されているそうです。これまでたくさん教材開発をされ,参考にされている先生も多いと思いますが,多様な教材の活用の重要性についてご示唆いただきました。「きれいな花もいいけれど,傷も誇れる花になろう」という歌詞から生まれた発問「あなたの傷は?」には,はっとした先生も多かったと思います。
② 髙野誠一先生(福岡県)
髙野先生は,「授業づくりを楽しもう」をテーマに,春日西小学校で実践されていることや,これまでの貴重な実践についてお話していただきました。「もっと学校は楽しくできないのか」という思いから,「にしっこハッピー」を増やす学校全体で取り組む道徳教育は,実践されたウェルビーイングの姿として,学校現場で働く教員にとって魅力的な内容でした。
③ 石硯昭雄先生(福岡県)
石硯先生は,福岡県の授業改善にかかる実態調査をもとに,8つの着眼点をご提案くださいました。道徳科に対する児童と教師の認識の差や,漠然と感じていた授業における課題を明確に感じることができました。また,形骸化した授業ではなく,若年教員への「やりたいことにチャレンジしよう」というメッセージは大変心強いものでした。
(2)記念講演
「道徳教育の課題と今後の方向性」
講師: 堀田竜次先生
(文部科学省初等中等教育課程課教科調査官,国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官)
記念講演では,堀田先生にご講演をいただきました。今回は直接お話を聴くことができ,先生方はメモをとったり,写真を撮ったりと先生のお話に熱中し,あっという間の1時間40分でした。
「道徳教育の課題と今後の方向性」をテーマに,教育とウェルビーイングについて,また,会員の質問にもお答えいただきながら,道徳教育の多岐にわたる内容をわかりやすくお話してくださいました。学習指導要領が示す「主体的・対話的で深い学び」,令和答申が示す「個別最適な学びと協働的な学び」の関係性や,「考え,議論する道徳」と「主体的・対話的で深い学び」の関連性など,知っているようで深く理解ができていない内容についても,とても分かりやすくご説明いただきました。また,道徳教育の推進に向けて,文科省が作成する道徳教育アーカイブを視聴しながら,授業改善と指導力の向上についてもお話いただきました。
堀田竜次先生 ご講演の様子
道徳科とは「人生をいかに生きるべきか」という生き方の問いを考える時間であることを指導者が理解しておくこと,また,子どもたちがよりよく生きようとする願いに応えるために,共に探究していこうとすることが前提であることなど,堀田先生が大切にされているお考えについてもお話していただき,「すぐに子どもたちと道徳の学習がしたい!」と思う学びの深いご講演でした。
(3)道徳談義
道徳談義では,沖縄県石嶺中学校の宮里理枝子先生のご自身の実践について紹介してくださいました。沖縄の風物詩「ハーリー」に参加する生徒の映像なども見せていただき,生徒への深い愛情を感じました。実践では,4つの視点軸を意識した発問の工夫と「書くことを通して自分の考えを再構成する話合い活動」の研究内容についてもご紹介いただきました。
2年目を迎えた九州支部の今年度最初の研修会も,多くの方々のご尽力のもと,開催することができました。堀田竜次先生はもとより,藤永啓吾先生のお力添えで,ハイブリット開催が実現し,会員数も増え,つながりの輪が大きくなっています。2年目の九州支部がさらに発展し,学びが深まっていくよう,今後も充実した研修会を実施して,さらに「道徳で九州を結ぶ」ことができればと思います。ICT班担当の先生方は事前にリハーサルを実施するなど,大変な準備をしてくださいました。楽しく,深く学べる機会をいただき,ありがとうございました。
(文責 大野城市立下大利小学校 友延 倫子)