自分のフライフィッシングは、その時の川で通用する出来るだけ太いティペットで、出来るだけ大きい毛鉤で、出来るだけおおらかに、季節感を感じながら川を歩く事にある。60歳クリアしてもういい歳なので、はっきりと言い切れる。それは1つの土地に暮らしているからであり、しかも25回以上の春と梅雨と夏と秋を体験して、緊張感や焦りはどこかに行ってしまったから。10年ひと昔と言われたが、今は5年ひと昔。四半世紀だって、あっという間。ティペットは5X、毛鉤は#10、これがお決まりのスタートで、夏や秋には時々#8になったり、#12になったり。でも、ティペットは5Xのまま。腹が立つヤマメの場合には6Xになったりするくらい。
いくらか話は逸れたが、その#10の毛鉤はもう長いことヘアウイングダンと、パラシュートの2パターンに集約されている。ヘアウイングダンはレトロかつ超ベタな毛鉤だが、メイフライのスタンダードなダンパターンでありながらもカディスの要素を多分に持つという、なんと重宝してしまうパターンなんだろう。では#10の虫がいるのか?、#10のメイフライがいるのか?、#10のカディスがいるのか?、しかもシーズンを通して目にするのか?、そこが問題だ。移住してからしばらくは#12で釣りをしていたが、ある日曜の15時頃のホームリバーで、大きなカディスっぽい虫がハラハラヒラヒラしている事に目が行った。ずっと前から何度も何度も目にはしていたが、水面の50cmほど上をハラハラヒラヒラ。時には巻き返しに落ちて水面に羽をペタペタと飛び立とうとしていた。川岸に目をやるとそこでもハラハラヒラヒラ、ササやぶでもハラハラヒラヒラ。捕食の場面をしかとは見ていないが、その数日後には自分の毛鉤が#12が#10へサイズアップ。その川で使える一番大きな毛鉤の誕生となった。全長は2~3cm、バラツキがある。なんともまあ、豊富なカラーバリエーションだこと。調べてみると、シャクトリムシの成虫で「シャクガ」だった。一応は、マッチ・ザ・ハッチかな、と。
禁漁を迎えて川に行かなくなった。用事がないからね。キノコ採りくらいでしか沢沿いも歩く事はない。家の横にはシモフリシメジが出るので、「そろそろ出ていないかなあ」と思ってちょいちょいガサガサしていると、すぐ目の前でハラハラヒラヒラ。それからというもの、意識し始めたら、自分の家の周りでもハラヒラ、雪が降るような時期になってもハラヒラ。こいつはシーズンを通して、いやいや、雪が積もっている時期以外はハラハラヒラヒラと、アピールしてくる。魚だけではなく、鳥やクモにも重要なエサなんだな、と頭の中は一応の決着となり、シャクガの価値も決定した。
カラバリ対応はどうしようかと思ってしまうかも知れないが、自分にとって印象深い色で落ち着いた。クリーム系というか、肌色というか、ベージュというか、それだね。簡単に言えば、淡い色合いと濃い目の2種類でまとめてしまおうよ。ダメかなあ、省略し過ぎかなあ。
暑い夏は2010年以来だそうだ。でも今年の夏の湿度は異常と言うほかない。水棲昆虫よりも陸生昆虫が目立つ夏の釣りも、8月下旬まできたらまた水棲昆虫に戻っていく。思い出せば新緑の季節の5月に霜が何度か降り、檜枝岐村では雪もあり、ハエ、アブ、チョウ、ガの育つ時期に新芽が霜焼けになって、若葉も美味しそうじゃなかった。宿の庭先にやってくるコムラサキやセセリチョウはチラッとしか姿を見せず、自分も邪魔な虫たちが少ない事を喜んでいた。それらが渓魚のエサでもあるわけだが、別に他にもエサは無尽蔵にあると思ったらそうではなかった。水温が高くなり、エサが少ない夏となってしまった夏の釣りは、はなはだ釣り人泣かせ。救世主は、ホッパーとビートル。どちらかと言うと、木々からの落下量が安定していたビートルの釣りが救ってくれた。ホッパーは効く川と効かない川がはっきりしているが、ビートルは川を選ばない。奥会津の夏の、掛かったらデカいイワナ釣りは、健在だった。
奥会津の釣りでビートルをメインで使う事になろうとは、予想外の予想外。あたふたとビートルを2個巻いて、厳しい釣りが続いている有名河川でさっそくテスト。明らかにイワナの反応に差が出て、小ぶりな個体までビートルに食いついてくる。ビートル的なアタリは刺激的でもあるが、自分にはやはりチョウやガの毛鉤でおおらかに釣り上がりたい。反応してこない良型のイワナを前にして、付け替えたビートルを投げる。また毛鉤を変えるのも面倒で、そのまま釣り上がる。結局はビートルでポイントを叩いて釣り上がる。ビートルの釣りの良い所は、ちょっと関係ない所に毛鉤が落ちても、イワナは毛鉤を見つけて下から突き上げてくれる。そんなに食べたいのかと、笑ってしまう。
