悪魔だってボヤきたい!この先、マスティマ様おことわり(・X・)
悪魔ライムのひみつ日記
観察対象の心理を探るために、ここ数日ニンゲンに寄せてみようとしたが、想像以上にハードだった。
昔からニンゲンは悪魔をいいように扱うようなヤツだが、シュクダイやニンゲン関係をうまくやろうとすると日記をつけるヒマもない。
授業で拘束されたと思えば、放課後に何人ものニンゲンを相手にしてその後はシュクダイだ。
疲れたから明日から本来の任務に戻ろう。
…その前に。
今日は学校に忍び込んでこんぴゅーたを占拠した。
以前、クラスメイトから見せられたあのPCゲームを起動させて
今、1時間ほど進めたのだが、1日にあった出来事が画面に映っていた!
私の姿やマスティマ様の姿までとらえているとは。作者の名前をメモしておこうか。
このゲームによって我々に不都合が生じることがあるのなら、ゲームと作者を消してしまえばいいからな。
さて、続きをやるか。
観察対象は恵まれてるほうだと思うんだが。
中には見向きもされず、孤独な生涯を送るニンゲンもいる。
アイツは異性の意中にいるからして、本当の孤独ではないだろう。
今日の放課後なぞ、何やら話をしていたぞ。
私は知ってる。ああいうのを「いいむーど」というのだ。
想像以上に夢の内容が現実に反映されていた。
悠長にかまえていた私も悪かったが、まさかニンゲンにそんなチカラがあるとは思わないだろ、フツー。
その影響か、ニンゲンとしての私のクラスメイトから驚くべきモノを見せられた。
面白いものがあると、こんぴゅーた室に誘われて付いていったが
なんと、私やマスティマ様の登場するゲームが存在するというのだ。
「DistortionDreamユガミユメ」……ぱーそなるこんぴゅーた、うぃんどうず、とやらで動く。
長い時間、勝手にこんぴゅーた室を使うことができず、すぐに止めてしまったが、マスティマ様と観察対象の出会いは忠実に再現されていた。これは検証してみなくては。
観察対象はどうも、ふさぎこんでしまっている。
見せた夢の内容が悪かったか、それとも"ブルーマンデー症候群"というヤツか。何十年も前から親しまれている漫画の名前をとった別称もあるそうだが、日本人は外人に比べてソレにかかる人口が多いように思う。
そこらへんのニンゲンから得た情報によれば「バブル崩壊後の就職氷河期の影響は強い」だそうだ。
なんだかソイツの絶望のしようといったら、観察対象と同等かそれ以上だったぞ。年金はもらえないだとか、税金と物価は上がる一方だとか……私にはよくわからないが、日本の未来は暗いのか???
そんな国に目をつけるマスティマ様はさすがというか。
果たして救済は成せるのか見物だな。
メモ。
11月から、マスティマ様は観察対象の裁定に入るとのこと。
その前に妨害に備えて観察対象が開けた夢の穴をふさぐこと。現実に影響が出ている場合は要報告(記憶障害になった時は干渉を行いサルベージ作業にあたる)。
期間中は徹夜必至のため、栄養補給をおこたらず。観察対象からなるべく目を離さない。
あーあー、めんどくさい。
マスティマ様から「土曜日は必ず報告に戻ってきなさい、さもないとオシオキですよ…んふふふふ…」と言われているから戻っていたが、報告もなにも、マスティマ様が知ってる通りで私からは特に進展は見られないのだから、わざわざ戻らなくてもいいじゃないか。
行き来するだけで疲れてしまうのだから、もうちょっとラクにさせてほしい。
とは言え、好きでマスティマ様に仕えている身だ。ヘタに意見して嫌われてしまっては困る。
さて。
本日のアイツは、学校が休みだからか家でゴロゴロしてるな。
というか、昼にもなるというのに寝間着から着替えてすらいないな。いつものことか。
断固として外出しない意志の表れとでもいうのか、たまにはアウトドアでもすれば気持ちも明るくなりそうなものを……
次までに外出させる誘導方法でも考えておくか。
目的さえできれば外出しやすくなるはずだ。
観察対象は学校へ来る頻度は非常に低いが、今日は登校してきた。夢の中で私が巧みな話術で励ましてやったのだからトーゼンといえばトーゼンだ。
反応がこう素直だとニンゲンも可愛いものだな。また励ましてやってもいいぞ。
しかし、私がせっかく励ましたというのに、ニンゲンが大勢集まる場所というのはどうにも空気が重たい。私でさえ翼が重くて疲れてしまいそうだ。
アイツがふさぎこんでいる原因を探るもなにも、片目を閉じていてもわかりそうな空気だ。
自分は優れていると他人を見下す様子は大人も子供も無関係。コロコロ味方する相手が変わる…自分の都合でどうとでも変わるのだ。結局、関心があるのは自分だけか。
ニンゲンとは、自分の振る舞いを見返さない生き物なのだろうか? オマエたちが悪魔と呼んでいる我々より、よっぽど醜悪でずる賢いじゃないか。
まあ、アレがニンゲンの生きやすい思考なのかもしれんな。そうであるなら、アイツも多少は利己的で図々しくなれば生きるのが楽になりそうだがね。
「今なら素敵な悪魔紳士ライムが無償でお望みのモノをプレゼント!」とかいうキャンペーンをしても、アイツなら食い付いてすらくれなさそうだぞ。
教科書など見なくても問題は解けると言ったら、教師が怒り出した。
現代のこの国の文化に慣れようとしているが、今も昔もニンゲンとは面倒な文化を持っているようだ。
問題が解けるなら特に見る必要もないと思うのだが? そもそも、黒板に要点は書いてあるのだから教科書を見るのは教師だけでも良いのではないか。
社会科とやらは真偽不確かな情報であるのに何故出題されるのかと聞けば、決まりだからの一点張り。もう少しマシな答えを期待していたが、付き合うのも時間の無駄に思えてきた。あくびが出そうだ。
明日からは観察対象を中心に行動してみるか。
ニンゲンに潜り込むのは造作もないな。簡単すぎてつまらない。
まあマスティマ様に夢のチカラをお借りしているからトーゼンといえばトーゼンか。結構寝ボケた生き物は多い。…そういう私も他人のことは言えないか。
しかし過去に何度かニンゲンを装った経験があるとはいえ、現代の、しかもこの国の文化というのは慣れない。
私が悠々と自己紹介した後 「ライムくんってチューニビョーだね」などとぬかす輩がいた。チューニビョーとは何だ? あまり良い意味ではないのか、周りのニンゲンどもが毛の逆立ちそうな声で笑い出したじゃないか。まったく失礼な。
仕事の後のハーブティーと人間観察が趣味で何が悪いというのだ。他人の趣味を笑うなど、けしからん。
西洋の貴婦人からは素敵な趣味ですねと褒められたものだぞ! 普通のニンゲンより好かれていた! 自慢じゃないが、数え切れない貴婦人がねぐらに押しかけてきて疲れたのは覚えているからな。
そろそろアイツを観察してから1年が経つ。
タイクツしのぎに記録をつけようと思う。
最近は私の存在に気付いているのか、よく目が合う。周りのカラスの協力を得て自分でもうまく溶け込んでいると思うのだが……偶然だろうか?
主人はこの調子で観察を続けるようにと仰るが、つまらないのでニンゲンに紛れてみることにしよう。主人にはすぐバレるだろうが、悪魔とは生来スリルを楽しみたい性質があるのは承知のことだろう。
よしよし、楽しみになってきた。