第4回大学リーダーシップ公開研究会
「学長のビジョンとミドルの役割〜教学マネジメントのタテとヨコ」

【背景】
2022年7月9日に実施した第2回公開研究会 「学長のリーダーシップと大学の将来」では、学長のリーダーシップに焦点を当て、学長が大学全体のビジョンや目標を設定し、コミュニケーションや協働を通じて教職員を巻き込む役割を担っていることが明らかにされました。また、「学生を中心に」という共通のキーワードも明確になりました。

2023年2月26日に開催された第3回公開研究会「ミドルマネージャーの役割」では、学位プログラムの現場の責任者である学部長・学科長をはじめとして、副学長・学長補佐やセンター長、さらにはプログラム主任など、様々なミドル教員には、学長のビジョンを具体化するためのミドル・リーダーシップが求められていることが明確になりました。

【公開研究会の概要と目的】
今回の公開研究会では、教学マネジメントにおける水平展開(ヨコ)と垂直展開(タテ)をテーマとします。教学マネジメントの理想像は、全学レベル・学位プログラムレベル・授業科目レベルの3レベル(+学修者レベル)が噛み合い、整合性を保ちながら、それぞれのレベルでPDCAサイクルを回していくことが目指されます。

しかし、現実には、そうした制度を形式的に作っても、学長のビジョンが現場に浸透しない問題が見受けられます。では、どのようにすればこの問題を解決できるのでしょうか? 今回の公開研究会を通じて、ミドル教員が担う役割について、全学レベルとの関連性に焦点をあて、参加者とともに問題解決のヒントを探ります。

開催日時:2023年7月15日(土) 11:00-15:30

開催場所:芝浦工業大学 豊洲校舎 https://www.shibaura-it.ac.jp/access/toyosu.html 

定  員:60名

参加費用:1,000円

主  催:大学リーダーシップ研究会

共  催:「理工学教育共同利用拠点」(芝浦工業大学 教育イノベーション推進センター)

第4回公開研究会について

第4回公開研究会は、総勢70名近くの参加者となり大変な盛況ぶりでした。11時から終了までお昼休みを挟んで4時間の研究会は、非常に中身の濃い内容となりました。パネルディスカッションでご登壇いただいた学長先生方、またご参加いただいた多くの大学関係者の皆様にお礼申し上げます。会場をご提供いただくとともに、「理工学教育共同利用拠点」としてご共催いただくとともに、当日の研究会でも多大なご協力をいただいた芝浦工業大学 教育イノベーション推進センターの皆様にもお礼申し上げます。

基調講演 
大森 昭生(共愛学園前橋国際大学学長)
「教学マネジメントのタテとヨコ~ビジョンに向かう(大学)組織はどうしたらできるのか~」

共愛学園前橋国際大学がめざすエビデンスベースの自己評価による学修成果の可視化と自律的学修者の養成

課外活動の学外者への報告会で「共愛12の力」と活動との関連を話す学生

全学のビジョンや人材育成目標と学位プログラムとの統合

ビジョンに向かう(大学)組織はどうしたらできるのか

基調講演は、2年連続で「学長が選ぶ学長ランキング」で1位となった大森昭生学長(共愛学園前橋国際大学学長)。

大森学長は、多くの大学に注目されている教学マネジメント体制の構築に関して、特に「学修成果の可視化」については、教職員に加えて学生までをマネジメントする必要があるため、だからこそミドルマネージャーたる学部長や学科長が重要な役割を果たす必要があると述べられました。また、副学長等のミドルマネジャーは全学のビジョンを個別の学位プログラムに落とし込みつつ、学位プログラムをつないでいく役割を果たす必要があると指摘されました。