かくしてビートルの夏は過ぎようとしているが、暑さは例年よりも長く続く予報なので、禁漁までビートルが手放せなくなりそうだ。あと3個位は巻いておこうか。個人的にはビートルパターンは完成形と思っているが、もう少し視認性の面で改良も必要か。 あれかなこれかなと苦心していると、とんでもない苦境が待っている事に気が付いた。このフォーム材、もう売っていないじゃないか。手元の在庫が無くなったら、ジ・エンド。昨今のメーカー事情だろうが、まあ、その時はその時で。
奥会津の夏の釣りでは、アブやブユは当然発生しているが、ハッカスプレー等の虫よけ対策をしておけば釣りには問題はない。ただし、二酸化炭素、黒い物、温度が高い部分、動く動作には集まって来るので、とりわけ車にはブンブンとぶつかって来るので覚えておくと良い。舘岩地区や檜枝岐方面では、そのような一般的な虫対策で大丈夫です。
アブが多い川は、隣県の山形県や、地元の只見町方面に見られる。そのあたりの川が全部アブが多いかと言えばそうでもなく、一言で言えば「川による」となる。南会津西部漁協管内の只見町に入っている川には、アブが多く発生している川がいくつかある。しかし、今年のアブは気まぐれ。晴れていてもアブがうるさくない日があるし、まったく気にならないなんて日もある。アブも1日の中でハッチタイムとなる時間帯があるので、夕方近くになるとさらに増えたりもする。どうやらアブの活発な時間帯は気温18~30℃で、30℃を超えるとオーバーヒートで熱中症、車の中で死んでるよね。そんな事で、アブをもう少し知っておこう。
アブはハエ目、ハチはハチ目、まったくの別物。大きめのアカウシアブがブンブンビュンビュンしているのをスズメバチと勘違いしている釣り人は少なくないが、スズメバチは巣に近寄らない限り一般的には攻撃してくる事は少ない。ハチはくびれがあり、アブにはくびれはない。アブはハエですからね。夏の時期に予約のお電話を頂戴し、「ウエットウエーディングで大丈夫ですか?」と聞かれる事が増えたが、自分は必ず「出来れば腰以上まであるウエーダーで」とお答えしている。転倒時の怪我やアブ対策のためであるのは、もうお分かりでしょう。話を戻すと、アブはハエだ! ハエだから、たかってくる!
”メジロアブ”というアブは正式には存在せず、地方での呼称にすぎない。正式名は「イヨシロオビアブ」と言い、”オロロ”も同一。釣りでは”メジロ”と呼ぶ方が、関東圏ではなじみが強い。”メジロ”と呼んでも、目は白くない。その辺の事はインターネットで検索して下さい。便宜上”メジロ”と呼んだ方が早いので、”メジロ”で通す。たかって来るアブではこのメジロアブがもっとも個体が多く、ウエーダーに留まり少しづつ這い上がってきたりする。厄介な事にウエーダーの上からもチクリと刺す。他にはウシアブとアカウシアブがいるが、メジロアブほど迷惑じゃない。
メジロアブ対策は、虫よけの繰り返し、白い服装、払うような動作を控える、に尽きるが、何よりもアブが大量に出ている川に行かないのが手っ取り早い。でも良く釣れて、釣れたサカナが太くて、毛鉤が大きくて良い、だから行く。「アブがいるからなあ」と言ってみても、結局は釣りに行くのは釣り人の性分か、止められないわけだ。夏の年中行事だ。最近は偽オニヤンマと行動を共にしている人が多いが、一時のブームなのか、保険なのか、効いたら拾い物なのか、大量発生している場所では効き目は感じられないだろう。多勢に無勢、偽ヤンマを10個くらいはブラブラさせた方がいいね。トンボが多い川はアブが少ないとも言われているから、場面によっては自然界のルールがあるのかな。
自分はアブの川ではホッパーをメインに投げている。バラシが少なく、がっちりと毛鉤をくわえていて、やってやった感満載だからだ。普通はピーコックパラシュート#8~10で何の問題もないが、みんなと一緒じゃ面白くないし、新しい発見もない。そこでメジロアブを捕獲して良く観察してみた。15mm程度の全長に、黒じゃないカラー、思ったよりも太い腹、以上が主な特徴になる。フォームカディスを応用して、TMC206BL#10で、ボディーはブラウンかオリーブで、ヘアウイングはナチュラルかオリーブで。毛鉤はリアルよりもワンサイズ大きくする事で、釣る側のおおらかさってやつを見せつけてやる。リーダー&ティペットはいつもの5X、これで40オーバーのイワナが食いついてもへっちゃら。おっと、ツーサイズ大きくなっちゃった。
8月下旬ともなれば、アブも減って来ている頃。でもイワナの頭の中にはアブの事でいっぱいじゃないのかな。イワナのお腹にも飲み込んだアブのパチンコ玉がいっぱい。釣り人の妄想もあれやこれやでいっぱい。こんな事を考えているだけで、少しは気分も上がるかな。こんな記事を読んでいるだけでも、毎日の繰り返しの日々が、少しは忘れられるかな。
ドライガイド かわゆき 携帯:090-1214-2449
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