さらに、こうしたミドルマネジャーをどのように育てていくかについては、若手の時から小さなマネジメント経験を積ませることに加え、「1.誰をバスに乗せるか、2.いかに自分ごととして取り組むか、3.対話のために時間をかけられるか」という3つの要素を挙げ、自大学に必要な教員像を全学的に共有し、採用プロセスにこれらの視点を含めていくことの重要性を述べられました。この3点のために、教職員の採用方法、教職員全員が何らかの役割を担う仕組みづくりやリーダーを選んだ者の責任を意識すること、またスタッフ会議という組織において対話のために時間をかけ、ビジョンを全教職員で作っていくことの重要性を指摘されました。

特別講演
佐藤 浩章(大阪大学国際共創大学院学位プログラム推進機構 教授)
「教学マネジメントの4層モデル」

佐藤先生からは、教学マネジメントとは、シラバスやカリキュラム・マップなどを「小道具」と捉え、それらを寄せ集めていこうとするアプローチは、外部評価や補助金獲得のためのポイント稼ぎゲームと化すことを警告され、教学マネジメント指針で指摘されている各要素は、「組織として合意した目標に向けて、学生の学習成果をあげるべく、相互に関連した教学マネジメントシステムとして運用されるべき」と述べられました。その際に、そのシステムを担う教職員に求められるのは「システム思考(要素だけではなく、俯瞰して全体像を把握し、要素間のつながりに着目する)」であると提案されました。

そのうえで教学マネジメントが構成される要素として、①PDCAサイクル、②重層性、③一貫性構築であることを指摘されました。PDCAサイクルには批判もありますが、特にCの「アセスメント」、さらにはそのアセスメントによって得られた情報を元に意思決定することの重要性を述べられました。また、重層性については佐藤先生が提示された4層モデルをもとに、学習レベル、ミクロな教育レベル、ミドル、マクロの教育レベルという捉え方が重要であることを指摘されました。一貫性構築に関しては、ヤンゴスキー=ナターシャの「ホリスティック・アライメント」という概念、すなわち「学生が知識を構築・応用する複雑な学習システムを把握し、他者とコミュニケーションをとりながら要素間の関係性を自分たち自身で解き明かすための意図的な取り組み」を紹介されました。アライメント確保のためには、①部局構成員である大学教員が動かなければならない、②協働的なプロセスにおいて行われなければならない、③垂直的な一貫性(年度をまたいだ一貫性)構築だけではなく、水平的な一貫性構築(同一学期内の科目間の一貫性確保)にも配慮し、学生の螺旋型の学びにつながる3要素を指摘されました。こうした視点で、4層の各レベルがしっかりと機能していることを誰がマネジメントし、誰がチェックしているかを明確にしていくべきだと述べられました。

教学マネジメントの4層モデル(佐藤, 2019)

「4層からなる教育・学習の場(学習レベル、ミクロ教育レベル、ミドル教育レベル、マクロ教育レベル)において、計画・実施・評価・改善の各活動を機能させること。その際、各活動を層を通して一貫させること。」

事例報告

榊原暢久(芝浦工業大学 教育イノベーション推進センター 教授)「カリキュラムの整合性整備を進める上での水平展開とミドルマネージャー教員の育成支援」

ミドル教職員には、大きな権限はないが「 風が吹く時を見逃さない 」(→その時のために準備が必要)、「種をまき続ける」(→一緒に走ってくれる同志が必要)、「寄り添って支援する」(→カリキュラムがうまく機能するかは現場の教員の理解と協働があってこそ)という点を述べられ、全学のカリキュラムの整合性確保のために、学科DPを詳細化したmDP、シラバスとの関連性の確保、ミドルマネジャー教職員の育成支援、カリキュラムデータベース整備などの方法を紹介されました。

成田 秀夫(山梨学院大学 学習・教育開発センター長)

「初年次科目でのSAの育成と活用を通して学生の主体的学びを支援する」

教員の意識をすり合わせたり、複数の学部に横串を通していくうえで、学びを自分たちで再構築していく学生の力を活用し、学生のリーダーになるような人たちを積極的に育て、「自走する学習集団」の形成について報告しました。

吉村 充功(日本文理大学 副学長)

「大学トップのビジョンを学部レベルへつなぐインターフェイスの機能を果たす」

学長室長、副学長を経験する中で、自らが専門性の異なる学部間のインターフェイスとなって全学ビジョンを各学部につなげる役割を果たしてきたことをふりかえりつつ、COC獲得を契機に本格化した地域連携プログラムが各学部に横串を通す役割を果たしていることを紹介しました。またこうした取組みを実現するための教職協働体制の重要性も指摘しました。

山本 啓一(北陸大学 経済経営学部 教授)

「教員の変化を生み出す初年次教育プログラムの協働開発と実施」

科目数をスリム化するカリキュラム改革は一朝一夕に実現するものではなく、学部教員の認識変化や関係の変化が不可欠であり、そのための初年次教育改革(基礎ゼミ+キャリアデザイン科目の連動実施)を紹介。

パネルディスカッション

パネルディスカッションには、大森学長、佐藤先生に加え、山梨学院大学学長 青山 貴子先生、成城大学学長 杉本 義行先生、京都文教大学学長 森 正美先生の3学長にご登壇いただき、学長を中心として策定された全学ビジョンを、大学全体に広げていくための方法についてお話しいただきました。

山梨学院大学の青山学長は教学企画室を中心にミドルマネジャー全員が参加し、例えばカリキュラムをどう作り上げていくかを検討して縦のラインを明確にするとともに、5学部に横櫛を刺していくためには、横連携が推進されるような会議体の重要性を指摘されました。また、共通教育共通スキルの設定やFD、修学支援などが横連携を進めていくうえで重要だと述べられました。またオフィス統合などについても紹介されました。

成城大学の杉本学長は、自学の内部質保証システム図をもとに、マクロレベル、メソレベル、ミクロレベルの3層がPDCAサイクルを回す仕組みを紹介されました。さらに、学生たちが新入生の時間割作成をサポートする活動を自主的に始めたことに注目し、学生自身がPDCAサイクルを回す仕組みを構築することに広げていきたいと述べられました。

京都文教大学の森学長は、自学の地域連携活動が大学の特色として定着していく中で、「ともいき(共生)」という建学の理念が具体化・制度化されていったことを紹介されました。さらに、教学マネジメント体制の構築を教職一体で進めるために、学位プログラム単位で職員組織を再編成する試みについて紹介されました。また、学生参画でカリキュラムのアセスメントを行っており、その場に教員が参加し、学生の本音を受け止めることの重要性を指摘されました。

ディスカッションでは、学位プログラム単位のDPのすり合わせの方法などについて具体的な議論が交わされ、大森学長が「教学マネジメントやDPについてこれだけしっかりと語れる方が今どんどん学長というポジションになっている」状況に注目すべきだと述べられました。また、佐藤先生は、学長たちが自学の状況をパワポ1枚、いわゆる “ポンチ絵”にまとめており、学長たちが全学をシステム思考のもとで俯瞰されていることを指摘されました。それに対して、青山学長は、自分とは違う立場の人との対話を通じて、ポンチ絵が立体的になってくると述べられ、森学長は、学生や教職員の思いつきや創発性をキャッチしながらそれをいかに図に組むかを考えていると述べられました。大森学長は、ストーリーを重視していると回答され、杉本学長はご自身の経済系のバックグラウンドをもとに相互依存的な理解ができていると述べられました。

参加者によるグループワーク・ディスカッション

最後に、参加者の皆様方がテーブルごとに、今日の気づき、自大学の課題、今後活かしていきたいこと、疑問質問をまとめ、ご報告いただきました。その中で、大学全体、教員で同じベクトルを向いて動くための教員間の連携を進めるためのDPの役割、供給者目線のから学習者目線への転換のために学生の力を活用すること、高大連携を手がかりにすることなどのご指摘をいただきました。

最後に

リーダーシップ研究会は、多くの方々に支えられて、これまで続けられてきています。ご支援いただいている皆様に深くお礼申し上げます。

本研究はJSPS科研費 基盤研究(C)の助成を受けたものです(「教学マネジメントにおける学部長等のミドルリーダーシップ研究」(代表:山本啓一))